83話: 貴族ってやっぱり面倒臭い
森で遊んだ次の日からは、聖女達の特訓が始まった。
魔力のみの使用と、聖魔力のみの使用と分けて使う事から始まった。
里奈の指導は的確で、聖女達の能力をぐんぐんあげていった。
ケリーは目標があるからか、里奈に食らいついていく。
根性大好き里奈は、ケリーにどんどん魔術を叩き込む。
マリアンネ達は細かい魔力操作が苦手で、アーグの補佐となる立ち位置を叩き込んだ。
3日間の特訓で、かなり腕をあげた。
「アーグ達にはまだまだだけど、とっても上達したわね!!」
褒められた聖女は、キャッキャッとはしゃぎ喜んでいた。
「里奈さん。厨房の準備が出来ました。」
エミルが、里奈達を呼びに来た。
今日は女性陣でお菓子を作るのだ。
ついでに夕食も作り、お茶会ではなくパーティーをする事になった。
邸で、小さな夜会を開催する。
男性陣は、ホールを夜会が出来るように準備をしている。
厨房に入ると、ナタリー達が伝えた材料を揃え準備万端とばかりに待っていた。
「お待たせ。今日はこの前作ったバタークッキーと、パウンドケーキを作ります。
追加に、プリンも作りましょう。」
バターを作るのだが、ヤービスの作ってくれた道具は使わない。
バターはヨーク領のどこかの酪農の町で作って貰う。
作る大変さを、まず体験してもらいたかった。
聖女組みと側付き組みで分かれた。
サーシャは一人で作って貰う。体力の違いがあるからね!
不服そうなサーシャだが、容器を振り続け疲れる皆を他所に黙々とシェイクしている。
何とかバターを作った。
「この量だと、足りないわね!」
と、もう一度バターを作る。
「お菓子作りって大変です。」
マリアンネが弱音を吐いた。
「便利な道具は作れるわよ。でもそれにもお金がかかる。苦労を知って始めて道具が有り難く感じるの。だから、領民達にも最初は道具を渡さないわ。一度、自分達で作って貰ってからね。」
道具があるのか⋯⋯。
そう思うが、絶対に出してはくれないだろう⋯⋯。黙々とシェイクを続ける。
バターを沢山作り、里奈が砂糖を用意する。
「これはサトウキビから抽出した砂糖よ。ヨーク領から売り出す物ね。」
薄茶色の粒子。
サーシャが、小さく手を上げた。
「少しだけ、舐めてみたいです。」
その言葉に、聖女達や側付き達が勢い良くサーシャを見て次に里奈を見た!
クスリと笑い、「少しだけね。」
と、手のひらに砂糖を置いた。
砂糖を舐めた皆は、雷を撃たれたようにピシリと固まった。
「美味しい⋯⋯。こんなに美味しい砂糖は初めてです。」
商会を手掛けているエミルが、まじまじと手のひらの砂糖を見つめる。
「これを売り出すわ。獣人の重鎮さんに教えた方法で作った物よ。」
エミルが、
「従来の砂糖より高く売れます。ですが、それでは貴族にしか手に入らない⋯⋯。」
「この砂糖を使えば、従来の砂糖が売れなくなる。エミルは従来の砂糖を仕入れ、安く売る。平民向けにね。」
ハッとなり、里奈を見る。
「従来の砂糖を我が商会が全て買い入れすれば、安定した砂糖の供給が出来ると?」
「従来の砂糖を作り、販売していた人達が路頭に迷っては意味がないでしょ?この砂糖を高く売りつけ、従来の砂糖も供給出来る様にしなければ意味がないでしょ?」
(日本で高く売りつけるなんて出来ない。この世界だから出来る事よね。)
「見栄っ張りな貴族や料理人は飛び付きますね!!」
悪そうな顔をするエミルに、少し引いてしまう。
話し込んでいる場合じゃ無かった。
ケーキとクッキーの作り方を教え、沢山作る。
明日は王宮に呼ばれている。
陛下達や、孤児達へのお土産としてケーキとクッキーを持って行くからだ。
プリンは日持ちしない為に、今日の分だけ作る。
料理は、里奈が担当する。
中華っぽい物を作る。スパイスはそれなりにこの世界にもあるのだ。
炒飯を作る為に、手作りの鶏ガラの粉末も作った。
肉と野菜を細かくし、炒めてオーブンで焼けば簡単に作れる。
炒飯とくれば、餃子。
餃子も皮から作り、餡の味を濃いめにする。餃子のタレの代用品を見つけれなかったのだ。醤油は里山からは出せない。
後は、鶏ガラがあるので卵スープ。
餃子の皮を包んでいると、皆が興味を持ったので一緒に包む。
全員が以外と手先が器用で、綺麗な餃子が出来上がった!
