37話 楽しい事を始めよう
王妃とゴッドローブの断罪から二月を過ぎた。
獣人国も少しずつではあるが、国として正常に回り始めた。
クレメンが新たな王となり、王家は民からの信頼を取り戻した。
オティとリティもアーグ達の指導に耐え、一週間では足りずオティとリティが納得するまで指導を受けた。
マリアンネ達の前で、アーグの指導の厳しさに折れ泣いていたらしい。
マリアンネ達もアーグからは厳しい指導を受けており、お互いを励まし合い乗り越えてみせた。
時間は少しかかったが、オティとリティは筆頭聖女として立つ事になる。
(私が彼女達を立たせてみせる。)
里奈は今日はクーロに呼ばれて、王宮に来ている。
新たに任命された宰相との顔合わせの為だ。
クーロの待つ部屋に、アルバートと共に転移した。
「おはようございます。里奈さん。」
クーロが挨拶をし、一礼した。
その横には馬だろうか⋯⋯ロバ⋯⋯?
の獣人の男性がクーロと一緒に礼をとった。
「紹介します。こちらが新たな宰相となります、アドルフ・エルス公爵です。」
クーロに紹介されたアドルフは、一歩前に進み里奈に挨拶をする。
アルバートにはアドルフに見覚えがあった。
あの断罪の広場で辺境の貴族に声を荒げた貴族だ。
アドルフはアルバートに対し、礼をとると少しだけ気不味そうにしていた。
「アドルフを交えてお話を纏めればと考えております。」
クーロとアドルフ、里奈とで話し合う。
因みにアルバートは里奈の付き添いだ。
「ザイラー獣人国を、ザイラー国へと国名を正式に変更致しました。
これからは他国の方も、ザイラー国へ移住して頂けるようにと考えております。」
クーロに渡された資料に目を通しなが、アドルフの説明を聞く。
「王家は、クレメン陛下の即位により信頼も回復し王都に住む民は特に安心しているようです。そして、辺境ですが。聖女様達の尽力により、土地も回復いたしましたのでこれからは安定した領地運営が出来ると思われます。」
里奈はふむふむと聞いていたが、一つ希望があった。
「辺境の貴族で王妃に処罰された家が幾つかありますよね?その家には慰謝料をきちんと渡して補償して欲しいの。
領民を守る為に働きかけたことが悪とされ、処罰された。これは王家の落ち度になります。クレメン陛下の名前で慰謝料を送って貰いたいのです。」
里奈の案に、クーロもアドルフも賛同した。
「では、例の王妃の隠し財産から出させて貰います。あのお金は、国の立て直しに活用し残った際は各家に返金しようと考えております。」
クーロの話に里奈が頷いた。
「後は、私から聖女についてお話があります。
アルスタ王国の筆頭聖女により、ザイラー国の聖女のオティとリティの聖魔力が格段に上がりました。ザイラー国の筆頭聖女に任命したいと思います。」
里奈の報告に、クーロは喜んだ。
だが、アドルフが少し思案顔だ。
「アドルフは何か意見があるようね。」
里奈の言葉にハッとなり、苦笑いで誤魔化そうとした。
「意見があれば言ってもらいたいの。クーロにも伝えてあるけど、種族の違いがある以上私だけの決定は良くない。
思う事があるなら話してくれる?」
アドルフは少し考えたが、意見を言ってみる。
「歴代の聖女は王都に住む貴族から選ばれております。王都以外からの選定となると、反対する者がおり、何かが起こるのではと危惧しております」
「そうね。慣例を変える事に反対する者はいるわ。でもねアドルフ。考えて欲しいの。
聖女は何故王都に住む貴族からしか選ばれないのか。
何故平民の聖女では駄目なのか。
何故聖女は神殿から出ては行けないのかを。」
里奈の質問に、アドルフは歴史を思い出す。聖女についての歴史を⋯⋯。
アドルフはハッとなりクーロを見た。
クーロは頷き、里奈に答えた。
「理由はありません。歴史の中で王都の貴族が言い出した事であります。」
そう。理由は無いのだ。
王都の貴族が勝手に言い始めた事であった。
「では、王都以外の貴族から聖女を選定したら何か不都合がありますか?平民から聖女が選定されたとして国が滅びますか?」
クーロとアドルフは首を振る。
「聖女が増える事に不都合は無いはずです。王都まで来れない民を救う為にも、聖女を増やす事は大事な事です。
貴族を説得するには、今のやり取りは使えるでしょう?」
アドルフは愛し子様の頭の良さに感心していた。
ただ変えるのではなく、納得させる理由を付け足し納得するしかないように持って行くのだと。
「アドルフ殿。今迄の獣人国は種族の強さで何となくで物事が決まっていたな。
それでは国として駄目なのだと、私もアルスタ王国で学んだのだ。
平民と一緒に仕事をしたが、中には我が国の貴族より遥かに頭が良い平民も沢山いた。
身分や種族ではなく、その者の資質を見るべきだとな。
聖女選定は、王都以外でも行う。身分を問わない。それで良いか?」
クーロがアドルフに問いかける。
「きちんと理解した上で、承知しました。
王都の貴族にはきちんと説明をし、納得させます。」
アドルフの最初の大役は、聖女について貴族を納得させる事になった。
「里奈さん。これが一番重要な話になります。」
クーロが雰囲気を変え、里奈に声をかけた。
「これからは王妃ではなく、アリーシャ様と呼ばせて頂きます。
アリーシャ様とゴッドローブの最終的な処罰はいかが致しますか?
