67話: 地位向上は何をする?まずは喧嘩を買おうかな!
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褒賞を賜った者の中で、サーシャが1番驚いていた。
(女性騎士!?嘘でしょ!)
宰相の声も聞こえなくなり、ただ里奈を見つめた⋯⋯。
里奈と目が合うと、意味深にニヤリと小さく笑われた。
何も聞かされていなかったのだから、驚くに決まっているのだ。
何かの位を頂くのは予測していたが、騎士とは⋯⋯。
1番望み、1番遠くなった位を賜ったのだ。
涙を堪えて、里奈を見つめていた。
褒賞の話も終わり、周りは各々会話やダンスに興じ始めた。
サーシャは呆然としたまま、動けずにいた。
パトリックはサーシャを気遣い、側にいる。
「サーシャさん。大丈夫ですか?」
問いかけると、サーシャは顔だけパトリックに向け「夢じゃない。現実よね?」
「現実ですよ?騎士になれて、良かったですね。」
その言葉にサーシャが頷いた。
「ですが、サーシャさんはこれから1番頑張らなければなりませんよ?」
パトリックが意味有りげに問いかけてくる。
「里奈さんの為に頑張るのは当たり前ですが⋯⋯」不思議がるサーシャに。
「今回の褒賞で1番低かったのは、サーシャさんです。貴女が侍女だからとかは、関係無いそうです。
その意味が解りますか?」
サーシャは自分が侍女だからとは思ってはいない。
皆と同じ褒賞を貰えるとは少しも思っていなかったからだ。
フルフル首を振る。
「本来なら、副団長ではなく団長の位で有るべきですが。
里奈さん本人が位の位置を下げたのです。」
「里奈さんが以前言いましたね。全てと闘う気持ちは有るか。と⋯⋯。」
「里奈さんは、とりあえずサーシャさんを騎士の立場への計らいを付けた。と⋯⋯。
最後の一手は、サーシャさん自らの功績をその実力を以てして手に入れて欲しいそうです。」
パトリックが事情を詳しく知っている理由は、里奈の信頼する最強の護衛騎士だからだ。
里奈はサーシャを高みに登らせる為に、パトリックにサーシャを預けたのだった。
「サーシャさんはどうしますか?より高みを目指すならば、私が指導しますよ。」
サーシャは涙を目に溜めたままパトリックを見つめる。
「宜しくお願いします。」
と、頭を下げた。
床に落ちる雫を、パトリックは眺めた。
(この人を高みにあげる理由は、女性の地位向上の布石。サーシャさんの涙は夢を諦めざるを得ない女性の涙なのだろう⋯⋯。)
「里奈さんは女性の地位向上を行うそうです。サーシャさん。里奈さんの役に立って貰いますよ。」
サーシャは微笑み
「勿論です。里奈さんの為にも、女性達の為にも頑張ります。」
女性騎士を目指す者がサーシャの元へとやってくる。
初の女性騎士団長になるのは、直ぐの事だった。
〜❀✿〜
褒賞の話は、貴族から民へと話が広まった。
殆どの者が「沢山の魔物と戦い、ヨーク領を救った英雄達なのだから当然である。」
そう認識している。
だが⋯⋯。
自分達より上に立たれた者は、納得いかないようだった。
『人の欲とは浅ましいな。』
「仕方ないわよ。全てを納得させるのは無理なのよ。欲深いのが人間でしょ?
でもね、欲深い人間を強制的に納得させる事は出来るわよ?」
白狐と里奈の会話は真っ当な会話に聞こえるが、里奈の雰囲気はかなり不機嫌丸出しである。
里奈とナタリーにエミル。そして、何故かサーシャまでが馬車の中にいた。
「里奈さん。何故侍女の私まで王宮に行くのでしょうか⋯⋯。」
この3人は、「動きやすい服装で来て。」
その伝言だけを伝えられて⋯⋯今に至る。
「予想だけど私に喧嘩を売ってきたみたいだから、当然買ってあげるのよ!?」
噂は耳に入ってくるのよね。
里奈が軽く言う。
(((喧嘩売ったのはどこの誰よっ!!)))
