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婚約破棄された悪役令嬢は、三大精霊と異世界ライフを満喫する 〜絶望せよと言われても、もう餌付け済みです〜【短編】

作者: katonobo
掲載日:2026/01/30

シャンデリアの輝く城のパーティー会場に、第一王子の声が響き渡る。


「今ここで、フランシスカとの婚約を破棄し、我が国からの追放を宣言する!」


多くの貴族たちが見守る中、フランシスカである私は、高らかに婚約破棄と追放を宣言された。


私の思考を遮るように、生演奏の楽団が悲壮な調べを奏で始めた。王子が、この婚約破棄に相応しいBGMをと、事前に指示していたのだろう。こういう舞台装置の準備だけは万端なのが、小賢しい王子らしい。


しかし、やはり避けられなかったか。私は内心で毒づいた。


5年前、私が前世の記憶を取り戻し、ここが乙女ゲーム『精霊王と麗しの令嬢』の世界だと気づいた時から、この婚約破棄イベントを予期していた。


このゲームの内容をざっくり言うと、精霊と共存する不思議な異世界で、主人公であるヒロインは気に入った精霊と契約・育成しながら、その中で出会う数々のイケメン攻略対象と恋に落ちていくというものだ。


残念ながら、私はこのゲームの主役ではない。


隣国の貧乏男爵令嬢として生まれ、父が戦争で戦死して没落するはずだったところを第一王子に拾われ、婚約者として破格の待遇を受けるも、主人公の敵として登場する――言わば「悪役令嬢」のキャラクターだ。

私は、十八歳まで何不自由なく暮らす。だが、ここで起こるのが、この婚約破棄イベントだ。


私が黙っていると、王子は片眉をあげて、愉快でたまらない様子で言った。


「どうした? 驚きすぎて言葉もないか。私が気づかないとでも思ったが、お前が陰で国庫に手をつけていたことを」


周囲がざわつく。王子が指をパチンと弾くと、文官たちがゾロゾロとドアから入ってきて、わざとらしく書類を広げた。


「言い逃れはできないぞ」


もちろん、これは嘘だ。あらかた、彼自身の無駄遣いを私に被せるつもりだろう。だが、もし否定したところで、今の私の言葉など誰も信じるはずはない。


しかし、昨日までは幸せの絶頂にいた私にいきなりこの仕打ちとは、落差があまりに激しい。

なぜ、今まで散々可愛がっていた(ふりをしていた)婚約者に、このような非道な真似をしたのか……?


その答えを示すように、突然、窓の外に雷光が走る。ゴロゴロと雲が不穏な音を立てる。


「ふ、フハハ。やはり来たか!」


王子は狂喜に歪んだ顔で髪をかきあげた。


そう。これだ。

私の亡き父は優れた精霊使いだった。そしてこの一族は、最強クラスの精霊を代々召喚できる稀有な素質を持つのだ。

王子は、私ではなく、その血を求めたのだった。


ただし、いつその力が発現するかはわからない。

だが唯一、確実に召喚される条件がある。

それは、召喚者が「圧倒的な絶望」を覚えた時。召喚者の命の危機を救うべく精霊が出現し、召喚者を気に入った場合、契約をするのである。


王子は、私を散々信頼させ、最後に十八歳の私の誕生日パーティーで、婚約破棄という残酷なまでの突然の裏切りをすることで、私に精霊を召喚させることが目的だったのだ。


空気が凍りつくような轟音と共に窓が割れ、扉が観音開きになった。

そして、そこへ一人の男のような人物が音もなく降りてきた。


「随分と趣味の悪い宴のようだな。これなら、死神と踊る方がマシだ」

「闇の精霊王、デーゼ!」


王子が歓喜の声をあげる。


「かの精霊戦争で千の精霊使いを屠ったと言われる、伝説の闇の精霊。まさか、これほどの精霊が来るとは」


私は恐怖に震えるフリをしてうずくまる。


「あらあら。美味しそうな料理があるわね」


いつの間にか会場の真ん中に、妖艶な赤いドレスを着て、頭に羊の角を生やした女性が優雅に腰掛けている。彼女は大皿に乗せられた巨大なエビを殻ごと丸呑みした。


「ほ、炎の精霊王、イフリーティア!」


書類を持ってきた年老いた文官が、目を見開いて叫ぶ。


「しかし、音楽は随分と陰気ねぇ。そう思わない? デーゼ?」

「ふん。まさかお前と音楽の趣味が合うとはな。おい、止めろ」


彼が一睨みしてそう言うと、恐怖に駆られた楽団の楽器がぴたりと止まった。


「あら。獣王も来たみたいよ」


ドガン! と強い衝撃とともに、庭の噴水が爆発した。いや、何かが突貫したのだ。

そこには、巨大な狼がいた。天に向かって咆哮する。


「全く、躾がなっていないな」


デーゼがため息をつく。


「な! あれは、獣の精霊王、ウルフィ!」

「フ、フハハ! フハハハ!」


王子が狂ったように笑う。


「フランシスカ。やはり、お前の血は恐ろしいな。まさか精霊王クラスが召喚されるとは。しかも三体も!」


私はうずくまりながら、かろうじて顔だけを王子に向けた。


「王子。私に精霊を召喚させて、一体どうするおつもりですか?」

「なぁに、お前が心配することじゃあない。なんせ、お前はもう追放されたのだからなぁ!」


王子は、懐からアイテムを取り出した。


「国宝級アイテム、隷属の秤。これは王家に伝わるレジェンドアイテムだ! 契約を結ぶ前なら、どんな精霊も従属させることができる! さぁ、精霊王たちよ! 我にひざまづけ」


