31話 王族をどうしましょうか
里奈が外出禁止となり三日。
4日目の今日、ようやく外出禁止が解かれた。
朝からご機嫌の里奈だが、アルバートから厳しい注意を受ける。
「嬉しいのは解りますが、無理をしないように。頑張り過ぎだと判断したら、邸に強制的に帰宅させますから。宜しいですね?」
里奈の返事は、
「はい⋯⋯。」の一択しかない。
「王城はライアン達とクーロさん達がきちんと対応して、上手くやってますので安心して下さい。」
アルバートの報告に、ホッと安心する。
「今日はどちらに行かれますか?」
アルバートが行き先を聞かれたが⋯⋯。
「アルスタ王国の聖女達は今どこにいるか知ってる?」
「アーグさんとセシーさんは王都に戻られました。残りの聖女達はパトリック達との婚約の事もあり、ヨーク領に残っております。」
アルバートの話に、里奈はヨーク領に向かう事を伝え朝食を終えると、子狐の白狐を抱えアルバートとヨーク領に転移した。
邸の玄関前に転移すると、外には人の気配がなかった。
ダイニングに人の気配があるので覗いて見る。集まっていたのは、やらかし聖女達だった。
少し遅い朝食のようだ。
「おはよう。」
ダイニングの入口から顔だけ出した里奈に、聖女達が気が付いた。
ドタバタと椅子を倒しながら、里奈のもとにやって来た。
「「おはようございます!里奈さん。」」
聖女達からの挨拶を受け、里奈が笑顔で声をかけた。
「食事中にごめんね。少し話があって、会いに来たの。」
マリアンネが嬉しそうに里奈の手を引き、朝食の席に座らせた。
「里奈さんは朝食は済まされたのですか?」
「朝食は済ませて来たわ。皆も朝食食べてね。私が邪魔してるんだけど⋯⋯。」
苦笑いで里奈が答えると、執事のジーノが里奈といつの間にか隣に座るアルバートに紅茶を出してくれた。
聖女達は早く里奈と話をしたい為、急いで朝食を終えた。
「森とヨーク領を守ってくれて、ありがとう。ご苦労様でした。」
里奈は頭を下げ、聖女達にお礼を伝えた。
「聖女として当然の事をしただけです。でも、里奈さんからのお言葉は嬉しいので、ありがとうございます。」
マリアンネは照れながらも、お礼を伝えてくれた。
「聖女らしくなったわね⋯⋯」
里奈は染み染みと言葉をはいた。
「あの頃の私達ではありませんよ!沢山の方に鍛えられましたから!」
ね!
と、お互いの顔を見合い頷き合う。
「ところで、里奈さんのお話とは?」
ケリーが里奈に話を振った。
「貴女達に、獣人国に来てもらいたいの。獣人国の国境沿いは瘴気がまだあるから。その浄化と民の治癒をお願いしたくて。」
里奈の言いたい事は理解出来る。
でも、一つ気になる事がある。
「里奈さんのお話は快くお受けします。ですが、獣人国にも聖女がいたはずですが。その方達では出来ないのですか?
私達が行って大丈夫なのでしょうか。」
マリアンネの話は最もだ。でも、彼女達では無理なのだ。
里奈は苦笑いでマリアンネの話に答えた。
「確かに獣人国にも聖女がいるわ。でも、二人しかいない。しかも、魔力が少な過ぎるのよ。二人合わせてもコリンの魔力にも及ばないかな⋯⋯。」
里奈の話に、
「冗談ですよね?私がこの中で一番低いのは事実ですが⋯⋯。二人揃っても私以下って⋯⋯。」
聖女達は信じられないようだった。
「彼女達のせいではないの。国と教会の在り方の問題なのよ。
獣人国の聖女は、王都の神殿から出る事は無かったの。神殿に来る者の治癒をしていただけだから魔力を上げる機会が無かったの。
聖女を選ぶのも、王都に住む貴族からなの。範囲を広げれば聖女は見つかったかもしれない。」
里奈は獣人国で知り得た話を伝えた。
「今迄そうであったから、そうするべき。他国との親交が少ない弊害ね。
とりあえず、教会には聖女を探す範囲を広げるように提案したわ。でもそれを、するしないは教会に任せる事にしたの。」
里奈は両手を合わせて、お願いのポーズをとる。
「貴女達に獣人国の聖女を鍛えて欲しいのよ。一緒に浄化に向かわせるから貴女達が聖魔力をあげたやり方で構わない。彼女達の魔力を底上げして欲しいの。」
両手を合わせ、お願い!と訴える。
マリアンネは頬を引きつらせる。
「里奈さん。魔力の底上げを行うと言う事は、私達がガルズ司祭にやられたやり方になりますよ?私達は、それしか知らないので⋯⋯。」
マリアンネの言葉で思い出す。
(ガルズ司祭は頼めば受けてくれそうだけど⋯⋯。)
「人族に慣れていないから、同じ聖女が良いと思うのよね⋯⋯。
