34話 新たな王
里奈が声をかけるまで、聖女達はお互いの話をし仲を深めた。
(マリアンネ達のおかげでオティもリティも頑張ってくれるはず。)
里奈はオティとリティをマリアンネ達に全てを任せる事にする。
里奈が口を出すより、一からマリアンネ達が指導する方が良いと考えたからだ。
「アルスタ王国の国境沿いが一番瘴気が強いみたい。先ずは、そちらに向かって貰います。キシャール神官長に浄化の順番は伝えてあります。それに従って浄化と民への治癒をお願いします。」
里奈が聖女達に説明をする。
「オティとリティは浄化や治癒をしながらの魔力底上げとなります。
辛い思いをします。ですが、聖女として成長した姿を次に会う時の楽しみにしますから。頑張って下さいね。」
里奈はオティとリティに声をかけた。
キシャール神官長と出立に向けての話もあるだろうと、マリアンネ達を残して里奈とアルバートは先に邸に戻った。
「白狐はまだ帰って来てないのね。」
里奈の独り言に、
「そうですね。女神様と話が弾んでいるのでしょうね。」
(それは絶対にない。アルバートも解って言ってるわね⋯⋯。)
里奈は小さくため息を吐いた。
「喧嘩をしていないと良いけどね⋯⋯。」
アルバートは里奈の呟きに、クスリと笑った。
そこに魔鳥が飛んできた。
里奈の手に乗ると、手紙となり姿を変えた。
「ヤービスからだわ。」
里奈が手紙を読み終えると、アルバートに渡した。
アルバートも手紙を読むが、少し難しい顔をしている。
「先代陛下は王妃様とご子息が心配なのでしょう。」
手紙には、王家に復帰する事を躊躇している内容が綴られていた。
「次の王は先代陛下が相応しいし。番の仕組みに手をつけるならば王妃様がいてもらう事が一番説得力があるのよね。」
里奈も渋い顔になる⋯⋯。
「王妃様とご子息の安全が確証出来れば、受けてくれるのかしら?
それだけが理由ならば、白狐か女神様の結界か何かをつけるわ。何より安全じゃない?」
里奈がアルバートに問いかける。
「先代陛下と直接話された方が話は早いのですが⋯⋯。こちらに来て頂けるように話してきましょう。
ヤービス達から話は聞いている筈です。一度行って来ますね。」
言い終えると、アルバートは転移してしまった⋯⋯。
「行動が早いわね⋯⋯。」
居なくなった場所を眺めながら、里奈が呟く。
「何人分のおもてなしが必要でしょうか。」
サリーが里奈に超えをかけた。
「とりあえず⋯⋯。七人かしら。
来るかは解らないけれど、お願いできる?」
サリーは頷いて、ナミと客人を迎える用意をする。
里奈はクーロ達の説得をどうするかを考える。
クーロ達がヤービスを王に据えたいのは十分に理解出来る。
でもヤービスの希望を優先させたい。
でも、ヤービスが王になれば、ヤービスの持つ知識を使い獣人国は栄える⋯⋯。
里奈もクーロ達の気持ちも解る為に悩んでしまうのだ⋯⋯。
アルバートが転移して、暫く時間が過ぎた。
(拒否されたかしら⋯⋯。)
里奈はぼーっとしながら、先代陛下から断られた次の策を考えようとしていた。
すると、沢山の魔力を感じ直ぐ様ソファーから立ち上がった。
里奈の私室に現れたのは、先代陛下と王妃様にご子息だったのだ⋯⋯。
(来てくれた⋯⋯。)
里奈は小さな希望を持った。
先代陛下達が膝を突こうとした為、手で制した。
「公の場でない限り、膝を突いての礼はいりません。」
里奈の言葉に一瞬迷うも、頭を下げるのみの挨拶をした。
「愛し子様には我が国が多大なご迷惑をお掛けした事を、深くお詫び致します。」
三人は深く頭を下げ謝罪した。
「ヤービスにいつも言う言葉があるのよ?」
里奈の言葉に三人は里奈からの言葉を待つ。
「貴方は悪くない。悪いのは誰なのかを間違えてはならない。」
里奈はニッコリ笑っている。
先代陛下達は、愛し子様の懐の深さに感謝する。
「座りましょうか。」
アルバートの言葉に、全員がソファーに座った。