「お肉料理が何かないかしら?男性には足りないわね。」
里奈の呟きに、エミルが自分達で何か作りたいと提案された。
お肉料理は任せて、後はサラダを作るだけ。
料理が作り終わる頃に、お菓子も全て焼き上がった。
お菓子を紙で包み、お土産用と分けて準備する。
「お疲れ様!料理とデザートを運びましょうか!」
カートに乗せ、ホールに運ぶ。
会場は、食事スペースとダンススペースに分けられていた。
「美味しそうな匂いですね!」
ライアン達が料理の匂いに釣られて、やって来た。
「里奈さんが異界の料理を作ってくれました。私達は異界の料理は出来ませんが、お肉料理を担当しました。」
「料理を楽しみながら、デザートも沢山食べて下さいね。」
里奈の言葉に、一斉に料理に群がる。
初めて食べる料理は、口に合ったらしい。
餃子と炒飯は、特に人気だった。
デザートは、プリンがやはり大人気だった。
料理を堪能していると、音楽が流れ始める。魔術で録音した夜会の曲が響き渡る。
「踊れる者は踊って下さい。」
ライアンの声に、皆がワタワタし始めた。
誰と踊って良いのか解らないのだ。
エスコート相手と踊るのだが、誰もエスコートしていない⋯⋯。
騎士団長のバートンと、近衛団長のミカが高位令嬢のマリアンネとケリーを誘う。
流石年長者である。
優雅にエスコートし、二組は踊り始めた。
(流石ねー。とても綺麗ね!)
綺麗と可愛いが大好きな里奈が、キラキラした目で二組のダンスを見ていた。
ライアンはナタリーを誘い踊り始めた。
「リリも踊りますか?」
アルバートの誘いに顔をあげた里奈は、
「あちらの世界にも、こんな感じのダンスはあるの。パートナーが作れなかったけど、沢山の大会を見に行ってたの。」
「誰かと踊った事がないのよ⋯⋯。」
寂しそうにに呟く里奈の手を掬い取り、アルバートが里奈をホールの中に立たせた。
「沢山見たなら、きっと踊れますよ。」
アルバートが手を差し出し、
「里奈嬢。一曲お願いしても?」
誘いの言葉を口にした。
「はい。宜しくお願いします。」
里奈は緊張した面持ちで記憶を思い出し、ホールドする。
「リリ。楽しく踊りましょう!」
アルバートが、グッと引き寄せステップを踏み出す。
里奈もアルバートに合わせ足を踏み出す。
簡単なステップだが、里奈の幸せそうな笑顔をアルバートが引き出した。
「私の夢だったの。誰かとこうやってダンスをする事が。
夢が叶ったわ!ありがとう。アル!!」
アルバートはやはり我慢ならず、里奈をギュウギュウに抱きしめ脇に手を入れると、里奈を抱き上げクルクル回りだした。
幸せそうな2人を眺めながら、それぞれ相手を替えて踊る。
里奈はカズラやヒイラギとも踊った。
初めて心の底から楽しめた夜会となる。
邸で行われた小さな夜会は、日付が変わる頃にお開きとなった⋯⋯。
昨夜の夜会の疲れもあり、少し寝坊してしまった。
アルバートに起こされ、寝室を出るとサーシャがいた。
「おはよう。サーシャが何故ここにいるの?」
身支度の為にアルバートに姿見の前に連れて来られた。
サーシャは寂しそうに、私とアルバートの身支度を見ていた。
(私の身支度をしに来たのね。でも、アルに断られた。って感じね⋯⋯。)
「サーシャは、私の身支度をしに来たの?」
サーシャが口を開こうとしたが、先に里奈が話し出した。
「サーシャ。私は貴女を側付きから一時的に外すと伝えたはずよ。今はパトリックに貴女を任せてるのよ?」
お化粧も終わったので、振り返りサーシャを見つめた。
「貴女は今は騎士よ。侍女じゃないの。
私と居たいとかの理由は受け付けないわよ。」
「好意はとても有り難いわ。でも、サーシャだけ特別扱いはしない。ナタリー達だって私との過ごす時間が無い事を我慢しているから。」
サーシャは、シュンとなる。
「私だって皆と居たいわよ。なるべく時間を作るから、その時は沢山一緒にいましょう。」ね?!
