表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
物語のネタ  作者: ななし
4/52

影を継ぐ王②

兄上は、いつも背中で語る人だった。

剣を振るう姿も、本を読む姿も、まっすぐで、誇り高かった。

幼い僕にとって、それは“完璧な王子”の姿そのものだった。


兄上のようになりたい。

そう思って、毎日剣を握った。

兄上が勉強しているなら、僕も机に向かった。

兄上が夜遅くまで庭で素振りをしていたから、僕もこっそり真似した。


けれど——気づけば、まわりの大人たちは僕を褒めるようになった。

「第二王子は天才だ」

「兄上を超える器ですな」


その言葉の意味が、子どもだった僕にはわからなかった。

ただ、兄上の顔が少しずつ曇っていくのを見ていた。


兄上はいつも言う。

「俺なんかより、お前の方がすごいよ」

そのたびに胸が痛くなった。

僕の努力を見てくれないのではなく、

兄上が自分を責めているのが、わかってしまうから。


王位継承の話が出たとき、僕は震えた。

兄上こそが王になるべきだと思っていた。

だって、兄上は誰より努力して、誰より真っ直ぐな人だから。


僕は言った。

「僕は王になりたくありません。兄上の隣で仕えたいのです」


兄上は、少しの沈黙のあとで微笑んだ。

その笑顔が、どうしてかとても寂しそうで、

胸が締めつけられた。


翌日、兄上は王位を辞退した。

理由を聞いても「お前が適任だ」としか言わなかった。

僕は泣きそうになるのを必死で堪えた。


——どうしてそんなに、自分を追い詰めるのですか。


即位の日、民は僕の名を叫び、祝福の鐘が鳴り響いた。

けれど、僕の視線はただひとりを探していた。

兄上は群衆の後ろで、静かに拍手をしていた。


あの日から何年も経つ。

兄上は王都の片隅で静かに暮らしている。

たまに訪ねると、相変わらず穏やかに笑って言う。

「俺なんかより、お前の方が眩しいよ」


違う。兄上。

僕が眩しさを得たのは、

あなたがずっと影で光を受け止めてくれたからだ。


でもその言葉を、僕はまだ伝えられない。

それを口にしたら、兄上が本当に消えてしまいそうで——。


だから今日も、僕は祈る。

兄上の影に、少しでも陽が届くようにと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