78話: 報復への道筋
里奈とアルバートは、倒れた次の日までゆっくり過ごした。
里奈が歩けなかったのが、主な理由であった⋯⋯。当人以外に真実を知るのは、白狐と青龍だけである。
翌朝、朝食をとりにダイニングに向かうと側付き達が心配そうに声を掛けてきた。
「里奈さん。体調は大丈夫ですか?まだゆっくりされても大丈夫ですよ?領地の事は私達が動いてますから。」
ナタリーがそう言って気遣ってくれる。
「心配かけて、ごめんなさい。
昨日ゆっくりしたから、大丈夫よ!」
里奈の顔色が良い事にも気が付き、側付き達は安堵する。
全員で朝食を食べ終え、紅茶を飲みながら今日の予定を話す。
「男性陣と、ヤービスは今日は私と森に行って貰いたいけど。大丈夫かな?」
「大丈夫です。領地の事はナタリー達が率先してやるので、私達は余りやる事がないのです。」
少しおどけて、カールが話す。
「側付き達が優秀過ぎて、私は安心して自分の事が出来る。いつもありがとう。」
事あるごとに「ありがとう」の言葉を伝える。
周りの人達は、その一言だけでやる気になっていく事を里奈は知らない。
「森に行くけど、今日は帯剣してね。」
帯剣の言葉に驚くが、了承した。
準備を終え、玄関ホールに集まると里奈は男性陣を連れ森へと転移した。
「里奈さん、少し落ち着いたみたいだけど。何だか危ういのよね⋯⋯。」
キャロルがボソリと呟く。
ナタリーもエミルも同意見だ。
「白狐様とアルバート様以外は、里奈さんの心は支えられないのよね⋯⋯。
でも、私達は周りから支えられるわ!」
ナタリーの言葉に、キャロルもエミルも頷き領民達との話し合いに向う。
里奈達が転移した場所は、森の更に奥⋯⋯。
獣人国との国境手前だ。
エイルの森を抜ければ、直ぐに国境線になる。
「里奈さん。ここは、国境線の手前ですが⋯⋯。」
ライアンが尋ねた。
「そうね。この国境線には見えないけど、瘴気が張られてるのよ?」
男性陣は、ギョッとする!!
「なぜ瘴気が見えないのですか?
瘴気を見えなくしたら領民達に危険があるじゃないですか!!」
「獣人国からは、瘴気が見えるの。白狐の結界が外を覆ってるから、アルスタ王国側から見えない。
それに、結界があるから危険はないの。だから、領民達がもしここに来ても、大丈夫よ。」
男性陣は、ホッとする。
「それでね、この場所に来た理由なんだけど。」
神妙な面持ちで、とんでもない発言をする。
「この森の外には、古代魔道具が数カ所埋められているの。
白狐が異変を感じとって、アルと調べてくれたわ。3カ所ある⋯。」
里奈は男性陣に向き合い、説明をする。
「埋め込まれている古代魔道具は、術者の血を必要とする物。しかも、魔道具が発動するまで解除は出来ない。」
「この魔道具を設置したゴッドローブが死んでも、魔道具は無くならないし解除出来ないわ。」
男性陣が息を呑む⋯⋯。
つまり、発動させるしか魔道具を消す事が出来ないと⋯⋯。
「里奈さん。帯剣させたのはこの為ですか?」
カールが問いかけた。
「違うわ。帯剣は、ただ魔物がいるからその為よ。森には結界を張ってあるから入れなくて外をウロウロしてるの。だから、念の為よ?!」
「魔道具をどうするのですか?発動させるしか消せないのなら、やるしか無いのですよね。⋯⋯。
それに、魔道具が発動すると何が起きるのですか?」
ライアンの質問に、男性陣は全員里奈に説明を求めた⋯⋯。
「この魔道具は、禁忌の魔道具だ。
父の書物に書かれていた物と同じだった。瘴気と魔物が大量発生する。
特大スタンピートが起こる。」
アルバートの説明に、ライアンが声を荒げた。
「発生する。じゃないだろ!!
