68話: 平和ってなんだろう⋯⋯
里奈達は今日は街に行く。
ずっと働き過ぎの里奈に、何かやりたい事を聞くと「栗拾い!」と、即答された。
ヨーク領の事が片付かない為、また後日となる。
ならば、「街をぶらぶらしたい!」だった。
黒髪黒目は目立つ。
カツラはあるので、何とかなるのだが瞳の色だけはどんな魔術でも「黒」を消せなかった。逆も然り。
おこたに入り、里奈は白狐に愚痴っていた。
「街に行きたいけど、目の色が変えられないのよ。アル達は変身魔術で髪も目も変えれるのに⋯⋯。」
『仕方あるまい。愛し子を謀らせぬ為に黒は誰も使えぬからな。』
「解ってるけど⋯⋯。」
頰を膨らませる里奈の頭をアルバートが優しく撫でる。
「あのさー。眼鏡ってこの世界にある?」
ヤービスが聞いて来た。
里奈は解らないので、アルバートに視線を向けた。
「眼鏡はありますよ。女性用は少ないですが。買いに行って来ましょうか?」
「でも、眼鏡かけても私の目の色は隠せないわよ?サングラスでも、横から見えるし。」
「サングラスじゃないよ。レンズに魔術を施して、相手からはその色にしか見えない様にするとか。術式を組み合わせれば、作れそうだからさ!」
アルと里奈はヤービスを見た。
「採用!! ヤービスは直ぐ作れそう?」
「多分ね。何個か術式が頭に浮かんだからね。」
「では眼鏡を買って来ますね。」
アルバートは転移して、買い物へと行った。
「アルバートが帰ってきたら、魔術を施してくれる?私はお昼ご飯を作るわね。」
食い気味に、
「里奈さん。お昼のメニューは!?」
ヤービスは、すっかり里奈の料理の虜だった。
「今日は、親子丼よ!白狐も青龍も丼物は食べやすいしね!」
ヤービスは親子丼を思い浮かべ、ニヤニヤしながらアルバートの帰りを待っていた。
里奈は台所で料理をしながら、居間から聞こえる2人の楽しそうな魔術論の会話に喜んでいた。
ヤービスとアルバートは仲良くなり、友達になったみたいだしね!
「ご飯にしまーす!!」
お盆に乗せた丼をヤービスが率先して受け取り並べる。楽しみにしているのが顔をみれば良く解る。
親子丼も好評で、白狐や青龍も喜んでくれた。
食後のお茶を飲みつつ、完成した眼鏡を渡された。
「色を浮かべながら、この小さな魔石に魔力を入れれば端からは指定された色に見えます。指定範囲を頭全体にしたので、どの角度からでも大丈夫です。」
里奈は眼鏡をかけて、色を浮かべる。
ブルートパーズの色に。
アルはその瞳を見た途端、里奈をギュウギュウに抱きしめる。
里奈は笑いながら「お揃いよ!」
アルバートは嬉しすぎて言葉にならず。ただただ抱きしめていた。
「アルバートさんには、これをあげるよ。」
ヤービスが渡したのはサングラス。
アルバートは真っ黒い眼鏡を不思議そうに見る。
「さっき話しに出た、サングラスだよ。太陽の光避けだね!」
アルバートがサングラスをかけると、それはそれは格好良かった!!
里奈はヤービスと黄色い声をあげ、褒め称えた。
「じゃあ白狐、いってきまーす!」
街へと宮から歩いて行く。
そう!!歩いて!!
いつも馬車か転移だから、歩いて宮から出るのは「初」の出来事。
気分は浮かれてます!
「ヤービスも耳を隠したら普通よね。
3人で色々見て回ろうね!」
王宮を出るのにも距離はあるが、里奈は気にせず歩いて行く。
街の中心まで、のんびり散歩気分で歩き出した。
街の中心はとても賑やかだ。
昔のヨーロッパの絵に出てくる風景に近い。
「凄い人だね。お店をまず見て回ろうか!」
初めて見る食材や、衣類。こうして見て回ると、この世界の事を自分は全く知らない事に気が付いた。
(王宮にいるからか、不自由のない生活に慣れすぎたのかもね⋯⋯。)
日本の里山で生活していた時は、ほぼ自給自足に近かった。
今は何もせずとも生活していける⋯⋯。
落ち込む様子の里奈にアルバートが「何か気になる?」優しく問いかけられた。
ヤービスも里奈の様子を気にしていた。
せっかくのお出かけなのだから、気持ちを切り替えた。
「大丈夫。歩き疲れたみたい⋯ごめんね。」
「そこのパン屋の前で休憩しましょうか。」
パン屋さんで飲み物を買い、軒先の椅子で休憩を取る。
「アル。聞いても良い?この街には喫茶店とかはないのかな?」
解らない単語に、
「喫茶店?ですか。それは何です?」
「紅茶とか、果物の飲み物をだしてお店の中で休憩できる場所で。お菓子とかを食べながら休憩したり、恋人や友達と過ごしたりするお店?」かな?
「その様なお店はないです。食事があるお店でこの様に休憩したりですかね。」
「ヤービスの国にはある?」
「ん~。多分なかったと思う。余り街に行った事はないけど。喫茶店の様なお店の話題は聞いた事は無かったかな⋯⋯。」
「そうかぁー。」残念。
「リリはそのお店が良かったのですか?」
「恋人とか友達と仲良く行ってみたかっただけよ。気にしないでね。」
少ししんみりな空気になりかけたが、不意に聞こえた会話によって空気が変わる。
「また裏にいたわね。可哀想にね。」
「そうね⋯。可哀想には思うけど、何もしてあげれないわ。余裕なんで無いもの⋯⋯。」
「死なないといいわね⋯⋯。」
(何?その会話⋯⋯。)
里奈は2人の女性を追いかけ話しを聞いて来た。
「アル、ヤービス。付き合って欲しいの!」
2人の手を引き、街の裏通りまできた。
そこには、十人くらいの子供達がゴミを漁っていた⋯⋯。
子供達は里奈達に気付くと、殴られると思ったのか頭を抱き込みしゃがみ込んだのだ。
その姿でこの子達の背景が理解出来る。
ボロボロの服に、痩せた体。ゴミを漁る姿に胸が痛む。
(泣くな!泣きたいのはこの子達だ!)
