71話: その頃のサーシャと その頃の王宮
~その頃のサーシャ~
サーシャは目の前の光景を信じられない様子で呆然と眺めていた。
パトリックからは、訓練を兼ねた討伐に向かうと聞かされていたのだ。
西の辺境の地に来てみれば、以前里奈に喧嘩を売り負けた顔ぶれが揃っている‥‥。
(何でこの人達がいるの?まさか一緒に討伐をするの?聞いてないんだけど‥‥。)
パトリックは恨めしそうなサーシャの顔に気が付いてはいたが、無視をした。
「貴方がたについて来る許可は出していませんよ。それに、討伐には参加させませんが。」
騎士団長が、
「前回不甲斐なかったのは全面的に認める。私達も国のためにもっと力を付けたい。それに一番早いのがパトリック殿に指導してもらうこと‥‥。そう結論が出たのだ。」
「言いたいことは解った。だが、今回の討伐には手を出して欲しくない。」
「サーシャ殿の訓練だからか?その邪魔はしないから、頼む!」
「無理だな。」
即答で断られた。
「これから討伐する魔物はS級だからな‥‥。」
即答された内容に驚く。
「今回の依頼は、愛し子様からサーシャへの依頼だからだ。」
「貴方達が全員でかかっても、一頭も討伐は出来ない」
騎士たちが、それでも‥‥と、言葉を続けようとした瞬間。辺りに瘴気が満ちてきた。
同行して話を見守っていたライナス司教が、瞬時に結界を張った。
「サーシャさん。貴女は誰のために何の為に高みを目指しますか。S級の2頭くらい一人で片付けなさい。」
パトリックはサーシャの目を見て伝える‥‥。
「あなたなら出来ますよ。」
「いってらっしゃい。」
パトリックはサーシャの返答を聞くことなく、外に転移させた。
「パトリック殿は行かないのか?まさか、一人でS級の討伐をさせると?」
パトリックは返事もしなければ、そちらを見ようともしない。
ただ、サーシャの戦いを見つめていた。
サーシャの剣の鋭さは、以前見たものより格段にあがっていた‥‥。
一頭を魔法で動きを抑えながらも、氷魔法で攻撃している。残りの魔物を自身の剣で斬りつけいている‥‥。
同時討伐をしているのだ!!
ありえない!ありえないのだ!!
目の前の討伐を、驚愕の思いで見つめる団長達‥‥。こんな実力の差を見せつけられて、自分たちが役に立たない腕であるのを認めるしかなかった‥‥。
サーシャから目を離すことなくパトリックが話しかける。
「自分の実力が女性であるサーシャの足元にも及ばない事が実感出来ましたか?貴方がたは前回は理解していたつもりだっただけですよ?」
「只、それだけです。」
無言のまま全員が、ただただサーシャの討伐を見入っていた。
剣での討伐は早く終えたが、魔法での討伐は苦戦していた。
パトリックは助言などしない。短期間ではあるが、サーシャを徹底的にしごきあげたのだから。
サーシャは考える。氷は効いているはず。だが、決定的なダメージを与える事が出来ない。
サーシャはパトリックから学んだ魔物に使う魔法についてを思い返す。
パトリックが、「見ていろ。」
その一言を言い終える前に、サーシャは魔物の口を氷魔法で開かせたまま氷漬けにした。
その右手には炎を纏わせ、魔物の口の中めがけて炎を撃ち放った。
そう。この魔物は表面は氷魔法が通るが体内には耐性があったのだ。表面が氷ならば内面は真逆とサーシャは考えたのだ。
サーシャはパトリックの手を借りる事なく、S級の魔物2頭を見事に討伐して見せた。
「サーシャはすごいでしょ?」
「貴方がたもなれますよ?高みを目指しますか?」
パトリックが目を見て団長達に問いかけてきた。
「高みへと導てくれるのならば、是が非でも頼みたい。」
その力強い答えに満足気に笑うと、サーシャの元にパトリックは向かった。
S級討伐の証人が増えた事に大満足の里奈だった。
〜王宮では⋯〜
陛下の執務室では、両陛下にリチャード殿下。
ベリル宰相、ナサニエル大司教、何故かフィッセル侯爵がいる。
ライアン殿下は両陛下に、この先の話をしヤービスの話を聞かせた。
あの瘴気と魔物が獣人国の仕出かした事と知るや、激昂した。
居た堪れないヤービスが謝罪するが、ヤービスは陛下に「そなたが謝る事ではない!」と、説教をされていた。
謝るヤービスを、陛下は不憫に思うのだった。