アリーシャ様の部屋からは、リメル大国とのやり取りの書面が幾つも見つかりました。 リメル大国への対処も考えなければならないかと。」
あの断罪の日からあの二人は、フィッセル侯爵が連れ去ったままで、クーロ達には様子が解らないのだ。
「侯爵が連れ去ったままよね。生きてはいるけれどね。」
里奈から何とも恐ろしい言葉が聞こえた。
「一度、関係者を全員集めて話し合う方が良いと思うの。これからの事を個別で話し合うよりクーロやアドルフが関係者を纏め上げて行くようにして行った方が良いと思う。
私はザイラー国が安定したら、アルスタ王国へ帰ります。私が決定するのではなく、アドルフ達が決定して欲しいの。」
クーロやアドルフは少しだけ淋しそうにした。
ザイラー国が安定したならば、愛し子様は帰られる⋯⋯。解っていたが少しだけ淋しくなる。
断罪の日からずっと共に国の為に話し合いをした、所謂仲間だっかたのだから。
「畏まりました。近いうちに関係者を集め話を纏め上げたいと思います。アリーシャ様とゴッドローブの処罰もその時に話し合う事にします。」
アドルフが里奈にそう答えた。
「聖女選定は私も同席します。王都の貴族を納得させたなら連絡を下さい。
それと、リメル大国は別件で私も用があるの。少しだけ時間が貰えるかしら?
ザイラー国としてはまだリメル大国への干渉はしないようにお願いします。」
「畏まりました。」
アドルフは何も聞かないが、納得してくれたようだ。
「里奈さん?アリーシャ様達を直接処罰なさらなくて良いのですか?」
クーロがおずおずと里奈に問いかけた。
「ん?ザイラー国の処罰は処罰で受けて貰うし、私からも処罰は与えるわ。」
(自身での処罰はするのですね。)
クーロは頷いた。そして、里奈の処罰の内容は聞かない事を選んだ。
この日で大まかな道筋を決め、アドルフ宰相を中心に暫くはクーロが補佐をしザイラー国を運営して行く。
里奈はやる事が無くなってしまった。
里奈が暇になるのは、平穏である証しであるので良い事ではある。
が。里奈本人は忙しかった毎日から、急にやる事が無くなりどうしようか悩んでいた。
アルスタ王国にはまだ帰れない為、やる事を探していた。
邸でうろうろしていると、ヤービスとアルバートが魔道具を作っていた。
イーロもいるが、見学のようだ。
「何を作っているの?」
何やら大きな魔石に魔術紋を刻んでいる。
「フィッセル侯爵に頼まれた物をちょっとね。」
ヤービスが視線を外して答えた。
(これは多分だけど、ゴッドローブに使う物ね。)
里奈は何も聞かずに、イーロの隣に座ると作業を眺め始めた。
「里奈さんは、暇なの?」
イーロが声をかけてきた。
「うん⋯⋯。皆が頑張ってくれたから、私の手から離れちゃってやる事が無くなったのよね。」
二人は前を向き、作業を見つめたまま会話をする。
「サロの大臣の就任祝いをしようとしたら、王宮がやっと回り始めたからまだ駄目って言われちゃたから⋯⋯。」
そろそろお祝いをしようと、先日ライアン達に話しをしたのだ。
その答えは、まだ駄目!だった。
「里奈さんさえ良かったら、一緒に旅に出ない?旅って言っても、この国をまわるだけなんだけど。」
イーロが突然里奈に誘いをかけた。
「王宮と時計台しか僕は国を知らないでしょ?民達の暮らしは王都くらいしか知らない。僕は王族から離れるけど、国の為に何か出来ないか考えたんだ。」
イーロは困った顔で里奈を見た。
「でもね、民達の暮らしを知らないから何が助けになるのか解らなくて⋯⋯。
