7話 獣人達を助けます!
本気で走った侍女達は、早かった。
「では。いただきます。」
里奈が手を合わせ、侍女達も里奈を真似て食べ始める。
「里奈様。いただきます。とは、何か意味があるのですか?」
里奈は食べる手を止めた。
「私が以前いた国の風習ね。国によって食事の時に神に祈る作法は様々よ。」
「いただきます。その言葉は、動物や魚やお野菜その命を頂く事にお礼を。そして、それを育てたり料理してくれた人達への感謝を表す言葉ね。」
「食事が終われば、ごちそうさま。と言うわ。美味しく頂きました。ってね。」
侍女達はフムフムと聞いている。
「素敵な言葉ですね。」
「ありがとう。」
三人で食事をする。
侍女達は、王宮でのやらかし話や大臣の秘密など沢山笑わせてくれた。
二人には感謝しかなかった。
その日の夜、里奈はアルバートの側に立ち、穏やかな寝顔を眺める。
「おやすみなさい。」
アルバートの頰を撫で、白狐の側へと戻る。
アルバートが私のベットに寝ているので、里奈は白狐に包まれてベットの横の床で眠りに就いた。
翌朝、里奈を起こしに来た侍女達は驚いていた。
白狐のお腹辺りに横になり、尻尾を布団代わりに眠る里奈の姿に。
「なんて素敵なんでしょ⋯⋯。」
「寝台で眠る里奈様も美しいですが。白狐様と共に眠られる姿。絵に残したいくらいですわ!」
(起きにくい⋯⋯。)
里奈は目覚めていたが、侍女達の話に起きにくくなっていた。
白狐が里奈を尻尾でポンポンと叩いた。
「おはよう。白狐。」
『おはよう。里奈。』
白狐が里奈の頬に口付けを落とす。
いつもの事だが、初めて見た侍女達は大興奮!!
二人で手を取り合い、キャッキャッとはしゃいでいる。
「おはよう。サリー、ナミ。」
里奈からの挨拶に、
「「おはようございます。里奈様。」」
我に返り、王宮侍女らしく丁寧に挨拶をする。
里奈はクスリと笑い、侍女達に身支度を任せる。
「里奈様と白狐様は、とても仲睦まじいですわね。」
「ずっと見ていたいくらいですわ!」
褒め言葉の嵐だ。照れくさい。
「朝食後、フィッセル侯爵とヤービスに部屋に来るように伝えて貰える?」
「私の朝食は、部屋でするわ。また一緒に食べてくれるかしら?」
侍女達は顔を見合わせて、
「勿論です!急いで言付けと朝食の準備を致します。」
二人はそれぞれ役割分担をし、急いで部屋から出て行った。
『あの者達は良いであろう?』
その言葉に、里奈が白狐を見た。
「白狐はあの二人を気に入ったの?」
里奈の問いかけに頷く白狐。
『あの者達が持つ魂はとても穏やかで明るい。そして、忠誠心がとても強い。里奈の側付き達よりもな。』
「白狐はそんな事まで解るのね。」
確かにあの二人は気を許せる。
理由は解らない⋯⋯。
ナタリー達とは違う何かがあるのだろうか⋯⋯。
首を傾げて考える里奈に、
『相性は考えてもわかるまいて。自然なものだからな。』
「そうね。」
里奈は考えるのを止めた。
侍女達がバタバタと戻り、慌ただしく、そして楽しく朝食をとる。
食後直ぐに扉が叩かれた。
ヤービスと侯爵が訪ねてきたのだ。
食後の紅茶を一緒にとりながら軽く話をする。
「里奈さん。獣人達の身元を知りたいならばクーロを連れて行くと解るかもしれない。」
「解ったわ。クーロを連れて行きましょう。私は獣人達に近づけないから、白狐が一緒に会うわ。」
「侯爵は彼等の紋を見てもらいたいの。解除出来るのか、出来るならばその方法を知りたいの。」
