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それは塔の乙女のように

それは香る黒百合のように

アルルーナは種をまくにふさわしい場所を探すために、

旅を続けながら、時にか弱い助けを求める美女を演じ、

あるときは市井に紛れて人として生活し、

その知性を高めながら人知れず養分(ひとびと)を喰らいながら、

知り合った男の馬車で、時に船も使って町を転々としていた。


その美しさを餌に男たちを喰らう様は、

まるで少女の母親が若き日にそうであったような高級娼婦の様であった。

そして実際、そう違ってもいなかった。


けれどもそうして生活しているうちに、

彼女は少しずつ人染みた感性をしていくようになった。

というより、もしかすると彼女は自分がモンスターであるという事を忘れていることもあったのかもしれない。

最初の頃は男の奴隷を買っては本来の意味で『食べて』いた。

それは、彼女に買われた男の奴隷達が心の奥底で期待していた行為ではなく、

ただ純粋な人喰いだった。

しかし、周囲には彼女の屋敷から帰ってこない男奴隷たちは性豪の彼女に羨ましい殺され方をしたものと思われていた。


けれどそれも少しの間だけの事だった。

しばらくたってからの彼女は、

彼女は男達の精と、男達から振る舞われる料理、

手に入れた資金で行う食事しかしておらず、

人を襲うことは無くなっていった。



このあたりから、彼女は自分の存在を勘違いしていたのかもしれない。


彼女は現在滞在していたマリマレードという国において最も有名な娼婦の一人となった。

長く生きたかのような知識を持ち、しかし若々しく、国の富裕層の男たちを夢中にさせるには十分だった。

彼女は金持ちな男達の扱い方を理解し、

そしてその需要に見合う対価を手に入れた。


しかしその生活にも飽きが来た。

人間として生活した知識の中で娼婦以外の仕事もしてみたいと思った彼女は、

船に乗ってブリタニアという国に行くことにした。

その日、マリマレードで最も有名な娼婦は姿を消した。


ブリタニアの港町に着いた彼女はそこに住んでいた漁師の男と同棲をすることにした。

しかし漁師の男は若くして美女の嫁を貰ったと嫉妬する古株の男達に漁に出た先でリンチされ、

帰らぬ人となった。

そして、未亡人となった美女をギラギラした男たちが見逃すはずもなく、

彼女と男が愛を育んだ家で夜が明けるまで終わらない凌辱が続いた。



彼女は男達を皆殺しにするのでもなく、

男達がいなくなった隙を見て逃げ出した。

彼女を見つけた男達は必死に追いかけたが、


「家あれども帰り得ず、

涙あれども語り得ず、

法あれども正しきを得ず、

冤あれども誰にか訴えん。」


そう呟くと、

彼女は海に飛び込み、遂に彼らが彼女を見つけることは無かった。

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