75話: ヨーク領に帰るよー!
皆で会議をした次の日の議会では、サーシャの女性騎士団長の任命と王都の外周を増やす案が可決された。
ベリル宰相の話では、満場一致だったとの事。
反対どころか、拍手喝采だったそうだ。
里奈は、この結果に大満足である。
ヨーク領に向かうまで、残り5日。
今日は、王都の外周を増やす作業をする。
議会には内緒で⋯⋯。
ヤービスの設計をもとに、里奈が魔術を展開する。
ヤービスの設計は、せっかく愛し子様が造るなら鉄壁の要塞に仕上げよう!
と、張り切って作製していた。
魔物や他国からの侵略に耐えれる造りを考え、神力を壁となる石を造る際、一緒に練り上げる。
また、城壁の各所に魔術攻撃を反転させる魔石を組み込んだ。
反転の術式の紋は、前世の記憶を元にヤービスが作った。
何かを組み合わせたり、独自に編み出す事が得意なヤービスは、色々な紋を作り上げる。
本来の魔術に関しては、アルバートの知識は深く、毎日2人で新しい魔術作製に花を咲かせている。
ヤービスの知識があれば、獣人国はどれたけ繁栄したか⋯⋯。
そう感じるのは、里奈だけではなかった。
里奈が外壁を造ると、区画整理をする。
孤児院エリア。
工場エリア。
居住エリア。
畑エリア。
娯楽エリア。
これを今日中に建てていく。
まずは、孤児院を建てよう!
2階建てにして。
一階には子供達が使う作業部屋に学習室。
調理場に、食堂を作る。
職員室なる部屋も作る。
2階には子供部屋。
男女別にし、年齢毎に部屋を作る。
隣接するように、孤児院に関わる人達の住まう住居も建てた。
勿論、トイレもお風呂も作った。
この世界には、スライムがいなかった。
ヤービスと2人で、
「スライムいたならなー。」
と、同時に口にしたのには笑ってしまった。
ヤービスが、循環できる魔石を作ってくれた。里奈がレンガ造りのタンクを作り、水を浄化し循環させる仕組みを組み込む。
飲水はナサニエル大司教から許可を貰ったので、地下を使い神殿の裏の泉から引っ張ってきた。
孤児院からあまり離れていない場所に、畑エリアを作る。
お日様の下で育てる場所と、屋根と結界でハウスを作る。
後日、販売用の畑も作らなきゃ!
ハウスの結界は、水魔法の属性持ちが魔力補充をすれば発動出来る仕組みを、アルバートが作った。
殆どの魔術紋は、ヤービスとアルバート製である。
街に隠れていた子供達は、カズラとヒイラギを連れてナタリーが探してくれた。
集められた孤児達は、一時的に避難場所で生活してもらう。
宮にいた子供達は保護された子供達の話しを聞くと、自分達も避難場所に移る事を希望した。
側付き達には、孤児院で使う家具や衣服、日用品等の買い出しに行って貰っていた。
今日の昼までには孤児院に運ばれる手筈になっている。
私はどんどんエリアを整えて行く。
日が暮れる前に、とりあえず建て物を作り小さな町を作り上げた。
「アルとヤービスは、皆を娯楽エリアに連れて来て欲しいの。」
2人は直ぐ様呼びに向かう。
私は一際大きな建物の娯楽エリアの中で、最終チェックをする。
「リリ。全員外に集まりましたよ。」
「ありがとう。」
建物の中から出ると、沢山の人がいる。
今日一日頑張った人達だ。
「ここは、娯楽エリアよ。中に皆で入ってね!」
里奈を先頭に、ぞろぞろと建物の中に入る。
正面には木製の、室内アスレチックが作られていた。
「雨の日や、お休みの日に室内で遊べるからね!」
それから⋯⋯。
「右側の扉が女性専用で、左側の扉が男性専用のお風呂になります!」
「貴族は、無理だろうけど入れる人は入ってね!」
全員が、キョトンである。
「リリさん。入ってね!では、解りませんよ。使い方の説明をしないとね。」
里奈が焦りながら、皆を引き連れて入浴の手順を説明する。
日本の健康ランドのような物を建てたのだ。
浴場に向かうと、大きな湯船に全員が歓声をあげる。
皆が使うから、体を洗った後に入る事を伝えた。
外には露天風呂も勿論作った。
「タオルを渡します。これは、そのまま持って帰って使ってね。」
ふかふかタオルを渡すと、肌触りに頰をあてタオルにすりすりしている。
「好きに使ってね。今日はお疲れ様。
孤児院に帰る子供達はオーケ隊長と一緒に帰るのよ。」
「「「はーい!!」」」
「また、明日も頑張って貰いますからね!」
「お疲れ様。」
こうして、外周エリアの中はどんどん整えられて行く。