やり方は貴女達に任せます。一緒に浄化に行ってもらいたいの。」
「「「「畏まりました。」」」」
聖女達が受けてくれて、ホッと安堵する。
「準備が出来たら、獣人国に来てね。後、パトリック達にはきちんと説明しておいてね。」
聖女達は快く了承してくれた。
『用事が終わったならば、森に向かうぞ。』
もう一つの用事は、森への訪問もあった。
聖女達とは獣人国での再会を約束し、一旦お別れした。
アルバートと白狐とで森に建つ慰霊碑の前にやって来た。
鈴の音が鳴り響き、愛し子様の到着を伝えているようだ。
里奈はいつも通りに花を摘み、慰霊碑に捧げて祈る。
(とりあえず、王妃達を捕まえたわ。今は侯爵が厳しい仕置をしていると思う。私からの仕置は、少し先になります。獣人国が落ち着いたら処罰します。
もう少し待ってね。)
里奈は殴るだけで終わらせるつもりはない。
「報告は終わりましたか?」
アルバートも祈りを終え、里奈に問いかけた。
「私からの仕置は先になる報告をしたのよ。もう少し待っててねって。」
慰霊碑を撫でながら、神力を注いで行く。
暫くは、安らかな眠りを⋯⋯。
「里奈様!」
突然の呼びかけに後ろを振り向くと、侍女のサリーとナミが花束を抱えて立っていた。
「里奈様。お帰りなさいませ。」
「心労で倒れられたと。お体は大丈夫ですか?」
サリーもナミも里奈の体を気遣う。
「もう大丈夫よ。まだ無理は出来ないけど⋯⋯。」
里奈がチラリとアルバートに視線をやった。
二人は直ぐに状況を察した。
アルバートの許可がなければならないと。
「こちらには用事でお戻りですか?」
サリーが話しかけて来た。
里奈はシートを出して貰い、座って話をする。
「聖女達に用事があったのと、慰霊碑に報告にね。」
侍女達は顔を見合わせて、里奈に願い出た。
「里奈様。私達を一緒に連れて行っては頂けませんか?倒れたと聞き、心配致しました。私達がいれば、少しくらいは役に立つのではと話し合っていました。」
サリーがそう伝えた。
「アルバート様も白狐様もいらっしゃいますが、女性としてお助け出来る事もきっとあるのではと。
眷属様達には、先に里奈様の元に行きたいとお伝えしてあります。カズラ様からは許可を頂いております。」
二人は真剣な眼差しで訴えている。
「カズラが良いと言ったのなら、一緒に来て。屋敷に女手が無かったから、沢山やる事はあると思うし。」
里奈は笑顔で了承したのだ。
「二人の準備が⋯⋯「準備は既に出来ております。」⋯⋯。」
里奈が言う前に、答えを言われてしまった。
里奈は可笑しくて、クスクス笑った。
「ありがとう。」
一言お礼を伝えた。
カズラとヒイラギが現れ、
〚遊ぼう。里奈!〛
お誘いを受けた。断る理由がない。
「よし!沢山遊ぼう!」
里奈が返事をした。アルバートに向かって、
「遊びは心の癒やしです!駄目とは言わせませんからね!」
そう言うと、カズラとヒイラギの手をとり走って逃げた。
もとからアルバートは禁止するつもりは無かったのだ。
「どれだけ私は厳しいと思っているのでしょうね。」
アルバートの呟きに。
『全部だろうな。』
白狐が答えた。
アルバートと白狐はシートで寛ぎ、里奈達のはしゃぐ様子を眺めていた。
昼食の時間が過ぎてはいるが、遊びをやめる気配がない。
アルバートが邸に帰り、簡単な物を作ると昼食の籠を幾つも抱えて戻って来た。
「昼食にします。食べなければ、遊びは終わりです。」
アルバートの声に、里奈達は大急ぎで戻って来た。
カズラやヒイラギ。それに姿を現した眷属達も一緒に皆で食事をする。
食事を終えたら、直ぐ様遊びに行ってしまう。
他の眷属達も参加し、数が増え慰霊碑の周りをクルクルと走り回る。
祈りに来た民達も参加し、大騒ぎで遊んでいる。
暫く様子を見ていたが、寝込んでいた里奈は体力が完全には戻っていなかった。
アルバートが里奈を止めて、遊びを終わらせた。
「また遊びましょう!」
民達やカズラ達と笑顔で別れ、侍女達の荷物を取りに邸に戻る。
邸に戻ると、ジーノとナダがいた。
「里奈様。お帰りなさいませ。」
ヤービスの乳母であったナダが声をかけてきた。
「ただいま。ナダ。」
里奈は笑顔で返事をする。
「ごめんね。ヤービスとはずっと会ってないから、ヤービスの様子は解らないのよ。」
ナダはヤービスの事を知りたいのでは?と思い、先に伝えたのだ。
「いえいえ!ヤービス様は心配しておりません。それより、里奈様が倒れたと聞き心配致しました。獣人国のせいで、ご負担をお掛けしてしまいました⋯⋯。」
