26話: 里奈のこれからと、あの日の宰相執務室
ガルズ司祭が3人にお茶を出してくれた。
大司教と私とアルバートさんに。
里奈はアルバートの膝に乗せられたままだ。
アルバートが器用に里奈を避け、紅茶のお皿とカップを手にした。
器用だなぁ〜と感心していたら、里奈の前にカップが来た。
そう。アルバートは里奈に給仕までし始めたのだ。
里奈は「ありがとう」と素直に受け取り紅茶を飲むと
「ガルズさんの淹れてくれる紅茶はとっても美味しいのよ!」
だから飲んでみてとアルバートに勧めた。
ガルズ司祭はニコニコだ。
ムッとする。
他の男が褒められ嬉しくないアルバートは、カップを持つ里奈の手に自分の手を添えるとそのまま自分の口にカップを運んだ。
里奈は「美味しいでしょ?」と何事も無いように普通にアルバートに聞いている。
アルバートは初めて、里奈に対して口を開いた。
「愛し子様の言う通り。司祭殿はとても紅茶を淹れるのがお上手ですね。」
大司教と司祭は唖然とする。
この男が誰かを褒める等、天と地がひっくり返ろうと無いのだから。
大司教と司祭はもう何とも言えず、白けた目をアルバートに向けた。
今回最大のため息を吐いた大司教が、アルバートを無視して里奈に話しかけた。
「里奈さん。明日からの予定等を説明しますが宜しいですか?」
里奈は膝抱っこされたまま大司教と会話を始めた。
「とりあえず、明日までは里奈さんの体調も考えてお休みとしましょう。宮からは申し訳ありませんが警備の関係で出れません。」
すみません。と謝罪をする。
「大丈夫です。色々と考えたい事もあるので助かります。」
「明後日からですが、里奈さんには少しこの世界の事を知って頂きたく教師を手配しております。また、魔法や魔術を使え……。」
大司教は里奈が何やら興奮しているのを気に止め話を切る。
「里奈さん、何か質問がありましたか?」
そう問いかけるが、言葉に被せるかの様に里奈が話し始めた。
「魔法とか魔術を私も使えるの?
あっちの世界には無いからこの気持ちは楽しみ?って事よね。」
あと
「この世界の全ては女神様の記憶を貰ったから解ると思う。」
大司教は納得した。
儀式の後に気になった言葉の答えは、これであったのか。
「では、教師は止めますね。
魔法等の教師ですね。至急手配し……。
無くて良いでしょう。アルバート殿にたのみましょうね。」
里奈のみを見ていたアルバートが、大司教に顔を向けると満面の笑みで
「勿論!」
と良い返事をした。
「後は今日の儀式に参加した者が、里奈さんに会いたがっています。
機会を近々作っても宜しいですか?
愛し子様として、後々社交をして頂くのでその練習にもなると思いますよ。」
里奈は了承した。
「今日いた皆さんと会います。
私を快く迎えてくれたし、お礼も言いたいから。」
「王妃様にも会えますか?色々準備してくれたってガルズさんに聞いたから。」
王妃様に聞かなくても解る。
絶対に了承する。
「会えますよ。里奈さんにお礼を言われたらとても喜ばれるでしょう。」
少し申し訳なさそうに
「女神様が決められる良き日に愛し子様のお披露目となります。それまでは、他国の令嬢として王宮で過ごして頂くのですが。」
「黒髪は愛し子様と解ってしまう為、ベールを着用して頂く事になります。
申し訳ありません。」
大司教が頭を下げ、謝罪した。
愛し子様に不便を掛けるからだ。
里奈はビックリする。
「謝罪は結構ですよ。ベールくらい着けますから。」
笑顔で答えてくれる。
「この宮には結界が張ってありますので、宮の中を見れません。
宮の中ならベール無しで大丈夫ですよ。」
説明はとりあえず終わった。
詳しくはその都度話し合う事にする。
解散したいが、アルバート殿が帰りそうにない。
明日また来れば良いと話し合うが帰らない。
里奈が「今日は疲れたからゆっくりしたいの。明日また会いましょう。」
と伝えたら、素直に手を振り帰って行く。
アルバートの手綱を握る里奈だった。
また後日と、里奈の宮を後にする。
儀式で見付けた悪意を宰相に伝え、調べるように手紙を書いた。
不安を感じるが宰相からの返事を待つしかない。
〜❀〜
宰相の執務室に大司教からの手紙が来た。
儀式の後の宮での愛し子様の様子等だが。
読みすめると、驚愕な内容が綴られていた。
アルバート殿〜。
何をやっておるのだ!!!
