魔女めし! ~とある日の女子会~ 後編
若干食材の旬がズレてるお話で申し訳ないです…。
何故ならば、かなり前の夏頃に書いて、今までずっと寝かせていたからです。あはは…。
「わぁ! すごいわ! これ、何て料理? お魚よね?」
「アクアパッツァって言うの。白身魚をワインと油と水で煮るんだけど、魚とか貝から良い出汁が出るんだよねぇ……。スープがいっぱい余ったら、ここに茹でたパスタ入れるとめちゃくちゃおいしいんだ。食べ終えてお腹に余裕があったらやってみる?」
時間はあったので、予めカトラリーや皿はジュジュが店へ来る前から準備をしていた。
約束の時間頃にやってきたジュジュを店のカウンターへ座るように促して、結珠は作った料理を居住スペースのキッチンから運んでくる。
サラダは、洗って一口大にちぎったグリーンリーフとベビーリーフをよく水を切ってから混ぜて皿に盛り、その上から薄く切ったいちじくと、手でちぎったモッツァレラを見栄えが良いように置き、さらに生ハムも盛り付けた。そこに自分で作ったバルサミコドレッシングをかけて、完成させた。
ジュジュはいちじくを見たことがなかったらしく、ちょっとびっくりしている。やっぱりワーカード王国にいちじくはないらしい。
「この……サラダに乗っているのは、何? こっちの白いのはチーズよね?」
「あ、それはね、いちじくっていう果物なの。今の季節が旬の果物で、チーズとかハムとかと一緒に食べるとおいしいんだ。いちじくの見た目がちょっと怖いかもしれないけど、味はおいしいから騙されたと思って食べてみて!」
「……結珠がそう言うのならおいしいんでしょうね。試してみるわ! こっちは? 焼き菓子……ではないのよね?」
今度はケークサレに興味を示した。
「こっちはケークサレっていう、甘くない食事系の焼きケーキ。ベーコンとかの具材が入ってて、ワインにも多分よく合うよ。一度作ってみたかったんだよね。一応味見はしたし、美味しかったから大丈夫だと思う」
タイミングを見計らって焼いたので、まだ温かい。粗熱を取っているときに端っこをちょっと切って味見したのだが、初めて作ったにしては美味しくて、結珠もにんまりしたのだ。
「順番に料理運んでくるとか出来なくてごめんなさい」
作った三品は全部カウンターに並べられている。アクアパッツァに至っては、ホーロー鍋を直接、ドーンと置いてある。
「大丈夫よ。それよりもこんなに作ってくれてありがとう! どれもおいしそうだわ!」
「よし、冷めないうちに食べよう!」
ジュジュが冷えたロゼワインを手に取る。いつもの通りコルクを開けてくれて、ワインをグラスへ注いでくれた。
「それじゃあ、今日も一日お疲れ様でした!」
ワインが入ったグラスを掲げて結珠がそう言うと、ジュジュはきょとんとした顔をした。
「ユズのところではそういう風に乾杯するのね」
「別に何だっていいと思うんだけどね。お祝いってわけでもないし、日々の営みに感謝して、今日も一日働いて頑張った! お疲れ様! で乾杯して良いんじゃないかな」
「素敵だわ! じゃあ、今日も一日お疲れ様!」
「お疲れ様ぁ!」
そう言って、二人はグラスを合わせた。ワインを飲んで、はぁ……と息を吐きだす。
「少し甘めだけどさっぱりしてて美味しいねぇ。あんまりロゼワインって飲まないんだけど、ピンク色で可愛くて良いよね」
「そうね。私も赤か白のワインが多いわ。師団長……このワイン、どこで手に入れたのかしら? 今度聞いてみましょう」
ジュジュはこのロゼワインが気に入ったらしい。自分でも買う気満々だ。ジュジュも結構な酒好きだ。
結珠は取り皿にサラダを取って、ジュジュに渡す。
「はい、どうぞ! 食べてみて!」
「ありがとう。ちょっとドキドキするわ……」
「いちじく。切ったときに良く熟れてたから甘いと思うよ! チーズとハムと一緒に食べてみて」
