40話 アリアナ・フィッセルの秘密と妖幻獣
里奈達の目の前に立つ妖幻獣は三人⋯⋯。
妖幻獣は足は鳥の足をしている。
背中には頭から地面にまである長い翼がある。
それ以外は、普通の人間のように見える⋯⋯。
白狐は結界を張ったものの、妖幻獣に対して警戒をしていない。
〘お主はギルバートと同じ匂いがするな。〙
真ん中に立つ妖幻獣がそう口にした。
「ギルバートは私の父親だからな。」
アルバートが妖幻獣の言葉に返事を返した。
妖幻獣はアルバートをじっと見つめ、薄っすら微笑んだ。
〘姫の魔力も感じる。ギルバートは姫を娶りおったのだな。〙
姫と呼ばれる人物は、話の内容を考える限りアルバートの母であるアリアナしかいない⋯⋯。
〘そこの男二人は獣人だな。そして女は女神の匂いがする。〙
ヤービス達の時は普通の顔をしていたが、里奈の時に顔を顰めた。
女神を嫌っているようだ。
それに里奈には視線すら向けない。
〘何用でここに来た。〙
真ん中の妖幻獣の言葉に答えたのは、ヤービスだった。
ヤービスは魔術を解き、本来の猫の獣人に戻った。
〘三色持ちとはな⋯⋯。〙
ヤービスが希少種である事をポツリと呟く。
「ザイラー国の元第一王子、ヤービスと申します。今は国が変わり私は王族を離れた為、今はただのヤービスです。」
ヤービスが名を名乗ると、イーロの魔道具に手を伸ばしイーロの眼鏡を外した。
ヤービスが視線でイーロに促す。
「同じく、元第ニ王子のイーロと申します。今は兄と同じく、ただのイーロです。」
〘ザイラー国の希少種二人とな?〙
妖幻獣はヤービスとイーロを観察している。
「私達は王宮しか知らず、民達の生活を知らない。王族を離れましたが国に民に、何か貢献したいと考えました。ですが、民の生活も知らなければ本当に必要な物を与えられない。そう考え国を見て回ろうと、皆で旅に出たのです。」
ヤービスがそう説明をしてくれた。
「旅の準備をする際、この森の話を耳にしました。何故この森を通らないのか気になり、何かあるのならば対処しようと考えたのです。」
ヤービスの話を聞き、妖幻獣が問いかけた。
〘対処するとは、我々を処分するとな?〙
そう言葉を発すると同時に、三人の魔力が爆破した。
里奈達の結界の周りを彼等の魔力が襲ってくる。
結界の周りを荒らす魔力は膨大なものだ。
本来であれば、森が吹き飛ぶ殆どの威力である。なのに森は静かに葉が風に揺れ、何もないかのように静かに揺れている⋯⋯。
(彼等を守る為に作られた結界だな⋯⋯。
森の中も外も彼等の魔力を無いものとしてある。幾ら彼等が魔力を使い暴れようと、誰も気が付く事はないのか⋯⋯。
我が父は、厄介な物を作るのが好きだな⋯⋯。)
アルバートは妖幻獣と周囲を観察出来る程、落ち着いていた。
ヤービスとイーロは、妖幻獣の魔力の強さに圧倒されて顔を青褪めさせていた⋯⋯。
そんな中で、里奈は怒っていた。
アルバートとヤービスとイーロは妖幻獣と会話をしたのだ。
でも里奈はずっと放置されていた。
妖幻獣は、里奈をいない者扱いをしたのだ。顔を向けないどころか、視線すら合わせなかった。
里奈は存在を無視される事がこの世界に来た時はトラウマであったのだ。
だが、今の里奈は傷付く事はないが、逆に腹を立ててしまう。
里奈は転移で結界から出ると、妖幻獣の前に立った。
「私は藤井里奈。異世界人であり、女神様の愛し子よ。宜しくね。」
里奈はニコリと微笑み、妖幻獣に挨拶をした。
〘愛し子とな?ならば、仕方ない。〙
そう言うと、魔力を里奈へと三人は向けた⋯⋯。
里奈は白狐の神力を使い、手を振り払うと妖幻獣の魔力を消滅させた⋯⋯。
里奈は妖幻獣に白狐の神力をかけ、魔力を使えないように結界を妖幻獣に貼り付けた。
妖幻獣は何度も里奈へと魔力攻撃を試みるも、魔力が出る事はなかった。
白狐は自身が張った結界を解き、里奈の側まで来ると隣に座る。
妖幻獣を白狐がじっと見つめる。
『里奈に攻撃をするなど許されぬ。』
白狐は子狐から、元の姿に戻ると自身の神力を纏い妖幻獣を威嚇した。
妖幻獣は白狐の神力の圧に耐えられずに、腰を抜かし座り込んだ⋯⋯。
『そなたらは女神を嫌うておるようだが、そもそも女神の神力を使うておる曲に何を言うておるのだ?』
そう。妖幻獣の魔力には、女神様の神力が混じり込んでいる。
女神様の神力を使いながら、女神様を嫌う⋯⋯。
理屈が通っていない。
妖幻獣は白狐の問いに、苦々しい顔をする。
三人の中で一番偉いのだろうか⋯⋯。
先程が口を開く妖幻獣が、叫んだ。
〘我々とて好きで女神のチカラを使う訳ではないっ!女神の神力を剥がしたくとも、剥がれぬのだ!ギルバートにも不可能な事を、一体誰が可能に出来るのだ?
