私は、救世主‐4
何で……どうして手錠なんかっ!
外れないかと手を動かしてみるがガチャガチャという音がするだけで手錠は取れそうにない。
一体どうやって?
一瞬考えてすぐに思いついた。
まさか、魔法?
ここは異世界だ。
魔法というものが存在したって可笑しくはない。
とすると先ほどのセハンが使った白い光も、魔法だったのだろうか。
そう考えればいろいろと辻褄があう。
「ごめんね、お嬢さん」
私の手錠を見てセハンは申し訳なさそうな顔をした。
悪いと思うならこんなことするなと言いたい。
そもそもなんで手錠なんか……
「これからお前には殿下と会ってもらう。危険なものは持っていないようだが何があるか分からんからな。それは保険だ」
私の疑問に気がついてかフェジーは淡々とそう答えてくれた。
だが、疑問は拭いきれない。
嫌な予感しかしなかった。
「では行くぞ」
フェジーの声に従うように、周りの騎士達も動き出した。
手を拘束されて動きにくくなっている私をセハンが立たせてくれようとしたが、私はそれを肩で払い、なんとか自力で立ち上がる。
行きたくはないが、行かなければ私がここにいる意味も分からない。
私は自身を奮い立たせて、ゆっくりとフェジーの後を歩いた。
王子がいるという部屋は私が元々いた部屋から近かったらしく、その場所へはすぐにたどり着いた。
背が高く見えるフェジーの倍近く高いその扉はいかにもという感じでなんだか気に食わない。
フェジーは軽くノックするとその大きな扉を躊躇いもなく両手で開けた。
重々しい音を立てながらその扉は開き、中の様子を見ることが出来る。
どうやら部屋の中には噂の王子だけではなく、他の人もいるらしい。左右に視線をめぐらせると、煌びやかな衣装を着た人が何人も並んでいた。
フェジーが先陣をきって入りそれに続くように騎士達も部屋に入っていく。
「幸運を」
セハンは入りたくないなと躊躇っていた私の背を押すと最後に一言そう言ってきた。どうやらセハンは中にまで入ってこないらしい。
言葉だけ聞けば私の身を心配してくれているようだが、その口元には隠しきれない笑みが浮かんでいる。私はそんなセハンを一瞥し、意を決して部屋に足を踏み入れた。
高い天井に豪華なシャンデリア。大理石と思われる床には入り口から最奥まで毛足の長い真っ赤な絨毯が敷かれている。
昔憧れたお伽話の世界がそこにはあった。
大きな音を立てて、後ろのドアが閉まる。
そのことを確認してフェジーは跪いた。それに続くように騎士達や周りで見ている野次馬達も跪いていく。いつの間にかこの部屋で立っているのは私だけになっていた。
「ソレがそうか?」
彼らが跪く先には一人の男。
「はい」
フェジーの言葉にその視線が私に絡みつく。
「――ほぉ」
言われなくても理解出来た。
部屋の最奥で足を組みながら座っているあの男が王子なのだろう。
美しい銀髪に男性的な美を兼ね備えたその男はその場所に良く似合っていた。
王子はしばらく私を観察した後、その薄い唇を開く。
「よく来たな、異界の女。ご足労感謝する」
低い声。
それでいて私を酷く不快にさせる。
その声はどう聞いても、私を見下しているようにしか聞こえたなった。
「我が名はアゼリ・ディア・アデュール。ここアデュール王国の第一王子だ」
淡々と言われる形式上の言葉。
そんなことはどうでもいい。と思わず言ってしまいたくなる。
「まぁお前は言いたいことがいろいろとあるだろうが……俺が言いたいことは一つだけだ」
見下した目。態度。言葉。
なぜ私がこんな目にあっているのか。
この王子だけじゃない。
そこに跪いている人全員の私を見る目が心底嫌だった。
自意識過剰なんかじゃないだろう。
蔑むような嫌な視線。
いきなりこんな状況に陥って混乱する私のことなんて、誰も気にかけてくれはしない。
本当に、心のままに泣けたらどんなによかっただろうか。
「世界を救え、天子」
その言葉は冷たく、どこまでも義務的に私に発せられた。