5話 カップル誕生
里奈達一行は、ヨーク領の邸の前に転移した。
隊列全てを転移させたので、沢山の人や馬や馬車が邸の前に溢れた。
出迎えてくれたのは、久々に会う側付きの女性達。
パトリックにサイも控えている。
「ただいま!」
里奈の元気な声に、ナタリー達が駆け寄り里奈に抱きついた。
「おかえりなさい。里奈さん。」
泣きながら再会を喜んだ。
従者達を離れの屋敷に案内し、里奈達は邸の中に入って行く。
居間には見慣れた人が沢山いた。
再会し話したい事が沢山あった。
「ただいま戻りました。皆元気にしてた?」
里奈の言葉に、「皆元気に働いてました!」
エミルが答えた。
「ちゃんと休憩をして、無理なくしてましたからね!」
と、エミルが慌てて話した。
里奈はクスリと笑い、側付き達女性に近づいた。
「貴女達に会って話したい事が沢山あるわ。でも、今は先に解決しなくてはならない事が出来てしまったの。」
「また暫くはゆっくり話せないけど、待っててくれる?」
里奈の言葉にナタリー達は了承した。里奈がやらなければならい。そう言うならば、側付き達はそれが全てだと受け入れる。
「全て終わったら、ゆっくりお茶会をして下さね!里奈さん。」
ナタリー達は笑顔で受け入れてくれた。
里奈はちゃんと理解している。
ナタリー達が自分に会うのを楽しみにしていてくれた事を。
その為に頑張っていてくれた事も。
だって、女性達の顔は笑顔でも少しだけ瞳は寂しさを含んでいたから。
「解決しなくてはならなくなった原因は、ライアンとギルベルトが知っているわ。」
その言葉に、側付き達女性やパトリック達がライアンとギルベルトに視線をやる。
二人は、ビクッと肩を跳ねさせた。
まさか、自分達が自らの失態を説明することになるとは思っていなかったのだ。
ライアンはナタリーを、ギルベルトはエミルへと一瞬だけ向けた。
里奈はその視線の意味を理解し、なぜ魅了魔術にかかったかを理解した。
理解はしたが、それはそれ。
里奈は小さな怒りを持った。
「私は部屋に戻るわ。暫く出て来ないかもしれないけど心配しないでね。」
里奈はライアン達を放置して、手を振り私室に転移した。
居心地悪そうなライアン達に、真実を知るリュカが話しかけた。
「里奈さん、少し怒ってたね。さっきの二人の視線でライアンさん達の事はバレたよ?自分からちゃんと皆に説明した方が良いと思うよ?」
俯いていたライアンが顔を上げて、ギルベルトに視線をやる。
「ギルベルトと私。そしてアルバートは失態を犯した。そのせいで、アルバートが今は意識を失っている。」
「里奈さんは、意識の無いアルバートについている。」
その場の人達はライアンの言葉が信じられなかった。
里奈を愛し守っていたアルバートが失態を犯すなど。
そして、忠実に役目に邁進していたライアン達が失態をするなど⋯⋯。
「皆、話を聞くなら座ろうか。」
話が長くなるだろうと、リュカが皆をソファーへと促した。
ソファーに座れない人は椅子を持ってきてライアンとギルベルトを囲んだ。
「ライアンさん。全て隠さず話してもらいます。」
そう口にしたのは、ライアンの想い人のナタリーだった。
ナタリー達女性陣は、里奈との時間を取り上げる原因のライアン達に怒っていた。
パトリックの横に座るサーシャは、殺気を放っていた。
「全て話すよ。」力無くライアンは話し始めた。
侯爵家へ到着した日の出来事を。
アルバートに抱きついた時に、娘が魅了魔術を放った事。
その魔術にかかったのは、ライアンとギルベルトとアルバートの三人であり魔術に気が付かなかった失態を。
そして、自分達は里奈さんを気にかけず側にいた令嬢達と過ごしていた事を。
だが、魅了魔術と聞いて息を呑む。
仕方ないのでは?と⋯⋯。
「魅了魔術は、その人の魔力量でかかるかかからないかが決まります。ライアンさん達三人はほぼかからない筈です。ですが、かかってしまったと言う事は心に隙があり、受け入れてしまった事になりますね。」
さらりと説明するのは、パトリックだ。自身もリメル大国で王女にかけられた経験があるからだ。
