2話 側付き達がいなくとも
朝食も、昨日の食事屋でとった。
店主には内密にしてもらい、いつでも行けるように個室を滞在中押さえた。
朝食が終わり、リュカが隊長を連れて来た。
「おはようございます。里奈様。」
「おはようございます。隊長。」
侍女が食事屋の店主に教えて貰ったお店で、里奈の好きな紅茶を購入していた。
部屋のお茶は、不味かったのだ。
里奈に言われ、用意された茶葉は捨てずに置いてある。
里奈は侍女の淹れてくれた紅茶を口にする。
リュカや隊長にも紅茶をだす。
「隊長は騎士を二人連れて、私と転移で先の領地に来て欲しいの。街の神殿にアーグを迎えに行ってそれから一緒に討伐と浄化をします。」
「連れて行く騎士には、先の領地の浄化の事を内密にしてもらってね。先の領地の浄化を邪魔されたくないの。私の行動を邪魔する要素は排除したいのよ。」
「畏まりました。側付きの方達にもでしょうか?」
「もしあっちから聞いてきたら話して構わないわ。でも、隊長からは言わないでね。」
隊長は昨日里奈が口にした言葉を思い出す。
側付きでも切る。
その言葉は真実だったのだ⋯⋯。
「次の領地は子爵家よね。邸の場所が解らないけど、隊長は解る?」
隊長は下見の際に先の領主の邸に行っていた。
「子爵家と、次の辺境伯家の邸は確認済みです。」
隊長の答えに、里奈は頷き。
「ありがとう。転移する時に邸の玄関を思い浮かべてくれたら大丈夫だから。」
隊長は頷いて、リュカを連れて同行する騎士を迎えに転移した。
「知らない領地は不便ね。対象の場所や人物がいないと転移出来ないし⋯⋯。白狐は良いわね!」
『八つ当たりするな。』
ソファーに横たわる白狐は、大きな尻尾をバフバフして抗議した。
隊長達が戻り、騎士達に説明をし里奈達の行動を口外しない事を了承してくれた。
聖女達は各領地にある神殿に泊まっている。
里奈達と離れ、寂しがっていた。
雨を恨みながら、神殿での待機となった。
すると突然、目の前に里奈達が現れた。
「みんな、おはよう!」
里奈の挨拶につられて、
「「「おはようございます」」」
と、挨拶をする。
アーグにセシー。それにやらかし聖女達が里奈に抱きついた。
「会えて嬉しいですが、突然どうしたのですか?」
アーグの質問に、里奈はこれからの行動する内容を説明した。
「アーグとセシーは、民への癒しを神殿で続けて欲しいの。やらかし聖女は、私と一緒に領地の浄化に同行してもらうわ。」
「畏まりました。誰に聞かれても、里奈さんの行き先を話さなければ良いのですね。」
アーグが里奈に確認した。
「聞かれる事はないかもしれないけど、もし聞かれたらそうしてね。」
「行ってくるわね!」
里奈は早々に転移して行った。
残されたアーグとセシーは、アルバートやライアン達のこれからを案じた。
(里奈さんはとても情が深いが、甘い人間じゃないもの。)
アーグとセシーは、探し物の魔術を教え込まれた時に、里奈の冷酷な判断を身を持って知っている。
アルバートと里奈が決別しない事を祈った。
里奈達は子爵家の玄関前に転移した。
先触れは出していない。
突然現れた侵入者に、外にいた使用人達は驚き賊か!と、騒いだ。
しかし、身なりの良さからじっと見てみると黒髪が見えた。
使用人の一人が駆け寄ると、人を探していた里奈と目があった。
「おはようございます。突然ごめんなさい。私は愛し子の里奈よ。当主に話しがあるのだけど、いるかしら?」
里奈に話しかけられた使用人は、固まってしまった。
が、直ぐに愛し子様の用向きを思い出し、
「直ぐに呼んで参ります。」
と、走って邸の裏手に回った。
邸の裏から人が数人現れた。子爵夫妻だった。
夫妻は愛し子様は崖崩れで足止めされているので、来る筈が無いと思っていた、
使用人の勘違いだと悠々と歩いて来た。
しかし、目の前に見えるのは黒髪黒目の、本物の愛し子様だった。
