日常回帰 後編 翔離と勉学
昼休みが終わると、みんながクラスに戻ってくる。翔離たちは汗にまみれた体を拭くために上半身裸の状態だ。四月の頃は女子たちは怪訝な顔をしていたが、翔離の底抜けに明るい性格の影響か、それともなれてしまったのか、不満を漏らす人も最近ではいなくなった気がする。
あっちぃあっちぃと連呼する翔離の隣には、登校の時から一切動いていない祠堂さんがいる。すごい。すごすぎる。汗臭さすら祠堂さんの前では嫌悪の対象にすらならないのだ。あの人が感情を露にすることがあるのだろうか。
「おい不二、どーして今日来なかったんだよ!」
教室の後ろのドアから帰ってきた不二を見つけて、翔離が冗談混じりで問いただした。
「わりぃ、ちょっと用事があってな」
不二も軽快に謝罪する。この二人のやり取りもいつものことだ。学年問わず人気者の不二は、昼休みにはお呼びがかかることが多い。毎日説明するのも面倒なので用事といっているらしい。稀にその用事が無いときは、僕らとご飯を食べて、翔離たちとスポーツをしている。だから、翔離も本気で不二を責めることはない。
「おめーがいねーと張り合いないんだからよ、今度は来いよな!」
「あぁ、今度はな」
そういって不二は僕の前の席に座る。僕らの席は入口から一番離れた、窓際の奥にある。梅雨はないがこの街は、霧がよくでるため、今日もカーテンなど必要ないし、ひんやりした外気が窓の隙間から入ってきている。
「蒼舞」
「ん?なに?」
「ほら、これ。前に言ってたノートな」
そう言って不二は、コピーされたノートの内容を渡してくれた。中にはしっかりと学校で教わったことが書いている。
「いつまでも姫夜ちゃんに頼るなよ」
「…そうだね、ありがとう」
「なぁに、鞄の分はしっかりやるよ」
五限目を告げるチャイムがなる。少なくともテストまでは一生懸命勉強しようと思う。そうしないと二人に悪いから。
夜。今日も帰りには姫夜につかまり、真っ直ぐ家に帰ってきた。昨日と変わらず、今の今までご飯を食べること以外は勉強に費やす状態だ。
しかし、不二がくれたコピーによって、かなり効率が良くなっている。なんだったら教科書よりも分かりやすく解説されていたりするから、コピーばかりを見て勉強を進めているくらいだ。少し楽しくもなってきた。
そんな僕を見て、食後に姫夜は明日の天気を調べ、大雨であることを知って落胆していた。それは僕のせいじゃないぞ。
テストまで後三日。流石に明日は僕も一日勉強にあてるつもりだ。だから、だからこそ、今日は早めに寝て、体力を残しておこう。時計の針は二つともそろそろ頂上へ上ろうとしている。ここらへんで寝ることが一番大事、なはずだ。
適当な理由をつけて布団に潜り込む。布団の重さが心地いい。なんだかんだで疲れが貯まっていたのか、眠気は直ぐに襲ってきて、僕の意識はうっすらと遠のいていった…。