ギルバートはこの世界の魔術を全て知る。あやつが出来ぬのならば諦めるしかないのだっ⋯⋯。〙
(女神様が相当嫌いみたいね⋯⋯。)
何故そこまで嫌うのか、全員が不思議でなるない。
里奈はふと自分の中にある記憶を覗いた。
「女神様が聖獣の次に創ったのが妖幻獣なのね⋯⋯。」
里奈の呟きに妖幻獣は忌々しそうに里奈を見る。
「聖獣様の次とは、本当ですか?女神様は人族を創られるまでは、自身が創られたものをとても大切にされていたと文献にありましたが⋯⋯。妖幻獣様は女神様を嫌っているようですし⋯⋯。」
アルバートも自身の持つ記憶の書物から考えを出すが、目の前の妖幻獣の態度を見て悩まし気にしている。
〘そなたは本当に女神の愛し子なのか?そなたからは、その狐と同じ力を感じるぞ!?〙
その通り。
里奈は女神と白狐の二つの神力を持っている。
里奈は眼鏡を外し、黒髪黒目を晒した。
「私は女神様の愛し子です。
ですがこの白狐は、私がいた世界の神なの。私と共に過ごし私を守ってくれていた異世界の神よ。私は女神様と異世界の神。
二人の愛し子なのよ。」
里奈の話を聞いて、妖幻獣が何かを考えている。
そして三人は姿勢を正すと、
〘異界の神と愛し子とは知らず、無礼をした。すまなかった。〙
里奈は謝罪をする妖幻獣をじっと見つめる。先程までの態度と全く違うからだ。
〘女神は嫌いだ。だが、その他の神に無礼を働くつもりはない。〙
妖幻獣は白狐を見ながら、そう言葉を発した。
〘そなた達は、何故ここを人が避けるか知りたいのであろう?姫の子息もいるとなれば、いずれ子息は知る事になる。
調度良い。我らの里にて話そう。〙
里奈は後ろにいるアルバート達に姿勢をやる。
三人は頷いてくれたので、里に行く事を了承した。
『里に転移する。お主は里を思い浮かべろ。』
会話をしていた妖幻獣に白狐が指示を出す。白狐の神力に包まれ、全員が転移した。
目を開けば、そこは妖幻獣と人族がいた。
里の中央に集まり、人族は怯え妖幻獣が守っているように見える。
〘大丈夫だ。我が里の客人だ。〙
そう伝えると、集まる者達は安堵したようだ。
「人がいるのね⋯⋯。」
里奈の呟きに一緒だけ先程の妖幻獣が視線をむけたが、言葉を発する事なく集まる者達に近付き何かを伝えていた。
里奈は黒目黒目な為、愛し子であると解る容姿だ。
人族はそうでもないが、妖幻獣達からは鋭い視線を向けられていた。
だが暫くすると、その視線も無くなっていく。
白狐と里奈を交互に見やり、申し訳なさそうに頭を下げ散って行った。
里を見渡すと、何もない広場の周りを巨大な木が円になりそびえている。
木のうろに扉や窓が取り付けられている。
木を住処にしているようだ。
〘我の家にて話をしよう。〙
一番大きな木に案内され、木の根元にある玄関から家の中に入る。
中に入ると、すぐにリビングがあった。木の壁には螺旋階段がつけられ上の方に伸びている。
〘妻は森に出ている。とりあえず座ってくれ。〙
妖幻獣が指指す方には、フカフカな毛足の長い大きな絨毯が敷かれていた。
「靴を脱いで絨毯に座れば良いの?」
里奈が尋ねると、妖幻獣は頷いた。
里奈はさっさと靴を脱ぎ、絨毯に座る。
「ふわふわで気持ち良い⋯⋯。」
脚に触れる絨毯の毛足は肌触りがとても良かった。
〘お茶だ。〙
絨毯の中央にあるテーブルにお茶を出してくれた。
カップを持ち香りを堪能すると、ハーブのとても良い香りがする。
「ハーブティーね!」
里奈は美味しそうにお茶を口にしている。
〘ハーブ⋯⋯とやらは解らぬが薬草茶だ。〙
そう言うと妖幻獣もお茶を口にした。
〘まず、そなた達に攻撃をした事は謝罪しよう。だが、我々はこの里と仲間をを守らねばならない。それは理解して頂きたい。〙
