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それは眠れる美女のように

それは彷徨う朝顔のように

栄養をしっかり取った上に、フォレストゾンビとして生を受けたときに型作られたヒトの形と同じものを食したことにより、

彼女はアルラウネに進化した。


アルラウネとなったことにより、

彼女は森の死が詰まった土くれではなく、

一つの種から目覚めた芽へとその本質を変えたのだ。


そして彼女は少女の血肉、そしてその魂を自分の養分に変えたことにより、

簡易ではあるが、人としての知性の欠片の様なものを手に入れた。

それによりアルラウネは片言ながら人の言葉を喋れるようになっていた。


「おばあさん… おいしい… ほかのきのみ… たべたい… そだちたい…

おかあさん… たべないと… こわくない… たべられる…

ふえたい… とどけないと… おばあさん… おいしくない… たべられない。」



何処までがモンスターとしての記憶で、

何処からが養分となった少女の記憶かは混じり切ってもはやわからない。


森を彷徨いながら、今までの飢餓を感じる程ではないものの、

成長するために、そして繁殖するためにその食欲を満たしつつ、

アルラウネは自分ではどうやってかは思い出せないが、

迷宮を抜け出して人々が住まう場所へと向かった。


迷宮の出入り口にいた門番は、

モンスターが迷宮の外に出てくることなどないと思っていたし、

先ほど迷宮に入って行った事情ありげな少女が無事に帰ってこれたことにホッとした。




―――――――――次の日、門番は干からびた姿で見つかった。




アルラウネはほんわかと覚えているところにバスケットに入れた果実を持って帰った。

その道中、何か記憶に残っている女性、彼女の養分になった少女の母親に出会った。


娘を見つけた母親は少女の名を呼ぶ。

「あら、生きてたのねローケプヒェン。

!!ふぅ~んアンタしっかり持ってきてるじゃない。

それを寄越しなさい。」


「くたばりかけの婆や小娘より上手に活用してあげるわ。」と内心で考えていた母親に対する少女の姿をしたものの回答は、


「あげたら おいしく なる?」


だった。




母親は疲れているのか喋り方が呂律が回っていない少女が、

祖母に自分が調理してふるまうことを期待しているのか?

そう判断した。


「ええ、そうなるわ。」


だから母親は肯定した。

そして話している最中にせっかく少女が手に入れたものを他の輩に狙われることの無いように、

都にある自分の男の家に連れ込んだ。


日が昇っているというのに今起きてきた男が母親に何だと尋ねるが、

母親は、「もう一度寝ていていいわよ。」と、

そう言って男を奥の部屋に返した。



その様子を待ったのか、

アルラウネに向き直った母親にアルラウネは言った。


「たべて。」



この子、こんなに気味が悪かったかしら?

母親は先ほどから単調な言葉しか喋らない自分の娘に得体のしれないものを感じたが、

祖母の育て方が悪かったせいだと考えて思考を止める。


「おいしい たべて。」


アルラウネは再びそのように母親に言った。

母親は面倒くさくなったのか、

無言で無理やりバスケットを取ろうとした。

そこでふと気が付いた。


「たべて。」


バスケットはこんな黒ずんだ赤色だっただろうか?

バスケットを持つ少女の手の力はこんなにも強かっただろうか?



そして、自分の娘はこんなにも不気味だっただろうか?


「たべて たべて たべて たべて たべて たべて たべて たべて たべて たべて

たべて たべて たべて たべて たべて たべて たべて たべて たべて たべて

たべてたべてたべてたべてたべてたべてたべてたべてたべてたべて

たべてたべてたべてたべてたべてたべてたべてたべてたべてたべて

たべてたべてたべてたべてたべてたべてたべてたべてたべてたべて

たべてたべてたべてたべてたべてたべてたべてたべてたべてたべて――――――――」






―――――――――そして何より、自分の娘は、

葉を生やし、根を生やし自分を食べようとするような娘だっただろうか?






口の中に押し込まれたシトロクリメニアで喋ることを封ぜられたまま、

母親は養分となった。


それから数時間して再び起きた同棲相手の男が見たのは、

血まみれの部屋の中に転がる齧りかけの果実だった。

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