3話 里奈は側付き達を切る⋯⋯
里奈達が滞在する子爵家で昼食会が始まる頃、侯爵家では⋯⋯。
アルバートがソファーに座り何やら考えていた。
(エリアナ達と話し込み、リリの側を長く離れてしまった⋯⋯。)
夕食に呼ばれた事でようやく時間の経過を知ったアルバート。だが、夕食の席で謝り一緒にエリアナ達とお茶でもしようと考えていた。
だが、夕食を里奈は断った。
理由を侯爵家の侍女に尋ねると、疲れたので休みたいと言われたようだった。
雨の中の移動だった為に、里奈の体調を思い了承した。
夕食の席では、エリアナの友人達が訪れていた。少し警戒をしたが、彼女達はライアン達の側付きの仕事の大変さを褒め、労いの言葉を伝えていた。
甘えて擦り寄る令嬢達とは違うのか⋯⋯。
と、エリアナの友人と聞いていたのもあり警戒を解いてしまった。
夕食では、若い者同士で話しが盛り上がっていた。
マリー夫人は愛し子様が気にはなったが、体調を思い関わらない方が良いだろうと判断してしまう。
この判断を、マリー夫人は後々深く後悔する事になる。
アルバートは懐かしい乳母のマリーとの思い出に満悦してしまった。
ライアン達も、普段側にいるナタリー達に頼られることも無い為、男として立ててくれる令嬢達の言葉に気持ちを許していた。
アルバートやライアン達も、王都を出てから気を張り詰めていた。
大雨や崖崩れで足止めされ、気持ちが焦っていた。
その隙間に入って来たエリアナ達に、僅かながらの安心感を持ったのだ。
彼等も里奈を休ませたいと、その気持ちを持っていた。
この滞在で、ゆっくりして貰いたいと。
翌朝の朝食にも里奈は来なかった。
「昨日は体調が悪いと仰っていましたが、街に食事に出られたそうです。」
エリアナは使用人達の噂を態と嫌味で伝えた。
「きっと、私が婚約者のアルと仲良くしているから気分を悪くしたのよね。私のせいよね。食事に来ないのも⋯⋯。」
エリアナの泣きそうな顔に、アルバートは里奈の行動に少し悩んだ。
里奈が何故こんな事をするのか⋯⋯。
ライアンが、
「里奈さんは、嫉妬してるのかな?」
アルバートは、ライアンをバッと見た。
「アルバートが里奈さんを置いてエリアナ嬢を優先させただろ?婚約者がそんな態度を取れば嫉妬するんじゃないか?」
(リリが嫉妬を⋯⋯。)
「そうか⋯⋯。」
アルバートは密かな喜びに満たされた。
嫉妬する程の里奈からの好意に。
だが、そうであろうか⋯⋯と、反する考えもよぎる。
「じゃー、アルと一緒にいて嫉妬させちゃおうか?向こうが焦って来るのを待つのも良いかもよ?」
アルバートはエリアナの言葉に流され、嫉妬する里奈を思い浮かべると誤った行動に出る。
だが、間違っている。と、反する考えもよぎる。
朝食後も、エリアナ達とアルバート達は共に過ごした。
次の日も⋯⋯。
里奈はその間、子爵家と辺境伯家を訪ね浄化を終わらせていたのだ。
そして、4日目にしてようやく雨があがった。
アルバート達がふと我に返り、浄化の日程をどうするのかを聞きに、里奈達に会いに行った。
アルバートから離れないエリアナ達を連れて、里奈の部屋に転移した。
転移先の部屋を見て、不思議そうにする。
エリアナは自分の仕業がバレないか、ソワソワしだす。
「リリ。何故貴女がこのような部屋に?」
アルバートが里奈に問いかけた。
「侯爵家の侍女に案内された部屋だからよ。」
さらりと口にする言葉に、王宮侍女が頷く。
「なぜ夕食に来ず、街で食事をしたのですか?」
アルバートがまた問いかけた。
「何故って。日が沈んでも、滞在先の者に呼ばれなければ食事には行けないでしょ?
