46話; 愛し子様のお披露目と婚約
神殿の1番広い場所は、先日処罰が行われたあの広間だ。
処罰に参加した者は少し居心地が悪そうだ。
この国のほとんどの貴族が参加していた。
それ程、愛し子様の顕現は喜ばれていた。
女神像の前にナサニエル大司教が現れた。
広間には静寂が訪れる。
いよいよ愛し子様が大勢の前にお披露目されるのだ。
静かになる広間に突然真っ白な光が放たれた。
眩し過ぎるその光に目を閉じる。
光が止んだと感じ目を開け祭壇を見ると、黒髪の少女が現れていた。
腕には白い子狐を抱えていた。白蛇は近い者しか視界に捕らえられていない。
愛し子様に全員が儀礼の礼をとる。
全員が膝を突いたそれは、荘厳な景色であった、
以前の里奈ならぱ恐縮したであろうが、今の里奈は少し違う。
傅かれるのは嫌うが、場を理解しているのだ。
「皆さん。初めまして。藤井里奈と言います。性が藤井で名が里奈です。
愛し子として女神様よりこの国に来る事となりました。役目を果たせるように力を尽くします。」
頭を下げるのではなく、カーテシーをした。
宮にいる仲良い者は仕方ないとしても、公の場では絶対にダメ!!と
ナタリーに厳命されていた。
カーテシーは、実は王妃様から直接教わったのだ。
もし何かしら言われても、教育は王妃様から受けたと言えば立派な盾になる。
ナタリーの策略である。里奈の為にと、何でも誰でも利用するナタリーを少しだけ里奈は心配する。
王妃様直伝のカーテシーは美しく披露された。
「女神様のもとより来られ、愛し子様には暫く療養して頂いておりました。
全て万事整い、本日のお披露目となります。
愛し子様に、これからも深い敬愛を捧げて参ります。」
ナサニエル大司教が膝を突いたまま言葉を発し、再び礼をとる。
一斉に礼をとられ、里奈の心は逆に怖くなる。
アルバートと白狐は、里奈の心境に気が付いた。
アルバートは里奈の顔を少し覗いて「大丈夫ですよ。上手く出来てました。私と白狐様がついてます。」
優しく伝えてくる。
白狐は、尻尾を腕にフワリと絡めて、トントンしていた。
落ち着いて来た里奈は小さく深呼吸をした。
「皆さん。ありがとうございます。
その気持ちに応えられるよう尽力します。
顔を上げて下さい。」
皆が一斉に顔をあげる。
里奈はまた、恐怖に落ちそうになるがアルバートが手をキュッとしてくれる。
(アルバートと白狐がいなければ、パニックだったなぁ〜。)心の中で苦笑い。
「愛し子様のお披露目はこれにて。
この後は民へのお披露目となり、馬車にてお披露目となります。」
大司教の言葉で、お披露目は無事に終わろうとしていたが、
「また、夜は夜会が開催される。是非参加をして頂くように。」
会場の者は頷いている。
皆が嬉々として喜んでいる。
え?夜会って、聞いてないけど⋯⋯。
アルバートを見ると、ニコリとするだけ。
白狐は里奈を無視。
ならば!と、大司教、陛下、王妃⋯⋯。
全員が視線を気不味そうにスッと外す。
何かがある。
が、誰も言わないらしい。
まぁ良いか。悪い事にはならないと切り替えた。
『いったん宮に戻ろう。』白狐の呼びかけと共に宮に帰ってきた。
帰って来た宮には誰もいなかった。
アルバートが
「リリ。少し私にお時間を頂けますか?」
少し畏まって問いかけて来た。
里奈は頷いた。
アルバートが右手を差し出し里奈は手を添え歩き出す。
庭園を抜けた奥の庭にやってきた。
そこは、近衛達が里奈の為にと造った「かすみ草」の庭だった。
あの日の夜を思い出す。
消えない痛みが込み上げてくる。
今にも泣きそうな里奈をアルバートは優しく抱きしめ、背中をさする。
「里奈。あの日の夜、私は何も出来ない自分を消し去りたいくらい後悔しました。
里奈の泣く姿を見て、私は抱きしめる事も涙を拭う事も⋯⋯。
側にいる事すら許されなかった。」
里奈は腕の中から、アルバートを見上げた。
アルバートの泣きそうな顔をじっと見つめる。
「女神様から里奈のされた仕打ちを全て見せられ、許せない。殺してやりたい⋯⋯。そう思いました。」
ですが。
「女神様は、私のその怒りの気持を持つ事すら許さなかった。
当たり前です。私は里奈が甘えてくれる事に浮かれていたのですから。」
「里奈に会いたかった。でも、会わす顔がなかった⋯⋯。
里奈をあの時護り抜いたのは白狐様でした。何一つ里奈にしてあげれなかった自分が情けなくて。会えなかったのです。」
アルバートは涙を流しながら私の前に跪く。
里奈はアルバートの動きを目で追う。
両手を握りしめ
「アルバート・フィッセルは、藤井里奈を心より愛しています。
私と婚約してくれませんか?」
アルバートは里奈の黒く美しい瞳を覗き込む。
里奈はポロポロ涙を流しながら何度も何度も頷いた。
声にならない想いを伝えたくて、跪くアルバートに飛び込んだ。
アルバートは里奈を受け止め、優しく背中をポンポンする。
泣き止まない里奈の頬にキスを落とした。
ビックリして顔を上げた里奈に
「返事を頂けますか?」そう問いかけた。
里奈は深呼吸し
「はい。宜しくお願いします。」
そう返事を返した。
アルバートが顔を近付け、里奈の唇に優しくキスを落とし満面の笑みで
「ありがとう。里奈。」
と、伝え終えた瞬間。
宮から大勢の人が流れ出て来た。
「おめでとう。」「ようやくか。」等⋯⋯。
沢山の祝福の声を掛けて来る。
里奈はビックリして固まったままだった。
アルバートが里奈を抱えて立たせる。
ライアンが、
「上手く行って良かったな!」と、アルバートの背中を叩いた。
ナタリーは、
「白狐様が言われた、この場所で正解でしたね。この花は里奈さんの印象にピッタリですわ。」
ん!?白狐の言った通りとは!?
