32話 番にはうんざりです
アルバートも参加し、ヤービスとイーロの決断の行方を話し合う事にした。
アルバートが調べ上げた情報を教えて貰う。
「ヤービス達が、もしも王族を離れたい時の為に調べました。貴方達は希少種な為、王家に縛られる可能性が高かった。」
ヤービスとイーロは黙ってアルバートの話しに耳を傾ける。
「シーヴァ王には兄弟がいるのをご存知ですか?」
ヤービスもイーロも初耳だった。
シーヴァ王は兄弟姉妹はいないと聞いていたのだ。
「シーヴァ王には歳の離れた兄が存在します。先代陛下は最初の王妃様は亡くなったと公表しました。何故なら、先代陛下は番に出会われたからです。」
ヤービスは頷いた。
その話は有名だった。
「亡くなった先代王妃とは番ではないが幼馴染であり、世継ぎの為に結婚したと聞いている。
王妃とは番でないせいか、世継ぎが出来なかったとも。
だが、番が見つかったがその番はまだ幼く、結婚すら遠い程の年齢差があったと⋯⋯。」
ヤービスが知る限りの話をした。
「実際は違います。
先代陛下は、番よりも妻の王妃様を選んだのです。番が幼かったのもあるかもしれませんが、先代陛下は理性が強く働いたのと王妃様への愛が勝ったのでしょう。
そして、二人の間にはシーヴァ王の兄が生まれています。
ですが、その当時の王宮は特に番至上主義の臣下ばかりだったようです。
番を選ばず王妃を選んだ事に反対した臣下により、王妃様とお子様は命を狙われ続けたそうです。」
ヤービスとイーロは息をのむ。
学んだ王家の歴史とは全く違うからだ。
「その話はどこで知ったのですか?」
イーロがアルバートに問いかけた。
「白狐ですよ。白狐に獣人国の王家の血筋を全て調べて貰いました。白狐が証人ですから、真実です。」
ヤービスとイーロが白狐をバッと見た。白狐は横たわったまま尻尾で返事をした。
「白狐様が関わっているならば、真実ですね⋯⋯。」
「続きをお願いします。」
ヤービスがアルバートに伝えた。
「陛下は王妃様とお子様の暗殺が成功したように見せかけ、お二人を城から逃がしました。陛下は一人城に残り、番が成長するのを待ちました。番が成長し結婚し子を成した。それがシーヴァ王です。
番は出産に耐えられず亡くなった。
ですが、シーヴァ王は無事に産まれました。
番との子供が産まれた為、臣下は番を選ばなかった陛下の過去を抹消しました。
それが貴方達が知る偽の歴史です。」
アルバートが喉を潤す為に、紅茶に口をつけた。
「王妃やお子はどこに?」
ヤービスがアルバートに問いかけた。
「辺境の神殿にいらっしゃいますよ。先代王妃も先代陛下も。そして、お子であるルス様も。」
「先代陛下もご存命なのか!!」
ヤービスの驚愕の声に、アルバートは頷いた。
「シーヴァ王は14歳の時に、番であるセアラ妃と出会われています。
先代陛下を慕う臣下が、番至上主義の臣下と話を纏めシーヴァ王に王座を譲る代わりに先代陛下は亡くなった事にし城を出たそうです。
番至上主義の臣下は、先代王妃とお子の生存は知りません。先代陛下を支えた臣下と共に辺境の神殿に向かいましたからね。
真実を知る者は王城には残らなかったそうです。」
ヤービスは、番の厄介さに頭を抱えた。
イーロが番を見つけているからだ。
ヤービスはイーロに視線を向けた。
「私は先代陛下に会おうと思う。会ってくれるかは解らないが、話をしたいと思う⋯。
イーロ。
私が作った指輪をしたままだけれど、番とはどうなっているんだ?」
ヤービスはイーロの番とは会った事がない。ただ、イーロが離れたがっていた事しか知らない。それも10年前の昔の話なのだから⋯⋯。。