里奈は楽しみながら建物や施設を建てていく。
そして、明日はいよいよヨーク領に向かう日になる。
「里奈さん。私達の街にも仕事を与えてくれた事を感謝します。」
6番街の代表が挨拶に来た。
最近知ったのだが、中央の円から順番に数字があり今まで1番端にあった街は6番街と呼ばれていた。
避難場所が7番街になる。
「貴方達が避難場所を1番気に掛けていたでしょ?避難民を助けてくれたのも貴方達6番街の人達よ。その優しさに答えただけだから、貴方達自身が手に入れるべきものよ。」
「そうね。これは愛し子様からの6番街の皆への褒賞ね!」
ニッコリ笑いながら褒賞の言葉を口にする。身分の低い者でも、この方は分け隔てなく大切にしてくれるのだ。
「でも、気を付けてね!きちんと役割りを果たさない人には、罰があるからね!」
里奈は冗談で言ったつもりだったが、民達は愛し子様が貴族に罰を与えた話は聞いていたのだ。
青褪める民に、
「冗談よ?」
そう言っても遅かった。
⋯⋯⋯⋯。
「大丈夫ですよ。皆さんは自分の子供や孫にまで安心して暮らせる基盤を作って行くのですから。下手な事はしませんよ。」
アルバートの言葉に、ハッとして全員がコクコクと頷いた。
クスッと里奈は笑い、
「明日には私達は全員ヨーク領に向かいます。時々様子を見に側付き達が来るので困った事は直ぐに教えてね。」
「嫌がらせをされたらやり返してあげるから、きちんと報告だけはしてね。
我慢なんてしたら、許さないわよ?」
「ありがとうございます。しっかりと新しい街を守って行きます!」
6番街の民には新しいエリアでのお仕事を斡旋した。
全員にではないが、貧しい人から順に雇った。
エリアが拡大すれば、人手が沢山いる。
仕事を与えなければ貧しさからは抜け出せない。
新しい街で働いて貰えるのは有り難い。
6番街は貧民街。
そんな呼び方は無くしたい⋯。
里奈の小さな望みだった。
孤児院エリアには沢山の子供がいる。
孤児は全員で30人近くいる。
成人扱いになる15歳以上の子供も、両親もおらず職のない者ならば受け入れた。
成人した孤児達には、畑の管理を任せた。
力仕事だが、衣食住が整った事で初日から懸命に働いてくれている。
最初の畑の作物は、里奈が神力で一気に育てながら教えた。
育て方を数時間で教える為に、一度だけ裏ワザを使用した。
来年からは自分達で育てた物を皆のご飯に使い、また工場で加工して販売するのだ。
管理を任された大人や孤児達は、必死に学んだ。
工場で加工し、新しいエリアの収入源にするのだ。
畑エリアは拡張し広大なので、人手は沢山欲しい⋯⋯。
そこで、6番街の住人に働いて貰う事になった。
男性は畑に。女性は工場に勤める。
孤児院の職員は、平民で文官試験を受けたが、採用されなかった者をあたった。
王宮での採用は貴族が優先されてしまう為、平民は採用されにくい。
勤め先は孤児院の職員だが、愛し子様が携わる仕事場。
知名度では文官よりもかなり上になる。
声をかけた人は喜んで受けてくれた。
沢山のエリアで、沢山の人が働く。
その様子に満足した様子の愛し子様を、全員が安堵して見ている。
平和って、こんな感じかな⋯⋯。
王都で憂う事案もなくなり、里奈はヨーク領と獣人国に全力で挑める事を実感する。
明日はヨーク領に向かう。
新たな役目に、里奈自身も側付きも身を引き締めた。
〜❀〜
「おはようございます。全員揃ってますか?」
「「「揃ってまーす。」」」
里奈は領民達の返事にクスクス笑う。
領地に戻れる嬉しさを隠せないでいた。
「今からあちらの状況を説明します。
ギルベルト先生。宜しくお願いします。」
「「「ギルベルト先生。お願いします。」」」
ギルベルトは2度目ましての先生呼びを、またもスルーする。
里奈に白い目を一瞬やり、説明を始める。
「聞いているかと思いますが、ヨーク領全体が女神様により新しい街に変わっています。以前見た景色とは変わっていると思います。女神様による新たな町は、視察しましたがとても美しい町でした。」
「まず戻ってからやって頂きたい事は、家の中や仕事に必要な物を申請して欲しいのです。
費用は国からの慰謝料や復興費用として資金を預かっています。遠慮なく申し出てください。」
領民はだんだん遠慮気味になって行く。
「気にせず買って貰いなさい。貴方達への陛下達からのお詫びの気持ちなのよ?
