74話: 反撃の下準備を始めましょ
白の宮には沢山の人が集まっていた。
ダイニングにテーブルを口の字に並べ、会社の会議室のようになっていた。
里奈とアルバートが並ぶテーブルには、里奈の隣にヤービスが。
アルバートの隣にはライアンが座る。
獣人達は、ヤービスの後ろに並び座っている。
そのテーブルから右側に側付きの男性陣と、近衛の3人衆(ライナス司教とパトリックとサーシャは昼前に戻って来た)。
左側には、側付きの女性陣と侍女のサーシャとマーナ。メイド3人はサーシャの後ろに並んで座る。
里奈達の正面には、両陛下にリチャード殿下。ベリル宰相とナサニエル大司教。大司教の後ろに、ライナス司教とガルズ司祭が座る。
フィッセル侯爵も参加した。
里奈が話を始めた。
「獣人国の事は、全員白狐に視せてもらいましたか?」
一同頷いた。
「結果を言えば、私は獣人国の首謀者を許さない。」
「ヨーク領の復興と獣人国への報復を同時進行で行います。そして、大国にも嫌がらせをしてやるわ!」
「大国にはなぜですか?」
疑問を持ったエミルが質問する。
「ゴッドローブを王妃に近付けたのは、大国の王よ。娘を気遣う振りをして、ゴッドローブを送り込んだわ。」
ベリル宰相が、手を挙げた。
「里奈さんは、ゴッドローブが何故大国にいたのか解るのですか?」
里奈は口にして良いかを悩んでいた。
白狐に視線を移すと、白狐が頷いた。
「白狐が言うには、ゴッドローブはリメル大国の隣の国。ザハル帝国にいたらしいの。」
ナサニエル大司教が、
「ザハル帝国は、女神信仰が国の指針になる程に女神様を崇める国です。何故反目するゴッドローブを匿うのですか?」
全員が知りたかった事だった。
「何故匿う事になったのかは、理由は解らない。でも、今のザハル帝国の皇帝は女神様をとても深く崇めています。神としても、女性としても⋯⋯ね。」
「女神の森があるアルスタ王国が邪魔だったのよ。女神様が1番気にかける国がね。」
「そんな理由で⋯⋯。」
陛下が頭を抱えた。理由がくだらないからだ。
「陛下からすれば、くだらない理由でしょう。でも、皇帝からすれば嫉妬してしまうのは仕方ない事かもよ。」
里奈の言う事は正しいが、納得出来る事ではない。
「皇帝はアルスタ王国が邪魔だった。大国は獣人国が邪魔だった。何らかの利害が一致したのよ。いつそれを繋げたのかは解らない。ただ、ゴッドローブを使い獣人国やアルスタ王国を消そうとしているのは事実ね。」
ダンッ!!
陛下が握り拳で、テーブルを殴った⋯⋯。
「この世界が安定していない状況を、あの両国は理解しないのかっ!!
やっと少しずつ民が安心して暮らせるようになったと言うのにっ⋯⋯。また民を巻き込み、疲弊させるのかっ!!」
陛下は肩で息をする程、怒りを持って叫んだ。
一同、同じ思いなのだ。陛下の怒りを十分理解している。
「陛下。そう言い放つ事が出来る人柄だからこそ、女神様がこの国を愛するのでは?