直ぐにサリーとナミが紅茶を出してくれた。
「要点だけ話します。私は番の仕組みに手を出します。番を選ぶか他者を選ぶのか。その為には、番でない先代陛下の王族復帰は必要になります。
番でない者を選び愛し抜き、子を成した。その事実がなければ、番至上主義の者に対抗出来ません。
そして、ヤービスやイーロが王族を離れる為にも民から未だに慕われる先代陛下しか王には成れないのです。」
孫であるヤービスやイーロから聞いた話と同じであった。
「先代陛下が迷われるのは、王妃様やルス様の身の安全ですか?」
里奈の質問に先代陛下が頷いた。
「命を狙われ続けてきたのだ。二度とあんな思いをさせたくはない⋯⋯。
やっと平穏な生活を手に入れたのです。
ですが⋯⋯。
私も一国を背負ってきたのです。国を立て直す為に私が表舞台に戻る事で国が成り立たつのならばそうしたい気持ちもあるのです⋯⋯。」
(この方はとても情け深い方なのね⋯⋯。)
「絶対に身の安全を約束するとしたならば、受けて頂けますか?」
里奈の直球の質問は、受けるか受けないかしか答えを求めていない。
獣人国の為にも、早々に次代の王を選ばなければならないのだ。
先代陛下は里奈の目を見て、
「お約束頂けるならば、お受け致します。」
そう答えた。
「解りました。暫くはこの邸にいて貰います。邸は結界が張ってあり悪意ある者の侵入は許しません。この場所は一番安全です。」
先代陛下達は滞在を承知してくれた。
「ところで、人族に抵抗はありませんか?この邸はアルスタ王国の者しかいません。人族が苦手ならば、その様に対処します。」
アルバートが質問する。
「私達は抵抗はありませんが、そちらの方は大丈夫なのでしょうか?」
逆に問いかけられた。
「邸にいる者は獣人に抵抗はありません。コボルトの獣人と飲み明かすくらいですから。」
アルバートの言葉にホッとしていた。
「紹介がまだでした。私は先代のクレメン。妻のアーシャに息子のルスです。」
アーシャとルスが頭を下げた。
「ザイラー獣人国の王族は種族が決まっているの?」
里奈は王族以外で獅子を見ていないから、気になっていた。
「そうですね。王家のみが獅子の獣人です。男子は獅子の獣人なのですが、希少種の影響でしょうかヤービスは猫のようです。アーシャは鳥の獣人です。ルスとイーロは獅子ですね。女子が産まれた際は妻の種族となります。」
クレメンの説明に里奈は納得した。
「ヤービスと王位継承を放棄する話に納得していない者と近々話し合いましょう。日程が決まるまでゆっくりして下さい。」
アルバートの説明にクレメン達は了承してくれた。
サリーとナミが部屋を用意してくれていた為、案内してもらう。
(サリーとナミが優秀過ぎるわ⋯⋯。)
「クーロ達に早々に時間を作るように伝えてくれる?そしてライアンにクレメン様の話をして欲しいの。ライアンには、アルスタ王国の陛下にクレメン様の復帰をどう思うかも聞いて貰いたいの。」
里奈の頼み事を全て引き受け、アルバートが転移した。
里奈はクレメンが来てくれた事に安心した。ソファーに身を預け、クーロ達の話し合いについて、考える事にした。
アルバートは時間もさほどかからずに、邸に戻って来た。
「クーロさんは、明日の午後に予定を開けて貰いました。
次の宰相を愛し子様と顔合せをしたいとの話をクーロさんから受け、了承しました。日程は後程こちらに届きます。
ライアンは直ぐに陛下の元に行き、こちらに直接報告に来てくれます。」
アルバートの的確な判断に、里奈は苦笑いする。
アルバートは何がそのような顔をさせるのか、気になり聞いてみた。
「最近は苦笑いが増えてますが何か思う事がありますか?」
アルバートは里奈の頬を撫で、問いかけた。
「休養明けてから特に思うのよ。
以前に増して、皆の仕事が早いなぁーって。」
アルバートが少し考える。
「私はそうでもありませんが、他の者はリリの意見や考えを先に確認してから行動していました。気を使っていた訳ではありませんよ?ただ、リリの気持ちを優先したかったのでしょう。
