2話: 女神様の願い
私は死んだのだろうか
。
38歳だった。
独身だった。
孤独だった。
存在を認められなかった。
虐められた訳でも、無視された訳でもない。
ただ人としては存在を許されているが、私としての存在は無かったのだ。
薄れたはずの孤独を夢に見て酷く胸に刻まれた痛みで目を覚ます。
フワフワ浮きながら仰向けに寝てる自分が滑稽に感じて上半身を起こす。
何だか普通にベッドに寝てるような感じだ。
う〜ん。と、両手を上げ大きく背伸びし、もそもそとベッドがあるかのように足を下ろし立ち上がる。
立ち上がって今寝ていた空間に視線を向け(正しく本物のエアーベッドだ。)
と心の中で笑う。
周りは白い空間で何も無い。
「女神様。いませっ(んか。)」
と言い切る前に私を抱きしめた状態で女神様が現れた。
「うわわわぁ〜」
とアホ見たいな声が出た。
歳を考えたら少し恥ずかしく、小さく咳払いをした後に見上げると美人な彼女が優しい眼差しで微笑んでいた。
「良く眠れた? かしら。」
「はい。良く眠れました?」
あ〜、死んだのに眠る。永遠の眠りから目覚めた?
会話がかなりややこしい。
ま〜気にしない事にする。
「おはよう。これからの話をしたいのだけど良いかしら?気持ちは落ち着いたかしら。」
と聞かれたので少しばかり思案する。
自分は日本で死んだのだろうし、目の前には女神様がいる。とゆう事はここは異世界になるのだろうか。
日本での自分を思い出し、そして決意する。
「この世界で存在を認めて貰えるとゆうのは本当でしょうか。」
「私は日本にいた様な思いはしたくない。愛されたいし、私を見て欲しい。必要とされたいんですっ。」
私はまた人生を生きれるなら生き直したい。誰かと笑い悲しみ慈しみあいたいのだ。
普通でいい。本当に普通の人生を生きてみたい。それが、私の望みなのだから。
「勿論よ。あなたは必要とされ大切にされる存在として私の世界に送ります。」
「本来なら、あちらの世界はあなたの中に存在しなかったのよ。こちらの世界のせいで、とゆうか、私の眷属のせいだけど……。」
はぁ〜。
「とりあえず、こちらの世界の者がきちんと対処するでしょう。最初のお願いは、あなたの存在を確立させる事になるわね。」
「立場を揺るぎないものにしなければ、纏める者になれないから。」
女神様が言うには要するに、上の立場に行け。それも世界での頂点にって事かな。
女神様に視線を向けると深くうなずいた。
え!?もしかして思考読まれてる!?
するとまた深く頷く。
わざわざ会話する必要性〜。ある?
でも日本で長く話しをしたことなかったからだろう。かなり喜んでる自分に気がついた。
フフッ。会話って面白い。
内容が重いけれど。思考の深みにはまってると女神様にまた抱きしめられる。
この暖かい神力が好きだ。
安心するし胸の奥がほんわかとなる。
女神様が抱きしめる腕を話し私の両手を握る。
「あなたの容姿はそのままに、若さだけ戻します。あなたは瀕死の状態でしたが私が転移させ身体は修復しました。真の黒髪黒目はこの世界には存在しない色よ。私のこの色も同じにね。」
「薄めの黒もありますが、明らかに違いが解ります。あなたは私の愛し子と見目だけで解ります。」
「そして、藤井里奈として私の世界を生きて下さい」
「あなたが幸せになる事も私の願いの1つなのですから。」
女神様の言葉に胸が熱くなる。
女神様の力は借りるけれど私は生きても良いのだと。生き直しても良いのだと。
前世でも余り流さなかった涙が頬を濡らす。
目の前で静かに涙を流す愛し子に胸が締め付けられる。
私か眠りにつかなければ、この愛し子はこの世界で誰よりも守られ大切にされたのに。
眷属の過ちではあるが、そもそも私の眷属なのだ。責任は私にある。
助力は惜しむつもりはないのだから。
「世界に行く前に聞きたい事はないかしら?」
そう尋ねられ、ハッと気になった事を聞く。
「黒髪黒目は特別な存在である。と、理解しましたが……。」
「………。」
「里奈。どうしましたか?何が不安ですか?」
「……。 あの…ですね。」
「私のっ。私の見た目は、その、この顔とかは……。この世界では、あの、その、大丈夫なのでしょうか。受け入れて貰える容姿でしょうか……。」
最後は声になったか解らないが、日本では容姿を貶された事はないが、勿論褒められた事もない。
学生の頃はブスだからこんな扱いなのかと、悩む日々もあった。懸命にメイクや体形維持も頑張ってみた。
でも見た目ではないのだろうと気がついてからは、自分の見た目を一切気にしない構わなくなった。
なので、自分の容姿が良いのか悪いのかすら解らないのだ。
最初の印象で見た目は大事な気がするからだ。
不安になる私に
「愛し子だからではなく、里奈は美しいですよ。あちらの世界であのような状況で穢れなき美しい魂を持つ里奈は見目も心も美しいのですよ。」
「私の言葉を信じてくれますか?」
そう伝える女神様のお顔は少し悲しそうで。でも、瞳には私への慈愛が見える。
私は目を閉じ考える。
(私は普通に行きたいと思った。顔も能力も何もかも私の持つ物は普通で良いのでは?見た目が良い方が良いかもしれない。受け入れて貰いやすいと考えてしまったが。普通。普通で!)
この思考も読まれてるのだけど……。
私は深く頷き女神様を見る。
「女神様を信じたいと。何をするかは解りませんが力になれるならなりたいと思います。」
「たから、私の役割を教えて下さい。」
私は心の中で力強く拳を握りしめた。