39話 出立した先には
里奈とイーロは話に夢中になっていた。
その為、アルバートとヤービスが帰って来た事に気が付くまで暫く時間がかかった。
そろそろ昼食時間に差し掛かる頃に、里奈のお腹がなった⋯⋯。
里奈はお腹が空いた事に気が付くと同時に、ヤービス達が帰って来ていた事にようやく気が付いた。
「お帰りなさい。もしかして、待っててくれたの?」
ヤービスとアルバートがソファーから立ち上がり、里奈とイーロの側に来た。
里奈とイーロは床に座り込み、沢山の紙に二人で語り合い考えた事を書き連ねていた。
「孤児達に何が出来るか話をしていたようですね。」
アルバートの問いかけに、里奈が頷いた。
「ライアン達に頼んでいた本と紙をキシャール神官長に届けたの。イーロは民に何が出来るか知りたがっていたから、私のやっている事を見てもらおうと一緒に行ったの。」
「そうですね。聞くより、見る事の方が早いと思います。」
アルバートも里奈と考え方が同じのようだ。
「イーロは良い案が浮かんだようですね。」
ヤービスが一枚の紙を取り、目を通している。
「実現出来るかは解らないけど、考えるだけでも違う気がして⋯⋯。」
イーロが照れくさそうに話す。
「そうだね。何もしないより、何かをする方が良いからね。
孤児達の事は里奈さんと一緒に考えると良いよ。でもイーロ⋯⋯。」
ヤービスが真剣な顔でイーロを見る。
イーロはその雰囲気に何かを感じ、姿勢を正した。
だが、次にヤービスが話す事に里奈がガクッとなる。
「里奈さんと一緒に考えるのは良い事ではある。
たが、気をつけなさい。里奈さんは人使いがとても荒い!こき使われる覚悟を持たないと行けない。」
ヤービスの真剣な声に、イーロが頷いた。
「何よそれは⋯⋯。ヤービスをこき使った覚えはないわよ?」
里奈がむくれて反論する。
「いきなり転移させられて厄介な魔術紋を描かされたり、大量の魔道具を作ったり魔術紋を考えたり⋯⋯。」
身に覚えのあるヤービスの話に、里奈は知らない振りをした。
「お腹空いたし、サリーとナミも帰って来るわ!!昼食を食べたら、ヤービスが作った魔道具の具合も見なきゃ行けないから忙しいわねっ。」
里奈は立ち上がり、ササッと足早に逃げて行った。
残された三人は笑いながら里奈の後を追い、帰って来たサリーとナミと共に昼食をとった。
ヤービスも別に里奈にこき使われる事に何かを思う事はないのだ。
前世は日本で働いていたので、使われる立場になっても何も思わない。
だがイーロは生まれながらの王族で、人から使われる経験がない。
敢えて伝えたのは、使われる覚悟を持っていないと遠慮のない里奈とはやっていけないからだ。
里奈もイーロを心配しての事と認識していた。イーロは徐々にこき使うことにしようと頭の片隅に置いた。
「サリーさんナミさん。こちらがカズラとヒイラギを繋ぐ魔道具です。」
ヤービスがサリーとナミの手のひらに、アンクレットを置いた。
「今はまだアンクレットを着けなくて大丈夫です。そのままで良いので、アンクレットに魔力を少し流して下さい。」
二人がアンクレットに自身の魔力を注ぐ。
すると、魔道具がキラキラ輝いた。
「心の中で転移したいと願って下さい。」
二人はアンクレットを握りしめ目を閉じた瞬間、里奈達の目の前から消えた。
「森に行って確認して来ます。」
ヤービスが直ぐ様魔力を追って転移した。
「成功したのかしら?」
会話を続ける前に、ヤービスがサリーとナミを連れて帰って来た。
