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私は、救世主-3


 私は今異世界にいる。

 そのことを理解すると、更なる恐怖が私を包み込んだ。

 日本じゃないということは、ここでは私の常識は一切通用しないということでもある。

 最悪の場合は殺される可能性もある、ということだ。

 

 ……止めよう。

 嫌な想像ばかりしていては、身も心も持ちそうにない。


 本当に、なぜ私がこんなところに来てしまったのか。


 騎士が去ったことでもう一度フェジーの視線がこちらに向いた。

 まだ恐怖は消えないが、いつまでも怯えているわけにはいかない。

 自分の身は自分で守らなければ……そう思うほどの状況に今いるのだから。


 とにかく、情報がほしい。

 となれば、フェジーから聞き出すしかないが、しかしどうやって……。

 そう思った時、またしても第三者の声が響いた。


 「フェジー様、良いですかね?」

 「……セハンか」

 

 フェジーとは違う。柔らかくどこか色気もある、そんな声。

 見れば、白衣のような服を着た人がフェジーに笑みを浮かべながら入り口の近くに立っている。

 サラリと肩から滑り落ちる長い髪。一瞬その雰囲気から女性かと思ったが、よく見れば違う。

 中世的な顔立ちで体格も細身だが、肩幅や髪を押さえる手はどう見ても男性のものだった。


 害のなさそうな優しい笑顔を浮かべているが、どこか胡散臭い。


 「そちらのお嬢さんが?」

 「そうだ。一応診察をしておいた方が良いと思ってな」

 「そうですね」


 セハンと呼ばれた男はフェジーにそう言うと私のいるベットに近づいて来た。

 私はセハンを睨みつけながら、手を握りしめる。


 「そんなに警戒しなくてもいいよ。僕はセハン・ルファシー。医者をやっているんだ」


 そう言ったセハンの手には確かに医療道具のようなものが握られていた。

 嘘を言っているとは思えないが、信頼は出来ない。


 「お嬢さん。よかったらお名前を教えてくれないかな?」


 セハンは笑みを浮かべながらそう言ってくる。


 名前。

 不用意に教えていいのかな。


 ここは異世界。それ以外のことは何一つ分かっていない状況だ。

 この人たちの意図も分からないのに自分に関する情報を与えることはあまりにも危険に思えた。


 「もしかして自分の名前、分からない?」


 答えない私にセハンは不思議そうに首を傾げる。

 少し迷った後、私は首を横にふった。


 するとセハンの目つきが少しだけきつくなったのが分かる。


 「それじゃあ、僕達に名前は教えたくないってことかな?」


 的を射たような答えに思わずゴクリとつばを飲み込んだ。

 やはりこの男、胡散臭い。


 どうしていいか分からず黙っていると、セハンはとろけるような甘い笑みを浮かべた。


 「そう」


 ゾクリと背筋走る悪寒。

 言いようのない恐怖に思わず体が固まった。そんな私を見てセハンは笑みを深くすると、そっと私に手を伸ばしてくる。

 私に向かう細い指、ゆっくりしたその動きはいつもなら避けられるはずなのに今は体が動かない。

 まるで誰かに動きを奪われているような感覚。


 セハンの指が私の髪に触れ、そっと流れに沿うように撫でられる。

 次の瞬間、小さな白い光が私の視界に広がった。その光はセハンの手から発せられて、私の体を包み込み……。


 「いやっ!」


 体験したことのない恐怖に固まっていた体が動いた。

 触れていたセハンの腕を振り払うと、自分を庇うように腕を前に交差させる。


 「……セハン」


 一連の様子を見ていたフェジーが小さく言葉を発した。

 その言葉と一緒にセハンは私から離れていく。


 「特に外傷はないようですね。危険なモノも持っていないようです」


 私に腕を払われたことなど気にした様子もなく、セハンはフェジーにそう言った。

 

 一体何のことを言っているのだろう?

 外傷はなく、危険なモノも持っていない?


 「そうか」


 セハンの答えにフェジーは頷くと近くにいた騎士に何か声を掛けた。

 一言二言交わすと騎士は部屋を出て行き、フェジーはこちらに向かってくる。

 睨み付けてはみるが、顔色一つ変えはしない。


 フェジーは私の目の前まで来るとその深い青の瞳で私を見下ろした。


 「悪くは思うな」


 一言そう言うと、小さく何かを呟く。

 何事? と思った瞬間腕に衝撃を感じた。


 「……ひっ!」


 喉の奥から引きつった声が出る。

 自分の意思とは関係なく手が動き出したのだ。驚かない方が可笑しいだろう。

 反抗しようにも手はビクともしない。なすがままに後ろへと手がまわっていく。

 そしてそのままチャラリと何かが音を立て、手首に冷たさを感じた。

 

 感じる違和感。

 まさかとは思う。しかし自分の手を動かそうとしてみても、自分の手首を拘束する何かによって動かすことは出来ない。


 私はゆっくりと首を反転させて、恐る恐る自分の手を見てみた。


 鈍い光を放つソレ。

 まさか自分に使われる日が来るなんて思いもしなかった。



 私の手首を冷たく拘束するソレは、紛れもなく手錠だった。


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