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それは双子の兄妹のように

それは芽吹いた蕗の薹のように

     『フォレストゾンビ』


植物系Fランク(さいかきゅう)モンスター。

それは、魔の瘴気の漂う森の中で、

植物モンスター達などの死骸による腐葉土に仮初の命が籠り生まれた存在。

その容に決まりはなく、人型であったり獣の様であったり、樹の様であったりする。

それらは方向性のある自我を持たず、意思の疎通を取ることはできない。

また、植物種でありながらその段階では自身の種さえ持たず、

自身が生まれた腐葉土から、仲間を呼び出したり、

喰らった獲物を腐葉土に変えて仲間とすることがそれらの繁殖方法である。


魔が跋扈し、妖しげな霧の水を受けて、

貪欲にして寛容な土壌の森の中、

霧の中にわずかに届く月の光の中、

それらは目覚めた。


「ihsataw ateramu inemat akurahayimemih.」


意味のない音の羅列を並べ、それは産声を上げた。


生まれたそれは通常は意識も意思もなく辺りを彷徨い、

その欲求、『食』を満たそうとするのだが、


それは、自分が生まれた腐葉土を喰らい続け、

その途中で同じように形成されて生えてきた仲間も喰らった。


その様はまるで、

まるで―――――――――――――森の意思から生まれたものが、

自らの鎖を引き抜いて一つの生き物として生まれたことを主張しているようだった。


その夜、偶々、本当に偶々だがそんな危険な森を歩いている少女がいた。

赤い頭巾を着けた可愛らしい少女だった。

彼女は祖母にあげる為のジャムの材料を取りに行っていたのだ。


童話には昏い森にはオオカミが待っているが、

ダンジョンの中の森には喋るオオカミなんて比じゃない危険なモンスターが跋扈している。


「確か、ここまでくればあるはずなんだけど。」



農村からやってきた彼女が捜しているのはシトロクリメニアという高い滋養効果のある果実で、

その効能は特に壊血病と脚気、そしてガン全般に有効なモノであり、

彼女の祖母を病状から快復させるためには必要なものだった。


彼女の母が彼女を男に売ろうとしているところを、

救い出して今の今まで育ててくれていたのは他ならぬ祖母のおかげだったからだ。


そして彼女はたまに都から農村に帰ってきては祖母に金の無心に来る母親から、

とある本を貰ったのだ。


その本には祖母の病状を快復させる事ができる果実が載っていた。

凍れる大地に生育する女神の七果実の一つ、

食べたものの限界を超えられるという雪蜜柑(スノーシトラス)の亜種として、

養柑シトロクリメニアが記述されていたのだ。

各種の病状をピンポイントに治し、

香り高く、身体に高い保温効果を齎し、

周囲を物理、魔力的に清めることができ、

ゴム等の一部の素材に対しては融解性能も高い。

鋭歯御器噛(ゴキガブリ)等のその強い臭いを嫌うモンスターや、

鞭蚯蚓(ウィップワーム)等のゴムに近い構造を持つモンスターへの対策にもなり、

発火性が高いので、他の成分と混ぜ合わせると一気に高温で燃え出す爆薬ができる。

女神の七果実と比べれば俗な効果であるが、

俗であるからこそ、生きているものには非常に役に立つのだ。



そんな果実などが載る百科辞典を娘に渡した母親だが、

無論自分の娘を売るような母親が善意で高価な本を持ってきたわけではなく、

非常に高価な果実を娘に持ってこさせて、それを売り払うのが目的だった。


母親は見た目だけは良かったが年のせいか徐々に付き合う男のランクが下がってきており、

ここ最近つきあっている男は対して金も稼げない相手だった、

だから金が欲しかったのだ。


文字通り金のなる実を大量に持ってくればそれもよし。

もし途中で少女が死んだとしても、

祖母もそれでは助からず、

どちらにせよ金が回らなくなった自分に金も貸してくれなくなった祖母も、

少女もどちらもまとめて処分でき、

自身で金銭を満足に稼げず、金を散々借りておきながら、

足手まとい共が自分に頼って自分の生活が苦しくなることが無くなると母親は考えたのである。


祖母の病状が養柑シトロクリメニアでどうにかなるものかどうかは母親には知るところではなかったが、