「大雨で足止めされたり、崖崩れで先の予定が調整出来なくてライアンさん達は焦っていたよ。」
「そこにアルバートさんは乳母やその娘と再会し、懐かしさに気が緩んだ。その光景を見てライアンさん達は羨ましくなった。でも、直ぐに魔術を跳ね返す事も出来たはず。ライアンさん達は、少しだけ逃げたかったのでしょ?目の前の辛い現実から。」
リュカの言葉に言い返す事はしない。
ライアン達も自覚しているからだ。
役目が辛かった訳ではない。自分の想いを隠し続ける事が辛かったのだ。
「ライアンさんやギルベルトさんは役目がそんなに辛かったと?そう言いたいのですか?」
キャロルが問いかけた。
「違う!勿論、役目を大変だと思う事はある。側付きとしての役目で大変だからこそ、誉れだと。だからこそ里奈さんの為にと頑張ってこれた。逃げたかったのはそれじゃない!!」
叫びながら否定するライアンに、男性達は逃げたかったのは何か。それを知っている。
知らないのは、女性達。
「ライアンさんは、ナタリーさんを。ギルベルトさんはエミルさんを連れて話して来た方が良いよ。このままだと、側付きとしての役目に支障が出る。」
「はっきり言って、今のライアンさんとギルベルトさんは足手まといでしかない。」
「あの時、里奈さんは1日猶予を与えた。自力で魔術を解くであろう貴方達をね。でもそれは無駄だった。里奈さんは私と隊長を連れて子爵家に出向いた。浄化を進める為にね。」
「子爵家で里奈さんは、遅くなり申し訳ないと子爵夫妻に頭を下げたよ。」
その場の全員が息を呑む。
愛し子様が頭を下げたのだ。
ライアンとギルベルトは青ざめていく。自分達が呑気に術に嵌っている間に、愛し子様が頭を下げた事実に。
リュカの厳しい言葉に、ライアン達は覚悟を決めた。
ライアンはナタリーを。ギルベルトはエミルを連れて外に出た。
男性達は、やっとか⋯⋯。
だが、キャロルやサーシャは確信が持てなかった。
「もしかして、ライアンさん達は彼女達を?」
キャロルがリュカに問いかけた。
「そうだよ。ライアンさんとギルベルトさんは彼女達を密かに想っていた。」
キャロルは、
「ライアンさんの気持は何となく感じていましたが、ギルベルトさんは全く気が付かなかったわね。」
「ちゃんと話し合えば、上手く行くわね。」
キャロルとサーシャが、恋バナに花を咲かせ始めた。
「ギルベルトさんも上手く行くと?」
リュカが逆にキャロルに問いかけた。
「ナタリーは側付きになる前からギルベルトさんに想いを寄せていたわ。里奈さんに隠していた事がバレてとっても怒られてたわよ。」
「愛し子様の為に恋を諦めるなと。そんな事を言うエミルを許さない!って。
里奈さんが格好良くて。」
サーシャは知らなかったのか、キャロルに当時の話しを細かく聞いている。
「リュカ。ライアンさんとギルベルトさんの事は解った。だが、アルバートさんはあの二人とは違うだろ?二人は想い合っている。いくら懐かしさに絆されようと、隙が出来るとは信じられないが。」
パトリックが話す事は最もで、里奈を溺愛し執着するアルバートが魅了にかかるとは思えなかったのだ。
キャロルもサーシャも話しを止め、リュカを見る。
「それについては俺は事実を聞いている。聞いてはいるが、話して良いかは判断出来ない。」
「ライアンさん達や俺は立ち聞きしたにすぎないが、里奈さんが三人がいるのを知ったうえで話をしたと思う。」
判断に悩むリュカに、
「リュカが立ち聞きする事を許していたなら、いずれ私達にも話しをしてくれる筈だ。とりあえずは、アルバートさんが目覚める迄は待つしかないな。」
「獣人国へ向かう日程は、侯爵家から転移してくれたおかげで余裕が出来た。」
「私達は獣人国へ行く準備を早々に終わらせ、いつでも里奈さんの為に動けるようにする。」
パトリックの言葉に皆が頷いた。
早くアルバートが目覚める事を祈りながら⋯⋯。
外に出たライアンとギルベルト。それにナタリーとエミル。
誰も口を開かずにいた。
「私はナタリー。貴女をずっと想っていました。婚約者候補に名が上がっていた時は、私は貴女を選ぶつもりでいたのです。」
ライアンが先に口を開いた。その言葉にナタリーは驚いていた。
