87話: 全て落ち着きました
聖女達は昨日から母親達と共に実家に帰っている。
因みにパトリック達は、1日休んだだけで完全復活していた。
今日は王宮で獣人国への行程の話し合いをする。
パトリック達3人も、陛下達にリメル大国の説明をしてもらう為に同行してもらう。
王宮に転移すると、既に側付きの男性達が揃って待っていた。
「おはようございます。里奈さん。白狐様。」
「アルバートもおはよう。」
ライアンが挨拶をする。
「おはよう。今日は宜しくね。私は余り解らないから、任せるわ。」
「行程等は、ギルベルトが把握するので大丈夫ですよ。」
ギルベルトが頷いた。
「私は国同士のやり取りの対応が出来ますし、皆が何かと得意分野があります。
里奈さんが負担になる事はないでしょう。」
(この人達の能力の高さに、毎度毎度、凄いとしか言いようが無いわね。)
「助かるわ。」
話しながら進んだ部屋には、既に陛下達が待っていた。
「おはようございます。お待たせしました。」
里奈が挨拶をすると、側付き達は頭を下げた。
「おはよう。里奈さん。それに皆も。今日は宜しく頼むよ。」
陛下が挨拶を返すと、宰相や大司教も頷いた。
ふと視線をやると、侯爵は既に席に着いていた。
「さて。これから愛し子様の世界巡礼の話し合いを行う。全員席に着いて貰いたい。」
宰相の言葉で、皆席に着いた。
巡礼は転移で獣人国へひとっ飛び、とは行かないらしい⋯⋯。
長い隊列を組み、獣人国までお披露目を兼ねて国内視察を同時に行う。
獣人国への最短距離は、ヨーク領まで討伐に向かった行程だが既にその道は浄化もしており、領地領民は愛し子様との対面も済んでいた。
結論から言うと、大回り遠回りをしながら立ち寄っていない領地へと赴く。
もし瘴気が発生していれば、浄化も行う。
説明を受けた里奈は、内心さっさと獣人国に行ってしまいたかった。
「解りました。ですが、二つだけお願いがあります。」
里奈が説明をしていた宰相に視線をやると、宰相は頷いて話を促した。
「一つは最後に国を出る時は、ヨーク領から国境を越えます。」
「二つ目は女性はヨーク領から天門で帰って貰います。獣人国へは、誰一人として女性を連れては行かない。」
陛下達は、獣人国のゴッドローブの事は知ってはいる。
だが、女性を付けないのは国としての威厳を損ねる恐れもある。
何より、愛し子様の名を落とす事にもなり得るのだ。
だからこそ、身の危険を承知の上での覚悟を持った女性達を集めたのだ。
里奈に宰相がそう説明するが、
「では今回同行する予定だった者は、リメル大国への訪問の際に同行して貰う事にして下さい。」
「命の危険ではなく、獣人国へ行けば必ず命を取られる。私達が護れるとは限らない。護る者は少ない方が良いのです。」
里奈の話す内容を理解していない訳ではなかったが。
陛下達は思案顔になる。
「国の建前も、愛し子様への身の心配も理解できますよ。ですが、女性を同行させれば愛し子様の足枷になります。
女性達に何かあったならば、愛し子様が傷付かれるのです。」
侯爵が口添えをしてくれた。
「側付き達もアルバートも、白狐様やパトリック殿達も女性達に何があろうと、助ける事は無い。」
「そうなると、愛し子様は更に傷付かれる。」
「女性の同行者は、足手まといです。」
侯爵がきっぱりと断りの進言をした。
「解った。女性達はヨーク領まで同行し帰還させる。」
陛下の一言で決まった。
「大丈夫ですよ。陛下。女性がいない事を獣人国で指摘されたなら、上手く口でやり込めますから!」
ニッコリ微笑んで、里奈が陛下に伝えた。
(ニッコリ⋯⋯。侯爵と似てきたのか、そもそも性格が同じなのか⋯⋯。)
