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トマコマイReversible~The Game~  作者: 獄炎の魔術師
第一章 CROSS✝CHANNEL
1/9

オープニング

ゲームは始まった。クリアを目指して進もうか



-涼ヶ原 蒼舞の日常-


*朝*


 カーテンをあけると、外は相変わらずの曇天が広がっていた。濁った空、そんな言葉が一番似合う。薄く白い霧が視界をぼかし、朝だというのに気だるさが残る。二度寝でもしようかと考えてたとき、この鬱屈とした景色を吹き飛ばすような明瞭快活な声が響く。


 「蒼舞!早く起きなってば!」


 勢い良く空けられた扉の先には声の主、朱里 姫夜が黒い長髪を揺らしながら怒っている。彼女は濃紺で一切の飾り気が無い制服の上から、これまた飾り気の無いベージュのエプロンを身に着けていた。平日の変わらない日常を迎え、僕は適当な挨拶をする。


 「おはよう姫夜。5分で行くからちょっと待ってね」


 「ダメ。二度寝するから」


 こんなやり取りを2年間は続けているからか、僕の心中は大体読まれている。朱里 姫夜、隣に住んでいる朱里家の一人娘で、僕の幼馴染。歳は彼女の方が1つ下なので、一般的には僕の方が”上”の立場なのかもしれないが、姫夜は出来る子で僕は出来ない子なものだから、こうやって学校に行くことすらもどやされる始末だ。


 「男の子の着替えを見たいなんて、こんな娘に育てた覚えはないんだがなぁ」


 「私だって、こんなに手間のかかる兄を育てた覚えはありませんことよ」


 兄と妹。僕らの関係はそんなものだ。僕の父は仕事柄海外へ行くことが多く、母は父の支えとなるためについていくことが多い。その時には必ず、僕が生まれる前から親交のあった朱里家に預けられた。最初の頃の僕は両親の不在で泣いていたらしいが、姫夜と遊ぶのが楽しくて、小学生の頃には両親が海外へ行くと喜んでいたくらいだ。

そのため、姫夜とは物心のついた時から既に一緒に居た。中学校の頃、周りに姫夜との関係を茶化されたが、兄妹のように感じているために、全くピンとこなかった。

高校に上がり、さすがに両親が不在を理由に朱里家にお邪魔することに負い目を感じたため、家の留守を預かる身となったが、僕のずぼらさを姫夜が理解していた為、このように朝と夕方は彼女が家事をしてくれている。

もちろん、最初は僕がやっていた。しかし、姫夜が言うには僕が手伝うと余計手間がかかるということで、現状に甘んじている。


 「ほら、はやく着替えて、これシャツね」


 タンスの中にスクールシャツがないと気がついたときには、既に姫夜が僕に向かってシャツを投げていた。ほんのり暖かいその布のボタンを留め、仕方が無いのでズボンも制服に履き替える。全くもって情けないことなのかもしれないが、これが僕の日常なのだ。


*登校*


 「おっす、相変わらず」


 外の天気もあり、バスで登校していた僕らに、途中で乗車してきた不二 蛍兎が近づいてきた。僕ら二人は座席に座れたものの、蛍兎が乗る頃にはこのバスは缶詰状態になっていた。外の湿気と、その中を這い出てきた影響で、蛍兎の顔には汗がにじんでいる。


 「おう、相変わらず」


 僕はいつもの挨拶を交わす。不二とは高校からの友達で、今では学校生活の大半は不二と姫夜と一緒に居る。彼と知り合ったのは1年の夏。体育の授業でサッカーをしたことがきっかけだった。

 不二は身長も高い、も、というのは、他の殆どのことに対してもレベルが高いからだ。一応、市内唯一の進学校である僕の高校の中でもテストは学年の5番以内には入る。スポーツに関して言えば球技全般は大体全部うまい。唯一苦手なのはホッケーだと苦笑いしていたが、それは単純に苫小牧市のホッケーのレベルが高いだけで、全般普通男の僕にとっては十分すぎるほど上手だった。容姿に関しては言わずもがな、完璧だ。しかし、不二自体はその恵まれすぎた才能を鼻にかけることなく男子の輪の中を好むので、男女ともに彼を憎む人は、むしろその性格がゆがんでいると非難されるレベルだ。

 そんな彼は体育の時に、サッカーではフォワードだった。僕は特に期待も何もされていなかったので、端側、サッカーで言えばウィングバックの位置だった。極力参加しているように見える位置にいただけのことなのだが、たまたま、中央からこぼれたボールが、僕のところに転がり込んできた。

どうやら誰かがシュートをしたボールがディフェンスにぶつかってきたらしい、僕らのチームはまだ、前線方向で動き回っていた。とりあえず、その中にボールを放れば、誰かが拾ってくれるだろうと思い、素人丸出しの蹴りでボールを飛ばしたのだ。そのボールは幸いにも宙を舞い、そしてなぜか、ゴール付近にいた不二の頭上へと落ちていった。不二の強烈なヘディングは、今でも覚えている。本当に格好よかった。そのボールはしっかりとゴールネットを揺らし、僕らのクラスは湧き上がった。もちろん、ヘディングを決めた不二に対しての歓声だったのだが、当の本人は彼らの声がまるで聞こえないかのごとく、一直線に僕の元へ走ってきて