宰相としては、説教案件でしかない。
ため息を1つ吐き手紙の先を読む。
気になる人物か……。
あの一族は悪い話しが出ないが、大司教の頼みであるならば徹底的に調べてみることにする。
側近に指示を出していると、面会の希望があった。
許可を出し入室させたその顔にウンザリする。
フィッセル侯爵だった。
この方が来ると精神が殺られるのだ。
お茶が運ばれると、側近を下がらせる。
「貴方の息子は貴方以上の執着の持ち主らしい。」
嫌味半分で伝えたが、ニコリとして効いてるのか効いてないのか解らん。
イライラするが、気を落ち着け話す。
愛し子様の様子が知りたかったらしい。
大司教からの様子をそのまま伝えた。
ついでに、息子のやらかしも。
ニコリ。 やはり、それだけだった。
何とも言えない空気に前回のやり取りを思い出す。
〜✿〜
あの時の執務室では
聖国の第3王子のやらかしを聞いて、絶句する宰相を他所に。
フィッセル侯爵が話し始めた。
聖国の真実を。
「聖国は女神様を崇める立派な国でした。
ですが
最後の国王となった王の息子。
第3王子が問題を起こしてから国は変わり始めました。
先程話しましたが、眷属や眷属の系譜を殺める等ありえないのです。
女神様は殊更、眷属達を大事にします。
眷属が棲まうその国を大事にするからこそ、より加護が届くのです。
それを裏切る行為をすればどうなります?
処罰されるに決まってます。」
侯爵は紅茶を口にし続きを語る
「女神様は罰として加護を取り上げました。加護が無くなると同時に疫病や災害が多発しました。
災害は別にして、疫病は聖女がいたので事が収まる筈でした。
しかし、女神様は聖女の聖力をも取り上げていたのです。
神殿では女神様への謝罪の祈りが毎日行われました
神殿は眷属を殺した事を隠しました。
真実を知った民の暴動を恐れたからです。」
「王家は疫病を何とかしようと、魔術師に何かないかを探させました。その時の筆頭魔術師が古代文明を研究していたのです。」
運が良いのか、悪いのか。
そう呟いた。
「そこで魔術師は異界の聖女召喚を知ります。
そして、召喚に成功しました。
異界の聖女がいる聖国はどんどん力をつけていきました。
国の聖女の力も戻らない。
加護も戻らない。
ならば、魔術を極めさせ魔術師団を軍事集団にしたのです。
筆頭魔術師は古代文明の知識を軍事に入れて行きました。
強気になった国王は、女神様を否定しました。
それが女神の森の『やらかし』になります。」
「ほとんどの国では、聖国が厄災を自らの国力退けた。
そしてそれを成したのが魔術師達だと。
そして欲を出し女神の森に手を出した。
そう思われてますね。」
「真実は、最初に女神様の怒りを買った。
が、正解でしょうね。」
「聖国が古代の魔術を使った事も秘密となったそうです。」
宰相が疑問を問いかける
「この真実を知る者はどれ程おられる?」
フィッセル侯爵は目を閉じ考える。
「この私の答えは各国や部族の元に行き古い文献を沢山読み漁り、繋ぎ合わせ導き出した結果になります。」
「私の様に文献漁りを仕事とする者をどの国に行っても聞いた事はないので。
私のみ。でしょうか。」
あぁベリル殿もなので、2人ですね。
と、紅茶をすすりとんでもない事のようにに口にする。
知りたくなかった。
いや、知って置くべきか。
「古き乙女が黒髪黒目だったのは何故かは解らないのであろうか?」
そう問うてみたが、
ニッコリ微笑むだけだった。
古き乙女の事情は……
知らない方が良いらしい。
〜❀〜
静かに2人でお茶を飲む。
あの夜の事を思い出すだけで、精神が疲れるのを感じる。
すると
侯爵がある人物の名前を聞いてきた。
その名前を告げられて焦ってしまった。
私の態度を見て確信したのであろう。
「あの家は聖国の筆頭魔術師の親族ですよ。」気を付けて下さいね。と……。
とんだ爆弾発言であった!
「ッ……侯爵の言われた人物は既にある方から調べる様に言われているのだ。」
冷や汗が出る。
今からする提案に、侯爵が乗ってくれるか……
「その方に伝えるべきであると思うのだが、侯爵との間を持つのは時間と手間がかかりますので。」
「関係者となる者を集め、1度話しがしたいが。いかがだろう。」
侯爵は頷き
「そうですね。ベリル殿に力を貸すと約束しましたので。参加しますよ。」
と、了承を得た。
今日はフィッセル親子に翻弄される1日となったのだ。