認識するや、夫妻が小走りになり、愛し子様の側にきた。
初めて拝見する愛し子様に、嬉しさのあまり夫人は泣き出してしまった。
里奈は黙って歩を進めると、夫人を抱きしめ
「突然の訪問で、ごめんなさい。子爵にお話があって伺ったのよ。」
夫人の背を優しく擦りながら、子爵に話しかけた。
「お初にお目にかかります。子爵家当主のマイヤーです。サンドラ、愛し子様にご挨拶をせねば。」
子爵は里奈に頭を下げると、名前を告げた。
サンドラ夫人は里奈の腕の中で我に返った。
恥ずかしさと、愛し子様への無礼とで軽いパニック状態だった。
里奈はクスリと笑うと、
「落ち着きましたか?夫人。」
優しくサンドラに問いかけた。
サンドラは、里奈と視線が合うと、再び瞳に雫をためた。
「愛し子様に会えて、とても嬉しく思います。本当に光栄ですわ。」
瞳から涙を落とし、頭を下げる。
里奈は嬉しくなる。
夫人の真っ直ぐな思いを、受け入れる。
自分の存在が誰かを喜ばせる事に、この国に来れた事に感謝する。
夫人と里奈のやり取りの最中に子爵が指示を出し。里奈達を居間に案内出来るように手配した。
「愛し子様も皆様も、邸にてお話を致しましょう。」
子爵が皆を邸の中へと案内する。
《里奈。邸の裏を見せるぞ。》
いきなり白狐が念話をして来た。
《解ったわ。》
里奈は白狐から視せられた記憶に、一瞬顔色を変えた。
リュカは気配で気が付いた。知らない振りをし里奈の前に出て、里奈の姿を少しだけ隠し歩きだした。
「ありがとう。リュカ。」
リュカだけに聞こえるようにお礼を伝えた。
リュカは前を向いたまま、小さく頷いた。
里奈は案内された部屋に入ると、子爵夫妻以外を人払いさせ今日の用向きを伝える。
「突然だけど、今日は子爵家の魔物の討伐と浄化をしに来たの。崖崩れで足止めされてたけど、転移すれば問題ないから。」
「侯爵家の領地はまだ雨が続いてるので、先に子爵家と辺境伯家を浄化しようと思うの。」
「ありがとうございます。最近は魔物が増え、騎士達や冒険者にお願いをしておりますが追いつかず⋯⋯。」
子爵の顔色は悪くなる。魔物や瘴気に悩まされていたからだ。
「子爵家と辺境伯家の領地。そしてヨーク領は獣人国に隣接しています。瘴気は獣人国から放たれたものよ。」
里奈は子爵に真実を語った。
里奈は子爵を信用したからだった。
子爵は真実を知り、呆然としている。
愛し子様が人払いされた理由に納得した。
「でも大丈夫。白狐が結界を国境に張ったわ。あちらからの瘴気は来ない。残った瘴気を浄化すれば領地は落ち着くわ。」
子爵夫妻は里奈の言葉にホッと安堵した。
里奈は夫妻に話しをする。
「この子爵領と辺境伯領の浄化を、私は一番先に行いたかった。瘴気を放った獣人国に隣接するこの領地を。」
「獣人国の事を今はアルスタ王国の民が知るべきではない。全て事が終わり次第の公表となりました。浄化巡礼を行程通りに行うしかなかった⋯⋯。」
里奈は夫妻に頭を下げた。
「苦しむ領地に来るのが遅くなり、申し訳ありません。」
と⋯⋯。
夫妻は静かに涙を流した。
頭を下げる愛し子様を静かに見ていた。
「頭を下げないで下さい。愛し子様が悪い訳ではないのですよ?」
「この領地が苦しんでいるのを気にかけて下さった。ただそれだけで、救われた気持ちです。」
子爵の言葉に、夫人はただ頷くだけだった。
里奈は頭を上げ、夫妻としっかりと視線を合わせた。
「今から討伐と浄化に直ぐに向かいます。子爵家の領地を救って来ます。」
そう言うと、里奈は立ち上がり聖女達を見遣る。
「貴女達の出番よ?子爵家の浄化に尽くして下さい。」
聖女達も立ち上がり、里奈の言葉を聞き軽く頭を下げた。
「隊長とリュカにも討伐に参加してもらいます。魔物の核を残す討伐を。聖女達は聖魔力補佐と浄化を。」
「出来ますね?」
里奈の命に。
「「「畏まりました。」」」
全員が自身の魔力を高め、戦闘態勢に入った。