アルスタ王国の王族が、代々受け継ぐその精神を女神様は愛したと思います。だからこそ、女神の森はずっとこの国にあるのですから。」
「リリの言い方だと、女神の森はこの国が反目をした場合に消えると?」
「んー。そうだけど少し違うかな。
女神様は、世界を造り不用ならば滅す。この国の森を消し新たに護る国に造る感じね。女神の森は世界に必要だから、何処かには存在するわね。」
意外な真実を知る。
森をしっかり護ってきた代々の王家。そして、民に感謝しか無かった。
「陛下には獣人国から次にリメル大国に向かい、最後にザハル帝国に行く行程を世界に公表してもらいたいです。そうね⋯⋯。一ヶ月後の予定でお願いします。」
「宰相には、私達が考えた孤児達の今後の案を議会に愛し子の名を使わずに通して欲しいの。議会できちんと話を通して、自分達が決定したのだと認識してもらいたいからね。」
「おじさまにもお願いがあるの。アーグとセシーの聖魔力を鍛えて欲しいの。
女神の森の奥にあるもののため。おじさまなら理解出来ますね。聖女達をお願いします。」
「ガルズ司祭は例のやらかし聖女達に、地獄の討伐を与えて鍛えあげて欲しいの。ライナス司教はガルズ司祭からやり方を教わってね!」
ガルズ司祭が親指をたて、里奈の指示に了承した。ライナス司教は地獄の討伐の説明をされ、顔を少しばかり強張らせていた。
里奈が、
「遅くなったわ。ライナス司教にパトリックにサーシャ。おかえりなさい。」
3人が立ち上がり、里奈に軽く頭を下げた。
「パトリック。この場で報告してちょうだい。」
パトリックは一度頭を下げ、周りに報告をする。
「先日発生したS級の魔物2頭の討伐ですが、サーシャ殿が単独で討伐した事を報告致します。」
「私も同行し、確認しました。神殿より王宮へ報告は済ませております。」
2人の言葉に、一同固まる。
S級を単独で討伐。しかも、2頭も⋯⋯。
皆の視線がサーシャに集まる。
「パトリック様の指導の元、励んだ成果を出し切り、単独討伐を成して参りました。」
サーシャからの報告に、側付き達が歓声をあげる。
陛下達はサーシャの強さを目の当たりにしていたが、これ程の腕を持っていたとは思わなかったのだ。
「ついて行った人達はどうしたのです?」
里奈が意図的に、エリックに問いかけた。
「里奈さんに負けた面々が、討伐参加と私からの指導を願い辺境に来てしまいました。サーシャ殿の腕を見て、更に落ち込みましたが私からの指導にて、より高みを目指すとの事です。」
里奈は頷き、パトリックに指示をする。
「獣人国とやり合う時には、国境にて魔物の発生が起こる筈です。
ゴッドローブが仕掛けてくるでしょう。
団長達全員を、一月で使えるように仕上げてもらいます。」
「承ります。サーシャ殿と鍛え上げてみせます。」
サーシャは、え!?
である。
「サーシャ。貴女に女性騎士団の団長を任命します。
この団は、愛し子付きにします。S級の魔物を討伐出来るのです。当然の位ですよね?陛下!?」
突然話しを振られた陛下だが、
「承知した。議会に通すが、証人が多いならば直ぐに申請出来よう。」
ベリル宰相も、
「申請は直ぐにでも。明日の朝の議会にて通します。」
陛下達が同意してくれた。
「教会からライナス司教を証人として、議会に参加させよう。」
大司教の言葉に、ライナス司教が頷いた。
里奈は席を立ち、サーシャの側に来る。
「サーシャ。パトリックの指導はとても厳しかったでしょ?地獄の討伐なんて、目じゃないくらいに。
貴女の努力が最後の一手を決めたのよ。
貴女が自ら掴んだ騎士の道を、後に続く女性の為に役立ててね。」
サーシャは堪えられずに里奈に抱きついた。言葉にならない思いを伝えられずにいた。ギュウギュウに抱きついたが、
「サーシャ⋯⋯。痛いのよ!!この馬鹿力ー!!」
助けに来たアルバートにより、引き剥がされた。
サーシャはそれでも、里奈に抱きつこうとするのでパトリックにより襟首を掴まれ捕獲された。
何がなんだか⋯⋯。
この面白い光景に皆の笑い声があがる。
ガルズ司祭が紅茶を用意する間に、皆席に座り直す。
紅茶を口にしながら、
「気を取り直して。」
「女性の地位向上だけでは、民は豊かにならない。地方の活性化が大切です。」
「王都から離れた土地に住む者の仕事は、農家や酪農で人が生きる為に大切なお仕事です。記憶で視たと思うけど、私も農業をしていたわ。だからその知識を使い、野菜の種類を増やす為に空いた時間に色々研究したの。」
「その土地に合った野菜の種を各領地に配ります。育て方も指導します。その土地にしか生産出来ないから、安定した収入を得れるでしょう。
育てあげるまでは、領民の努力が必要不可欠ですが。」
「側付き達は全員ヨーク領に私と共に行ってもらいます。獣人国に報復するための下準備をヨーク領でします。」
「何をするかは、ヨーク領のエイルの町に着いて領民達と一緒に説明をします。
出立はヨーク領の領民と一緒に。
準備をお願いしますね。」
「サーシャは私付きから外します。パトリック付きにするので、指示に従ってね。」
「え!?」
里奈を見るサーシャの目が死んで行く⋯⋯。
ガックリとへたり込んだ。
「あああー!!っごめん!!