ナダは申し訳なさそうにする。
「大丈夫よ。悪いのは王妃やゴッドローブ。後は一部の獣人だけよ?獣人国全てが悪い訳じゃない。ナダも、それにジーノも申し訳なく思わないでね。悪いのは民じゃない。ね!」
そんな筈はないのだが、里奈の励ましをナダもジーノも素直に受け入れる。
「里奈様。私達は急いで支度をして参ります。」
サリーとナミは一礼すると、走って下がって行った⋯⋯。
あの二人か走る姿を久々に見たが、やはり可笑しくて仕方がなかった。
ダイニングに移動し、話をする。
「獣人国はクーロ達の頑張りで軌道に乗ってくれてるわ。全て上手くは行かないでしょう。でも国を良くする為に尽力してくれているわ。」
ジーノとナダはホッとしていた。
「ジーノとナダも私やアルスタ王国への恩とか考えずに、これからどうしたいかを考えてね。他の者にも伝えて欲しいの。
貴方達が幸せになる道を、ちゃんと選んでね。」
ジーノとナダは里奈の言葉を聞き、自分達の幸せをきちんと考えて行くと約束をした。
サリーとナミが戻って来たので、獣人国へ戻る事にした。
ジーノとナダが見送りをし、里奈達は転移した。
里奈はすっかり忘れていた。
サーシャに会わなかったせいで、ヨーク領で大泣きするサーシャにパトリック達が手を焼く事になる。
里奈に悪気がないだけに、サーシャが可哀想になるパトリック達だった。
聖女達の事も話はついた。
後は何が出来るのかを獣人国に戻った里奈は考えた。
ヨーク領から戻りアルバートはサリーとナミを連れ邸を案内している。
里奈は一人ダイニングでお茶をしていた。
すると、「里奈さん!」と声をかけられた。
振り向くと美丈夫が嬉しそうに近付いてきた。
「あ!ヤービスか。」
里奈の気の抜けた返事に、ヤービスはガックリしている。
「まぁ、里奈さんだから仕方ないか。」
里奈はムッとし、
「失礼じゃない?」と反論した。
「こっちを見て、あ!の方が失礼じゃない?」
ヤービスの言葉に、それもそうだと苦笑いでやり取りを終わらせた。
「お久しぶりです。里奈さん。」
ヤービスの後ろから、ヒョコっと現れたのはイーロだった。
「久し振り!イーロ!」
イーロの挨拶に満面の笑みで返事をする。
「俺の時と態度が違い過ぎない?」
ヤービスのジト目は無視する。
そんな二人のやり取りをクスクス笑うイーロと、ジト目のヤービスを席に座らせた。
「あれから二人で沢山話せたかしら?」
里奈は二人を見て感じた。
(仲良しね⋯⋯。)
二人並んでいるのに、どちらからも悪意を感じない。穏やかな雰囲気なのだ。
「沢山話せたよ。ありがとう里奈さん。」
「ありがとうございます。」
二人にお礼を言われた。
「それで、獣人国の王族をどうするかでクーロ達と話が纏まらなくてさ⋯⋯。」
ため息を吐きながら、ヤービスが伝える。
「ヤービスとイーロはどうしたいの?」
ヤービスとイーロはお互いを見合う。
ヤービスがイーロに頷いて、里奈に視線を移した。
「最初は俺が王家に戻り国を立て直す事に決めていたんだ。でも、王宮に勤める種族の様変わりに驚いたよ。
クーロ達は仕事が出来て、人望がある者を選んでいた。能力だけで選ぶと、以前の種族が逆転していた。
イーロと話し合って決めたんだ。私達は王族から抜ける事にした。」
里奈は冷静に受け止めた。
「そう。二人が話し合って決めたなら、それで良いと思うわ。でも、希少種である貴方達は王族として抜けれない。違う?」
里奈の答えに、ヤービスが頷いた。
「そこなんだ。クーロ達は私達が王族を抜けるのを反対している。でも、私達が王族を継いだままでは駄目なんだ。
他国から見ても、変わっていないと判断されかねない。それでは意味がない。」
ヤービスは自身の考えがクーロ達に伝わらなくて、苦しんでいる。
イーロは悩む兄が心配で仕方なかった。
「解決策は、ありますよ?聞きますか?」
そう言うのは、アルバートだった。
「アルバート!お願いだ。教えて欲しい!」
ヤービスはアルバートの腕を掴み、頭を下げた。
「ヤービス。私は貴方の友です。頭を下げないで下さいね。」
アルバートがヤービスにそう伝えると、泣きそうな顔でヤービスが笑う。
「ありがとう。アルバート。」
全員が席に座り、サリーが紅茶を出した。
サリーとナミはダイニングの入口まで下がり、控えた。
イーロは侍女二人に視線をやったが、直ぐに視線を外した。
アルバートの策に期待を込めて、ゆっくり話を聞く事にする。