娘にそのことを聞かれたときにはあたかもそうであると教えた。



そして果実を間違って持ってきたとしても、

それなりの物であれば奪うこともできる。

本物だろうが偽物だろうが、

「これは養柑シトロクリメニアではなく、

毒薬に使う毒蜜柑じゃないか。」

といえばいい。



娘を利用して自分は安全なところから、

利益を得るか邪魔者にこの世という舞台から退場してもらうことができる。


その考えが功を制したのか、

娘は屈強な大人でも命を落とすが、

それ故にリターンも大きい清漣の大迷宮に足を運んだ。


王宮より派遣された門番達は、

高名な冒険者でもない少女を目に留めたが、

何か事情がある者が、その事情のためにやむおえず迷宮に足を踏み入れるのを散々見てきていたので、

彼らはそれを止めることは無かった。








彼女は運が良かったのだろうか、

それとも運が悪かったのだろうか?


迷宮の中と外では時間の流れが違う為に、

迷宮の中はまだ夜が明ける手前という暗さだった。


道中一切モンスターと接触せず、

彼女は養柑シトロクリメニアの樹に辿り着いた。

独特の四角い果実をバスケットに詰め込んで、

帰ろうとしたとき、彼女は暗闇の中に人影を見つけた。


流石に暗闇を一人だけでいるのは心細かったのだろう。

少女は自分と同じくらいのその人影に近寄った。



そしてその姿がはっきりわかるくらいまで近づいたとき、

彼女は理解した。理解してしまった。


それは到底生きている人間などではない。

それは『ヒトの形』をしているだけで、

ヒトでも何でもない。

土気色の肌と、ところどころヒトからは外れた形を持っているモンスターであったことに。

ヒトの様な目鼻を持っていない『それ』は、

少女を見てニヤリと笑ったように少女は感じた。







それからしばらくして、

その場には中身のこぼれたバスケットだけが転がっていた。

迷宮に生る果実・樹木


雪蜜柑スノーシトラス 非常に美しい香りと上品な味を持つ。

溶苺シロップベリー とても甘く、食べたものの成長速度を跳ね上げる。

蒸葡萄リキュールグレープ 食したものの感性と感覚が飛躍的に高まり、五感を超えた感覚を手に入れるという。

結桜桃ユニオンキルシュ 食べたものに死んだ時に一度生き返る効能を与える。

沈海林檎ボトムアップル 海底火山でしか育たない。武器に塗れば神の如き力を発揮させる。

霊柿ホロウパーシモン 極めて高い魔力を手に入れられるが、喰らった者はいなくなってしまうと言われている。

金瓜ゴールドゴード 身体能力、特に精力が高まり、病気知らずな不老となる。


これら7つの果実をまとめて女神の七果実という。

何れも効能、習得難易度共に最高級の果実で、

七大魔王の力場の影響下で育つとされている。


毒蜜柑(ポイズンオレンジ)

実の色と形が成長とともに変わり、

その毒の効果もコロコロと転換する。

最終的には小さな黒い球体の果実となり、

その汁を浴びた人間を即死させるほどとなる。


酒笹(エイチャール)

他の生物を溶かし込んで酒を造る性質を持つ。

特に昆虫系には効果的な溶解液らしい。


神槍酒樹(オスカルメスカル)

ギャグみたいな名前の樹だが、

人間以外の多くの生物に有毒な液体を滲ませる枝を持つ。


熱桜(アツザクラ)

高温を発する桜。

光が当たりにくい場所に発生する。





迷宮にいるモンスター


森のエリアにいるモンスター



腐葉土人形(フォレストゾンビ)

数々の植物モンスター達、森に住まうモンスター達の死体が重なってできた土から生まれたもの。

その形は人型であったり獣の様であったり、植物の様であったり色々。

思考力はほぼ無いに等しい。

植物系であるが繁殖方法は種ではなく、腐葉土から仲間を作ること。

自分の遺伝子でも何でもないので特に繁殖への執着はなく時折思い出したように作業的にする程度。

進化すれば植物系のモンスターになる。

現在はある意味土壌にして種の状態。

成長して進化することにより種をばら撒ける様になることが共通の望み。


護謨蚯蚓(ラバーワーム)

森に出現するゴムの様な体を持った巨大なミミズ。


鞭蚯蚓(ウィップワーム)

護謨蚯蚓(ラバーワーム)から進化した。体を撓らせて行うムチの様な攻撃が得意。


武道葡萄(ファイターグレープ)

