6話: 宰相執務室にて
アルスタ王国の宰相ベルメアは、会議の間を急ぎ足で退出して行く。
扉が閉まると同時に側近に指示を出す。
「直ぐにでも議会は終了するであろう。フィッセル侯爵を宰相執務室まで来て頂ける様に話をつけろ。」
ベルメア宰相は急ぎ足ながらも指示を出す。学園の理事長に、社交界に君臨する家門に。
それぞれ優秀で気質の穏やかな者を選定してもらうよう指示をだす。
乙女が成人していなければ学園から。
成人しているならば社交界から。
と、選定に必要な指示を出す。
若者を急ぎ選定する理由を付け加える。
急な他国からの復興視察があると。
視察にこられるのは、高位貴族の子息息女である為、年齢の近しい者を選定していると。急ぎ指示を出す。
乙女は王宮にて生活して頂く事となるだろう。
教会の儀式にて顕著されるが、護衛する観点からは日夜人が出入り出来る教会は安全ではない。
我が国において重要人物になり、民や我々貴族にも希望となるお方なのだ。
しかし皆が皆、乙女を大切にするかは解らない。私利私欲に奔る者もいるやもしれん。
国が乙女を大切にすれば、嫉妬や妬みをぶつけられるやもしれん。
(聖女のような悲話等、絶対に起こしてはならないっ。)
そう心に誓い、見慣れた執務室へと入る。
机に積まれた書類を全て無視し、明日の儀式について考える。
儀式の流れがどうなるのか。
教会に詳細について報告を貰うしかない。
教会に明日の儀式について詳しい者を執務室に来て貰う様に指示を出す。
乙女の住む宮は両陛下が指示を出すであろうから指示はいらぬか。
生活に必要な物も両陛下の指示があるだろう。
一応両陛下に確認をして頂くか。
とりあえず指示出来る事はこれくらいか。と考えていると、執務室の扉がノックされる。
補佐官が扉に向かい
「フィッセル侯爵がおみえです。」
そう告げる。
直ぐに椅子から立ち上がり入室して頂く。
侯爵と先程同席した側近以外は退出を促す。
ソファーへと侯爵を案内し向かい合わせで座る。
「明日顕著される乙女について色々お聞きしておきたい事があるが、宜しいか。」
侯爵はじっと私の目を見つめる。
ふと、放った言葉が以外な内容だったのだ。
「私の持つ知識を宰相に使う代わりに、私の息子のアルバートを選定者の中に入れて貰いたい。」
「はぃ?」
間抜けな声が出てしまう。
いやいや、仕方ないのだ!!
他人に興味がないこの男が、他人に頼み事をするなどありえないのだ。
聞き間違いも有り得ると、こちらから聞いてみる。
「先程の言葉だが、ご子息を選定者に組み込めと言われましたかな?」
「……。」
片方の眉を上げ、少し睨まれた。
が、侯爵は小さく頷く。
「我が家門。特に嫡子は知っての通り自分の興味ある物以外には関心がない。感情もほぼ揺れ動く事はない。」
側近の1人が紅茶を2人の前に出した。
側近が後ろに下がり、侯爵がゆっくりと口にする。
美麗な顔と相まった上にその所作は実に見事。
私も一口口にする。
器を置き侯爵に視線をむけた。
続きを視線で促す。
「息子は私以上に関心を持たないのだよ。それは、家族であってもだ。」
「私は妻に出会う前まではそれなりだが家族とは一緒に過ごし交流はあった。父も私と同じ様なものだ。」
「しかし、息子は感情が全く無いように見える。宰相殿も知っているだろうが、我が家門は伴侶になる者に異様に執着するらしい。自分は普通にしているが、周りが言うには違うらしい。」
と、紅茶を口にしつつチラリと私を見る。
返答の仕様がない私は、そっと視線を外した。
「そのご子息を乙女の側に置けば何か変わると言われるのか? ご子息の事は私も気にはなるが、それだけでは選定者には選べない。」
侯爵も解ってはいるのだろう。また小さく頷く。
「息子を勧めるこちら側の理由がそれであって本題はそこでは無い。」
私が不思議そうに首をかしげると侯爵はとんでもない事を、いや先程よりも上回る事を口にした。
「息子は女神様からの言を貰っている。」
「………ッ!!」
私も側近2人も息を呑む。
執務室に異様な緊張が奔る。
「女神様はなんと仰せだ?」
3人は喉をゴクリとならし、体の緊張を解こうとする。
「息子が言うには、『乙女を慈しみ支える者とする。』と。」
我々が選ぶ選ばない関係なく、女神様により選定者に確定してるという事だ。
「ご子息は何と?」
「息子は淡々と私に伝えただけだ。」
だが、疑問が残る。いつ言を貰い、いつ侯爵に伝えたのか。
眉間に皺を寄せ侯爵の意図を探ろうとする前に……
「あ〜。そんな時間がいつあったのか、気になるのであろう。息子は王城での執務の最中に意識に流れて来たらしい。私が議会の間から出た際に声をかけてきた。」
側近に目配せをし、侯爵を案内させた側近に確認に行かせる。
私の行動を嫌忌する事なく、侯爵は残りの紅茶を口にした。
側近に2杯目を注がれ、違う銘柄の紅茶を品よく口にしていた。
急ぎ戻って来た側近からは是の頷きを受け取った。
これからの侯爵とのやり取りに気持ちはズンと一気に重くなる。