そう思うのは、宰相だった⋯。
日程も訪れる領地の順番も決まった。
ヨーク領までは、アーグやセシーも同行する。愛し子様のお見送りと、浄化を兼ねて愛し子様と親しいと立場を更に強固なものにする為に。
勿論、やらかし聖女達も一緒だ。
彼女達もヨーク領でやるべき事があるので、一緒に帰る事に否はない。
また、愛し子様と同行する事で、彼女達の過去のやらかしを払拭させる為でもあった。
里奈は自分の名前を使われる事に異論はない。
どんどん使って欲しいくらいの気持ちを持っている。
側付き達は同行者達と、話を詰めていく。
獣人国の危険も誓約魔術を使い全て話した。
それでも同行してくれると決めてくれた。
里奈は感謝しかなかった⋯⋯。
女性達への説明は、里奈自身が行った。
王妃やゴッドローブの話はしなかったが、愛し子が命を狙われている事。
主犯は愛し子の周りの女性を何故か狙っている事。
愛し子の側付きや、侍女すら同行させない事を。
嘘を交えて、説明をする。
最初は反発していたが、側付きや侍女も置いて行かれると聞き納得してくれた。
「受け入れてくれて、ありがとう。
貴女達に何かあれば、私は後悔するわ。」
「次に向かう国はリメル大国なの。その時は同行者として一緒に来て欲しいの!」
全員大喜びだった。
同行者は毎回入れ替わる。一度選ばれると次に選ばれるのに数回待たなければならなかったのだ。
里奈は彼女達にもそう言う事情があった事を理解した。
愛し子との他国訪問に選ばれる事は、自身の価値と貴族ならぱ家門の名を上げる良い機会なのだ。
リメル大国への同行の約束が口約束で終わらないように、誓約書を里奈が書き記し宰相に預ける事にした。
自分達の為にそこまでしてくれる愛し子様。
絶対にリメル大国では役に立つ!
ここにまた、愛し子様好き女性が誕生した。
話を詰め終えた里奈は、皆と次に会う約束をすると笑顔で別れ次の部屋に向かう。
そこには、宮の侍女のマーナとメイドのリーサがいた。
獣人国へ持って行く衣装を、準備してくれていた。
衣装の説明と、宝飾品の説明を受ける。
ドレスの事などさっぱり解らない里奈だが、里奈の身の回りを全てを整えたがるアルバートが覚えていく。
里奈に関わる衣装等も全て準備が整う⋯⋯。
衣装を眺めていると、王妃様付きの侍女がやってきた。
「予定が終わりましたら、お茶をご一緒に。との言を預かって参りました。」
頭を下げ用向きを伝えられた。
「もうすぐ終わります。後ほど伺うとお伝え下さい。」
侍女は礼をとり、退出した。
(王妃様と会うのは久し振りね。)
部屋を出ると、パトリック達が控えていた。
「王妃様が薔薇園でお待ちしているそうです。」
パトリックが先に立ち、サイとリュカが後ろから護衛する。
久し振りに王妃様に会える喜びで、里奈の足取りは軽くなる。
薔薇園に入ると、そこには王妃様とリチャード殿下とエリザ王女も待っていた。
王妃様が里奈の側に来ると、優しく抱き寄せた。
「少し痩せましたね。」
心配そうに里奈の顔を覗き込み、問いかけた。
「大丈夫ですよ。沢山食べてますし。ただ、忙しかったのは事実ですけど。」
アルバートも交え、席に着いた。
テーブルには、貴族向けに作ったフルーツタルトも用意されていた。
紅茶とタルトを前に、王妃様が里奈に話しかけた。
「獣人国への準備は終わりましたか?」
王妃様の問いに、里奈は肩を竦め申し訳なさそうに話す。
「私は余りやる事もなくて。側付きやアルバートが全てやってくれるので助かってます。」
王妃様が頷き、紅茶を口にした。
里奈も紅茶を口にし、タルトを食べる。
「美味しい!」
里奈のその言葉に、エリザ王女が勢い良く話を始めた。
