25話: 即行動の執着男に執着する女
アルバート・フィッセルは、天門をくぐる里奈を瞬きする事なくじっと見つめていた。
強烈に印象付いた容姿に、可愛らしい笑顔。
心を射抜かれてしまった。
愛し子様の滞在先を考える……。
アルバートはとてつもない速さで最近の王子殿下に回ってきた書類を思い出して行く。
ある宮を整える為の人員の確認書類を思い出した。
(その書類は本来見てはならない。
王子殿下に渡す際、一瞬だけ見えたのをたまたま記憶していたのだ。)
結論を出したと同時に、踵を返し急ぎ退室した。
誰かの為に動くなど、生まれてこの方した事がない。
そんな事は気にせず愛し子様会いたさに、急ぐ。
(多分あの宮は結界が張ってあるはず。宮に張る結界の術式は幾つか決められていたはず……。)
と、結界の確認をする為に王子殿下の執務室へと急いだ。
結界に侵入するなら、その結界を知らねば。
思考が怪しい方に向く。
そう
この男は魔法も魔術も各師団長より上なのだ。
王子殿下の側近は父の命令で断れなかったが、本を読む時間が減る!と、師団長の話は断っていたのだ。
神殿から王宮への天門はバレる為使用せずに王宮まで歩いたのだ。
息が上がるままに執務室の方に向かうと、扉の前に誰かがいる。
「アルバート様。ご機嫌様。
本日は、王子殿下も誰もいらっしゃいませんのね。」
と、甘えた声で話しかけてきた。
腕に触れてこようとした手を払い除けながら、執務室に入り鍵を閉めた。
執務室に入った事が後ろ暗いのでは無く、ただあの女が入って来ないように鍵を掛けたのだ。
アルバートは直ぐに書類を見つけ、結界に侵入する為の術式を考える。
執務室のドアを叩くのは、エメラルダ・ドリー侯爵令嬢である。
陛下の側近の1人である人物の娘だ。
父の権力を黙って使い、何度もアルバートに接近してくる。
アルバートは虫以下の扱いであるが、異常とも言える愛をアルバートに向けるのだ。
扉を叩いているとドアが急に開いた。
アルバートの姿を見て話しかけるが、アルバートはそれを無視し急ぎ足で歩き出した。
エメラルダは追いかけるも姿を見失う。
そこに王子殿下が戻って来られた。
エメラルダは王子殿下に挨拶の礼を取ると、アルバートについて尋ねてきた。
「先程アルバート様がこちらに来られたのですが、何か急いでおられたようです。
殿下は祈りの日ですので、アルバート様とは別行動でしたのよね。」
王子が
(アルバートも儀式には居たのだが。なぜ居たのかは解らないな。侯爵の代理か?)
「そうだね。今日は祈りの日だから王族以外は神殿の中には入れない。アルバートはなぜ急いでたのだろう。」
と、小さな嘘を交え知らない体でやり過ごす。
「そうですわね。急ぎの理由は解りませんが、私も探してみますわ。
殿下、ご機嫌様。」
と、周りに悟られぬ程度の急ぎ足で、エメラルダはアルバートを探しに行く。
王子はエメラルダの後ろ姿を視界に入れると溜息が漏れた。
アルバートが絡まなければとても優秀な人なのだ。
だが、そろそろ執務室に来るのも、私や側近達に近付く事も禁止せねばならない。
アルバートに近付く女性を攻撃する内容がエスカレートしてきたのだ。
最近では犯罪に近い事を相手の女性にしていると報告があったのだ。
婚約者であるミランダ嬢の顔を思い浮かべる。
エメラルダ嬢とミランダ嬢は幼馴染で、とても仲が良いのだ。
交友関係に口を出したくないが、勝手に執務室に連れてきたり、茶会では我らの席に勝手に同席させる。
婚約者にも遠回しだが何度も注意した。
だが、エメラルダは少し強引だが良い子なのだと擁護し、余り危機感を持っていない。
エメラルダ嬢は、アルバートが関わらなければ令嬢の見本と呼ばれており婚約者と肩を並べる優秀な令嬢なのだ。
だが、優秀さが全てではない。
これから愛し子様と関わる事になる。
予測ではあるが、愛し子様が他国の令嬢として暫く王宮にいるならば私と私達側近も事にあたるだろう。
エメラルダ嬢が愛し子様を攻撃するのは予測出来る。
(………。はぁ〜)
愛し子様をお披露目するまで、婚約者と距離を取る事になるだろう。
エメラルダ嬢が騒ぎそうだな。
婚約者とのこれからを考えると、ほんの少し気落ちする。
しかし
アルバートが何を急いでいたのかは気にはなる。
あの男が急ぐ等あり得ないからだ。
だが解決するまで報告を寄越さないのもあの男なのだ。
アルバートの事を考えるのを放棄し、愛し子様に何が私達に出来るかを考えるようにした。
〜❀〜
アルバートは宮の結界に干渉し、無事?に予想をたてた宮に侵入した。
宮の敷地に入るなり、隠蔽魔法を2重かけした。完璧である。
影の護衛が沢山配置されている。
この宮で正解だな。
屋敷の中に侵入し探し始めると、裏の庭園に人影があった。
灰色の髪に高位の神官服。ガルズ司祭だと予測する。
近づくと、黒髪に薄い水色のワンピースの後ろ姿を見付けた。
自分の瞳の色に黒髪が……。
胸の中には抑えきれない興奮が込み上げる。
早足で愛し子様に近づくと、その小さな体を抱き込んだ。
暴れられたが関係ないのだ。
可愛いいだけなのだ。
大司教が来て、愛し子様を気に入ったのかと聞かれた。
勿論である。
なぜこれ程惹かれるのかは解らないが、それを考える事はしない。
女性に対し初めて感情がこれ程揺れた。
だが、嫌ではない。
ただ流されるまま、自分の気持ちに身を任せるのも悪くは無かったのだ。
里奈を膝に乗せながら綺麗な黒髪を撫でる。
抱きしめた。
お姫様抱っこした。
膝に乗せた。
次は何をしようか。
と、里奈を構い倒す事を考える。
ふと女神様の言を思い出す。
『慈しみ支えよ』と。
勿論である。やる気満々のアルバートだった。
〜✿〜
私はエメラルダ・ドリー侯爵令嬢。ドリー家の次女。
後ろ手に縛られ、誰かに押さえつけられている。
今にも私を殺しそうな怒気を込めた魔力を向けられた。
私は初めて後悔をした。
この男を愛し執着した事。
ベールの令嬢を虐げた事。
後悔するが、今更である。
ミランダがもし予知能力があれば、この様な結末にはならなかったのに。
〜✿〜✿~
王宮での里奈の幸せと不幸がこれから始まる。
皮肉にも、里奈を大切にするアルバートの存在によって。