「転移は上手く行ったよ。これからは行きたい時にアンクレットに魔力を注げば、カズラ達が呼んでくれるから大丈夫だ。」
「「ありがとうございます。ヤービス様。」」
サリーとナミはヤービスにお礼を伝えると、手にしたアンクレットを握りしめ部屋を退出して行った。
「明日の朝食後に邸を出よう。
里奈さんの部屋から王都の大門の外に転移したいと思うけど、どうかな?」
ヤービスの提案に全員賛成する。
「王都から出たら次の街まで暫くは歩きになるね。そこから乗り合い馬車に乗って最初の目的地まで向かおうと思うけど。
途中、乗り合い馬車はある森を遠回りして行くんだ。森を抜ける道があるけど使わないらしい。
誰に聞いても、何となく使わないんだって言うんだ。」
ヤービスの話しは不思議な話しだった。道があるのに使わない。
理由は、何となく⋯⋯。
気になる⋯⋯。凄く⋯⋯。
「気になるでしょう?だから、歩いて森に入り調べようと思うんだけど。
皆はどう思う?」
「調べたいわ!凄く気になるもの。」
ヤービスの提案に、里奈が真っ先に食いついた。
アルバートとイーロにも聞いてみたが、
アルバートは里奈が行くなら行くと。
イーロはヤービスに付いていくと。
とりあえず、森を歩いて行く事にした。
「ヤービスの話は白狐が里山を守っていた結界に似てるわね?」
里奈が白狐に話しかけた。
『同じか、それに近いものであろうな。』
白狐は余り興味がないようで、寝たままで返事をした。
里奈は白狐の背を撫で、日本でずっと自分を守ってくれていた事に心の中で感謝した。
その夜は全員が早く寝る事にし、それぞれの部屋に戻って行った。
里奈は初めての旅に興奮状態だった。
寝台の中で右に左にゴロゴロ寝返りをする。
白狐は勝手に神力をかけ里奈を即、眠らせた⋯⋯。
日が昇る前にスッキリ寝覚めた里奈は、いつ自分が寝たのか覚えていない。
朝早く起きたにも関わらず寝室から出ると、サリーとナミが既に控えていた。
「きっと里奈様は早起きなさると思っていましたから。」
里奈の行動を熟知している二人は、そう里奈に伝えた。
身支度を手伝いながら、サリーとナミは里奈と暫し離れる寂しさを埋めていた。
朝食を各々でとり、準備が出来たら里奈の部屋に集合となっている。
一番に来たのはイーロだった。
大きな荷物を二つ持ち、転移してきた。
次にアルバートが来るが、イーロに先を越された事に苦笑いしている。
「イーロ、おはよう。荷物を預かろう。」
イーロの荷物を空間魔術にアルバートが入れるていると、ヤービスが転移してきた。
挨拶を交わし合い、サリーとナミに。
「いってきます!」
と笑顔で手を振る。ヤービスを軸にして里奈達は王都の外へと転移した。
〜 ❀ 〜
ザイラー国の外の景色を見るのは、この国に初めて来た時以来だ。
里奈を先頭に次の街へと歩き出した。
里奈は周りをキョロキョロしながら歩き、寄り道をしながら歩く。
街には昼前には着く予定だったが、里奈の寄り道に時間がかかり結局お昼を過ぎてからの到着となった。
「ごめんね⋯⋯。」
里奈は自分が興味を持ち、フラフラと寄り道した為に遅れた事を謝罪した。
「大丈夫だよ。お昼ご飯を早く食べれば乗り合い馬車には、間に合うから。」
ヤービスの言葉に頷き、里奈は寄り道しないように気をつけた。
「森の一つ前の村に降りる事にしょう。森の入口でも降りられるけど、そんな場所に降りたら目立ってしまう。
一つ前の村で降り、そこから転移しようと思う。」
ヤービスの提案に賛成して、急いで昼食をとった。