里奈は必死に涙を堪えた。
「君達はお家はないの!?」
抱き込んだ腕の隙間からこちらを見る。
一人の男の子が小さく頷いた。
「全員、帰るお家が無いのね。」
「良かったらだけど、私の家に皆おいで!一緒に皆で帰ろう。」
そう伝えると、ビックリしたのか全員が顔を上げた。
皆でお互いの顔を見て、悩んでいる。
「私は里奈よ。愛し子って呼ばれてるわ。」
カツラを取り、メガネを外した。
子供達は指を差したまま動かない。
「変な人じゃないのは解ってくれるかな!?一緒に帰る子は、前に並んで下さーい!」
元気に軽口で呼んだら、全員一列に並んだ。
私は笑いながら、「皆で手を繋ぎますよ。」
「私の後ろのお兄さん達も一緒に帰るからね。」
全員で宮に帰って行った。
宮の中庭に転移すると、子供達は大興奮だ!
「転移は初めて?」
里奈を見つめコクコク頷く。
中庭の騒がしさに侍女のサーシャとマーナが出て来た。
沢山の子供がいる事に驚くマーナ。
「里奈さん。誘拐ですか!?駄目ですよ!?」
と、冗談を言うサーシャに
「孤児を保護するわ。まずはお風呂ね。
宮のお風呂だと狭いから、中庭に造ろうかしら。お天気良いしね。」
里奈は日本の露天風呂をイメージして、土を固くしお風呂を作る。魔術紋をお風呂の縁に縫い付けると、そこからお湯が出て来た。
子供達は、「大きな池が出来たよ!」
手を入れると、「あったけー。」と、手で掛け合いを始めた。
「サーシャとマーナは子供服を買って来て。アルはサーシャ達を転移で連れて行って欲しいの。」
アル達は直ぐに行動してくれた。
(何も聞かずに協力してくれる⋯⋯。感謝しかないわ。)
「これはね、お風呂よ。全員で入れるから遊びながら体を洗ってね。」
少し小さめのお風呂を作り、そこには石鹸を溶かして泡を作りその中でゴシゴシしてもらう。
シャワーを作り、泡を流し終えたら露天風呂に入れる。
ヤービスをこき使い、一緒に子供達を洗う。
全員を洗い終える頃にアル達が帰ってきた。
魔法で温風を出し乾かす。
転移で宮の居間に移す。
サーシャ達には着替えをお願いした。
「全員いるわね。これからのお話をしたいけど、いいかな?」
いーよー!!
と、元気な返事が返ってきた。
街で見かけた時よりは子供らしくなった。
話しを聞くと、魔物に両親が殺されたり。生活に困った為に捨てられた。
事情はそれぞれだった。
「街には他にも同じような子供はいた?」
全員が小さく頷いた。
でも居場所は知らないらしい⋯⋯。
「今日からは、ここに泊まるのよ。」
喜んでくれると思ったけど、嫌がられた。
理由は、物を壊したら怖いと⋯⋯。
大丈夫と言っても無理だった⋯⋯。
「じゃあ、気にならない家なら住んでくれる?中庭にちょっと行こうか。」
子供達を連れて中庭の端に行く。例のきのこの家を造った。
これが子供達に大人気だった。
家の中をとりあえず造り住めるように整えた。
家を気に入り、引きこもって出て来ないので、暫く放置する事にした。
「この国には、孤児院はないの?」
「あるにはありますが、魔物のせいで地方から王都に捨てに来るのです。孤児院も、空きがないのでしょう⋯⋯。」
「孤児院の経営は国かしら?」
「そうです。孤児院の状況は悪くない筈です。陛下が不定期で視察に直接行ってますので。」
驚く私に
「誰かに予定を話すと、その時だけよく見せる⋯⋯。昔あったようで、陛下はそれから密かに自身で視察しているようです。」
「国もちゃんとやってるのね。でも、地方が豊かにならないときりが無いのね。」
「王都は街を見てると活気があるのがわかるわ。
それだけに、地方の事が見えにくいのかもしれない。私も街に出てこの世界の事を何も知らない事に気が付いたの。」
(リリが落ち込んだ様に見え理由はそれでしたか⋯⋯。)
「そうですね。王都からは見えない物は沢山ありますね。」
「ヨーク領程じゃなくても、状況を隠す貴族はいるのかしら。瘴気が発生する事を知られたがらない人もいると聞いたし。」
「あの子達を見て、私が日本で自給自足て、暮らしてた事が役に立たないか考えてたの。」
「場所さえあれば、やってみたい事が浮かんで⋯⋯。」
アルバートは里奈の手を取り、しっかり伝える。
「リリ。貴女がやりたい事は、私や側付き達が一緒に考えます。何か思う事があれば、ちゃんと相談して下さい。」
「貴女の力になる。その為に私達は貴女の側にいるのですから。」
頰を伝う涙をアルバートが優しく拭う。
「ありがとう。私はこの世界に来て幸せよ!」
微笑む里奈は美しかった。
心優しき愛し子様に見つけられた子供達。
その未来を共に見つけたい。
側に控え、話しを聞いていたサーシャもマーナも心でそう思う⋯⋯。




