80話: お説教されても相思相愛
女性陣と里奈が昼過ぎに邸に帰って来た。
何時も日が暮れるまで働く女性陣にしては、珍しい事であった。
ギルベルトとカルロが玄関にいたので、帰りを出迎える。
「おかえりなさい。今日は早いですね。」
ギルベルトが声をかけた。
「今日は早目に切り上げて、今から里奈さんとお茶会なの!」
嬉しそうにナタリーが返事をする。
「俺が言っても聞かないくせにな!」
兄のカルロがジト目でナタリーを見た。
気不味そうにナタリーは視線を外すが、里奈との久々のお茶会に嬉しさを隠せずにいた。
ナタリー達は、
「お茶会の準備をするので、里奈さんはゆっくり来て下さいね。
せっかくですし、お庭でしましょう!」
3人は、早々に邸に入って行った。
里奈の顔は少し不機嫌?
声をかけようとしたギルベルトの腕を、アルバートが引いた。
「おかえりなさい。リリ。
あまりやり過ぎないようにして下さいね。」
里奈と話しながら、ギルベルトとカルロを離れさせた。
ギルベルトとカルロの腕を掴んだまま、廊下の角を曲がった。振り返ったアルバートが、
「リリは彼女達に怒っています。彼女達はかなり働き過ぎていたのでしょうね。
お説教されるでしょうから、男性陣は庭に出ない様にしましょう。」
それで⋯⋯。
「お説教されて落ち込むであろう彼女達に、美味しい夕ご飯を皆でも作りましょうか。」
アルバートの提案に、ギルベルトもカルロも賛同する。
「ライアンとカールも呼びましょう。」
「ところで、ヤービスさんは料理は出来るのですか?」
ギルベルトがふと聞いて来た。
「ヤービスは料理は出来ないですね。」
「でも、何かしたいでしましょうから集まってから話し合いましょうか。」
2人は急いで皆を集めに走った。
男性陣は静かに邸で夕ご飯の支度を始めた。
里奈を待つ3人は、急いでお茶の準備をする。
里奈の好きな紅茶に、ジャムのクッキーをデーブルに並べた。
着替え終えた里奈が、庭にやってきた。
白狐に子供姿のカズラとヒイラギもいる。
「カズラとヒイラギも良いかな?」
里奈の問いかけに、
「大丈夫です。カズラもヒイラギも久し振りですから。」
そう言葉を言ったのは、ナタリーだった。
ヨーク領に来てから、ナタリーはヒイラギと遊んでいないし、会話すら交わしていなかった。
ナタリーはその事に気が付いていない。
3人が席に着いた。
ヒイラギとカズラも席に着く。
白狐は子狐姿で里奈の膝の上に座っている。
「こうして里奈さんとお茶をするのは、久し振りですね。皆忙しいので、なかなか時間が合いませんし⋯⋯。」
ナタリーの言葉に、キャロルとエミルも寂しそうに頷いた。
「そうね。王都では孤児の為に忙しかったし、こっちは別行動だから時間が合わなかったわね。」
「ごめんね。」
里奈は素直に謝った。
自分が時間を作れば、こうしてゆっくり過ごさせてあげれたのに⋯⋯。と、後悔していた。
「いえ!里奈さんを責めてる訳ではありませんよ!」 エミルが必死に話す。
「私が時間を合わせれば、こうしてゆっくり出来たのよ。でも、それはそれとして。」
里奈が姿勢を正し、3人に問いかけた。
「今日は私がいたから、あんなに働いていたの?
それとも、いつもと変わらない仕事量かしら?」
3人は質問の意味が余り解らなかった。
「はい⋯⋯。無理して頑張ってはいませんから、普段通り、ですかね⋯⋯。」
キャロルの返答に、里奈はため息を吐いた。
「私は貴女達に、あれ程働けとは言ってないわよ?朝から昼食まで休憩もしない、昼食もそこそこにまた仕事⋯⋯。」
「あれをずっとやってる?」
里奈の言いたい事が解かった⋯⋯。
働き過ぎだと言いたいのだ。
「しかし、里奈さんや男性陣はもっと動いてます!私達だけが、のんびり仕事して良い訳がないでしょ?」
ナタリーの反論に、里奈がまたため息をつく。
「私達は転移で楽に移動しているし、ちゃんと休憩もとってるわ!