葡萄の房にツタの足が沢山生えた気持ち悪い葡萄のモンスター。

食べるとおいしくて興奮する。食べすぎると興奮物質で一定時間後体調が崩れる。


辛幼虫(ホットグサーノ)

木刀蛾(ウッドソードモス)に進化する。食べると辛い。


木刀蛾(ウッドソードモス)

愛蘭(アガペーアガベ)という植物に湧くモンスター。

蛾なのだが、その翅は根元から少し離れたところで大量の木刀のようなものに分かれており、

翅が非常に多いトンボのようにも見える。

空力的にはあまり意味がないのかもしれないが、

常識の外で生きているモンスターに突っ込むのは野暮である。


人面蜜柑(セベレニアン)

歩く蜜柑。見た目は怖いが樹の良いやつ、もとい気の良いやつ。

空耳的に「僕の実を喰うかい」と人の言葉に聞こえる音を発する。

…しかし食べるとそれ以外の物を食べられなくなり、

身体が急激に肥大化する。


殴雉隠草(ブロウディア)

一見普通に生える草に見えて、

入り込んだものを草の先端を結んでハンマー状にしたもので激しく殴打する。


鉄蔦(ワイヤアイビー)

金属の様なツタのモンスター。

千切れない強力なツタで相手を絞殺し獲物の体液を啜る。

個体によっては切断力の高いものもおり、その場合は対処が更に危険になる。


天突麒麟草(デイダラアワダチソウ)

天高く聳える巨大な植物モンスター。群生している上に巨大すぎて、一見モンスターだと気が付かない。

頂上の無数に着いた花の部分が葉であり花であり、

歯であり鼻であり、そして口である。

弱点としては非常に高いところから地上に向かって食らい付きにくるためにタイムラグが発生すること。

数少ない代わりに鋭敏な感覚器官である触覚と嗅覚のうち、嗅覚はかなり高い位置のみにあるために、

ほぼ獲物には無意味であること。

根は巨大な体を支えるために移動や攻撃には使えないことである。

雨が降った後など、多く水分を確保している際には、優先攻撃手段として溶解性の蜜を垂らす事で、

高さを利用した効率的な攻撃ができ、蜜の出口である小さな花が大量に集合している構造と、

群生という特徴から非常に高密度の危険な雨になる。

その上、即効性の無痛剤としての効果があり、痛みを感じない上に、

感覚がなくなり身体を動かしている自覚が薄れ行動の難易度が跳ね上がる。

実際、雨だと思ったら周りの者たちが解け始めていたと言う記録がある。

又、細身とはいえ単純にその巨大さからAランクとされており、

ただでさえ危険な存在でありながら、群生する。

同種の仲間を守る習性があり、余りに巨大すぎるためにモンスターと知覚せずに群生地に迷い込んだものを集団で襲う為、

単純な上に、タイムラグがある攻撃をカバーできる。

また毒に耐性のある自分たち以外には悪影響を及ぼす毒で土壌を汚染する。

成長力と生命力、そして繁殖力が非常に高く、おまけに強力である為排除は難しい。

種から生まれてくるモンスターが割ときっちり同種として生まれてくるように進化先を強く固定しており、

それから外れていた場合は殺して養分にする。

強力なモンスターだが、仲間の周囲以外では増えにくく、

また、毒による土壌汚染が一定以上の濃度になると、自滅に向かっていく。

そして、動けない巨大な高ランクモンスターであるが故に、

さらに高ランクな最高ランクのモンスターや、遠距離攻撃手段を持つ、

又は、体が燃えている、若しくは物理的実体がなかったり、非常に硬かったりするモンスターには餌食になることが多く、

土壌汚染が深刻になる前に外的要因により全滅することもしばしばある。


口内虜草(マルノミグサ)

巨大な人型の頭部の様に変化した葉で獲物を丸呑みする植物系モンスター。。

捕えられたら動けなくなる成分を幾股にも別れた舌のように変化した葉で麻酔をかけ、

ゆっくりと消化する。


突撃蝋燭(プッシュキャンドル)

頭の炎を燃やしながら襲い掛かってくる生きた蝋燭。

生物の脂肪を即座に蝋に変えて自身の物とすることができる。

蝋燭の燃焼による消耗は炎の燃え方に対し非常に省エネだが、

燃え尽きると死ぬ。


咲輪獅子(ミュゼレオン) 