秤が光り輝く。王子は勝利を確信した笑みを浮かべる。


が、何も起きない。

精霊王たちは、あくびを噛み殺している。


「おい貴様。私に向かってそんなガラクタを向けるとは。死にたいのか」

「う、嘘だ……? なぜだ、なぜ従わない!?」

「まぁいい。お前のノミほどの命を取ったところで意味がない。それより、そこの娘をもらっていくとしよう。贄にはちょうど良い」


そう言うと、デーゼは私を軽々と担ぎ上げた。


「おい。この娘はもう、お前たちとは関係ないのだな?」


デーゼが文官を睨む。


「は、はい。王子が婚約破棄と追放を宣言した段階で、もう、私どもの国とは一切関係ございません」

「そうか。では遠慮なく、もらっていくぞ」

「あら。もうおしまい。じゃあ、私たちも帰ろうかしら」

「ま、待て! 俺の! 精霊王たち!」


王子が止めるのも無視し、炎の精霊王と獣王は光の粒子となって消えた。


「……王子、今までお世話になりました。私は生贄として消えます。決して探さぬよう」


そう言うと、私はデーゼと共に姿を消した。

残ったのは、騒然としたパーティー会場と、間抜けヅラを晒した王子だけだった。


***


「ったく! 何よ! あのカッコつけは! 『死神と踊る方がマシだ』なんて言って。危うく笑っちゃうところだったわ!」


漆黒の馬車に乗った瞬間、私はデーゼの背中を強く叩く。


「す、すまん。盛り上がってしまって」


彼は先ほどまでの威厳をかなぐり捨て、焦った顔をしている。


「ですわね。フランシスカ様。こいつ、調子に乗っていましたわ」


炎の精霊王、イフリーティアも同意する。


「それに比べて、タロウはいい味でしたわよ」

「ええ。お疲れ様。タロウ」


私は、足元の犬を撫でてあげる。先ほど噴水を破壊した巨大な姿はなく、チワワくらいのサイズになった獣王であるタロウ(私が名付けた)は、嬉しそうに腹を見せる。


「けど、うまくいきましたわね」

「ええ。これで、私は晴れてあの王家とは縁が切れたわ」


私が前世の記憶を取り戻した時、最悪なケースを想定したのだった。

最悪なケースとは、私を絶望させて精霊王を召喚したのち、王家が精霊王を秤でコントロールした時だ。

物語では、この後、主人公の国と戦争になり、両国ともに大変な被害が発生し、多くの民が死んでしまう。


それを避けるために、私はできるだけ婚約破棄イベントを避けながらも、同時に精霊王たちとコンタクトを取ることに尽力した。

彼らの本来住まう地に足を運び、美味しいお菓子やゲーム知識で懐柔し、ついに召喚契約を結んだのだった。

『初めて食べたプリンのあまりの美味さに気絶した精霊王』の姿は、墓場まで持っていく秘密だ。しかし食べ物とは怖いものだ。今では、私が圧倒的に立場が上になっている。


あの隷属の秤は、もう誰かと契約している精霊には効果がない。

もちろん、王子にバレないよう、今日の今日まで契約の証は「隠蔽魔法」で見えないように偽装していたのだ。

今日の「絶望による召喚」は、全て私たちのお芝居だったというわけだ。


「さぁ。ここからが私の本当の人生よ!」


私は拳を振り上げた。


「何をされるんですか?」

「決まってるでしょ?」


私はふんと鼻を鳴らす。


「田舎に隠居して、スローライフよ」


ゲーム通りに進んで、散々と振り回されるのは勘弁だ。


「あら。いいですわね。私、今まで数多く召喚されてきましたが、いつも何かを壊してばかりでした。たまには、何かを作ることもしたいわ。たとえば、フルーツの木を育てるとか良いと思わない?」

「フランシスカよ。私はパフェを極めたいと思う。アドバイスをもらえるだろうか?」


デーゼは、そのクールキャラのせいで今まで甘いものを一切貢がれず、食べていなかった反動で、スイーツにハマっているのだ。


「もちろんよ! タロウは、私と一緒に遊ぶわよ」

「ワン!」


タロウは喜びの声を上げた。

馬車は、夜の一本道を進む。

向かうは隣国、ローゼ共和国。主人公が暮らす平和な土地。

私は、そこで主人公には会わずに、最強の精霊たちとゆっくりと田舎で暮らすのだ。


終わり。

【後書き】


最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!


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(星は1つでも5つでも、とても嬉しいです!)


また、ブックマークもしていただけると泣いて喜びます。


これからも楽しい作品を書いていきますので、応援よろしくお願いいたします!

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