「貴女が他の高位貴族の令嬢達からの圧力に耐えられず候補を降りた時に、私は自分の気持ちを奥底にしまい込みました。
王太子として、自身の感情だけで動いてはならないと。」
「でも、側付きとしてナタリーの名前が上がり、白の宮で顔を合わせた。里奈さんの為に一緒に働く中で私の奥底の想いが止まらなかった。」
「だが、やらなければならない事が沢山あり過ぎた。自身の色恋で役目を疎かに出来ないと。だから、無理矢理気持ちに蓋をしたよ。」
苦笑いをしながら気持ちをナタリーに告げる。
「貴女と一緒にいたい。貴女を助けたい。頼って欲しい⋯⋯。」
「そんな気持ちを抱えたまま、侯爵家を前に足止めをくらった。崖崩れなんて想定外だった。焦りがあったのもあり、まんまと魔術にかかってしまったよ。」
ライアンが話しを終え、ギルベルトに視線をやる。
次はお前だと。そう言うかのように⋯⋯。
「私はライアンとは少し違うかもしれない。ライアンは純粋にナタリーさんを想っている。私は少しずるいのです。」
ギルベルトはエミルを見つめ、申し訳なさそうに語り始めた。
「私はエミルさんからの自身への好意に気が付いていた。学園でこっそり覗き見る視線に気が付いていたからね。」
エミルはギルベルトに気持ちが知られている事を知り、顔を真っ赤にする。
「私は婚約者はいないけども、縁談が来ない訳では無かった。私もエミルさんに好意を寄せていたから、縁談は全て断った。」
「だが、エミルさんに気持ちを伝えられなかった。爵位の差があり過ぎた。幾ら私が想っていようと、相手が男爵令嬢ならば周りの令嬢達は許さないだろう。」
「地獄に引き入れる事は出来ないと、私は諦めた。でも側付きとして一緒にいれると浮かれていたよ。」
「でも、エミルさんは以前のような視線を向けなくなった。里奈さんの側付きになり、私を見る事が無くなった。」
「これはライアンさんと一緒で、男として頼られたかったし以前のような好意を表す視線を欲したんだよ。でも自分からは伝えられない。もどかしい気持ちの隙を突かれたんだ⋯⋯。」
話しを終えたライアンとギルベルトは、ナタリーとエミルの答えを待つ。
エミルが先に口を開いた。
「私の気持は、早い段階で里奈さんに知られました。想いに蓋をしていたつもりでしたが、態度に出ていたようでした。」
「里奈さんからは、とても怒られました。愛し子様の為と恋を諦めるなと。そんな事をする私を許さないと。」
「私はずっとギルベルト様を想ってきました。」
エミルの真っ直ぐな告白に、
「私もエミルさんを想っています。どんな反対に合っても貴女と一緒にいたいです。」
エミルとギルベルトは心が通じ合った。
それを見届けたライアンが、ナタリーの側に来て、膝を突いた。、
「ナタリー嬢。私は貴女を愛しています。私は王太子では無くなりましたが、私と婚約していただけますが?」
ナタリーは涙を浮かべ、ただ一言。
「はい。」
そう伝えた。
ライアンは立ち上がり、ナタリーを抱きしめた。
ギルベルトがエミルに、
「私もエミルさんと婚約をしたく思います。受けて頂けますか?」
ライアンと同じ様に膝を突き、申し込む。
エミルはギルベルトに抱きついて、頷いて答えた。
長年の恋が叶ったのだ。泣かずにはいられなかった。
四人が落ち着き、お互いの顔を見合わせる。
「ライアンさん達が思い悩み、魔術にかかってしまったのは仕方の無い事だと理解しました。」
ですが⋯⋯。
「それはそれです!私達と里奈さんの時間を奪った事。里奈さんはライアンさん達の事を許したかもしれませんが、里奈さんを煩わせた事は許しません!」
ナタリーの言葉に、エミルも同意した。
「アルバートさんの意識が戻り、里奈さんとの仲が戻るまでは今まで通り。ただの側付きとして接します。」
ナタリーとエミルの圧に勝てないうえ、自信の失態もあり意見を受け入れた。
「とりあえず戻りましょう。」
ナタリーの言葉に従い、四人で皆が待つ部屋へと歩き出す。
「不甲斐なくて、ごめん。」
ライアンの呟きに、ナタリーは振り返り首を振る。
再び無言のまま、四人は歩き出した⋯⋯。




