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眷族  作者: 浅倉
3/5

日常

久しぶりに投稿です。

「やれやれ…。困ったものだね…。」

館の主は黒焦げの何かが乗った皿を持ち、所在なさげに佇んでいる青年を見て呟いた。


・・・・


「私についてくるのかい?いやはや、君がついてくるのは吝かではないけれど。理由を聞かせてもらってもいいかい?」


青年を夜の眷族にした誰かはにやにやと、嘲笑いで崩れる顔を隠さずに質問した。


「そうですね…。しいて言うなら、貴女が、今宵空に映る月よりも美しいからでしょうか。」

数瞬の静寂。その後に続くのは朗らかな女性の笑い声…と言って良いのか判らないほどの声量と笑い方だったが。


「はぁ、ふぅ、はぁ〜、…君は私を殺す気?そんな無表情でいってるのに、君から伝わってくる空気が、なんかこう…どうよ!みたいな!?だめ、またお腹が…」


どうやら青年の口撃は予想外の効力を発揮し、相手を行動不能にしたらしい。


「あ〜…久しぶりにこんなに笑った。多分32年ぶりかな?でも、こんな格好であんな情熱的(笑)みたいな告白はなかったんだけどなぁ。」


青年に声を掛けた女性は呟いた。確かに、女性の格好は傍目には男性と見間違うであろう。黒く、体のラインを出すようなぴったりとした服であるが女性の身体には起伏が見られず、顔はつり目できつい印象を与える中性的な顔立ちである。声もハスキーだったため、初対面で告白まがいの事をする輩はいないだろう。


「もしかして、君は男色なのかい?」


女性はの声色は明るく、弾むようである。恐らくはからかいの意味を多分に含む問いだろう。しかして、それに対する返答は、


「美しく感じるならば男性でも構いませんが。」


「エ゛…」


想像を容易に越えてきた。

「愛し合うのは異性でなければならないなんて、誰が決めたルールですか?さらに言えば、僕はもう人ならざる身。人であった時の常識などもはや関係ないでしょう?」


「まぁ…そうだけどさぁ…」

女性は明らかに戸惑っている様子だった。

そこからは、青年による愛についての持論が長々と続いた。それは女性が青年をからかう事を今後一切禁じようと思うほどだった。


「しかし…先程の言葉は中々に出来が良かったのですが。何が悪かったのでしょう?」


何がと言われれば、全てとしか言いようがないだろう。女性的には、嬉しく思うのかもしれないが、無表情で言われても響かないだろう。男性的には、あんなセリフをいうのは、ある窓を全開にしたくらいと同等の辱しめになるだろう。素であんなセリフを言えたら、そいつはあだ名が勇者になること請け合いだ。


青年が思考に沈む様子を見て女性はまたお腹が痛くなったらしい。腹を抱えてうつ向いている。


「ふむ…。それはともかくとして、僕がついていく事は許可してもらえますか?」


「…あぁ?はいはいそのハナシね?まぁ、別にいいかなぁ。退屈しなさそうだしね。ただし、条件として一つ。君には執事として働いてもらうよ。いいね?」


「了解しました。よろしくお願いします。」

青年は自信ありげに答え、頭を下げた…


・・・・


「あんなに自信たっぷりだったのになぁ…」

館の主は屋敷を見渡す。あちこちの床板はボロボロになり、皿の破片が散乱している。ふわふわだった絨毯には、よくわからないしみができた上、ただの布と化した。壁にあった油絵だったろう絵は、油が溶けて地獄絵図となった。高そうなツボがあった場所には、破片が残されるのみである。


これを起こした本人はというと、


「よくわからない虫がでたんです…」


「その皿は何?」


「とりあえず、腹ごしらえをと思って…」


なぜ惨状を前に飯をかんがえるのだろうか。


館の主は呟いた。


「教育が必要だね…。」

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