72話: 置いて行かれる者達は⋯⋯
残酷なシーンや人が亡くなるシーンがあります。
苦手な方は、ご遠慮ください。
女性陣達と明日のお茶会に向け、衣装や会話の流れなどを話し合っている。
確認をし終えた頃に、白狐が帰って来た。
「おかえりなさい。白狐。」
『ただいま。里奈。』
白狐は里奈の頬にキスをする。
お返しに、里奈も白狐の頬にキスを返し白狐を抱きしめた。
『獣人国は荒れておる。平民と言われる者達の状況は良くない。』
「そう⋯⋯。」
『とりあえず我が見た記憶を視せる。』
神力を里奈にかけ、里奈は暫く目を閉じる。
眉間にシワがより、次には里奈の神力が漏れ始めた。
側付き達は神力の漏れにより、里奈が怒りを持った事を理解した。
里奈が目を開け、
「ごめんね。」治癒をかけながら、青褪めた顔の側付き達に謝った。
アルバートは、里奈を抱きしめ背中をポンポンとしている。
「里奈さんの怒りに触れる何かが会ったのでしょう。私達は大丈夫です。慣れましたし!?」
キャサリンが軽く口にしてくれたお陰で、深刻な空気は流れて行った。
お茶を飲みながら白狐から話しを聞こう。と、側付き達がテーブルに着いた時に王宮に行ったライアン殿下が、ヤービスと数人の男性を連れ帰ってきた。
「おかえりなさい。」
里奈の声に、
「「ただいま」」
ライアンとヤービスが返事をする。
後ろに控える獣人達が、黒髪黒目の愛し子様を前に膝を突こうとしたが、それを里奈が制した。
「畏まった挨拶は不要よ。公の場以外では私に膝を突くのは禁止してるのよ!」
面倒臭いからね。
重鎮達は笑顔で里奈の話しに従った。
堅苦しくない愛し子様に好感を持ったのだった。
「獣人さん達も座ってくれる!?
これから白狐から視せてもらった獣人国の事で話しをしたいの。」
里奈の後ろに横たわる大きな狐に、獣人達は驚いている。
毛が勝手に逆立ってしまうのだ。
手で押さえようとするが、獣人達は皆が犬の長毛種。逆立つ毛を抑えられないでいる。
里奈は笑いながら、
「獣人さん達は本能が白狐に反応しているのよ。
白狐は、私がいた世界の神の一柱よ。本能が恐れているだけだから、仕方ないのよ。」
里奈は全く気にしない。
獣人達の毛を逆立たせる行為は、相手に不敬ととられるものだからだ。
「神力に慣れれば勝手に毛並みは落ち着くから、放置するわね。全員座ってくれる?」
椅子に座ると、視線が里奈に集まる。
「サーシャを含め、女性陣は全員ここに残って貰います。使用人も含め、女性は誰一人同行させない。」
「何故ですか!皆で殴り込むと。さっきはそう言っていたのに⋯⋯。」
酷く青褪めたナタリーに問われた。
「詳しくは今から白狐に視せて貰います。女性を同行させない理由は、その中にある。」
白狐が神力をかけ、この場にいる全員に獣人国で見た記憶を視せる。
〜✿〜
ヤービスを排除した王妃は、獣人国の政に口を出し始めた。
逆らう臣下はローブの男により、首を落とされる。
目の当たりにした者は、王妃を恐れ従うしかない。
王妃は自分を蔑むこの国を滅ぼす気でいるのだ。
王妃はシーヴァ王と結ばれる為だけに、格下の獣人国に嫁いだのだ。
シーヴァ王がどうやっても手に入らないのならば、滅んでしまえ。と⋯⋯。
王妃は、じわじわと苦しめる計画を建てた。
シーヴァ王とセアラ妃は、国に関わる事なく宮に引き摺り自分達の世界に溺れていた⋯⋯。
領主には重い税をかけ、税を毟り取る。
1番被害を受けるのは身分の無い平民達だった。
飢えに苦しみ、死に至る者もいる。
王都から離れれば離れる程、民の疲弊は強かった。
何故逃げない?何故国を捨てない?