でも、それてはリリの考える事が多過ぎると判断し負担を減らす為、自分達で考えリリの為になるように動き始めたと思いますよ?」
「私の為⋯⋯。」
アルバートの話に、里奈はまた考えてしまう。
「私は皆に恩を返せてるかな?やって貰うばかりではいけないじゃない?」
リリの言葉に、アルバートは一瞬動きが止まる。
次にクスクス笑い始めた。
「違いますよ。先に多大な恩を皆がリリから受けています。今はその恩返しをしている最中なのです。リリの考えは逆です。」
アルバートはそう言うが、納得出来ず渋い顔になる。
「リリは知らず知らずに彼等を助けていたのです。理解するのは難しいでしょう。
ですが今の彼等は楽しんでいます。
仕事が捗るので放っておきましょ。」
実感が無い里奈は納得いかないが、水掛論になるのは予測がつくので話を終える事にした。
アルバートが紅茶を淹れなおしていると、ライアンが転移してきた。
「里奈さん。お久しぶりです。体調はどうですか?」
ライアンは到着早々に里奈の心配を口にする。
「もう大丈夫なんだけど、お目付け役が厳しいのよ。」
里奈がアルバートをチラリと見るが、アルバートは無視をする。
ライアンが笑いながら、
「仕方がないですよ。アルバートは里奈さんが一番大切なのですから。
里奈さんは直ぐに動き回るので、お目付け役がいる方が私達も安心です。」
里奈は不服の意味でジト目でライアンを見るが、ライアンも慣れたものでジト目を無視した。
ソファーに座り、陛下からの結論を聞く。
クレメン様の復帰はアルスタ王国としては歓迎する。
ヤービスの復帰は関係を考慮するに値する。
ヤービスの復帰には反対と結論を出したのも同様だった。
里奈は心の中で、喜んだ。
「クレメン様達と夕食を一緒にと思っているの。ライアンも同席して食後に直接伝えて貰えると助かるのだけど。」
里奈の提案に、
「勿論です。陛下からクレメン様への言葉も預かっていますから。」
ライアンは快く受け入れてくれた。
夕食までライアンから王宮の話を聞く。
三人娘が獣人に興奮して大変だった話は、笑ってしまった。
里奈はマリアンネ達が兎族の聖女達に嵌ってしまった話もした。
人族と獣人が限られてはいるが、仲良く仕事をするのは喜ばしい事だった。
サリーが扉をノックし、夕食の時間を告げてくれた。
アルバートとライアンも一緒にダイニングに向かう。
クレメン様達は先に席に着いていたが、居心地が少し悪そうだった。
ダイニングではいつも通り、騎士や使用人も手の空いた者から夕食をとっていた。
里奈達が席に座るが、会釈をする程度だ。
それを見て、クレメン様達が驚いている。
愛し子様を相手にして良い態度なのかを⋯⋯。
隣に座るヤービスが察して、クレメン様にこっそり伝える。
「里奈さんは愛し子様として扱われるのを嫌います。公の場で以外は、殆どの者が普通に接しています。なので、これが普通なのです。」
クレメンは高貴なる者はそれに見合った扱いを受けるものだと育てられた。
自身以上に高貴な方なのだが⋯⋯。
クレメンは何やら悩み始めた。
「里奈さんは里奈さんです。あの方は普通じゃないので、クレメン様が気になさる必要はありません。クレメン様はクレメン様らしくで良いかと。」
孫のヤービスの言葉に、そうかもしれない⋯⋯。と、納得する。
「ところで、ヤービスにイーロ。私は貴方達の祖父になる。良ければ名ではなく祖父と呼んで貰いたいのだが。」
クレメンの言葉にヤービスとイーロは嬉しそうに、
「はい!お祖父様。」
そう返事をしていた。
目の前の獣人国の王族は、家族仲も良くお互いを思いやれる人柄である。
そんな血筋に、何故あのような愚王が誕生したのかをダイニングにいる者達は考えてしまう。
食事を終え、クレメン様たちをお茶に誘う。
席に着き紅茶を出すと、サリーとナミは部屋から退室した。