「私達が勝手に領域に入ったのだもの。非があるのは私達の方よ。
こちらこそ、ご迷惑をおかけしました。申し訳ありません。」
里奈が謝罪をした。
〘名を名乗っていなかったな。我はトゥーニスだ。里の長をしている。〙
「私は名を名乗っていなかった。アルバート・フィッセルだ。ギルバートの息子になる。」
アルバートが名を名乗り、
「そして、愛し子である里奈は私の婚約者だ。」
そうトゥーニスに伝えると、物凄く驚かれた。
恩人であるギルバートの子息の婚約者に手を出したのだ。
トゥーニスは直ぐ様頭を下げた。
〘恩人の身内に手を出すなどっ。申し訳ないっ!〙
「知らなかったんだから気にしないし、気にしないで。でも、無視した事は根に持つからね!」
里奈はトゥーニスの謝罪を笑って何も無かったかのように流した。
トゥーニスは苦笑いをしながら、
〘すまない〙そう呟いた。
「女神様を嫌う理由を聞いても?何故そこまで嫌うの?」
里奈が一番気になる事を聞く。
〘話せば長くなるが、良いか?〙
トゥーニスの言葉に四人は頷き、白狐は横になり目をつぶる。
トゥーニスが昔話から始める⋯⋯。
妖幻獣が創られた理由は、先々代のこの世界を創られた初代女神から始まる。
先々代の女神は美しい物が兎に角好きだった。
自身が創る世界は美しい物で満たしたかったようだ。
森や川をそして草花を咲かせ世界を創る。
まずふわふわで可愛らしい聖獣を創る。自身の側に置き、癒される為に。
動物だけでは退屈だと創られたのが妖幻獣だった。
獣と人族を混ぜ創られた妖幻獣を、女神様は聖獣と同じようにとても愛された。
外界を造りあげると、妖幻獣と聖獣を世界を護る者として降ろした。
聖獣と妖幻獣は女神様の意志を汲み、外界を護り続けた。
長い月日が流れる中、女神様の代替わりがあった。
新たな女神様は、平等に眷属達を愛した。
そんな中、人族が力をつけて行く。
外界では世界の存続すら危ぶまれる事が起きた。
古代都市の暴走であった。
妖幻獣はその容姿から古代都市の貴族達に捕らえられ、鑑賞や性的な目的の為に狩られ始めた。
女神様の神力を封じる魔道具まで作られては、妖幻獣とて敵わなかった。
妖幻獣は女神様に助けを求めたが応えてはくれなかった⋯⋯。
女神様の美しい物が好きな理由で、妖幻獣は世界で一番美しい容姿に創られたのだ。
眷属である為に寿命は無いも同然で、ずっと美しいまま存在し続けるのだ。
同族は狩られ、逆らえば殺されていく。
女神様の眷属でありながら見捨てられたのだと⋯⋯。絶望を抱えながらも、必死に逃げ出しこの森に隠れ住んだのだと。
里奈は女神様の記憶がある為知っている⋯⋯。
女神様は世界を全ての眷属を護る為に、古代都市を滅した。
代替わりした女神は、妖幻獣を見捨ててはいなかった。
女神様は世界に干は渉出来ない。造るか滅する事しか出来ないのだ。
女神様は自身の立場を捨てる覚悟で世界に干渉した。
それが古代都市大帝国の消滅だった⋯⋯。
妖幻獣にも理由があった。
だが、先代の女神様にも理由があった。
トゥーニスの話を聞きながら、先代女神様の記憶と照らし合わせて里奈は話を聞いていた。
トゥーニス達は先代の女神様の事情を知らないのだろう。
知らなければ、恨む気持ちも理解出来る。
里奈は迷う。
女神様の事情を話すべきか。
話さずにいるべきか。
アルバートは里奈の神力の揺らぎに気が付いていた。
勿論、白狐もだ。
里奈は目を閉じたまま、トゥーニスの話を聞く。
先代女神様の眷属を愛していた事実を無かった事にしてはいけない。
でも、真実を知ったトゥーニス達は冷静で要られるのかを⋯⋯。
悩みながらも、トゥーニス達妖幻獣の辛い歴史を聞いていた⋯⋯。