「お任せ下さ。」と侯爵が頷いた。
「サリーとナミはアルバートを見てて欲しいの。何かあればこれに魔力を流せば、私に声が届くから。」
「里奈は小さな魔石を使ったピンを、侍女達の服の襟に着けた。」
「お願いね。」
里奈の頼みに、侍女達は
「「勿論です!!」」
力強く頷き、両手の拳を胸の前にあげて答えた。
里奈はクスリと笑い、クーロが到着すると子爵家に転移した。
子爵家の門前に転移した。
黒髪の里奈に気が付いた門番が、大慌てで子爵を呼びに走った。
「愛し子様。お待ちしておりました。」
子爵夫妻が里奈に軽く頭を下げ、挨拶をする。
「玄関まで転移しますね。」
一瞬で全員を転移させ、子爵夫妻が邸の中へと案内する。
居間に案内され、ソファーへ勧められる。
全員が腰をおろし、里奈の話を待つ。
里奈が軽く紹介を始めた。
「こちらが、子爵夫妻。」
夫妻が姿勢を正し、軽く会釈する。
「そして、フィッセル侯爵と獣人国の王子のヤービス。それに、元獣人国の宰相のクーロよ。」
紹介された三人も軽く頭を下げた。
「侯爵とヤービス。それにクーロは夫妻と一緒に獣人達に会って貰いたいの。私はここで待つわ。白狐が一緒に行くから、ここでちゃんと視てる。」
侯爵達は立ち上がり、夫妻に案内され離れへと向かう。
里奈は目を閉じ、白狐と視界を共有する。
離れの建物を見た侯爵が、
「この建物は⋯⋯。」
ポツリと呟いた。
「侯爵。いかがなされましたか?」
子爵は侯爵の呟きの内容は聞こえてはいなかった。
「いや。何でもない。先を急ごう。」
離れの中に入り、居間に案内された。
ベットが幾つも並べられ、獣人達が寝かされている。
体が痛いのだろう、右に左にゴロゴロ寝返りをうっている。
「全員の紋を見ます。」
ヤービスとクーロは侯爵を優先させた。
侯爵が寝返りを打つ獣人達の紋を、全て紙に記していく。
最後の一人の確認を終えると、侯爵は白狐の前にきた。
「白狐様。愛し子様は今こちらを視てらっしゃいますか?」
白狐が頷いた。
「愛し子様の話された予測は、半分当たっております。」
「この紋は、愛し子様を暗殺する為ではありません。愛し子様の神力に反応し、爆死する紋です。」
(((爆死?!)))
里奈を含め、全員が酷い仕打ちに驚く。
「神力に反発する紋。苦しみから逃げ、死にたいと思えば自死を選ぶ紋。」
「瘴気に蝕まれた者をきっと愛し子様は浄化する。子爵が獣人達を連れ帰るのを想定していたのでしょうね。」
「巡礼に来た愛し子様に浄化をお願いする。浄化と治癒の為に愛し子様は神力を流す。すると、神力を受けた紋が発動する仕組みです。」
「紋はゴッドローブの魔力で隠されていました。白狐様がいなければ、愛し子様はゴッドローブの策略に気が付かず獣人達を浄化する。子爵夫妻の前で浄化に失敗したように見せる。」
「そんな処でしょうかね。」
「後、紋が現れたのはこの館のせいですね。館は女神の森の木で作られている。」
子爵に話しながら侯爵が視線をやると、子爵は驚きながら頷いた。
「神力を注がれなければ死ぬ事はありませんが、常に女神様の神力に触れているので隠蔽が剥がれ、紋が露わになったのでしょう。」
《白狐!獣人達に結界を!》
里奈の念話に白狐が獣人達に真っ白い結界を張った。
「愛し子様の指示ですか?」
「愛し子様は本当に頭が切れる。」
侯爵は満足気に里奈を褒めた。
(侯爵も早く言いなさいよね!意地の悪い。)
里奈は焦らした侯爵に毒を心で吐いた。
