41話 妖幻獣の愛する人
トゥーニス達妖幻獣は、人族によって甚振られ数を減らして行った。
この森に結界を張り、ひっそりと隠れ棲んでいた。
そんな中に現れたのが若きギルバートだった。
いきなり里に入って来た彼は、妖幻獣が隠れ棲む森に魔術を駆使して結界を張り直した。
森を実らせ棲みやすくしてくれたのも、ギルバートだった。
全く関係の無い我々に何故ここまでするのか、理解出来なかった。
我々を欺き、何か企てているのでは?!
と、妖幻獣達は警戒をしていた。
だが、ギルバートからの申し出は、
「貴方がたが持つ文献を見せて貰えないか?」
それだけだった。
それからも度々勝手にやって来ては、文献を漁り書き留め考え込んだりしていた。
そんな関係のまま、ある日ギルバートが真っ白な髪の人族と数人の人族を連れて来た。
沢山の人族に警戒をしたが、その人族たちを見て警戒をする事すら意味が無かった⋯⋯。
血を流す人族達を見て、私達は警戒する意味が無い事を知る。
「この姫は妖幻獣の先祖返りだ。」
ギルバートの言葉に、腕に抱え込まれた女を見る。
近付き女の魔力を確認すると、僅かに妖幻獣の魔力であった。
〘確かに。姫である。〙
「この者達を匿って貰えないか?その変わり、この森に入って来る者を拒む魔術を施してやる。この姫を暫く匿ってくれ!」
ギルバートが珍しく感情を出してきた。
〘勿論だ。我が妖幻獣にとって姫は大事な存在。だが聞きたい。他の人族は何者なのだ?〙
妖幻獣にとって姫は大事な存在。
妖幻獣に姫はなかなか誕生しないからだ。
だが、他の人族は関係のない者。
人族を疎ましく思う妖幻獣は、怪我を負っていようと人族達を追い出したかったのだ。
「この女性達は姫の侍女だ。姫をずっと守って来た者達。この侍女達を追い出したりしたら、姫は悲しむ。」
ギルバートがそう伝えると、
〘姫が大切にする者ならば、我々も大切に扱おう。暫く匿う事に否はない。〙
妖幻獣の言葉に、姫をトゥーニスに預けギルバートは森に壮大な結界を張り巡らせた。
自身の魔力を手に集め凝縮させた。
手に小さな欠片が二つ作られた。
「この欠片は、白魔術を込めた欠片だ。一つはトゥーニスがもう一つは姫に飲んで貰いたい。トゥーニスがこの欠片を飲む事で森は白魔術により隠され、人々は回避して行く。」
トゥーニス上空を見上げ結界を覗くと、巨大な魔術紋が浮かんでいた。
トゥーニスはギルバートの為人を十分に理解していた。
迷う事なく欠片を飲んだ。
魔術紋から魔力が伸び、トゥーニスと繋がると森に真っ白な結界が張られていく。
次第にそれは薄くなり、元々張られていた結界に馴染んだ⋯⋯。
「信じてくれて、ありがとう。姫を頼む。」
ギルバートは姫に視線をやり、転移で消えた。
姫と侍女達が目覚め、事の詳細を聞いた。
暫く姫達と過ごしていると、ギルバートがやって来て姫を回復させる為に、ギルバートの邸に連れて行くと行ってきた。
姫は歩けるようにはなったが、弱っているのは確かだ。
トゥーニスはギルバートに預け、姫の回復を祈った。
姫はちゃんと回復し、ギルバートと共にやって来ては我々と絆を深めた。
「ギルバートから暫く来れない話は聞いたが、姫を娶り子を成していたとはな⋯⋯。」
トゥーニスの真っ直ぐな視線に、アルバートはむず痒い思いでいる。
両親の馴れ初めには、一切触れたくないのだ。
〘姫は悲惨な過去を抱えていながらも、ギルバートと楽しく過ごしていた。
姫の過去を我が話すことは出来ないがな。〙
トゥーニスは話は終えたと、お茶を口にした。
「広場にいた女性は侍女さん達だと解りましたが、男性もいましたよね?」
姫と一緒に来たのが女性だけならば、男性達は誰だろう?