花の鬣を持った女神の使い…と言われている。



森のエリアもしくは他のエリアにも結構いるモンスター


黒御器噛(ブラックローチ)

ゴキブリの低級モンスター。茶御器噛(ブラウンローチ)よりは力強いが遅い。

様々なゴキブリのモンスターに進化する。


茶御器噛(ブラウンローチ)

黒御器噛(ブラックローチ)よりは速いが脆い。

様々なゴキブリのモンスターに進化する。


油御器噛(オイルローチ)

ネトネトした巨大ゴキブリ。

空気や水分と結合するとその体積を増すネトネトした油を放つ。

質量保存を無視したかのように見える程の大量の油に引っ掛かると、

なかなか落ちない。


爪御器噛(ネイルローチ)

引っ掻くことに特化した巨大ゴキブリ。

腕の力は非常に強い。


転御器噛(ロールローチ)

巨大なボールの様なゴキブリのモンスター。

名前の通り転がって獲物を追う。


鋭歯御器噛(ゴキガブリ)

恐ろしいほど鋭い歯を持ったゴキブリのモンスター。

倒すことができれば高性能な刃物の素材になるが、

間違っても包丁には使いたくない。


死喰病御器噛(デスローチ)

命を齧るというゴキブリ。

漆黒の身体に迷彩の斑点を持つ。


大鼠(ラットン)

蹲った子供より少し大きい程度の鼠のモンスター。

迷宮の外にも結構いる。

大型のモンスターには臆病だが、自分より弱い生物には嬉々として襲い掛かる。


巨大鼠(ドラットン)

立った成人男性をそのまま頭から齧れるほどのネズミのモンスター。

体が大きくなってもその性根は変わらない。


焼石鼠(ゴラットン)

黒いその身体は高熱を持っている。

大鼠(ラットン)達のボスらしい風格が出ている、気がする。


夢鼠(ドリームラットン)

夢の世界から来たネズ(それ以上はいけない。)


恋蝿(ラブバグ)

ハートの翅をしたハエのモンスター。

交尾するとクローバーのような形になり離れることができなくなるが、

何故か飛行速度が上がる。


矢蚊(カガンボウ)

長い手足を獲物に飛ばす様にして攻撃する巨大な蚊。

基本的には攻撃回数は6回。

ジメッとしたところが好き。


百合山嵐(ユリヤマアラシ)

人食いハリネズミ。





他のエリアにいるモンスター


山雀(ヤマスズメ)

雀のように見えるが雀ではない。

一見可愛らしい手乗りサイズだが、

獲物の耳などからワイヤーガンの様に舌を突き刺して、

その中身を啜る。


山鴉(ヤマガラス)

カラスの様に見えるがカラスとは全く別物。

生き物の目玉を集めることを好む。


山禿鷹(ヤマコンドル)

コンドルの様なのは見た目だけ。

動物の頭部を巣や頭に飾るのが好き。


山鸛(ヤマコウノトリ)

コウノトリの様で…以下略―――――――――ではなく、

なんとなくコウノトリっぽい気がする。

生き物を生きたまま繋ぎ合せて巣を作る。

巣の材料が死んで腐ったところには新しく材料を当てて補修する。

…腐らないもので巣を作るという発想はない。


発光蟲(グローワーム)

妖しげな催眠効果のある光で獲物をおびき寄せ喰らう幼虫な体つきのモンスター。


偉光蟲(グレーターワーム)

ミラーボールの様な光り方をする発光蟲(グローワーム)の進化系。

素早い。

因みにまだ進化できる。


起象蝶(エフェクトバタフライ)

暴風蝶(サイクロンバタフライ)竜巻蝶(タイフーンバタフライ)台風蝶(ハリケーンバタフライ)と進化し、

最終的には雷と風を強力に支配する気象蝶(ウェザーバタフライ)へと進化する。


骨魚(ボーンフィッシュ)

食べる為の身がないモンスター。

美味しくはないがカルシウムは抜群。

骨を魚雷の様に飛ばして撃てる。


水泳黴(ピシウムモッド)

水上を泳ぐ糸性の寄生カビモンスター。

一匹に捕まると何処からともなく仲間を呼ばれて溺死させられる。

血の匂いに反応する。


釘抜饗蟹(カニバール)

バールの様なハサミを振り回すカニ。

そのハサミは閉じたり開いたりすることはできない。

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