ヤービスとクーロが獣人達の身元を確認しようと近付いた。
二人は立ち止まり、獣人達に近づかない。
『ヤービスよ。どうしたのだ?』
「私の世話をしてくれた⋯⋯従者達だ⋯⋯。」
ヤービスは床に膝を突き、泣き崩れた。
クーロがヤービスの背を擦っているが、クーロも涙を流す。
子爵夫妻はヤービスの生い立ちを記憶で視ていた。
少ない味方であった従者達の、この様な姿に悲しまない訳が無いのだ。
夫妻も涙を流す。
「愛し子様。紋は私が消しますが、宜しいですか?」
『お願いするそうだ。紋が消え女神の神力の影響が無くなれば、治癒をするそうだ。』
侯爵が頷き、獣人達に黒魔術をかける。
紋を浮かし、一纏めにすると一瞬で消した。
《侯爵ってやっぱり、ゴッドローブより魔術の腕が上なのかもね。》
白狐も里奈の意見に同感であった。
「愛し子様。この者達は自死した事にしました。紋も消しましたし、浄化と治癒をお願いします。」
里奈は離れに転移し、浄化と治癒を施した。
里奈は泣き止む事のないヤービスの側に膝を突き声をかけた。
「ヤービス。貴方が大切な人がこんな目にあったのは、やっぱりヤービスのせいじゃないからね。王妃とゴッドローブのせいよ?間違えないでね。」
「そしてヤービスが私の元に来た。だからこそ、この人達は助かった。侯爵がいて、白狐がいたから助けられた。ヤービスが繋いだのよ?」
ヤービスは泣きながらも里奈を見る。
「彼らは大変な目にあったけど、獣人国からは逃れられた。これからヤービスが彼らに恩返しをするのよ!アルスタ王国でね!」
里奈はヤービスの背中を、バシーンと叩いた。
痛みにヤービスが蹲る。
クーロが慌てて、ヤービスの背中を擦る。
蹲りながら、
「里奈さん。ありがとう。」
小さな声が聞こえた。
「白狐。獣人さん達はまだ目覚めないわよね。」
『もう暫くは眠るだろうな。』
里奈は穏やかに眠る獣人さん達を見つめた。
「子爵。もう少しだけこの人達を置いてもらえるかしら?そしてヤービスとクーロも一緒にいさせてあげたいのだけど。」
「勿論です。ヤービス殿下達も是非この人達の側にいてもらいたい。目覚めたらきっと喜ばれる。」
子爵の快い返事に頷き、里奈は侯爵に小声で囁く。
「ゴッドローブを叩きのめす姿を楽しみにしてますね?」
侯爵は返事をする事なく、ただ頭を下げた。
「では一旦私達は帰ります。ヤービス。獣人さん達が目覚めたら全て伝えて、彼等がどうしたいかを聞いてね。」
「まずは看病して、しっかり恩返ししてね。」
里奈は夫妻に手を振り、侯爵と白狐を連れて邸に転移した。
子爵夫妻がヤービスの側にきて
「さぁ看病しますよ!体を拭いて下さいね。」
明るい声で話かけた。
ヤービスは涙を拭い、子爵夫妻に頭を下げて夫妻の手伝いをクーロと一緒に始めた。
従者達の目覚めを心待ちにして。
里奈達は私室に転移した。
アルバートには変化はなく、静かに眠っている。
侯爵は息子の寝顔をじっと眺めていた。
「息子が目覚めないのは、もう一人の彼のせいですね。魔力に棘がなく、穏やかな魔力しかない。息子の魔力の本質とは違う⋯⋯。」
「聖女が私の中に眠るように、アルバートも自身の中で眠っているのかしら。」
侯爵も里奈もそれ以上は話をする事はなかった。
青龍だけは、アルバートの顔に頰を擦り寄せ必死に起こそうとしている。
里奈は青龍の健気な姿に、涙を零す。
何も出来ない自分が情けない。
大切な人を守れなかった⋯⋯。
里奈の心は後悔の波で荒れていた。