私達も戦うから、魔道具を何とかしなければ領民達が、国が滅びるではないかっ!!」
アルバートがライアンの肩に手を置き、話しの続きをする。
「それを1カ所だけ、反転の魔術を施し獣人国にぶつける。
まー、王妃とゴッドローブにだがな。
反転させる理由は、魔道具の仕組みに関係がある。
魔道具が発動したが不発に終われば、その術が術者に返って行く仕組みだからだ。」
「発動と同時に、魔道具自体に術をかける。不発に終わる術式はゴッドローブへと向かう。側には王妃がいるだろう。」
ライアンの顔をアルバートが覗き込み、
「あちら側にスタンピートが襲いかかるのだからな。」
「術式は、ヤービスが考えた。」
アルバートがヤービスに続きを促した。
「普通の反転の術式では古代魔道具の威力を抑えきれない。膨大な魔力が必要になる。
だが、アルバートが見せてくれた書物には女神様の神力がかかると、増幅するようになっている。
そう書かれていた⋯⋯。」
ヤービスは、里奈に視線をやった。
「だから、里奈さんはこの魔道具に触れてはならないんだ。近付いても欲しくはない。」
「膨大な魔力持ちって、誰か他にいるのか?。予測が出来ない⋯⋯。」
カールが言う。その通りだからだ⋯⋯。
「あのね。その膨大な魔力を持つ人?じゃない⋯か。神に近い存在を知ってるのよ。」
「白狐様ですか?」
「違うわ。あのね、詳しくは話せないけどアルバートの守護神?の龍がいるの。
その龍を貴方達に会わせたいの。」
「え?神は白狐様だけではないと?」
「しかも、アルバートの守護神とは⋯⋯。」
男性陣がざわざわしてきた。
「とりあえず、青龍を紹介するわ。姿を現してくれる?」
男性陣が、ゴクリと緊張で喉をならす。
暫く待てど、姿が見えない⋯⋯。
里奈が男性陣に手招きをする。里奈の右手が指す方向を見ると、白狐がいる。
白狐が男性陣の前に来て、後ろ向きで座る。
白狐の背にしがみ付く小さな生き物⋯⋯。
「里奈さんは、リュウと言いました。竜ではないようですが⋯⋯。」
「あ!そうだった。この姿はね私がいた世界のリュウの姿なの。神様の遣いでもあり、神にもなり得る存在なのよ。」
「本来はとても大きいの。今は側にいる為に、小さくなってるのよ。」
『青龍よ。いつまでしがみ付いておるのだ。いい加減に離れろ!!』
白狐は背中を左右に強く振った。
青龍が空中に投げ出されたのだが、クルリと反転し里奈の胸に飛び込んできた。
「青龍⋯⋯。恥ずかしいの?」
頭を撫でようとした瞬間、青龍は遥か遠くに放り投げ出された⋯⋯。
里奈はため息を吐き、
「アル。青龍を紹介出来ないから遊ばないでくれる?」
呆れて注意するも、アルは無視した。
「そのうち青龍は戻って来るから。
ヤービス詳しく説明をお願い。」
ヤービスは見慣れた光景なので、気にしない。
側付き達は、神の遣いを投げたことに青褪めている⋯⋯。
「大丈夫ですよ。いつも投げ合って遊んでるだけですから。
続きを説明しますが、良いですか?」
側付き達は、コクコクと頷いた。
「青龍様には1番大きな魔道具についてもらいます。青龍様の神力は白狐様と同じで影響しない。ですが、膨大な力を持っています。
魔道具が発動すると同時に、青龍様には反転の術式に力を注いで貰います。」
「他の二つには手が掛けられません。
なので、発動させます。」
側付き達の顔が曇る。
発動させればスタンピートが起こる。
どうすれば良いのかを、必死に考えていた。
「残りは、パトリックとサーシャを置きます。訓練した団長達も一緒にね!