四人は少し気になっていた。
〘ギルバートが連れて来た者。とだけしか言えぬ。〙
トゥーニスはそれだけを伝えた。
「解ったわ。」
里奈はあっさりと答える。
トゥーニスな一瞬里奈に視線を向け、目を見張ったがフッと笑い再びお茶を口にする。
「それにしても、このハーブティーは美味しいわね!アルスタ王国で売ったらかなりの収入になるわよ!」
里奈の言葉に、トゥーニスが反応した。
里奈はハーブティーを売りたいのかと聞いてみる事にした。
「もしかしてだけど⋯⋯。ハーブティーを売りたいって思っています?」
里奈の言葉に、トゥーニスが頷いた。
〘我が妻は人族なのだ。妻が以前、売れたら⋯⋯。そう言っていたのだ。〙
((((え?!))))
四人全員が心の中で驚いた!
〘種族の違いが過ぎるゆえ、子は成せないし寿命も違う。だが、共に過ごしたいと願う相手であればそれで良いのだと。共に生きる事が幸せなのだ。〙
トゥーニスが妻への想いを語る⋯⋯。
里奈達は、愛情深いトゥーニスを見つめていた。
人族に虐げられていながら人族の妻を深く愛するトゥーニスを、皆は尊敬してやまないでいた。
四人の真剣な眼差しに気が付いたトゥーニスは、不思議そうに見ている。
何故そんな眼差しで自分が見られているのか、状況を把握出来ない。
〘どうしたのだ?〙
トゥーニスの言葉に、四人は我に返る。
「人族に酷い仕打ちをされたのに、人族の女性を妻とし愛するトゥーニスを尊敬しているだけよ。」
里奈も真摯な態度で答えた。
ヤービスとイーロはコクコクと何度も頷く。
「凄いと思います。私は無理な気がします。きっと相手の種族全てを嫌悪しそう⋯⋯。」
そう言うのはイーロだ。
「あの人の種族は嫌いだし⋯⋯。」
ポツリと本音を漏らした。
〘そうだな⋯⋯。一時期は人族全てが嫌いだったな。
だが、我々を逃がしてくれたのもまた人族なのだ。
その者は我らを逃がす為に必至になってくれた。あの後無事だったのかは解らぬ⋯⋯。
だが「生きよ!」
そう言われた。人族全てが悪ではないと、そう思える者に会ったからな⋯⋯。〙
きっと、その人がいなかったら人族は嫌われたままだったかもしれない。
逃がしてくれた人の為に、生き抜く事で恩返しをする。、先程も人族を守っていた。
優しき妖幻獣の素晴らしさに感動するばかりだ。
全員が感動に浸る中、玄関の扉が開いた。
四人が振り向いた先には、女性が目を見開いたまま固まっていた⋯⋯。
「く、く、黒髪!」
大声で指を指されたのは、勿論里奈だ。
「お邪魔してます。愛し子の里奈です。
そして、おかえりなさい。」
里奈が立ち上がり挨拶をすると、女性は慌てて自身の手を後ろに引っ込めた。
「た、ただいま⋯⋯です。」
指を指してしまった事に、申し訳なさそうに俯きながら挨拶をしてくれた。
トゥーニスが立ち上がり、女性を迎えに行く。
女性を抱きしめ、額に口付けを落とす。
女性はトゥーニスにニッコリ微笑み、
「ただいま。トゥーニス。」
女性から頬に口付けをする。
種族の違う二人だけど、そこには確かに愛があった。
じっと見られている事に気が付いた女性が、トゥーニスの影に隠れてしまった。
トゥーニスが優しく笑い、女性の手を引き絨毯のうえに座らせた。
〘お客様だ。愛し子様とギルバートのご子息のアルバート。それに元ザイラー国の王子のヤービスとイーロだ。〙
トゥーニスが私達を紹介してくれた。
「トゥーニスの妻のミーシャです。」
ペコリとお辞儀をする彼女は、美人とは言えないが⋯⋯。