サーシャは里奈の言葉に、自分の我が儘を理解する。
「なんだか騎士になってから、侍女の時のように気持ちを制御出来ないのです⋯⋯。」
申し訳なさそうに、そう伝えてきた。
「仕方ないのよ。騎士はずっと感情を抑えなければならないから、騎士の役目から外れると開放されちゃうんじゃない?
責めてる訳じゃないからね。ちゃんと理解してるわ。」
里奈の言葉に、ホッと安堵の息を吐いた。
「3人で朝食に行きましょうか。」
アルバートが里奈の手を引き、部屋を出る。
サーシャが後ろから付いてくるが、里奈がサーシャに手を差し出した。
サーシャは泣きそうな顔で里奈と手を繋ぎ3人並んでダイニングに入って行った。
里奈と手を繋ぐサーシャを見て、やはり3人娘が煩かった。
放置して、アルバートと席に着いた。
「おはようございます。里奈さん。」
ギルベルトが側に来た。
「おはよう。少し寝坊しちゃったわ。ごめんなさい。」
「大丈夫です。王都に行く準備は出来てます。エミルと聖女様達の同行で宜しいですか?」
ギルベルトの問いに、
「貴女達にはアーグとセシーと一緒に、私が行く筈だった他領の浄化と討伐に行って貰うわ。」
「あの⋯⋯。アーグ様達は解りますが、何故私達が一緒なのでしょうか。
アーグ様達とご一緒出来るのは嬉しいのですが、役に立てるのか⋯⋯。」
不安そうにマリアンネが聞いて来た。
「大丈夫よ。討伐には行かない事になるかもしれないから。
王宮に行けば、何故貴女達を連れて行くかが解るわ!」
何故か楽しそうな里奈に、それ以上追求しにくく行けば解るからと無理矢理納得した。
王宮に転移し、謁見の間に入った聖女達は里奈が言いたかった事が理解出来た。
何故なら、自分達の父親や一族の当主がいたからだ。
きっとアーグ様達が浄化する事を嫌ったのだ。
里奈が聖女達を見て軽く笑った。
「流石貴女達ね。理解できた?」
聖女達は罰が悪そうに、頷いた。
里奈とアルバートを先頭に、後ろからは聖女達が歩み出る。
「おはようございます。陛下。お久し振りですね。」
「おはよう。里奈さん。元気なようで何よりだ。」
挨拶もそこそこに、里奈が話しを切り出す。
「今日呼ばれたのは、浄化の件ですか?
私の代わりにアーグが行い、無事に他領の浄化は終わった筈ですが?」
「そうなのだがな⋯⋯。」
陛下の口が重い。国の高位貴族が相手だからだった。
(本当に面倒臭いわね。)
「ここにいらっしゃる方達は、私が実力を認めたアーグでは駄目だと。役には立たないと、そう言いたいのですか?」
トゲのある言い方をした。
「そうではありません。公爵家の領地なのです。ならば下位貴族の聖女ではなく、愛し子様に浄化して頂きたいと。」
そう口にしたのは、マリアンネの父親であるドーク公爵だった。
その言葉を聞いたマリアンネが反論しようとしたが、里奈が止めた。
小さな声で「マリアンネ。ごめんね。」
そう囁いた。
「アーグを下位貴族って言ったわね。アーグの位は誰と同等か忘れたの?ナサニエル大司教も下に見るのね。」
その言葉に公爵達が反論しようとしたが、口を魔術で塞がれた。
「高位だ下位だと、煩いのよ!!
下位貴族のアーグに完敗した、高位貴族のマリアンネ達はどうなるの?!