死ぬかもしれなかった慰謝料は、高く付くんだから当然の権利よ。それに、建物だけあっても生活は出来ないわよ?生きて行く為に必要なのだから、安心して買ってね。」
領民達は恐る恐るだが、納得してくれたようだ。
「そして、里奈さんからのお願いがあった森の件ですが。明日の早朝に説明をしたいので、皆さんには森の前に集まって頂きたいです。」
以上です。
ギルベルトは軽く頭を下げ、里奈を見た。
「では、これからエイルの町に転移します。見送りに来てくれた皆さんにお別れしたら転移させます。」
領民達は急いで助けてくれた6番街の方々に挨拶をして回る。
「では。いってきまーす。」
里奈の一言で、100人以上いた人々が一瞬で消えた。
一気に静かになった避難場所は、何となく寂しい風景になった。
「ヨーク領が繁栄するように祈ろう!!」
「こっちの8番街も、愛し子様が帰って来るまでにもっと良くしないとな!」
残された者達は、次に再会した時に愛し子様が喜んでくれるように頑張る事を誓った。
一気に景色が変わり、壁に挟まれた場所から広大な景色が広がる町に着いた。
領民達が目にしたものは、新しい街並みに近隣から出迎えてくれる見知った者達だった。
お互い駆け寄り、無事を喜びあう。
新しい領主となったアードが、里奈に挨拶に来た。
里奈達も、以前会った人々と再会を喜んだ。
「愛し子様達は、町の外の丘に新しい邸が用意されております。そちらでゆっくりして下さい。」
「皆さん!再会を楽しんでね!私達は邸に向かいます。朝早いけど、明日は宜しくね。」
笑顔で手を振り里奈達が転移で消えた。
姿は既にないが、領民達全員が深く頭を下げた。
涙を流し、愛し子様達の力添えに感謝した。
邸に着いた里奈達は、それぞれの部屋に案内された。
里奈の部屋は1番上の階全てを使う事になっていた。
「何でこんなに広い場所が私専用なのよっ!!」
待遇に納得いかない里奈が、アルバートに文句を言う。
「仕方ないでしょ?白狐とカズラやヒイラギがいます。それに他の眷属も付いて来てしまったでしょ?
何故か青龍さんもいますしね。広くないと可哀想では?」
そうなのだ。
邸に着いたら驚いた。
姿は隠しているが、眷属は兎も角として青龍までいたのだ。
白狐が深くため息をつくき、
『諦めろ。』
その言葉で青龍の滞在を容認するしかなかった。
置いて行かれたくない青龍は追ってきたのだ。
「とりあえず眷属達や青龍がついてきたから、階を丸ごと使うようにしたのですよ。」
「解ったわ。皆にまだ青龍の事を教えてないから、仕方ないか。」
納得いかないが、納得するしかなった。
「因みに、私もこの階にいますからね!」
ニッコリ顔で言われるが、好きにして!状態の里奈は、呆れながら部屋へと入って行った。
アルバートと青龍だけが、里奈と近い場所に暮らせる事を喜んでいた。
「アル!喜びに浸ってるところ悪いけど、明日の森の事でヤービスと打ち合わせしたいから呼んで来てくれる!?」
若干呆れ気味で伝えると、アルバートは急いで気を取り直しヤービスを呼びに転移した。
明日やる事は、里奈にとって大切な事なのだ。
窓辺に来た里奈は、森を見つめ石碑を思い出す。
亡くなった人達の安穏の為に、明日の民への説明を間違えないように思考の中で、何度も練習をする。