少し前に倒れたのは、理由は別なのよ。
働き過ぎではないと、聞いてるわよね。」
「女性が率先して仕事をする。
その姿に私は感心していたわ。でも、休憩も取らない食事も適当⋯⋯。
貴女達が倒れるでしょうがっ!!」
珍しい里奈の怒りの声に、3人はビックッと肩を震わせた。
「貴女達がもし倒れたと、獣人国で聞いたとしたら私は心配で直ぐに帰って来るわよ!
その代わり、貴女達を側付きから外すわ!」
3人は青褪めながら、呆然と里奈を見つめている⋯⋯。
「私は貴女達を大切だから連れて行かないと決めた。なのに、倒れでもしたら私は貴女達を外すわよ。
その代わり、女性の側付きは一生置かないけど⋯⋯。」
「ギルベルトやカルロが手伝うと声をかけたでしょ?私に知られる前に、仕事の調整をしてあげたかったのよ。きっと⋯⋯。」
「今はまだ大丈夫かもしれない。でも、このままなら必ず倒れるわ。」
「でも!私達はいくら頑張っても、アルバート様や白狐様のように里奈さんの心を支えられないのですよ!
女性だから、獣人国にもついて行けない。」
「私達に出来る事は、ヨーク領を豊かにする事たけなのです!」
「私達は里奈さんに救われてばかり。
こんな時にしか、恩に報えないのですよ!!」
キャロルが泣きながら、訴える。
エミルもナタリーも俯いたまま、顔をあげない。
「何を言ってるの?」
冷たい一言に、3人が顔をあげた。
「ねえ。心を支えるって何?白狐とアルバートが特別なのはその通りよ。
でもね、貴女達が私の心の支えになって無いなんて、そんな言葉を言わないでくれる!?
貴女達が側にいるから、安心出来るのよ?頑張れるのよ?」
「勝手に勘違いしないでちょうだい!!」
里奈の怒りは最もだった。
彼女達を大切にする気持が、全く届いてなかったのだ⋯⋯。
『里奈。落ち着け。
そなたの気持ちも解るが、側付き達の気持ちも汲んでやれ。』
『自分達が里奈から離され、置いて行かれる。それは辛い事なのだろう。
自分達だって役に立つと、里奈に見てもらいたかった。頑張るから、切らないでくれ。
我には、そう訴えてる様に見えるぞ。』
「そうかもしれません。
ついて行けない私達は、役立たずと無意識に思っていたのかもしれません。」
ナタリーは里奈を真っ直ぐ見て答える。
「でも、里奈さんが心配する様な働き方をしてはならなかった。側付き失格ですね。」
「ナタリー。仕事だけではないわよ。ヒイラギとずっと会話すらしていないわね。」
ナタリーは、ハッとなりヒイラギを見る。
視線が合うと、ヒイラギは俯いた⋯⋯。
視線を避けられた⋯⋯。
「さっきヒイラギと話したわ。ナタリーが働き過ぎなのを心配してた。
きっと近くに行けば遊んでくれる。でもそうすると、ナタリーの時間を取ってしまう。
だから、自分から近付かなかった。」
「ヒイラギは健気ね?」
里奈は意地悪な言い方をした。
ヒイラギの事をナタリーに任せたのだから。
「申し訳ありません。周りが見えてなかった⋯⋯。ごめんね。ヒイラギ。」
優しい声で、ヒイラギに謝罪した。
ヒイラギは俯いたまま席を降り、ナタリーの側に行く。
ヒイラギは、ナタリーの膝に顔を埋めた。
ナタリーは泣きながら、
「ヒイラギ。ごめんね。気を遣ってくれて、ありがとう。」
優しく頭を撫で、謝罪し感謝を伝えた。
ヒイラギは顔を埋めたまま、首を振る。
「ヒイラギとまた一緒に遊んであげてね。」
里奈の言葉にナタリーは頷いた。
「なので。頑張り過ぎる貴女達には、お目付け役を付けます!
獣人さんを付けますからね。
元重鎮だったから、貴女達の助けになるし仕事をし過ぎたら止めてくれます。」
「3人は獣人さん達の言う事を聞く事!それが、私からの罰よ。」
解った?