貴女達は、自分の立場をひけらかして満足でしょうが、それに太刀打ち出来ない娘を気遣えないの!?」
公爵は娘であるマリアンネを見るが、視線を外した。
(里奈はガルズ司祭から聞いていたのだ。マリアンネ達の家が縁を切る旨を教会に伝えて来た事を⋯⋯。)
マリアンネは外された視線で理解した。
自分は、切られたのだと⋯⋯。
他の聖女3人も、自分も同様なのだろうと理解した。
「娘を捨てたわね。」
「以前、私は当主に処罰を任せたわ。
でも宰相が軽い罰を。と、説明した筈よね?私が嫌うから、宰相は貴方達に態々説明したでしょ?」
「私の意向を無視して娘を捨てた家を、私が助けると思う?
でも、領民達には関係ないからと、アーグに浄化を頼んだのよ?」
公爵達は根っからの貴族なのだ。
私の言い分に納得しない。
顔がそう訴えているのだ。
「私は行かない。そして、アーグが浄化するのは嫌だ。」
里奈は考える振りをする⋯⋯。
「解ったわ。ナサニエル大司教に浄化と討伐に行って貰います。
愛し子が認めた聖女であろうと、下位貴族の出だからと断る貴方がたは、態々ナサニエル大司教に浄化してもらう⋯⋯。」
「アーグは民や他の貴族にとても感謝され、敬われ人気も高いのよ。
その聖女を蔑ろにした貴方がたを、きっと皆は許さないかもね?」
「ここにいる家門は聖女を見下し、役に立たたないからと聖女である娘を捨てた。
聖女を馬鹿にする様な領地に、わたしの大切な聖女達を行かせられない。」
「二度と、貴方達の領地には聖女は行かない。行かせないわ!!」
里奈の周りに小さくピシッと稲妻が走った。
それを見て、愛し子様が断罪した時の事を鮮明に思い出す。
爵位を盾にし、愛し子様に来て貰う事に拘り過ぎたのだった。
聖女が二度と領地に足を運ばない⋯⋯。
噂は広がる。
自らの立場を落としてしまったのだ。
「マリアンネ。何か言いたい事はある?」
里奈はマリアンネの手を取り、優しく問いかけた。
マリアンネは頰を濡らしながら、首を横に振った。
里奈はマリアンネをきつく抱きしめ、背中をポンポン叩いた。
アルバートが一歩前に出た。
「陛下。宜しいでしょうか。」
アルバートが陛下に声をかけた。
陛下はアルバートへ視線を向け頷いた。
「マリアンネ様をはじめ、こちらの4人の行き場の無くなった聖女様は、愛し子様預かりとなります。
ナサニエル大司教には、話しを通してあり承諾を得ています。
本日より、ヨーク領にて我々と共に側付きとなります事を、報告致します。」
アルバートが頭を下げ下げつつ、一歩後退した。
陛下は、
「ナサニエル大司教が了承してあるならば、否はない。聖女達もそれで良いか?」
陛下の問いかけも、アルバートが話した内容も聖女達の耳に入って来ない。
呆然とする聖女達に、
「私とヨーク領に来るの?来ないの?」
そう聞かれ、即答で
「「「「行きます!」」」」
と、返事をする。
「陛下。ナサニエル大司教には多忙な中で申し訳ないけど、浄化に行って貰えるように話しをしてもらえますか?」
「解った伝えよう。聖女達よ。
事を治められず、すまなかったな。」
陛下が謝罪の言葉を伝えた。
「お言葉に感謝します。このように巻き込んでしまい申し訳ありません。」
聖女達も頭を下げ、謝罪した。
「これで良し!陛下達に手土産があります。白狐が持って行ってますので良かったら受け取って下さい。」
「私達は子供達に会いに行くので、また後日王妃様には会いに行きますね。」
カーテシーをし、転移しようとした⋯⋯。
「待たれよ!里奈さん!」
宰相の呼び声に振り向くと、指を差している。
「あ!忘れてたわ。」
魔術を解除し、宰相と陛下に手を振り転移した。
陛下と宰相は、愛し子様の怒りが小さくて良かった⋯⋯。
と、安堵した。
取り残された公爵達を放置し、陛下と宰相は手土産を持参した白狐が待っている私室に向かった。
白狐のモフモフ毛並みで癒されたのは、言う迄も無い。