『里奈もアルバートも、あの日の夜にはそれぞれが心に負の感情を持っているであろう?
ならば、この場所で塗り替えれば良いと思ったのだ。』
皆は、白狐の里奈への愛情に敬服するしか無かった。
そして、白狐のアルバートへの気遣いにもだ。
アルバートが里奈を連れて白狐の前に立った。
儀礼の礼を白狐にする。
「白狐殿。里奈を護り支えて頂き感謝します。
私も共に護り支える事をお許し頂けますか?」
白狐に問いかける。
『お主は初手を間違えた。だが、後悔し自分より里奈の気持を優先させ己を律した。
それだけで、我は満足だ。
里奈と共に有ろう。』
白狐はアルバートに真っ白い神力を掛けた。
その光はアルバートの中に吸い込まれた。
アルバートは体を巡る冷たく、だが何処か温かい流れを感じていた。
(これが白狐様の神力か⋯⋯。)
『我の神力を授けた。この世界でも多少は役に立つ。特に里奈に関してはな。』
里奈は言われた意味を理解するが、アルバートにはまだ解らなかった。
『里奈がどこに居ても解る。感情の揺らぎも解る。便利だな。』
ニヤリと笑った気がした。
アルバートは、白狐の里奈への途方もない愛情に感服していた。
神だからかもしれない。だが、それだけでは無いのだ。
深い深い繋がりが、2人にはある。
そう確信する。
嫉妬など湧く気も起こらないほどに。
『白狐。そう呼べ。それに軽口で構わん。
里奈の婚約者だからな。』
驚いたアルバートだが。
「白狐。これからも宜しく。」
2人の会話は穏やかに終わる。
アルバートと白狐が里奈を見ると、里奈は両頬を膨らませ睨んでいた。
なにやら、怒っているらしい⋯⋯。
白狐とアルバートが顔を見合わせる。
お互い理由が解らないらしい⋯⋯。
「ずるい!物凄くずるい!!」
里奈は怒って、プイッと横を向く。
側付きの女性3人が里奈の側に行き、里奈を慰めている⋯⋯いや、していない。
肩を震わせ笑いを堪えている。
里奈はそれに気が付き
「貴方達!笑いたければ笑いなさいよ!」
そう叫ぶと、里奈に抱きつき笑い出した。
男性陣はキョトンとしている。
侍女やメイドはクスクス笑う。
里奈は女性陣を見ると
「そこまで笑う〜?」と今度は拗ねた。
サーシャが代表して説明する。
「里奈さんは、白狐様とフィッセル侯爵子息が仲良くなったのに嫉妬しているのかと。しかも自分抜きで信頼しあい、神力まで授けた。
白狐様に嫉妬し、ご子息にも嫉妬した。嫉妬が2倍になったのですよ。」
駄々っ子ですね〜。と。
里奈は罰が悪そうに俯きながら、
「サーシャ怖いっ。心が読める⋯⋯。」
サーシャは、
「里奈さんが解りやすいだけかと⋯⋯。」
せっかくの婚約話も、笑いの渦に消えていた。
里奈を始め、全員がこの幸せを国に世界に。
愛し子様の未来に幸せを。
そう祈った。
〜❀〜
女神は泣いていた。色んな理由で。
またもや、お披露目の出番を却下されたのだ。
真っ白い衣装なら、女神が天から神力を降ろし神力の色である紫に変えれば民も皆喜ぶ!!
と、着替え終えた里奈の側にいる白狐に、コッソリ問いかけた。即却下。
『白でなくなったら、多分里奈は泣く。泣かないにしろ、喜びはせぬ。』
そんなわけ!!
あった。危なかったのだ。結婚式の衣装の様だと喜ぶ里奈を悲しませる所だった。
白狐に感謝だな。
アルバートが婚約を申し込むのも、勿論知っていた。
沢山の花を咲かせよう!!
里奈は花が大好きだ!!
やはり、即却下⋯⋯⋯。
私の提案はことごとく里奈を悲しませるのか⋯⋯。
泣けて拗ねる。
が、やはり婚約申し込みの光景は感動した。
泣けてくる⋯⋯。
感情が大渋滞。
『また拗ねて泣いておるのか?女神の威厳は何処に置いてきたのだ。』
「⋯⋯⋯。」
『夜会に出番をと思ったが、要らない様だな。』
「申し訳ありません。白狐様。私はなにを致しましょう。」
(このやり取りは疲れるのだ。
だが、女神を扱いやすいのも事実⋯⋯。)
『夜会にそなたの出番を作ろう。
ナサニエルと話しをするから、暫し待っておれ。』
「宜しくお願いします。」
白狐の神力が切れた途端女神が、喜び踊りだしたのは言うまでもない。
夜会にて、里奈に関われる事を喜ぶ女神。
残念ではあるが、里奈を思う気持ちは強かった。




