私は、救世主‐1
「世界を救え、天子」
その言葉は冷たく、どこまでも義務的に私に発せられた。
何言ってるんだろうこの人。
頭、大丈夫かな?
私がいるその場所は、まるで幼い頃に憧れたお伽話の世界みたいだった。
高い天井には無駄に豪華なシャンデリア。白く美しい壁に大理石の床。入り口から最奥まで敷かれている金の刺繍の施された赤い絨毯は毛足が長く見るからに高そうだ。
そしてそんな部屋に悠々と座る一人の男。
私は少しだけ視線を上げてこの部屋の一番奥を陣取るその人を見た。流れる銀髪に青の瞳。
彼はどうやらこの国の王子様らしい。
王子というだけあって周りにいる野次馬のような奴らとはまるで雰囲気が違った。
美しいだけでなく威厳がある。自信に満ち溢れたその態度が妙に似合っていた。
こんなに遠くから見ても美形なのだから、近くで見たら本当に美しい顔立ちをしているのだろう。
こんな状況でなかったら私も頬を赤く染めていたかもしれない。
本当に、こんな状況じゃなかったら……
チャラリと私の腕を拘束する手錠の音がする。
「おい、聞いているのか?」
長い足をゆっくりと組み替えながら王子様は不機嫌そうな声でそう言った。
なかなか返事をしない私に痺れを切らしたのだろう。
私は思わず笑ってしまった。
その笑みは自分でも分かるほどに暗く、不気味。
ねぇ王子様。
一体何を言えと言うのですか。
「はい分かりました」と素直に頷けばよいのですか。
この何が何だか分からない状況で?
私は自問自答を繰り返しながら、叫びたくなるような衝動を必死に押さえ込んだ。
私は今の状況というものがまるで分かっていない。
だって私がこの分けの分からないファンタジーな世界に来て目を覚ましたのは、今からたった三十分ほど前のことなんだから。