3人が考え込むが予測出来ない為、諦めた。
着いたら解るだろうと⋯⋯。
4人が来たのは、謁見の間の扉の前だ。
ナタリー、エミル、サーシャは青褪める。
嫌な予感しかしない。
「愛し子様が到着されました。」
騎士の声を合図に扉が開いた。
壇上の上には陛下達。
その手前には、各団長や副団長。
それに、例の聖女4人がいた。
ベリル宰相が里奈を見て、申し訳なさそうな顔をする。
陛下も額に手をやり、この状況に悩んでいるようだった。
ベリル宰相が説明をしようとするが、里奈は手でそれを制した。
「説明は結構です。褒賞に文句を付けに来た。そして、陛下達は公平な話し合いをする為に見届人として、高位の貴族当主を呼んだ。」
そう宰相に問いかけると、宰相が頷いた。
「はっきり言います。貴方達では、ナタリー達の足元にも及ばないのよ?
そうね⋯⋯。話だけでは埒が明かないから、体験してもらうわ。」
「この場の全員を強制的に転移します。」
返事などさせる訳なく、捲し立てる会話の直ぐ後に全員転移させられた。
転移させられた者は呆然としていた。
魔物討伐のど真ん中にいるのだから。
ヨーク領に近い辺境で、大きくはないがスタンピートが発生していたのだ。
セシーが毎日行う索敵で国にある瘴気を探る時に発見したのだ。
直ぐ様、教会の騎士団とアーグ、セシー、ガルズ司祭が討伐隊として辺境の騎士と共に討伐に向かい戦っていたのだ。
「この場には結界があります。陛下達は出ないように。そして、私の褒賞が間違いかどうかの判断を目で見て確かめて頂きます。」
陛下達は頷き了承した。
「突然連れてこられて、戦えるか!!」
「そうよ。私達は聖女よ。戦場には行かないわ!!」
「何を言ってるの?魔物が前もって出現を教えてくれるとでも?
予告がないと、アルスタ王国の騎士団は戦えないと⋯⋯。
それに、聖女は戦闘しなくても一緒に戦えるのよ。知らないの?
だから貴女はアーグやセシーより下なのよ。」
嫌味が出るわ出るわ⋯⋯。
団長達も、聖女達も馬鹿にされ言い返そうとするが、
「ナタリー達を出すわ。」
その一言で3人は頷き自身の剣を手元に召喚した。里奈の転移と共に魔物の群れへと討伐しながら消えて行く。
里奈は3人が討伐に向かうその背を見送ると、団長達や聖女達を見つめた。
ニッコリ微笑み⋯⋯。
「いってらっしゃい。防御の結界を張ってあるから、死にはしないわよ。」
言った瞬間、結界の外に団長達や聖女達を放り出した。
「前回の討伐の魔物より小さい魔物ばかりだし、数も少ないわよ?
文句を言うくらい実力があるのなら、殲滅してみせなさい!!」
愛し子様からの圧に耐えられない上に、魔物が襲いかかってくるのだ。
各々急ぎ戦闘を開始した。
里奈はその様子をじっと見ていた。
ぽそりと、「弱いわね⋯⋯。」
陛下達や当主達は居た堪れない気持ちでいる。
目の前で戦う者は、国の頂点の騎士団長や近衛隊長。それに聖女達なのだから⋯⋯。
里奈は気不味そうな雰囲気を察知した。
「側付きやアーグ達はね、ヨーク領に着くまで私からこうやって一日中休む間もなく、瘴気と魔物の群れに転移させられて戦っていたの。
何度も何度も転移しては浄化と討伐を繰り返してね。じゃないと、死ぬから。
死なせない為に何度も戦わせたわ。」
陛下達を見ながら、
「側付き達は、地獄の討伐。暗黒里奈。そう呼んでたわね!」
「地獄を知らなければ、魔物とは戦えない。
王都で偉そうに吠えるしか出来ない駄犬はいらない。」
それだけよ。
里奈は視線を戻し、団長達の戦いを見る。
手を出してはいるが、討伐までには至らない。
ナタリー達は、アーグの聖魔力の中で見事に討伐して行く。
セシーの範囲固定魔術を使い、的確に魔物
を追い詰める。
ガルズ司祭はアーグとセシーの魔力の安定を補佐している。
突然の乱入者に取り乱す事無く、素早く対応している。
しかもアーグは団長達にまで聖魔力を伸ばし助けていた。
「実力の差があり過ぎて、話しにならんな。」
陛下の一言に高位貴族達も納得している。
里奈は団長や聖女達を結界に戻した。