お腹が空いたから街に食事をしに行くしかないじゃない?」
「それとも、私に食事を抜けと?」
里奈はアルバートに逆に問いかけた。
アルバートは聞いた話と違う事に気が付いて、
「リリが休みたいと侍女に言ったのでは?だから、私達はゆっくり休んで欲しいと⋯⋯。」
里奈を見ると、真顔でアルバートを見ている。
「アルバート達がそう聞いてそう判断したのなら、それで良いでしょう?私は私でやるべき事を済ませたわ。何の問題があるの?」
アルバートは里奈がアル呼びをしなかった事に固まり、どんどん青褪めて行く。
ライアン達も、里奈の態度に嫉妬心が見えない事に気が付いた。
青褪める3人に、里奈が問いかける。
「この地に残りたいなら残っても良いのよ?役目を放棄するのは、そう言う事でしょ?私達はヨーク領に向かうわ。貴方達は貴方達の好きにして大丈夫だから。」
何事も無かったかのように口にする⋯⋯。
切られた。そう判断するしかなかった⋯⋯。
そこにリュカと隊長が現れた。
アルバート達の様子を見て、リュカは察した。
「里奈さん。出立は昼過ぎに出来ます。街の広場に同行者全員が集まるように伝えてあります。」
リュカが里奈に報告をする。
「ありがとう。リュカ。民達への通達も終わってる?」
「通達は終えました。まだ先の時間ですが、民達は里奈さんを間近で見る為に場所の確保をしてますよ。」
笑いながら里奈に報告する。
「そう。少し早目に言って話しをするのも良いかもね。」
アルバート達は里奈とリュカとの会話をただ呆然と聞いていた。
自分達の役目を、リュカが行っている⋯⋯。
「リリ⋯⋯。私達を切るのですか?」
アルバートは声を震わせ問いかけた。
「顔色が悪いけど、なぜ?貴方達が選んだんでしょ?」
「無駄な時間を過ごすつもりは、私はないのよ。」
「貴方達を切る切らないの判断は、私がした訳ではないわ。貴方達がそうなるべくして出た結果でしょ?」
アルバートは、言い訳をしようとするがリュカに手で制された。
アルバートはリュカを睨むが、リュカは気にしない。
「この話は平行線にしかならない。原因を排除しない限りね。」
リュカはそう言うと、エリアナ達を見た。
「エリアナ達が何か関係あるのか?」
アルバートの言葉に、エリアナの肩がビクッと揺れた。
アルバートはエリアナの態度を見てようやく気が付いた。
エリアナ達の嘘に踊らされ、里奈に対して間違った対処をした事を⋯⋯。
「あんたの邸の専属魔術師が全て話したよ。崖崩れも、アルバートさんの判断を鈍らせていた事もね。」
「全てあんた達の計画だったとね。」
リュカは強引に侯爵夫妻を転移させた。
いきなり景色が変わった夫妻は慌てていたが、周りを見ると愛し子様やアルバート達に娘達もいる。
状況が解るはずもなく、リュカが全てを話した。
娘のやらかしに、夫妻は膝を突いて愛し子様に謝罪する。
「夫妻に責任が無い訳ではないわ。貴方達の娘は人として成ってない。愛し子が相手だからではないわ。人を陥れて良いわけではないのよ。」
「子爵家も辺境伯家も全て浄化も終わらせてます。侯爵家の浄化が終わり次第、ヨーク領に向かいます。」
「この事はもう終わりです。わたしは役目を済ませる事が出来た。それで満足よ。」
里奈は侯爵夫妻を許したのだ。
だが、
「でも、娘の教育はきちんとする事。良いわね!」
最後、夫妻に釘を刺すのを忘れなかった。
里奈はアルバート達を見て話しを伝える。
「貴方達が魔術にかかり、惑わされたのは事実。ですが、貴方達の魔力を持ってすれば跳ね返せた。」
「自ら魔術を受け入れたのは、それも紛れも無い事実です。これからどうするのかは、貴方達の判断に任せます。」
里奈はそれだけ伝えると、話す事は無いと侍女が出した紅茶を口にする事で示した。