獣人国はローブの男により、国境を沿うように瘴気を張られたのだ。
何とか逃げようとするも、瘴気に触れ苦しみ死に至る⋯⋯。
民に逃げ場はなかった。
王妃はゴッドローブと共に、毟り取るだけお金を吸い上げ、それを手土産に自国に受け入れて貰える様に話をつけていたのだ。
側付き達は獣人国の現状を知る。
だが、女性陣は納得しなかった。
「獣人国の現状は解りました。ですが、これは想定内ですよ!私達もやれます。足手まといにはなりません!」
納得が出来ないナタリーが声をあげる。
「まだよ。この先を視せるから⋯⋯。」
視点がゴッドローブのみになった。
古びた神殿のようだった。
祭壇には紅茶のカップくらいの大きさの壺が祀られていた。
ゴッドローブが壺に祈りを捧げていた。
祈りを終え振り向いた先には、口に布を噛まされた人間の少女達が数人いる。
涙を流し、必死に逃げようとするが何かに体が縛られ逃げる事が出来ない。
ゴッドローブが一人の少女を引き摺り、祭壇の近くに放り出した。
少女の周辺に結界を張り、その中に壺から魔物を出現させる。
魔物は日本の本で見た猿人に姿が近かった。
少女は口の布を外され、体が動くようになる。
が、結界からは出られない。魔物から泣き喚きながら結界の中を走り逃げ回る。
この魔物は特殊なようで、意志がある。
だが、魔獣とは明らかに違う。
白狐が一時的に映像を消した。
少女の喚き声だけが聞こえる⋯⋯。
魔物は少女を⋯⋯殺した。
映像がまた流れる⋯⋯。
ゴッドローブは、魔物を消しゆっくりと結界を小さくする。
ゴッドローブの手に、小さな丸い珠が落ちた。
その小さく丸い珠は真っ黒く染まっていた。
薄っすら笑みを浮かべると、珠を祭壇の壺に納めた。
ゴッドローブが笑みを浮かべたまま、振り返り少女達を見て、歩き出す⋯⋯。
視点が消された⋯⋯。
全員が顔面蒼白である。
エミルは堪えられずに、壁に走りへたり込んでしまった。
ギルベルトがエミルの背を擦り、桶を探して渡していた。
キャサリンもナタリーも言葉はなく、呆然としたまま涙を流すだけ⋯⋯。
男性陣は、顔をしかめ不快を顕にする。
獣人達は、生きた心地がしない。
自国のやらかしに、何も考えられないでいる。
『ゴッドローブは、人間の少女を拐っておる。生贄としてな。
それを王妃は容認しておる。あの国にいる人間は、王妃の国の人間は一人としていないからだ。
大国は獣人国を嫌っておるからな。』
「もしもね⋯⋯。もし、貴女達がゴッドローブに拐われたら私の神力は爆発するわ。白狐にも確認したけれど、私は女神様から神力を受けている。女神様からだけならば、神力が爆発しようと被害は小さいの。」
「でもね、わたしは異界の神である白狐の神力も受けているの。話してなかったけど⋯⋯。白狐は、この世界の女神様を遥かに上回る高位な存在なのよ。」
(私とアルの持つ器がそれを増幅させてしまう⋯⋯。)
「つまり、私が怒り狂ったら獣人国どころか、隣接するアルスタ王国までもそれに巻き込むわね。」
里奈の話しを理解する。
里奈は神に近い力を保持する。
そう伝えたいのだろうと⋯⋯。
「私は、出来るなら無関係の獣人国の民を巻き込みたくは無いの。貴女達は確かに私の足枷になる。
私は獣人国を消してもいいくらいには、貴女達が大切なのよ。だから、今回はお留守番をして欲しいのよ。」
「キャサリンは、2度目になるから申し訳ないけどね。」
エミルはギルベルトに寄りかかりながら、里奈に近付いた。
「里奈さんが私達を大切にして下さる。その気持ちに応える事は、今回はお留守番なのですね。」
里奈は頷いた。
「キャサリン。ナタリー。里奈さんの気持ちに応えるのは側付きの役目よ。お留守番をするけど、里奈さんが何も役目を残さずに行くとは思わない。」
エミルは里奈を見ながら話しを続ける。
「残る者にもやらなければならない事を用意してありますよね?」
「勿論よ。私の代わりに沢山やって欲しい事がある。私が帰還するまでに成し遂げる様にしないとね。」
「解りました。今回はお留守番します。」
女性陣は納得して、席に着いた。
男性陣は、里奈の指示を待つ。
「男性陣は全員同行で良いのかな?」
「命の危険もあるわよ?」
全員が同行すると伝えた⋯⋯。
「獣人さん達は、お留守番ね。ヤービスもよ。貴方には来て欲しい時に私が勝手に呼ぶから、そのつもりでいてね。」
「それは駄目だ!自国の事なのに、貴方達だけが危険な目にあうなど認められない!」
獣人達は、里奈の意見に反対する。
「貴方達は、私の意見を拒否する立場にない。それこそ、今の貴方達は役に立たない。女性陣以上の足枷になる。」
獣人達は言い返す言葉が見つからない。
自国では死んだ者扱いに最早なっているだろう⋯⋯。
「ヤービス。ちゃんと貴方がいて欲しい時に呼ぶわ。約束する。下準備をする間だけお留守番よ。」
「あ!ちゃんと仕事は用意するわ。クーロさんは元宰相で周りも古参の大臣。貴方達も頭を使い、役に立って貰いますからね!」
「ただのお留守番とは思わないでね!役目を与えるのだから、帰って来て出来てなかったら魔物の群れに放り込むわよ!」
お留守番組は、身を引き締めた。
魔物の群れに放り込む⋯⋯。
里奈ならばやりそうで怖いのだ!!