また言い間違えた!!」
サーシャの肩を掴み、
「ごめん!違うわ。訓練とか指導とかあるでしょ!?だから、暫くはパトリックといてね。って事よ!」
半泣きな顔のサーシャを抱きしめ、背中をポンポンする。
「良かったです⋯⋯。」グスッ
カルロとリュカが、サーシャに声を掛ける。
「俺達も以前、同じ思いをしたから気持は解るぞ!!」
「切られたって思うよなー。」
カルロとリュカがジト目で里奈を見る。
「ごめん⋯なさい。」
里奈がションボリ謝った。
「リリはせっかちですからね。やる事があり過ぎて、会話すら結果しか伝えない時がありますからね。」
アルバートは里奈を慰めながらも、小さな釘を刺した。
「リリさん。大好きな愛し子様から切られた様な言葉を言われたら、こうなるのは当たり前なのですよ!?」
「本当に、ごめんなさい。気をつけます。」
ペコリと頭を下げた。
そんな中、一人黙っていた侯爵が里奈の側に来た。
「愛し子様。獣人国に行く際は私も同行しても!?」
いきなりな言葉に、里奈は驚く。
「父上。理由を聞いても?」
「簡単に言うなら、ゴッドローブと古代魔術で戦いたい⋯⋯。ですかね?」
ベリル宰相は、ため息を吐いた。
ここに来たかった理由がそれか。と⋯⋯。
宰相が止めよとしたが、
「良いですよ。その代わり、ゴッドローブを痛めつけて貰いますからね。」
「はい。その命、賜りました。」
侯爵は頭を軽く下げ、ニッコリ微笑んだ。
アルバートは父がこの場に現れた時点で、こうなる予感がしていた。
里奈が誰かに背中をツンツンされた。
振り向くと、ヤービスと獣人さん達がいた。
「ヤービスどうしたの?」
「どうしたの?じゃ、ないだろ!?私達は何をするんだよ!」
「あ!忘れてた。」
ヤービスはその返事に、頰を膨らませた。
「ごめん。ごめん。
ヤービスと獣人さん達もヨーク領に一緒に行ってもらうからね。」
ヤービスとギャーギャー言い合いをしていると、クーロ元宰相が問いかけてきた。
「愛し子様に意見するようで申し訳ないが、気になる事があって質問をしたいがよろしいか?」
深刻そうな声に、皆がこちらに視線をやる。
「良いわよ。」
「では⋯。獣人国にやり返してくれる事を、私達はとても有り難く感謝しております。
ですが⋯⋯。」
「ですが、早く動かねばあちらが気が付いて逃亡する可能性があるのでは?
と⋯⋯。」
「それも言い忘れてたわ。」
「獣人国の者は、誰一人として国からは出れないわ。白狐が獣人国に神力で結界をかけてきたからね!!」
ね!!って⋯⋯。
驚くクーロが
「ゴッドローブもですか?あの者は、古代魔術を使えますよ!!」
『そんな魔術は、我には効かぬわ。』
白狐のその一言に驚くが、白狐が神なのを思い出す。
『我にはこの世界の全てが通じない。棲まう世界が違うのもあるな。
我は手を出さぬ。この世界は女神の世界だからな。里奈を護る事以外では我は動かぬ。』
「白狐は私の守護神ね!」
里奈が白狐の胸に抱きつく。
白狐は尻尾を絡め、頰にキスを落とす。
この2人のやり取りは、いつ見ても美しい。
「さて!!白狐のお陰で時間はあるわ!徹底的にやり返す準備を始めるわよ。
その前に、今日は全員で夕ご飯を食べましょう!」
皆で食事をし、明日からの忙しさを楽しみに会話が広がる。
皆が楽しそうにする姿に安心する里奈だが、心は亡くなった少女達を思うと悲しみでいっぱいになる。
白狐とアルバートは、さり気なく寄り添い里奈の心を落ち着かせていた⋯⋯。