「話しにならないわ。突然連れてこられたにしても、お粗末過ぎるわよ。
外に居る者は突然飛ばされても、やり遂げるわよ!?私がこうやって教えたから。」
「褒賞を渡した者達はこの数倍の大きさと、数十倍の数の魔物をヨーク領で討伐したわよ。
貴方達が誰を相手に文句をつけたのか、その目でしっかりと見なさい。」
ナタリー達3人は踊るように、剣を振り討伐して行く。
その中でもサーシャは1番強かった。
辺境や教会のどの騎士より、強かったのだ。
里奈はパトリックをいきなり転移させて呼び出した。
「里奈さん。どうされましたか?」
「サーシャの戦いを見て欲しかったの。後、奥にいるS級手前のA級がこっちに来てる。パトリックにお願いしたいの。」
パトリックは里奈の意図を察知した。
(皆の前で奥の魔物を狩れ!と。)
パトリックはサーシャの動きをじっと見ている。
これからの指導の為に確認して行く。
セシーが里奈に視線をやる。
里奈は声に魔術をかけ、
「S級が来ます!!全員転移させます。」
外で戦闘中の騎士達を転移させた。
「パトリック!」
その言葉で、パトリックは外に転移した。
森の奥からは、濃い瘴気が流れてきている。
魔物が姿を見せた。前回見た牙の長い魔物だ。
瘴気を纏い、S級寸前までになっている。
パトリックは魔物の前に転移して、空中へと跳躍した。
剣を抜いた瞬間。魔物の首が落ちた⋯⋯。
結界の中は誰も言葉を発しない。
目にした光景が信じられないのだ。
「これで理解出来たかしら?戦いを知らない貴方達では、私が選んだ者達の足元にも及ばないって事が。」
里奈は誰の顔を見ること無く、ただパトリックを見ていた。
振り返った里奈は、
「ガルズ司祭、聖女達。それに騎士様達には、迷惑をかけました。」
と、神力をかけ治癒を施した。
「私に喧嘩を売ってきたから買いました。貴方達は喧嘩に負けた。」
団長達や聖女達を見る。
「喧嘩をすればどちらかが負けます。今回は負けた相手に罰は無し。
でも、貴方達が負けっぱなしで良いのか。
その答えをいずれ見れるのか。
それとも、尻尾を巻いて逃げるのか。
先が楽しみですね!」
最後まで嫌味満載で優しくない愛し子様に、内心恐れる。
(怒らせては絶対にいけない!!
側付き達は愛し子様の逆鱗なのだな!!)
全員が心の中でしっかりと確認をした。
ガルズ司祭だけが、心の中で里奈に賞賛を送っていた。
「褒賞に文句は!?」
「「「「ありませんっ!!」」」」
大声で答えると、里奈は森の浄化を一瞬で行った。
森が瞬時に再生して行く様を見て聖女達が驚いていた。
「驚いているけど、これくらいアーグはやるわよ。貴女達との実力の差って凄いのよ。」
聖女達は俯いて行く。
そんな事など気にせず、里奈は連れてきた者達を全員転移して王宮へと戻って行った。
残された者は、キョトンとなる。
騎士達は意味が解らない状態だった。
「状況からして、愛し子様の褒賞に不服を陛下達に訴えた。団長クラスや聖女達がな。
愛し子様は説明するより体験しろ。と、討伐中のここに連れてきたって感じだろうな。暗黒里奈だからな!!」
清々しい笑顔でガルズ司祭は笑う。
(これで少しは聖女達もまともになるだろう。)と⋯⋯。
王宮に戻った里奈達だが、私は暇じゃない!
の一言を残して、さっさと皆を引き連れて転移で帰ってしまった。
「これで愛し子様が何度も口にされた、戦場を知らない⋯⋯。あの言葉を少しは、理解出来たでしょう?」
宰相が声をかけた。
力なく頷き、訴えを下げた。
「自分達の実力のなさに、不甲斐ない思いしかありません。ですが、まだ強くなれる。民を国を護る為に精進して参ります。」
騎士団長が深々と頭を下げた。
他の者も思う事があったのだろう。同様に頭を下げ退出して行った。
陛下や高位貴族は、愛し子様の厳しさを目の当たりにした。
だが、それは大切な者を護る為の厳しさだとちゃんと認識している。
アルスタ王国が平和であるのは喜ばしい事ではある。
だが瘴気も魔物もいるのだ!そう実感出来た。
呆けてる場合ではない。身を引き締めさせられた出来事だった⋯⋯。