そばかすのある可愛らしい顔立ちで、笑顔がとびきり似合う女性だった。
活発である事が良く解る。
「トゥーニス。その⋯⋯愛し子様よ?」
ミーシャがおずおずとトゥーニスに尋ねる。
〘そうだな。ミーシャ、大丈夫だ。里奈は女神の愛し子ではあるが、あちらにいる異界の神の愛し子でもある。
我は異界の愛し子と会っていて、女神の愛し子とは会っていない。〙
屁理屈な気もするが、里奈は聞き流した。
「あそこにいるのが、白狐と言う私がいた世界の神よ。」
ミーシャが白狐をじっと見つめると、頰を染める。
「ふわふわねー。」
うっとりする目で白狐を眺めている。
トゥーニスはそんなミーシャが可愛いのだろう。
優しい眼差しでミーシャをずっと見ている。
妖幻獣は寿命がないと言ってもいい程に、長く生きる。
人族は長く生きてもたかが知れている。
里奈は愛し合う二人を見ると、胸が痛む。
何とかならないかを考えるが、里奈には無理な事だった。
寿命に触れる事など出来る筈がないのだ。
〘そうだ。ミーシャの作るお茶が美味しいと言っていたぞ?里奈が王都で売れるとも言っていた。〙
トゥーニスの言葉に、ミーシャがバッと振り向き里奈を見た。
「本当に?本当に売れる?」
ミーシャが興奮して聞いてくる。
「勿論売れるわ!だって私が飲んだどのお茶よりも美味しいもの。」
里奈がそう伝えると、ミーシャがトゥーニスに抱きついた。
〘里奈に頼んで売ってみるか?〙
「本当に!」
トゥーニスの言葉に返事をしたのは、ミーシャでなく里奈だった。
ミーシャは口を開いたまま、里奈を見ていた。
「王都でもこのお茶が飲めるなんて!そうだ!
私の側付きに商会を持つ者がいます。その者に任せようと思いますが、どうですか?いつから売り出せますか?」
里奈がミーシャに詰め寄る。
ミーシャが里奈から離れ、トゥーニスの背中に隠れる。
興奮する里奈を止めるのはアルバート。
ヤービスとイーロは笑い続ける。
里奈はアルバートに軽くお説教をされた。
「だって、この世界は紅茶しかないでしょ?飲み飽きたのよ⋯⋯。里山のお茶は出せないし、この世界で緑茶を作る機会がないし。」
里奈は話ながら、だんだんとむくれてきた。
頰を膨らませ、愚痴を言う。
日本では紅茶も確かに飲んでいたが、珈琲が一番好きだった。
「珈琲が飲みたいな⋯⋯。」
里奈の呟きに、ヤービスが「解る!」
と、食いついてきた。
「紅茶も良いけど、やっぱり珈琲だよねー。」
と、話がずれそうなのでアルバートが里奈の口を手で覆う。
「話が逸れています。ミーシャさんのお茶を売るにはどうすべきか考えませんか?リリさん?」
アルバートのジト目に、ピシッと里奈は姿勢を正した。
正座をし、ミーシャとトゥーニスに向かい合う。
「ミーシャさんがお茶を売りたいのは何故?」
何故売りたいのか気になる。人目を避けたい筈なのに、態々人と接触すりなんて危険過ぎる。
「えと⋯⋯。トゥーニス達に何か贈り物をしたかったの⋯⋯。」
トゥーニスがミーシャを見て、
〘贈り物はそなただけで十分だ。我はそなたが一番の贈り物だ。〙
(トゥーニスは愛情がストレートなのね⋯⋯。)
里奈はトゥーニスの愛情表現に関心し浸っている
。
「森の生活は満足しています。ただ、婚姻したならお揃いの宝飾品が欲しくて⋯⋯。
ごめんなさい⋯⋯。」
ミーシャがシュンとなってしまった。
「好きな人とお揃いの何かが欲しかったのよね?恋人同士が良くする事だもの。
そうね⋯⋯。だったら、お茶を売りに出す代わりに何か宝飾品やお洋服とかを代金として払うのはどうかしら?