「お留守番組は、私達よりも先にめいっぱい働いて貰う事になるわね。」
「とりあえず、明日のお茶会が終わって午後には陛下達も含めて話し合いをしましょ。」
「白狐は悪いけど、両陛下と宰相とおじさまに記憶を視せてきてくれる?話しが早いから。明日の午後に宮に集まるのも伝えて欲しいの。」
『相わかった。』
白狐が転移して消えた。
ふとアルバートが口にした。
「リリは白狐にお願いと言うか、こき使ってるような気がしますよ?」
「女神様より格上である神の白狐をこき使うリリは、最恐な愛し子ですね⋯⋯。」
皆の視線がアルバートに集まる。
里奈は自覚がないので、そっかなぁ〜と、考え中。
女性陣が笑い出した。
「神をこき使う人って里奈さんくらいよね。他の人が同じ立場でも、絶対にしないだろうしね!しかも、自覚ないし。」
3人は、そうね。うんうん。
と、里奈をからかい始めた。
「煩い!!白狐には、お・ね・が・い。をしただけでしょ!?」
里奈が3人を叩きながら反論している。
そんな和む空気に入れないのは、獣人達だ。
「ヤービス。リリに申し訳なく思う事気持ちは解る。だが、リリはそんな気持ちより、リリの為に役目を果たす事を望んでいるぞ?!」
ヤービスは俯いた顔をあげ、アルバートをみる。
「リリが言っただろう?一緒に幸せになろうと。ただ役割が別れるだけだ。ヤービスがやる事も、リリと私達と共に幸せになる道に繋がっている。」
な?。
「そうだな⋯⋯。道は同じでなくても、目的が同じならそれで良いのかもしれない。それぞれに合った役目を果たすだけか⋯⋯。」
ヤービスはクーロ達を見る。
「クーロ達は、獣人国にいたいか?」
「家族がおりますが、私達が戻れば何が起こるか解りません。
また、愛し子様が事を制して頂いたとしても、その繋がりを利用される可能性も出て来ます。人は欲を持つと何をするか解りませんし。」
重鎮達も同意する。
「私達は家族とは縁を切った身。ならば、愛し子様達に恩を返すのみです。」
ヤービスはクーロ達に、
「そなた達がいなければ、私はとうに死んでいただろう。感謝しかない。」
「この国で、一緒に愛し子様の側にいよう。私に恩返しをさせてくれ!そして、皆で幸せになろう。」
ヤービスは重鎮達の手を取り、先の未来を語り合う⋯⋯。
〜❀〜
ヤービス殿下を救う事に命をかけた。
何も出来ない、不甲斐ない結果に自身を責めもした。
フィッセル侯爵がいなければ⋯⋯。
この命は消え、こうして殿下と再会する事も出来なかったであろう。
愛し子様とお側付きの方々に、殿下の心は救われた。
しかも、愛し子様自らが王妃達にやり返してくれる。
クーロ宰相と重鎮達は獣人国を捨て、アルスタ王国の為に愛し子様が住まう国の為だけに、役立てる決心をしたのである。




