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トマコマイReversible~The Game~  作者: 獄炎の魔術師
第一章 CROSS✝CHANNEL
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”天に唾を吐く者”へようこそ

 正門から、土足で校内に入る。ためらいはしたものの、二人は平然と土の跡を付けていくので、僕もそれに倣うことにした。真新しく白い校内を進み、2階へ上がる。えっと、校舎も逆だとしたら、この方向は…多分、職員室だ。

 フジを先頭に扉を引き、職員室の中に入る。条件反射で僕は思わず会釈をしてしまうが、先生たちが話しているような喧騒も何もないので、多分意味のないことだったろう。


 「シドウさーん、一人見つけてきましたよー」


 フジが間の抜けた声をあげる。顔を上げた僕の前には、職員室の机がきれいさっぱり取り除かれた、だだっ広い空間に一人、どこから持ってきたのかわからない、革張りの高そうな黒い椅子に座る、見知った顔の女性がいた。


 「ご苦労、フジくん。それに、ソーマ」


 セミロングの黒髪、相手を射抜くような鋭い目と白い肌。その姿をより強調するように、一切の無駄がない白いシャツと黒いタイトなズボン。その全体像はまるで住む世界の違う綺麗な女性だった。そしてそれは、クラスメイトの祠堂 揚巻とまったくの瓜二つの姿であり、僕は頭を抱えた。


 「なるほど、キミ達が連れてきたのはソーマの逆位置(リバーシブル)か。似ているがまったくもってこちらのほうが可愛げがあるではないか」


 「おいこら釣り目、切り刻まれたいのか」


 あぁ、祠堂さんはこんなことは言わない。そもそも、彼女は僕の存在すら知らないかもしれないのに。彼女は天上天下唯我独尊を地で行く人だから、あの不二ですら彼女の御眼鏡には適わない。そんな祠堂さんが僕のことを可愛げがあるなんて言う訳がないんだ。そして僕は祠堂さんにあんな口を利けない。どうなっているんだこの世界は。


 「あの、シドウさん。他のみんなは…?」


 「ん?あー、他はまだ誰も帰ってきてないな。おめでとう、キミ達が一番乗りだ。どうだ、お茶でも飲むか?」


 祠堂さんによく似たシドウさんがフジを褒めたり給湯室から御茶を淹れて僕らに振舞ったりしてくれている。ありがたいことだが、顔と行動にギャップがありすぎてついていけない。固まっている僕に御茶を手渡したときに、カノジョは僕のその表情に気づいた。


 「どうした?そうま少年よ」


 「祠堂さんはこんなことしないのに…」


 思わず、口に出てしまった。慌てて口を噤むも、相手にははっきり聞き取れたようだ。人一人分くらいの距離で、シドウさんはその綺麗な目を最大限開いて僕を見る。その表情はあっけにとられているような、人を品定めするような、解釈次第でどうともなる無の顔をしていた。少しの静寂のあと、シドウさんは急に腹を抱えて笑い出した。


 「おい、聞いたか!フジ、ソーマ、ショーリ!どうやら私の逆位置(リバーシブル)は茶のひとつも淹れられないようだぞ!」


 何が面白いのかわからないが、シドウさんはとにかく笑い続けた。周囲を見ると、フジとボクも固まっている。どうやら気持ちは同じようだ。


 「少し落ち着け。シドウ」


 不意に、給湯室のほうから声がした。僕らの視線がそこに集まると。長身の男がぬっと出てくる。スポーツ狩りの頭に大きな目と口、そしてスポーツ選手とは思えないほど細身の彼は、クラスメイトの神楽 ショウリその人に見えるが、多分違うのだろう。


 「あぁ、ショーリ。そこにいたのか」


 「まぁ、な。それなりに警戒はしておくべきかなと」


 「だから言ったじゃない。そんな必要ないって」


 「まぁ、な」


 シドウさんとショーリはよくわからない会話をしているが、もしかしたら僕が来ることに対しての警戒だったのかもしれない。しかしどうして警戒なんかする必要があるのだろうか。そんなことを考えていると、何かを思い出したようにシドウさんが僕に向き直った。


 「さて、まぁ、なんだ。一息もついたことだし、改めて自己紹介といこうか。私はシドウ アゲマキだ。」


 よろしく。と手を出されたので、とりあえずこちらも手を出して握り合う。シドウさんの手は柔らかく。少し緊張してたじろいだことを察したのか、カノジョは小さく笑った。


 「涼ヶ原 蒼舞…です」


 「あぁ、知っているさ。涼ヶ原 蒼舞くん、ようこそ、我が"天に唾を吐く者(リベリオン)"へ!」


 不適に笑うカノジョを前に、僕は状況が未だに飲み込めず、ただただぼんやりとしていた。

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