フォークを手に取り、ジュジュは結珠のアドバイス通り、いちじくとチーズと生ハムを一緒に刺して口に入れた。もぐもぐと食べて飲み込んでから、目を見開いた。
「あら、美味しい! この酸味のあるドレッシングも良いわね! ちょっと黒くてびっくりしたけれど」
「ドレッシングは、バルサミコ酢って言う、少し黒いお酢を使って作ったんだ。火を入れると甘みが出ていいんだよね。美味しかったんなら良かった!」
ジュジュは気に入ってくれたらしい。もうひとくちいちじくを食べている。
「ユズの世界は、本当に色々な料理があるのね。ワーカード王国は煮るか焼くかくらいで、目新しい料理もそう多くないし」
「私のいる国の人たち、みんな食いしん坊なんだよねぇ……。積極的に他の国の料理も取り入れるし、多分私の国は世界で一番、色々な国の料理が楽しめるところだと思う」
フランス、イタリア、ドイツ、中国、インド……色々な国の料理が頭を駆け巡る。日本で食べられない他国の料理はそんなにないのではないだろうかとも思う。
「それは素敵ね! ワーカード王国の隣の国の料理は……そこへ行かなくては食べられないわ。でもさほど料理に差はないのよ。あちらも煮るか焼くかくらいだし、海辺の国へ行ったらまた違うのでしょうけれどね」
「ワーカード王国は陸地だっけ……。魚はあんまり食べないんだよね?」
「ええ、川魚を食べたりはするけれど、そう多くはないわ」
アクアパッツァを取り分けながら、会話をする。
「だからユズが食べさせてくれる魚料理が美味しくて、魚ってこんなに美味しかったのね!」
「私が住んでる国はむしろ海に囲まれているから、めちゃくちゃ魚料理が多いよ! このアクアパッツァって料理は別の国の料理だけれど、材料は簡単に手に入るし、すぐに再現できるし」
「これは……貝? これも食べられるの?」
「食べられるよ。あさりって言うの。一応砂抜きはしてあるけれど、もしもジャリっていったらごめん……」
ジュジュは恐る恐るフォークであさりの身を取って口にする。
「あら、あまり癖もないし美味しいわ。こっちの魚も身がふわふわだわ!」
「このスープにパンを浸して食べるともっとおいしいよ! あんまりお行儀は良くないかもだけど」
言ってから、ジュジュが貴族の令嬢であったことを思い出したが、ジュジュはふふっと笑った。
「そうね。普段ならばマナーが! なんて言われるんでしょうけれど、肩ひじ張った食事ってあまり好きじゃないのよ。だからここで気楽に食事が出来るの、私は好きなの。魔女の店マナーってことでユズの助言通り、パンを浸して食べちゃうわ!」
ユーモラスたっぷりにそう言って、ジュジュはスライスしてあったバゲットを食べやすい大きさにちぎってから、アクアパッツァの出汁にバケットを浸す。それからぱくりとバケットを口にした。
「んんー! 美味しいっ! このスープ、色々な複雑な味がして、本当に美味しい!」
「魚介を煮込んだうまみがこのスープに全部出るからね! だから、このスープがもしも余ったらパスタと和えるとすごくおいしいんだ」
「それはすごく魅力的ね……。でもどれもこれも美味しいからそこにたどり着けるかどうか……。実は、ユズとここで食事会をするようになってから、私少し太ったのよね……」
「うぐっ! え……ジュジュさんも? 実は私も……。色々と美味しくてね……」
そうなのだ。自宅で仕事をしている分、移動も少ないのでどうしても会社員時代より運動量が少なくなっている。
その上、こうしてジュジュとよく女子会をして飲んだり食べたりしている。太らないわけがない。
「美味しいものは罪だよねぇ……。でも食べたくなっちゃうんだよなぁ……」
「本当にね。これも美味しいわ。甘くないケーキってどんなのかしらって思ったんだけれど、ベーコンや芋の食感が良いわ」
いつの間にかにケークサレも口にしていたジュジュ。太ったなんて口にしていたけれど、あんまり気にしていないのではないだろうか。
