Ⅶ
僕、芹沢冷夜は夢を見ていた。
何故夢か分かるかと言うと、王上院ハルリナの姿があったからである。
「今日は本当に暑い日よね、冷夜」
と、夏服の彼女、王上院ハルリナはそう笑顔で呟く。
日本人とは思えないブロンドの腰まで伸びる長髪。茶色の瞳に豊満な胸と長身の体躯。腰は細く、指もまるで白魚のように白く細い。
冬服を着ていた頃も良かったが、夏服と言う薄着に身を包んだ彼女もまた素敵である。
「あぁ、そうだな。ハルリナ。最近は暑い日が続いて嫌だな」
「大丈夫、冷夜? あなた、この前の夏も……」
彼女がそう心配する声に、僕は「大丈夫だよ」と答える。
「そう……。なら、良いのよ。私が心配してるのは、去年みたいにあなたが教室で倒れるのが嫌なだけだから」
「あぁ、そうだな。あの時は付き合ってるお前を心配させたのは本当にすまなかった」
「良いのよ。でも……」
そう言って、ハルリナは僕の夏服のシャツの裾を掴む。
「……あんまり、心配かけすぎないでよね。僕は本当に……心配したんだから、ね//////」
彼女の顔が赤くなっているのは、夏の暑さだけだけではないだろう。
そう言いながら僕を見つめる彼女を愛おしく思い、ゆっくり彼女の顔に顔を近づけようと、
「……満足しましたか? 芹沢冷夜」
一瞬で目が覚めた。
目の前に立っていたのは、見た事のない人の顔だった。
大きなジャンパーを身に纏い、頭には黒いシルクハットを被っている。黒いサングラスをかけており、黒のシークレットブーツを履いている。そして彼の手には、沢山のストラップが付いた携帯が握られている。そんな男だった。
「お前は……誰だ?」
「はは。そう言えば、直接会うのは初めてでしたか。私の名前はEmanです」
「Eman!」
俺は彼の首を絞めていた。こんな事に巻き込まれたのは彼のせいだ。その怒りを、恋人から無理矢理引き離された恨みを彼に向けていた。
「そう怒らなくても良いでしょう。そうだね、エマン・マスターとでも呼んで下さい。
何せ私は、このゲームの支配者。つまりはマスターなのですから」
「で、そのエマン・マスターが僕に、この夢を見せたのか?」
「Yes。男と言うのは、恋する女の姿を見ないと安心出来ない生き物ですから。夢にでも洗わせてあげようと言う、この私のちょっとした心意気と言う物ですよ」
「まぁ、ちょっとした心遣いと言う物ですよ」と彼は言う。
「ふざけんな! そんな心遣いなんて良いから、さっさと元の世界に戻せ!」
「それは出来ないね。何せ私にも、私なりのプライドと言う物がある。
だから君は君で、この恋人探しと言うゲームを終えてくれ。
……あっ、そうだ」
と、彼はそう言って、その沢山のストラップを付けた携帯を僕に渡す。
「もしもの時はその携帯の電話番号に電話してください。勿論、恋人が見つかった場合くらいしか、あなたはかけないでしょうけど」
「……あぁ、使わせてもらうよ」
そう言って、僕はいつの間にか手に持っていた僕の携帯に電話番号とメールアドレスを入力する。
勿論、名前は『エマン・マスター』と言う名前で登録しておいた。偽名だろうがなんだろうが、僕は彼女の名前をこれしか知らないのだからこれしか入力の仕様が無い。
「じゃあ、本日はこれにて。明日も頑張れよ」
僕から携帯を取ったエマンはそのまま少しずつ消えていく。
……! そうだ、何故これを思いつかなかったんだ!
「エマン! もしお前を見つける事が出来れば、僕の勝ちで良いだろうな!」
「それはかなり難しいけどね。まぁ、好きにすると良いさ。
じゃあ、ヒントを教えておこう。
生きる、のは、悪では無し、だ。何せ、悪だが悪になって居ないのだから」
そんなふざけたヒントを残して、エマンは僕の視界から消えたのであった。