イーロは兄に作って貰った指輪を撫でなが、「番とは再婚約はしない。」
ヤービスの目を真っ直ぐに見るイーロは、はっきりと断言した。
「婚約は解消されたと言っていたが、王妃の策略であるならば貴族籍に復帰する事にもなる。
番至上主義の者も多くいる。再婚約を言われるぞ?」
ヤービスの話は可能性としてありえる。
「でも、しない。私はあの人が嫌いだからね。」
苦笑いでイーロが答えた。
「解った。何とかなるよう考えよう。」
ヤービスは兄として、イーロの願いを叶えてあげたかった。
ヤービスとイーロの兄弟愛に水を差すのは申し訳ないが、里奈がある事を伝えた。
「あの⋯⋯。イーロの再婚約は絶対に無理よ?私が許さないもの。」
ヤービスは不思議そうに里奈を見る。
イーロは苦笑いをする。
「里奈さんを嘘で呼び出して、挙句の果てに兄上は死んでるとか、自分は私の番だから王妃になるとか⋯⋯。色々言ったから里奈さんの怒りを買ったらしいよ。」
イーロが肩を竦めて居心地が悪そうにしている。
「イーロは最近のあの人の話は、何か聞いてない?」
里奈がイーロに問いかけた。
イーロは何かを思い出したようで、
「そう言えば、あの人は何か病気みたいなことを聞かされたかな?」
イーロもあやふやな話しか聞いてはいなかった。
「病気ね⋯⋯。」
里奈の呟きに、ヤービスが何かを察した、
「里奈さん。何かやったの?」
ヤービスのジト目に気が付いて、里奈もジト目で返す。
「あのねー。何かをしたから、罰を受けるのよ。当たり前でしょ?」
里奈が首を傾げて、ヤービスに答える。
「その何かが知りたいんでしょ?」
里奈とヤービスのジト目の戦いに、アルバートが口を挟んだ。
「仲が良いのは結構ですが、話が進みません。遊んでいないで、リリもきちんとヤービス達に説明して下さいね。」
里奈はビクッとなり、姿勢を正した。
(最近のアルバートは、厳しいのよね⋯⋯。)
里奈は、チラリとアルバートを見るがニッコリ返されただけで逆に怖い⋯⋯。
「サロって、コボルトの獣人さんと最近仲良くしているの。サロを利用して、あの人は私を誘き出そうとしたの。
ただ私を呼べば良かったのに、サロを娼館に連れ去って魔法で攻撃して瀕死にしたのよ。」
イーロは初耳だっただけに、驚き過ぎていた。
口をはくはくさせ、呼吸が出来ないでいる。
アルバートが直ぐ様イーロの口を両手で包み、深呼吸をさせている。
驚き過ぎて、過呼吸になってしまったのだ。
イーロをソファーに横にさせて、ヤービスがイーロの背を擦る。
「大丈夫か?」
イーロはヤービスに、大丈夫と返事をすると里奈を見た。
「里奈さん。番の責任は私にもあります。申し訳ありません。」
イーロの謝罪の意味が解らない。
「番だからと言ってもイーロはあの人ではないし、あの人もイーロではないわよ。責任は本人にしかないわ。」
里奈の言葉を聞いても、イーロは首を振る。
「あの人を私は放置し続けた。
私は番であっても、あの人の考え方が嫌いだったのです。
兄上から指輪を貰うまで、ずっと好意と嫌悪の感情に悩まされました。ですが兄上から贈られた指輪をすると嫌悪しかあの人には抱けなかったのです。
番の本能なのか、あの人は私に甘えるばかり。身体を擦り寄せられても、吐き気しかない。
あの人は願いは、セアラ妃のようになるのだと⋯⋯。
あの人と話をしても会話が成り立たない。
番だから⋯⋯。そればかりを言われ続けて⋯⋯。面倒になり私は逃げたのです。」
イーロは俯いてしまった⋯⋯。
「イーロは、先代陛下の血が強いのかもしれないわね。だって、ヤービスに指輪を貰う前から本能と理性の狭間に悩んでいたのでしょう?