森ではお金は要らないでしょう?ならば、欲しい物で支払ってもらいましょう!」
里奈の提案に、ミーシャが大喜びをしている。
手を叩き、満面の笑みだ。
〘お茶の事は里奈とミーシャの好きにしなさい。〙
トゥーニスの許可も貰ったので、後でじっくり話をする約束をした。
〘ところで、そなたらは今夜は泊まるか?森から出れば外は夜になるぞ。〙
ふと窓から外を見ると、夕日の明かりが広がっていた。
「広場でテントでも張る?」
里奈の案を三人は喜んで受け入れた。
初めての野営を愉しみにしていたのだ。
「トゥーニスさん。野営をしたいから、広場の端にテントを張っても良いかしら?」
〘テント⋯⋯は、解らぬが端なら何をしても良い。皆も何も言わぬだろう。〙
「じゃあ準備するから、これで失礼します。お茶、ごちそう様でした。」
お辞儀をし、急いで外に出た。
暗くなる前に野営の準備をする。
テントを張り、寝床を作る。
前回反対された、ふわふわ寝袋を敷いてみる。
里奈は白狐と同じテントで眠る。
男性三人が同じテントで眠る。
外には簡易コンロを用意し、魔力を注ぐ。
中央が熱くなり鍋を乗せる。
小さなテーブルを出し、アルバートが野菜を切り鍋に入れる。干し肉を入れて煮込むとスープが出来た。
里奈はアルバートの手伝いをし、ヤービスとイーロはテーブルに食器を並べたり椅子を出したりしている。
視線を感じる⋯⋯。
振り向くと、ミーシャさんがじっと見ていた。
里奈はミーシャに手招きをし呼んでみる。
ミーシャは手招きに気が付くと、走って近付いてきた。
「ミーシャさんは野営に興味があるの?」
ミーシャは恥ずかしそうにコクコク頷いた。
可愛らしいミーシャに、一緒に野営をしないか誘う。
トゥーニスの許可を貰いに走り、直ぐに戻って来た。
「一緒にしても良いって!!」
ミーシャの明るい笑顔に、里奈もつられて笑顔になる。
アルバートと里奈とミーシャで食事を作る。
メインを作る!と、ミーシャが家からお肉を持って来た。
一緒にトゥーニスも連れて来た。
「皆で食べた方が楽しいものね!」
ミーシャの笑顔は明るく、温かい。
トゥーニスの心を掴むのも納得してしまう。
作り上げると、とんでもなく豪華な夕食になった。
外でワイワイ騒いで食べる食事は、とても美味しかった。
片付けも終わり、テントで就寝となるがミーシャがじっとまた見つめる⋯⋯。
「トゥーニスさん。ミーシャさんを今夜お借りして良いかしら?」
トゥーニスに問いかける。
〘ミーシャも一緒にいたいようだ。一緒にいてやってくれ。
だが、今夜一晩だけだ。〙
念を押され、トゥーニスは家に帰って行った。
アルバート達に就寝の挨拶をし、里奈とミーシャはテントに入る。
予備の寝袋を出し、ミーシャがもぞもぞ入って行った。
恋バナをしたい里奈がミーシャとトゥーニスの事を沢山聞き出すのだが。
白狐の一言でミーシャとトゥーニスの運命が変わる事になるのをまだ里奈もミーシャも知らない。
作品を読んで頂き、ありがとうございます。
再開したばかりで申し訳ありません。
また暫く投稿をお休みします。
理由は活動報告に記載してあります。
度々のお休み、申し訳ありません。