なら、見て回ろうと考えたんだ。
里奈さんが暇なら一緒に回ろう?一人は淋しいからさ。」
イーロの話を聞いていると、とても痛い視線を感じた⋯⋯。
視線の先にいる人物は解っている。
里奈はゆっくりとアルバートに視線を向けた。
「行ってもいいかな?」
首を傾げ、可愛く言ってみた。
イーロも一緒にお願いしてくれた。
「はぁー。駄目とは言いませんよ。ただ私以外の男性と二人きりで旅等、許さないだけです。例えヤービスでもイーロでもです。」
ジト目で睨むアルバートを気にせず、里奈は旅に出る事にはしゃぎ始めた。
「アルバートも白狐も一緒に行きましょう?ヤービスもね!」
イーロと里奈は旅の話で盛り上がる。
里奈は立ち上がると突然転移した。
が、直ぐに戻って来た。
イーロの前に大きな地図を広げた。
ザイラー国の地図を見ながら、どこから見に行くのかとか、持ち物の話までしている。
楽しそうにする里奈とイーロを、呆れ顔でアルバートが見る。
ヤービスは笑いながら魔石への魔術紋の描き込みを終えた。
(作っておいて何だけど、侯爵はエグいな⋯⋯。)
魔石を眺めるヤービスに、
「父が申し訳ない。だが、これは罰としては調度良い。」
魔石を眺めるアルバートがクスリと笑った。
(親子だね⋯⋯。性格がそっくりだ。)
ヤービスは呆れながら、アルバートに魔石を手渡した。
空間魔術を開き、魔石をしまうとヤービスに声をかける。
「ヤービスも旅をして、少しゆっくりしよう。」
アルバートが座り込むヤービスに手を差し出し立たせた。
里奈達に近付き、旅の話を詳しくする。
「ヤービスとイーロは変装の魔道具を持っているか?私は魔術で変えるが、二人はどうなんだ?」
アルバートの質問に、
「俺は魔術で変えれる。イーロはどうだ?」
ヤービスの言葉にイーロが首を振る。
「私は魔術が苦手だから⋯⋯。」
その言葉に、里奈がイーロをバッと見た。
その勢いにイーロが驚き仰け反った。
「可能性何だけど、イーロも複雑な魔術を使えるようになるんじゃないかしら?」
里奈の言葉にイーロが食いついた。
「本当?!里奈さん!本当なの?!」
イーロが里奈ににじり寄る。
「多分だけど⋯⋯。
孤児院で気が付いたのよ。獣人さんは魔力が豊富だから魔法を使いがちでしょ?子供達の遊びは、体を使うばかりで細かい作業や手を使う遊びを全くしないの。小さな頃から細かい作業が出来ないと、紋を刻む時に綺麗に正確に描けない。」
里奈の話を聞き、
「そうかもしれない⋯⋯。魔法が使えるからと、細かい作業の魔術は避けていたから⋯⋯。」
イーロは罰が悪そうに答えた。
「旅の間に遊びがてら訓練したらどうかな?魔術の得意なヤービスもアルバートもいるしね!」
イーロはキラキラした瞳で、ヤービスとアルバートを見る。
イーロは魔術を息をするようにスルスル使う二人を尊敬していたのだ。
「やるよ!」
イーロはやる気満々でいる。
昼食を食べながら旅の行程等を考え、午後も旅について沢山話をした。
楽しい一日を過ごした里奈だが、悩みが出来てしまう。
旅の許可を誰に貰うのか。
三人娘にバレないように旅に出るには、どうするべきか⋯⋯。
悩みが無くなった里奈に、新たな悩みが出来たのだった。
❀作品を読んで下さり、ありがとうございます❀
インフルに感染してしまい、寝込んでしまいました。頑張って書いていたのですが追いつかずストックも切れてしまいました。
申し訳ありません。数日投稿をお休みします。
再度投稿した時は覗いて下さい。