ヤービスだけではなく、イーロも先代陛下に会って話をしてみると良いかもしれないわよ?」
里奈の提案に、ヤービスも賛同する。
「二人で会いに行ってみよう。先代陛下に王家に復帰して頂けるように、お願いしてみよう。」
イーロは顔を上げないまま、頷いた。
「イーロが何に責任を感じているか、解らないけど。サロや私に申し訳ないと思わなくて大丈夫よ?」
イーロが顔をあげたが、今にも泣きそうな顔だった⋯⋯。
「私が殴ったもの。サロの仇だから、全力でね!」
ドヤ顔で報告する里奈を、ヤービスとイーロはポカーンと口を開けて見ている。
「でもそれだけでは許せなかったから、瘴気を入れたわよ。あの人の胸にね。
国境で浄化した騎士達の瘴気だけど、あれは亡くなった民達の無念の瘴気なの。
贅沢三昧の我が儘女に相応しいわね。」
里奈は何事もないように話す。
が、ヤービスとイーロの顔は青褪めて行く。
愛し子様が人に瘴気を入れるなんて⋯⋯。
「ヤービス達は知らないかもしれないが、瘴気を人に入れたのは二度目ですよ?リリが人として許せない行為を犯した者にする罰でしょうかね?」
アルバートの説明で、更に驚く。
「だから、あの人はイーロの婚約者には戻れない。戻さない。
愛し子の怒りを買った者を、王族にはさせない。そして、イーロとの接触は絶対に許さない。」
イーロは、愛し子様から自分は守られているのだと理解した。
ヤービスも里奈なりにイーロを守ってくれている事に気がつく。
「ありがとう。里奈さん。」
「ありがとうございます。里奈さん。」
二人からのお礼を笑顔で受け取った。
「ヤービスとイーロは早目に先代陛下に会った方が良いと思うの。辺境の神殿には、私がキシャール神官長に頼んで人が訪ねる事を伝えて貰うから明日にでも向かう?」
里奈の話は有難かった。
神殿に知り合いもいない為、先代陛下に会いたくても会う手立てが無かったのだ。
「色々とありがとう。里奈さん。
明日、神殿に向かうよ。連絡をお願いします。」
二人は王族から離れられる可能性を見つけ、少しだけ安堵していた。
里奈はヤービスにずっと聞きたかった事があった。
番の話が出ている今、それを聞く良い機会だと思いヤービスに聞いてみる事にした。
「ねぇ、ヤービス。ずっと聞きたかった事があるんだけど、聞いても良いかな?」
ヤービスは、「うん。良いよ。」
と、快い返事をくれた。
「ヤービスには番がいないの?まだ見つかっていないだけなの?」
直球で聞いてみる。
「人に合う事が少なかったのもあるけど、イーロに指輪を贈った時に自分の分も作ったんだ。ずっと身につけているからなのか、ただ出会えてないからかは解らないけど。番はいないよ。」
ヤービスが答えてくれたが、それだけではない。
「ヤービスは番に抵抗があるんじゃない?勝手に決められてるとか、自由じゃないとか⋯⋯。日本では無い事だから。」
里奈は自由恋愛だった日本と、本能に左右される番にヤービスは馴染めないのでは?と思ったからだ。
「里奈さんは凄いね。
そうだよ。日本の感覚がある以上、番なんて、厄介なものにうんざりしてるよ。
勝手に相手を決められるなんて、嫌で仕方なかった⋯⋯。出来るなら、心から好きな相手を番としたいよ。」
ヤービスは本気で番を嫌っている。
うんざり感を隠そうともしていない。
「父を見ていて、気持ち悪いとしか思わなかった。母は確かに美しいかもしれないが、頭が弱い。なのに、番だからと王族になり好き放題で贅沢をし政に携わらない。里奈さんには申し訳ないけど、王宮にいた頃はまだ王妃の方がましだと思うくらいにあの二人を嫌っているよ。」
ヤービスが里奈を見る目は、今まで見た事がないくらいに鋭い。
「以前、里奈さんが番をどうするか。
番の仕組みを変えたいって言ってただろう?
クーロ達がいたからはっきり言えなかったけど、私は番の仕組みを消して欲しいとさえ思っている。
たた、番を求める者もいるのは理解している。私が転生者だから番を受け入れられないのかもしれない。だけど、里奈さんが言ったように選ぶ権利は与えて欲しい。」
ヤービスが本音を吐いた。
長く葛藤していたのかもしれない。
「解った。一つお願いがあるの。
先代陛下に、私が番の仕組みを変えたい事を話して欲しいの。そして、先代陛下の考えを私に教えて貰いたい。
お願い出来る?」
「解ったよ。先代陛下にちゃんと聞いてみるし、自分の気持ちも伝えてみる。」
イーロも頷いてくれた。
里奈は密かに番の仕組みを強行してでも、必ず変える事を決めた。
愛し子や女神様の名を使ってでも変えてやる!
誰にも邪魔されないようにしないと!
フッと小さく笑った里奈に、アルバートが気が付いた。
何やらやらかすつもりの里奈に、アルバートは小さくため息を吐いた。
後で里奈は全てを話す事になる。
アルバートには里奈の秘密は直ぐにバレてしまうのだ。