呆然と立ち尽くすアルバート達に里奈は構うことをしない。
リュカは苦笑いをし、
「アルバートさん達も一旦外に出よう?魔術もきれたから、意識はハッキリしてるよね。」
そう伝えつつ、外に転移で連れ出した。
「魔術師を見つけれたから良かったけれど、一歩間違えてたら本当に切り捨てられてたからな。
アルバートさん達は、出立が今日だって知らされてなかっただろう?」
リュカはため息を吐きつつ、アルバート達に声をかけた。
「アルバートさん達が気を張り詰めていた中で、昔馴染みに会い気を許す気持ちも解る。安心感を持ったのだろう?」
「ライアンさんにギルベルトさんも。側付きの女性に頼られたかったんでしょ?。ましてや好意があるからこそ、男として役に立ちたかった。」
「でもねー。里奈さんを筆頭に、女性達は強く賢い。男としては、立場がないのも解るさ。」
「気持は解るが、俺も気分は良くないよ。
里奈さんは足止めされて、気が気じゃなかった。子爵、辺境伯の領民達を早く安心させたかった。
本当は侯爵家に到着したその足で、子爵家に向かいたかったはずだよ。」
「里奈さんは、貴方達が魔術から抜けるのを1日だけ待った。貴方達なら、1日も要らないだろうと思ったからだろう。
里奈さんが子爵家と辺境伯家をどれだけ気にかけてたかは、貴方達が一番知ってる筈だ。なのに、先の事を考えなかった。その緩んだ気持ちの結果がこれだ。」
3人はリュカを見たまま、口を開かない。その通りだったからだ。
里奈は子爵家と辺境伯家をとても気にかけ、側付き達に頻繁に状況を調べさせていたくらいだ。
浄化も一番にしたかったはず⋯⋯。
それを、私達自身が放棄したのだ⋯⋯。
「里奈さんは、嫉妬心を持たない。白狐様が言っていたよ。里奈さんは相手が決めた事を尊重する。去る者は追わない。どんなに愛した相手でもだ。」
リュカは、少し怒っていた。
アルバートの行動に。
「気が緩んでしまったのは事実だ。」
アルバートは言い訳せずに、自身の過ちを認めた。
「里奈さんは貴方達を切り捨てはしないよ。ただ、次に同じ事があったなら同じ対処をする。その覚悟を持って欲しいのかもね。二度目は無いとね。今回は魔術師が絡んでたのを里奈さんは気が付いていた。」
「今回の事で俺が思った事を伝えるなら、里奈さんの精神は女神様や白狐様に近付いている気がする。情け深いが、容赦がない。3人も里奈さんの側にいたいなら、もう一度気を引き締めた方が良いよ。」
「里奈さんは怒っていただけだ。」
「だから、ちゃんと謝ってヨーク領に行こう。」
そう。里奈は少しだけ怒っていたのだ。
そして、少し呆れていた。
気が緩んで魔術にあっさり引っ掛かる側付きや婚約者に⋯⋯。
アルバート達は誠心誠意、里奈への謝罪をしようと里奈達の部屋に歩いて向かった。
その頃里奈は、精神的な疲れを感じていた。
アルバート達の事や、子爵家で見付けた者達の事で。
(あの人達の事は、まだ話せないかな。
まずは、ヤービスに相談してからになるかしら。)
ため息を吐いた里奈を、侍女達は心配気な表情で見守っていた。
侍女のサリーが、どうしても気になり里奈に問いかけた。
「里奈様。侍女ごときの問いにもし答えて頂けるなら、聞きたい事があります。」
扉の外では、リュカがノックをしようとしていた⋯⋯。
が、侍女の質問が気になり、ノックをする手を降ろした。
「里奈様はアルバート様達が魔術にかかったのはいつ知ったのでしょう。そして、なぜアルバート様達に教えなかったのです?」
侍女の質問は、全員が思っていた疑問だった。
里奈が気が付いていたなら、魔術を解除すれば良かっただけだと⋯⋯。
全員が里奈の答えを待っていた⋯⋯。