「倒れないように、ちゃんと休憩をとってね。頑張っている貴女達の事を気にかけなかった私も悪い。」
「ごめんなさい。」
(怒っても、結局は私達の為になる事しかしないのね。里奈さんは。)
「あ!明後日は仕事禁止ね。私に付き合って貰うから。」
里奈の提案を拒否はしないが⋯⋯。
「何かあるのですか?」
ナタリーの問いかけに、
「内緒!」
そう言うと里奈は紅茶に口をつけた。
教える気はなさそうだ。
「解りました。楽しみにして良いのですよね?」
3人は期待の眼差しを向ける。
「たぶん?」
あやふやな返答だが、里奈と一緒にいれるだけで嬉しいのだから何をしても関係無かった。
その後は、仕事の話や日本のお菓子の話しをした。
エミルは、商会に直ぐに販売出来るお菓子を知りたかったらしい。
材料等を見て考えるので、少し先の予定に組み込んだ。
お菓子作りは4人で作ると約束をして⋯⋯。
空気の悪さは何処へやら。
女性が集まれば結局お喋りで時間は過ぎて行くのだった。
〜 ❀ 〜
なぜか、夕ご飯前に女性達は居間に押し込まれた。
何があるのか解らないが、とりあえず待つしかなかった。
「リリ。お待たせ。3人もお待たせしました。ダイニングに行きましょうか。」
アルバートが迎えに来てくれたので、後ろをついて行く。
ダイニングに入ると、テーブルには豪華な料理が並んでいた。
立食式の様な感じで、男性陣が立ったまま出迎えてくれた。
ライアンが、
「いつも頑張り過ぎる3人と、同じく頑張り過ぎる里奈さんに男性陣からのプレゼント?です。」
「これ全部自分達で作ったの?凄いわね⋯⋯。」
里奈の呟きに、男性陣の心はくすぐったくなる。
「立食ですので、皆で話しながら沢山食べて下さねね!」
真っ先に動いたのは里奈だった。
ナタリー達の食事時間に合わせた為、少ししか食べられなかったのだ。
里奈は以外とよく食べる。
どの料理にしようかと、アルバートと楽しそうに悩む里奈を見て、側付き達は里奈の怒りは無くなったと安堵する。
美味しい料理に、沢山のお喋り。
三人娘は、これからは食事の時間をもっと大切にしようと決めた。
男性達や里奈さんとのお茶会も時間を作って貰おう!
男性陣や里奈と離れるまで時間は限られている。
領地の事は、里奈達が獣人国に向かってから頑張れば良いのだから。
里奈のお説教と男性達からの料理で、癒された三人娘だった。
ワイワイ話に花を咲かせていると、ヤービスがトレイを持ってきた。
「俺は料理を作れなくて役に立たなかったから、得意な魔術で皆にプレゼントを作ったんだ。」
トレイにかかる布をとると、そこにはイヤーカフスが沢山並んでいる。
カフスには、空の魔石が組み込まれていた。
「魔石に魔力を込めたら、組み込んだ魔術が発動するんだ。
念話と、転移と、防御の紋をカフスに刻んである。
側付きの女性は転移が出来ないから、仕事も楽に移動出来るよ!」
里奈が「見ても良い?」
と、ヤービスに確認して手にとった。
カフスの内側にはびっしり紋が刻まれていた。
とんでもない代物を作っていた。
「それで、里奈さんの神力を込められたら良いけど⋯⋯。里奈さんの神力が他に影響したらいけないから、良かったら世界に影響しない白狐様に神力を込めて頂けないかと⋯⋯。」
ヤービスが恐る恐る白狐に聞いてみた。
『構わん。』
その一言で、直ぐ様真っ白な神力をカフスに注いだ。
銀で作られたカフスには、白く輝く神力たっぷりの魔石が出来上がった。
ナタリーとキャロルとエミルには、里奈から直接つけてもらった。
全員お揃いのイヤーカフスに笑みが止まらない。
「ヤービス。こんな素敵なプレゼントを作ってくれて、ありがとう。」
「料理もカフスも、とても嬉しい。」
里奈の言葉に、皆はヤービスにお礼を伝える。
ヤービスは照れているが、とても嬉しそうだった。