緊張感を張り詰めた中、
「では、子爵。行ってまいります。昼前には討伐者を全員連れて帰って来ますので。」
里奈は子爵夫妻に手を振り転移した。
部屋の中に残された夫妻は、お互いを見つめた。
「貴方。愛し子様が浄化に来て、今出て行ったわよね?」
夫人は夢か現実か解らない感覚に陥っていた。
「そうだ。愛し子様が我が領地を気にかけて下さり、しかも頭を下げてくれたのだ⋯⋯。」
子爵は先程の光景を思い出し、再び涙する。
「巡礼を先にして欲しいと、少しだけ恨めしく思う気持ちもあった。領民達が苦しんでいるのを見て足止めされている愛し子様に八つ当たりだが、苛立ちもあった。」
「だが、違ったのだ。やはり愛し子様は噂通り、弱き者に力を貸し民を一番に思う優しい方だった。」
夫妻は暫く泣いていたが、夫人がハッと我に返った。
「愛し子様は昼前には戻られるって。昼食の支度をしなければ。騎士達も連れて戻るとも⋯⋯。」
夫人は勢い良く立ち上がり、急ぎ使用人達に大量の昼食の準備に取り掛からせた。
子爵は元気になった夫人に安堵するが、視線を裏の庭園にやる。
その先の離れを見つめ、
「愛し子様に相談して良いものか⋯⋯。」
悩ましい言葉を吐いた。
子爵家がドタバタしている事など知らない里奈は、討伐中の騎士達と合流した。
「これから聖女達と、この2人が討伐を代わります。貴方達は離れて休んでちょうだい。」
騎士達を自分の後ろで休ませ、白狐に結界を張ってもらう。
里奈の指示で、隊長とリュカが魔物の群れを討伐していく。
里奈の指示通り、核を残して。
核を残すのには知識がいる。
隊長は元冒険者だった。その為核を避ける討伐には慣れていた。
2人は次々と討伐を続ける。
聖女達は聖魔力を放ち、魔物を弱らせる。
里奈は騎士達や冒険者達に、神力で治癒を施した。
大きな白狐に驚きはしたが、愛し子様がいるのだ。味方であると直ぐに認識した。
沢山いた魔物は早々に討伐を終えた。
「貴女達にこの森の浄化をお願いするわ。」
聖女達は自分の成長を見て貰おうと、森に聖魔力を放った。
(元の美しい森に戻りますように。と⋯。)
「良くやったわね。」
今まで何度も他領で森の再生をしてきた。
だが、今回は愛し子様からの言葉があった。
聖女達は嬉しさから込み上げてくる涙を我慢する。
「これで領地の浄化は終わりね。」
里奈は騎士達や冒険者を見てある事を伝える。
「この2人には、魔石が出るように核を避けて討伐を指示しました。しかも聖女達の浄化つき。魔石の価値は上がるわよ。沢山あるから集める?」
いたずらっ子の顔で、騎士達に声をかけた。
魔石は元々高く売れる。だが魔石は少しだけ瘴気のせいで濁りがある。
影響はないのだが、宝石としての価値は下がり魔術に使用される。
だが、浄化された魔石はどの宝石よりも価値があるのだ。
「ありがとうございます。集めて、子爵にお渡しします。」
騎士達の一人がそう言うと、急いで拾い集めた。
里奈は小さな魔石を沢山集めた。
小さな魔石を握りしめ、防御の魔力を注いだ。
魔石を拾い終え、全員里奈の元に集まった。
「手を出して開いてくれる?」
騎士達や冒険者が手を出した。
掌にあるのは、小さな魔石。たが、薄っすらと紫色をしていた。
「防御の魔術を込めました。貴方達が長い間魔物と戦ってくれた、私なりの感謝の気持ちよ。」
「魔石があるからと過信しないでね。」
魔石をぼーっと眺めている。
「早く仕舞わないと失くすぞ?」
リュカの言葉に、慌てて服にしまう。
「討伐も終わりね。帰る支度が終わったら、全員で帰るわよ!」
里奈の言葉にやっと帰れると、騎士達は気持ちが上がり帰り支度を早々に終わらせた。
里奈は全員を子爵家に連れて帰った。
出迎えた夫人に抱きつか、泣かれてしまった。
騎士達や冒険者達を夫妻は快く屋敷に迎え入れた。
これから始まる昼食会を楽しみに、夫人が足取り軽く邸へと里奈と入って行った。