そして、聖魔力の使い手としてアーグとセシー。それに、やらかし聖女を付けるわ。」
側付き達が納得した。
パトリックへの命は、団長達を一月で使えるように。
ガルズ司祭への命は、やらかし聖女を鍛えるように。
話しが繋がったのだ。
「里奈さんは、もしかして前回の討伐からこの計画を立ててましたか?」
ギルベルトが問いかける。
いつも里奈の考える計画は、ギルベルトかナタリーに相談していた。
この話は初耳だったからだ⋯⋯。
「白狐が古代魔道具を教えてくれたのは、王都に帰ってからよ。
あの時に聞いていたら、自分を抑えれたか解らない。」
「白狐はそれが解るから、王都に帰ってから私に教えてくれたの。」
「ギルベルトに態と教えなかった訳では無いの。団長達や、やらかし聖女達がどう行動するかで計画が変わるから⋯⋯。」
「パトリックとガルズ司祭のおかけで、戦力は大丈夫みたいだし。
だから、今日話しをしたのよ。」
ギルベルトは、
「拗ねた訳ではありませんよ?頼って貰えなかったのかと⋯⋯。」
「寂しかったのか?」
カールとカルロが、肘でギルベルトを突いてからかい始めた。
「そうか⋯⋯。頼られないのは、寂しいのだな。」
ギルベルトの意味深な発言が気になる。
聞き返そうとすると、ギルベルトが慌てて、
「里奈さんに頼られるように、頑張ります!」
と、何だか誤魔化された気がする⋯⋯。
「質問はある?」
ヤービスが皆に問いかけた。
「発動する時は、誰か解るのか?」
ライアンが尋ねた。
「白狐が魔道具に注がれた血と魔力が解るの。その魔力のみ結界をすり抜けるようにするから、白狐が合図をするわ。」
「私達は多分、ゴッドローブと対面してるからね!」
ゴッドローブと対面=対戦なのだが⋯⋯。
少し嬉し気な里奈に、少し⋯⋯。ほんの少しだけ、引いてしまう側付き達。
「絶対にやり返す。そして、エイルの森をアルスタ王国を護ってみせる。
だから、力を貸して下さい。」
里奈が真っ直ぐな瞳を側付き達に向ける。
男性陣は姿勢を正し、
「「「「勿論です。」」」」
皆で、打倒獣人国!を誓った。
青龍がこっそり戻って来たので、里奈が後ろから両脇に手を入れて側付き達の前に来て突き出す。
バタバタする青龍だが、
「青龍よ。これから宜しくね!
白狐みたいに話せないけど、こちらの会話は解るから。」
側付き達は頭を下げ、
「宜しくお願いします。青龍様。」
と、挨拶を交わした。
見た事のない龍に、側付き達はキラキラした目で青龍を観察していた。
「そうだ!魔道具を見たいなら、里奈さん以外は見れるぞ!?」
ヤービスの言葉に、側付き達はいそいそとヤービスの側に行き魔道具見学へと行ってしまう。
アルバートまで付いて行った⋯⋯。
「男って、何であんなのに興味があるのかな?」
一人残された里奈は、横たわる白狐を背もたれにしフワフワの尻尾を撫で待機中。
(ゴッドローブの仕掛けは無駄に終わるといいわね⋯⋯。絶対に失敗はしない!)
白狐は里奈の顔に尻尾をバサバサしてきた。
『大丈夫だ。失敗はせぬ。』
フワフワ尻尾を抱きしめ、強張る心を解いていく。
長いお留守番の後、邸に帰ってきた。
お昼ご飯を過ぎていたので、女性陣は心配していたのだ。
「遅くなってごめんね。獣人国との国境線に魔物が出たから討伐してたの。」
と、嘘を交えて里奈が説明する。
女性陣に魔道具の話はしないのだ。
側付き達は察知する。
遅い昼食を食べながら、女性陣から領民達との話し合いの結果を聞く。
女性陣達のやる気を感じる会話に、暫し花を咲かせる。
〜 ✿ 〜
獣人国に、アルスタ王国からの書簡が届いた。
一月後に愛し子様が世界を回ると⋯⋯。
獣人国が最初の訪問先になる。
「ゴッドローブよ。そなたの想い人は自らこの地に来るようだ。」
王妃は笑いを堪えながら、話しかける。
「そのようで、手間が省けます。愛し子がいないアルスタ王国を攻め落とし、女神の森を手に入れるのですから。」
王妃とゴッドローブは、計画が順調だと確認し合うとグラスを掲げた。
この2人は気が付いていない⋯⋯。
仕掛けが愛し子に知られている事を。
計画全てが、白狐によりアルスタ王国側に伝わっている事を⋯⋯。
白狐の神力により、2人は自国へと連絡を取ることすら忘れていることに⋯⋯。
全く気が付いていない⋯⋯。
愛し子の訪問まで、2人はただのんびり迎え入れるまで過ごしていく事になる⋯⋯。