「この甘くないケーキ、私のところでも作れるかしら? 何か特別な材料はいる?」
「いらないよ。多分ワーカード王国の材料でも作れるとは思うけれど……」
「レシピ、教えてもらえないかしら?」
「いいけど……私、ワーカード王国の文字書けないよ?」
「あ……そうね。じゃあ、口頭で説明をしてもらって、私が書くっていうのならばどう?」
「それなら大丈夫だと思うけど……。書くものある?」
さすがに紙だけならば渡しても良いかもしれないが、筆記用具は出せない。多分ワーカード王国には鉛筆もシャーペンもボールペンもないだろう。
「ユズのところを貸してもらう……のは無理かしら?」
「ないわけじゃないけれど、やめておいた方が良いと思う。多分ね使っているものが全然違うんだ。出したらジュジュさんがびっくりすると思う」
ジュジュも結珠の言うところを理解した。そういえば、魔法道具を作るときにも見たことのない工具を使って作っていたことを思い出した。
きっと結珠の世界にしかなくてワーカード王国にはない筆記用具が出てくる可能性が高いのだろう。
「だったら、今は持っていないわね。じゃあ、次に来るときに用意しておくから、そのときに教えてくれる?」
「ごめんね、貸せなくて。あ、でも時間が出来る分、そのときに持ち帰り用に一本作っておくよ! ジュジュさんが作るんじゃないんでしょう?」
貴族の家の人間が自ら作るとは思えないと言えば、ジュジュは少しだけばつの悪そうな顔をした。
「そうね。私はあまり料理は出来ないわ。屋敷の料理人に任せているわね」
「じゃあ、レシピだけ渡しても味の想像が出来ないんじゃ、失敗するかもしれないし、完成品を渡して味見もしてもらって、その上でレシピを渡したらきっと作りやすいよね」
結珠の気遣いにジュジュは感心した。確かにそうだ。出来るならば結珠にジュジュの屋敷まで来てもらって作り方を披露してもらうのが一番だろう。でもそれも難しい。それに未知の料理を作るとなると、完成品がなければ結珠の言う通り、味の想像もしにくい。
「ありがとう! ユズ! 次の食事会は屋敷で何か作ってもらってくるわ! それを食べましょう!」
「いいの!? わー、嬉しい! 自分で作るのも好きだけど、人が作ってくれる料理も良いよね! あー、やっぱり痩せるのからは程遠くなっていく気がする……」
「本当ね! でも美味しいから仕方がないわ! あ、ユズ! ワイン空いてる! まだ飲めそう?」
「うん! もう一杯くらいは飲める!」
結珠の答えに、ジュジュはワイングラスにワインを注いだ。
その後、結局ジュジュがアクアパッツァのスープでパスタを食べたいと言い出し、結珠はパスタを茹でて二人で食べてしまった。
「あー、やっぱり痩せるの無理かも……」
「そうねぇ……。でも美味しかったし、楽しかったから良いんじゃないかしら?」
「そう言われてしまうと、何の反論も出来ない……。そういえば、デザートもあった……アイス……」
「アイス……? 氷菓子ってこと? 食べたいわ!」
「え!? ジュジュさん、まだ食べられるの?」
「口直ししたいなって」
「あー、そうだねぇ……。アイスだからそんなに重くないか……。酔い覚ましのお茶も淹れようっか」
「ぜひ! 酔い覚ましならば、少し濃いめのお茶がいいわ」
「濃いめか……。アッサムか、ディンブラでもいいかな……。よし! お湯わかそうか! その間にアイスの準備もしてくるね!」
こうしてダイエットの話はひとまず端に置いて、女子会はまだまだ続いていくのだった。
「あ。ジュジュさんにワインセラーのこと、聞くの忘れた」
そのことに結珠が気付いたのは翌日である。
今年も自分で自分の誕生日を祝いました。(笑)
皆さんも祝ってくれて良いよ!(おい)
来月には書籍発売も控えております。
今後ともこの作品をどうぞよろしくお願いいたします!