 「ナイス!」


 満面の笑みでそういって、ハイタッチを求めた。それからというものの、不二と僕は何をするときでも一緒になった。不二が僕のことを異常に気に入ったらしい。僕としても非常にうれしいことだが、よくわからない敵意の目を女子から受けることもあった。

不二は本当に面白いやつで、都合がつけば二人、そして姫夜も含めて三人で遊ぶことが増えていったのだ。


 「蒼舞、俺のかばんも持ってくれない?」


 「いやだよ。俺は不二に借りはないし」


 姫夜のかばんは僕のかばんと一緒に膝の上に乗っている。いつも世話になっている分、ささやかなお礼だ。


 「ケチぃな、せっかく中間テストの勉強教えてやろうと思ったのに」


 「おい不二、かばんが重そうだな。なんだったら僕が一週間くらい持っててあげようか?」


 「二週間」


 「いや、一週間」


 「わかった。10日な」


 「10日か、仕方ないな」


 そう言って不二のかばんを僕のかばんの上にのせた瞬間、僕のかばんは埋もれてしまった。そして、尋常じゃない重みが太ももに襲いかかった。


 「あ、すまん。今日はいつも以上に重いぞ」


 教科書すら置いていかない、不二は真面目な男なのだ。


*学校*


 「おつかれ」


 5限目の授業が終わる鐘を聞いて、ぐったりとうなだれた僕を見て、隣の席にいた出雲寺 縁が笑いながら言った。昼食の時間に着替えておいたらしく、その姿はすでに学校指定のジャージに変わっている。


 「うん、縁はこっから部活あんの?」


 「まぁね、体力づくり程度だろうけど」


 出雲寺はホッケー部のエースらしい。らしいというのは、僕が彼女の試合を一度も見たことがないからだ。今年の2月辺りに、全国大会で出場したらしいが、会場が遠いので学校側も観戦に行かせなかった。そのとき縁は、甲子園なら休ませるのにホッケーは駄目というのはどういうことかと怒っていた。竹を割ったような性格と不二が言っていたけど、なんとなくわかる気がした。


 「そっか。まぁテストも近いし、お互い頑張ろうな」


 「うん、たまには遊びに行こうな。といっても、予定がつかないのは私ばっかりだもんな」


 「いいって、暇な時は教えてくれよ」


 「了解、またね」


 「あぁ、またな」


 出雲寺は忙しい。雨だろうが晴れだろうが、ホッケー部は毎日部活動があるからだ。その点僕と不二は部活をしていないので、暇人ということになる。今日も雨だが、帰りにゲームセンターでも寄ろうかと考えて教室を出ると、そこには姫夜が居た。


 「帰るよ。蒼舞」


 そう、中間テストが近いんだったっけ。


*夜*


 姫夜に捕まって真っ直ぐ家に帰ってきた僕は、その後姫夜と一緒に勉強をさせられた。もともと姫夜は夕食も作るので、彼女が下準備から始めている間、リビングで僕が勉強をするという構図だ。僕の部屋でできないのは、監視の目が届かないからだというのは察してほしい。しかし、姫夜はこうして家事を済ませたあとに家に帰り自分の勉強をするので、僕としては彼女が作ってくれた時間をムダにしないためにも頑張らざるをえないと思ってしまう。

 学校に帰ってきてみっちりと復習をしたので、時計が九時を周る頃には僕の体力は0に近い。このまま寝てしまってもいいのだが、そうすると毎日が勉強しかない生活になってしまうので、部屋においてあるパソコンを起動して、まったりとネットサーフィンをしていた。

 しばらく時間が経ち、眠気が襲ってきた頃に、ピョコンというマヌケな効果音がなる。どうやら自動でログインしていたチャットソフトに誰かがコメントを残したようだ。ウィンドウを開くと、HOSEIさんからのメッセージだった。

 HOSEI>>SOMA テスト近いんだっけ?

 SOMA>>HOSEI そうっすね

 HOSEI>>SOMA そかー^^;

 SOMA>>HOSEI 対戦とかはちょっと、、

 HOSEI>>SOMA まー、疲れてるなら大丈夫よ!!

 SOMA>>HOSEI すみません

 HOSEI>>SOMA 大丈夫よ!!!

 実際にあったことはないが、オンラインゲームなどで友達になったHOSEIさんの誘いは確かに魅力的ではあったが、眠気が勝ってしまった。チャットソフトを終了させ、ついでにパソコンの電源も落とすと、そのまま近くに敷いておいた布団に滑りこむ。すると意識はどんどんと遠のいていく。明日は晴れるといいな。そんな脳天気なことを考えながら僕は目を閉じた。


 これが、涼ヶ原 蒼舞の日常。


*ゲーム*


 目を開けると、そこは全く違う、日常とよく似た世界だった。すべてが逆になった世界で、僕によく似たボクは、歪んだ顔で言い放った。


 「誰だお前、ボクの真似をして、殺されたいのか?」

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