乗り合い馬車の乗り場に向かうと、そこには沢山の馬車が並んでいた。
日本で言えばバスターミナルに似ている。
行き先を書いた看板が並んで建てられていた。
行き先の看板の前に行くと、ヤービスが人数を伝えお金を支払う。
因みに、白狐は子狐の姿をしている。
白狐は誰かの膝の上に座るなら、料金はかからないと言われた。
白狐は誰かの膝が席と決まった。
乗り合い馬車に乗ると、椅子もなく床にそのまま座るようだ。
「そろそろ出発するぞー!!」
馭者が大きな声で周りに伝える。
馬車が一度大きく揺れると、ゆっくりと進み始めた。
乗り慣れた馬車より揺れがかなり大きい。
ガタガタ揺れる振動すらも、里奈は楽しんでいた。
馬車には数組の獣人の家族がいた。
獣人は家族を大切にする種族が多いらしい。
里奈を含め四人は普通の家族を知らずに生きてきた。
目の前で仲の良い家族を見ても、羨ましい気持ちは無かった。
それは里奈に家族の様な仲間が出来たからかもしれない。
ガタガタ揺られ流れる景色を、イーロと里奈ははしゃぎながら堪能していると森の手前の村に着いた。
馬車から降りると、村には立ち寄らずに村の外に出る。
それから直ぐに森の入口まで転移する。
目の前にはアルスタ王国で見た女神の森の木よりも、遥かに大きく育った木が立ち並んでいる。
「魔術か⋯⋯。」
ヤービスがぽつりと呟いた。
森を眺めると、とても薄く白い靄がかかっていた。
相当な魔力持ちで魔術に長けていなければ、判断出来ない程の魔術だった。
その見事過ぎる魔術を扱う者がいるのだ。
ヤービスが警戒をする。
が、アルバートの言葉に白狐以外が驚いてしまう。
「これは、父の魔力ですね。」
「「「え?!」」」
里奈とヤービスにイーロが口を揃えて驚きの声を出した。
『確かにあの者の魔力が森を覆っておる。』
白狐とアルバートが言うのならば、そうなのだろう。
「私達が入っても大丈夫なのかしら?」
里奈がアルバートに声を掛けた。
「森を覆っている魔術は白魔術です。父は使えない筈ですが⋯⋯。父の魔力ならば、多分私達は通れるかと。」
アルバートが森を眺めながら、そう答えた。
「何故通れるかは、この魔術の結界を通れたら教えます。とりあえず人目につくのは避けたいので、森に入りますよ。」
アルバートを先頭に、全員で森の中に進む。
結界を抜ける時に、体の中を何が這い回った。
それは、ほんの一瞬であった⋯⋯。
「結界を抜ける時に、体が気持ち悪かったわ。」
里奈は自身の手で、体を擦る。
「この結界は簡単に言うと、悪意ない善人しか通れません。そして結界の中に入る時の不快な現象は、父の魔力がその人物をこの場に入れて良いか鑑定していたからです。」
アルバートの説明は理解出来たが、そんな高度な魔術を侯爵が使える事に驚く。
「侯爵はどれだけの魔術を使えるんだろう。凄すぎるよ⋯⋯。」
ヤービスは魔術を得意としている。
なので、侯爵が森に施した魔術の凄さが良く解るのだ。
結界を通り抜けたので森の奥に進もうとしたが、大きな魔力が数個こちらに物凄い速さで飛んでくるのが解った。
白狐が結界を張り、里奈達を守る。
魔力の塊は上空を飛び、里奈達の前に降りてきた。
その姿は鳥族なのだが、王都で見た鳥族とは少し違う。
真っ白で大きな翼を持っていた。
里奈が観察をしていると、ヤービスがポツリと答えを呟いた。
『翼妖種⋯。』
ヤービスの言葉に先日見た種族の図鑑のような本で見た記憶があった。
妖幻獣と呼ばれる、幻の種族⋯⋯。
幻の種族が、里奈達の前に現れたのだった。