同じ王族として、なんたる為体なのだ。
番とは産まれた我が子を慈しむ。と、聞いていた。なのに⋯⋯。
王妃様も同様にヤービスを憐れんだ。
「ヤービス様。貴方は国に帰りたいですか?」
王妃様の質問に、首を振るヤービス⋯⋯。
「フィッセル侯爵。彼らを呼んで参れ。」
陛下の言葉に、侯爵が隣の控えの間に向かうと扉を開け誰かを招いた。
ヤービスは勢い良く駆け寄ると、その人物に抱きついた。
「クーロ⋯⋯。クーロ宰相⋯⋯。」
彼は獣人国の元宰相と処罰を受けた重鎮達だった。
「ヤービス殿下。お元気で良かったです。」
2人は暫し抱き合い、再会を果たした。
たが、何故宰相達がここにいるのか理解出来なかった。
ライアン殿下が、「陛下はどこまでご存じなのですか?」
そう問いかけた。
「ここにいる者が揃い、全てが解っただけだ。」
話を聞くと、クーロ宰相はフィッセル侯爵と知り合いだった。
古代の魔術書を渡した人物であった。
アルスタ王国の知り合いとは、フィッセル侯爵の事だった。
侯爵は状況が良くないと判断し、自ら転移して宰相や重鎮の貴族をアルスタ王国に連れてきて侯爵邸で匿っていた。
ライアン殿下は、ヤービス殿下を匿う里奈から話しを聞いた。
陛下は、三色持ちの王子が行方不明なのは勿論知っていた。
しかも、獣人国の王妃の企みだとも。
ただ、ローブの男や魔物の話は情報を得る前に、危険を察知した諜報部が撤退した為、得てはいなかったのだ。
長いテーブルを囲い、お互いの知る情報を出し合う。
侯爵がヤービスに話しかける。
「ヤービス殿下。一つ質問しても?」
ヤービスは頷いた。
「ローブの男は、名前を言ってましたか?」
「王妃が、ゴッドローブと呼んでいました。」
その名前に、フィッセル侯爵の顔が険しくなる⋯⋯。
ベリル宰相が、
「侯爵。聞き覚えがある名前か?」
侯爵は頷き、皆の顔を見る。
「メイソン元伯爵が口にした主の名前だ。」
全員固まる。
「死んだ筈の聖国の筆頭魔術師の名前だ。」
そんな⋯⋯。
「では、愛し子様を狙ってこの様な事をしたとっ!」
陛下が怒りの声をあげる。
「ゴッドローブは、女神様を恨んでいます。愛し子様を狙い女神様への報復としたいのでしょう。恐らく、彼を匿う何者かも同じでしょう。」
「対策はどのようにするのだ?」
『対策等いらぬ。里奈と我が仕置をするからな。』
声と共に白狐が現れた。
「白狐様。我らが出来る事はありますか?」
『あるが、それは里奈から聞け。ここで話しをしても意味はないぞ。里奈と話をし、決めろ。』
『獣人の宰相達は白の宮に来い。
ライアンがヤービスと一緒に連れてこい。』
白狐は一方的に話しをすると、帰って行ったようだ。
「ライアン。そなたの申し出は全て受け入れる。息子が決断した道を塞ぐ事はせぬ。愛し子様と共に、我が国を頼む。」
陛下の言葉に、殿下が一粒だけ雫を落とした⋯。
「愛し子様と共に、アルスタ王国の為に尽力致します。」
ライアン殿下は今をもって王族ではなくなったのだ。
ライアンは家臣として、片膝を突き礼をとった。
両陛下は息子の成長を喜ぶが、王族から離れ家臣になる姿に痛む思いを隠した。
両陛下よりも、泣きたくなる程の嘆きを隠しているのはリチャード殿下だ。
王太子となる兄を尊敬し、目標として来たのだ。
王族を離れる。家族ではあるが、公では兄は家臣の一人となる。
大きな隔たりが出来てしまった。
国の為にと共に学んだ事は無駄にはならないし、無駄にさせない。
兄が選んだ道を正当化させるには、自分が認められる王太子にならなければならない。
家臣の礼をとる兄を、リチャード自身も覚悟を持って見つめた。
先に両陛下、リチャード殿下が退出した。
ライアンは息を一つ吐き出し、ヤービスを見た。
「白狐様が言われた通り、皆さんで帰りましょうか。ベリル宰相には里奈さんとの話し合いの日程を決まり次第送ります。」
ライアンがヤービスの手を取り、全員で白の宮に帰って行った。
「侯爵の予測は当たってしまいましたね。」
「そうですね。」気も漫ろに返事をする侯爵だが、
「愛し子様との話し合いに、私も参加させて下さいね!」
ニッコリ提案された。
また侯爵が関わるのか⋯⋯。うんざりするのは毎度の事。
フィッセル侯爵は、宰相の返事を聞く事なく帰って行った⋯⋯。