「エルドリック陛下より、クレメン様にお伝えする言を預かっております。」
ライアンは軽く頭を下げ、陛下からの言葉を伝える。
「クレメン様が王族に復帰なされる際、アルスタ王国は全力で後ろ盾をする。だが、ヤービス殿下イーロ殿下が継承するのであれば、関係を考慮するに値すると賜っております。」
話を伝え終えると、ライアンは一礼をした。
「そうですか⋯⋯。とても有難いお言葉です。ヤービスにイーロは、王にならなくても良いのか?私達に遠慮しているのではないのか?」
クレメン様がヤービス達に問いかけた。
「私は元から王族から抜けるか、死ぬ事しか頭にありませんでした。愛し子様に助けられ、アルスタ王国で生活をする中で私はザイラー国ではなく、アルスタ王国で生きたいと思いました。」
ヤービスがそう答える。
「私は王には向いていない。決断出来ない王は民を死に追い詰めてしまう⋯⋯。自身の為、民の為にも王にはならない。」
次いでイーロが答えたら。
「解った。息子であるシーヴァの責任は私がとる。お前達は好きに生きなさい。」
クレメンの言葉にヤービスとイーロは礼をとった。
「ありがとうございます。お祖父様。」
ヤービスの言葉にクレメンは頷いた。
「急な話ですが、明日の午後にヤービスを王族から離れることに反対する者に会って頂きたい。クーロ元宰相なのですが、今彼は獣人国の再興に奮闘している人物です。彼の力なくては、獣人国の早期の再興はあり得なかったでしょう。
その人物を押し切ってまでヤービスを王族から離す訳には行きません。
クーロ元宰相を納得させれるのは、クレメン様しかいらっしゃらないかと。」
ライアンの言葉にクレメン様は明日面会することを事を了承してくれた。
翌日、クーロの元に現れたのは亡くなった筈のクレメン先代陛下だった。
里奈達を待っていたクーロ達は、驚き過ぎて腰を抜かした。
城を出て直ぐに亡くなった筈のクレメン先代陛下とアーシャ様が現れたのだ。
二人の隣に視線を向けると、クレメン先代陛下にそっくりの成人男性がいる。
腰を抜かしたクーロだが、元宰相。状況を瞬時に把握した。
「クレメン様を王にし、ヤービス様は王族を抜けられると?」
クーロの問いに、
「イーロもだ。私達は王族にいるべきではないからな。」
ヤービスの言葉にクーロが答えようとするが、
「アルスタ王国の陛下より言葉を預かっています。
クレメン様が王になられるならば、アルスタ王国は全力で後ろ盾になる。
しかしヤービス殿下イーロ殿下が継承するならば、関係を考慮するに値すると。」
ライアンの言葉にクーロはもう何も言えずにいる。
クーロはヤービスが王に相応しいと思っている。
それは全員が承知しているのだ。
だがそれでは獣人国が新しくなったとは言えない。
「クーロ。貴方の私への忠義は有難く思っているよ。でも、犯罪者の息子が王になったてはならない。
クレメン様はシーヴァ王父ではあるが、経緯を話せば民からの納得は得れる。私やイーロよりも民からの信頼はいまだ根強いのだから。」
ヤービス自身を犯罪者の息子と言わせてしまったクーロ達は顔を青褪めさせた。
「クーロ。私とアルスタ王国で暮らそう。私達がこの国にいてはならない。」
ヤービスの言葉に、クーロ達は受け入れるしかなかった。
クレメン先代陛下とアーシャ様が現れた時点でそうなる予感はあったのだ。
「ヤービス様。色々と申し訳ありませんでした。」
クーロが謝罪をした。
「解っているよ?!私の立場を、居場所を作りたかったのだよね。ずっと私を見ていたからだ。謝罪はいらない。
ありがとう。クーロ。」
ヤービスの言葉にクーロは肩を震わせながら、静かに涙する。
「クーロ殿。ヤービスを支え続けてくれて感謝する。他の皆にも感謝する。」
クレメンはクーロ達に感謝の言葉を贈る。
クーロ達はその言葉に再び涙し、暫く泣き続けた。
ヤービスを王族から抜けさせる事になった結果を受け入れるには時間薬が必要だった。