「そうなんです!美味し過ぎるのですよ。このタルトわ。美味し過ぎて食べ過ぎてしまうのですわ!!」
王妃様がクスクス笑い、
「そうね。このタルトはとても評判が良くて、どのお茶会でも出されるそうですよ。」
里奈はタルトの評判が良いことホクホクしている。
「私はスイートポテトの方が好きですね。」
リチャード殿下はスイートポテト派だそうだ。
8番街からお菓子を出したり、お砂糖を作っている話をする。
リチャード殿下が、
「里奈さんや兄上達が手掛けた8番街を、必ず貧困から脱却させてみせます。
私は民の生活が潤う事に力を注ぎたい。」
「兄上にはまだまだ追い付けない。でも、いつか兄上から任せて良かったと言われたい。」
リチャード殿下は兄であるライアンを支える為に頑張って来た。
それなのに、私の側付きを選んでしまった⋯⋯。
里奈は少しの申し訳なさを感じる。
「リリ。貴女が気に病む必要はないのですよ。ライアンはとても楽しそうにしています。」
「殿下達の前で言うのは申し訳ないのですが、以前のライアンは与えられた仕事をこなすだけだった様に感じます。民達の事を考えていたのは変わりません。」
「ですが、楽しそうに仕事や問題に取り組む事は無かったかと。
ライアンが自ら望んだ道です。リリのせいではありませんよ。その感情はライアンに失礼ですからね?」
里奈は、そうか⋯⋯。
ライアンが自ら望んだ道であり、楽しく役割をこなしている。
ならば、良いのかも⋯⋯。
アルバートの言葉に納得した。
「ありがとう。アル。ライアンが選んだ事を申し訳なく思ってはいけないわね。
楽しく過ごしているなら、それが答えよね?」
アルバートは頷き、里奈の頭を優しく撫でた。
コホン!
王妃様の咳払いで、里奈は、我に返った。
「仲良しは良いのですが、目のやり場に困るのよ。」
エリザ王女が顔を赤らめて呟いた。
「二人が仲良くしているのを見て、安心しました。
獣人国の事は陛下から聞いてます。里奈さんにはアルスタ王国を救って頂く為に大役を押し付ける事になります。」
「どうか、ご無事で。」
「戻られましたら、ここでお茶会を致しましょう。」
王妃様に手を取られ、言葉を掛けられた。
「獣人国をやっつけて、またこうしてお茶会をしたいです。無事に帰って来ると、約束します。」
王妃様は、頷き里奈と手を繋いだままお茶会を続けた。
王妃様達とのお茶会も終わり、王宮での用事も全て終わった。
やるべき事が無くなった⋯⋯。
やる事が無くなった事で、獣人国へと赴く日が近づいて来る事を実感する。
急に、里奈の心は落ち着かなくなった⋯⋯。
落ち着かない理由が、里奈には解らなかった⋯⋯。
王宮から帰って来た里奈は、やはり落ち着かない様子だった。
「やる事が無くなりましたね。リリは8番街に行って来ますか?」
里奈はアルバートの提案に笑顔を見せた。
「行ってもいい?何だか落ち着かなくて⋯⋯。」
「私は用事があるので、一緒には行けませんが白狐がいるので問題ないでしょう。」
アルバートは里奈を抱き寄せ、額にキスを落とす。
「楽しんで下さいね。」
里奈はお返しに、アルバートの頬にキスをすると手を振り白狐と転移で消えた。
「リリは自分の心に気が付いていないのですね⋯⋯。」
そう呟くと、アルバートも転移した。
明日でアルスタ王国編が終わります。
長くお付き合い下さり、ありがとうございます。
ザイラー獣人国編は、12月の中旬頃に投稿します。
年末に入ると作品を書く時間が取れなくなるので、ストックをして投稿を始めたいと思います。
良かったら覗いて下さい。
作品を読んで下さり、ありがとうございます。
リアクションもブックマークも、ありがとうございます❀




