22話 イーロは全てを知る
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今日の天界は、花が咲き乱れている。
暫く無視されていた白狐が来るからだ。
白狐が無視するのも仕方ない。
里奈を傷付けたのだから⋯⋯。
女神は正座で、白狐を迎えた。
現れた白狐は正座する女神を見て、とても大きなため息を吐いた。
『お主は何をしとるのだ。』
「日本では、客人を迎える時はこのように正座をして出迎えるのであろう?」
女神が首を傾げ何も間違えていないと主張する。
『時代遅れだ。』
白狐の一言に女神はピシリと固まり倒れた⋯⋯。
『茶番は良い。用件を話す。』
女神は直ぐ様起き上がり、神力でカウチソファを出した。
湖に置いていた、白狐専用のソファだ。
「里奈からの頼み事を早く教えてくれ。」
女神は前のめりで話しかける。
『里奈は番の仕組みを何とか変えたいのだ。愛する者がいても、番だからと奪われる。理性と本能に悩む獣人も多い。』
「里奈がやりたいならば変えれば良い。私は創るか滅するかしか世界に干渉出来ない。番がなければ獣人が減る。その事も考えてであれば、私は何も言わない。」
『相分かった。里奈にはそう伝えよう。』
「⋯⋯。」女神がチラチラ白狐を見る。
白狐はイラッとする。
『なんだ。』
「まだ怒っておるか?白狐も、里奈も⋯⋯。」
『怒ってはおらん。我も里奈もな。
ただ、時間が欲しかっただけだ。怒りを鎮める時間がな。』
女神は白狐の言葉にシュンとなる。
はぁー⋯⋯。
白狐のため息が、また出てしまう。
『獣人国の事が片付いたら、里奈もお主と話したいと言っていたであろう?もう少し待ってやれ。里奈は皆の為に頑張っておるのだ。』
女神は、涙を堪え何度も頷いた。
(愛する里奈から無視されたのが余程辛かったのか。)
『見守ってやれ。』
白狐はそう言うと外界に帰って行った。
女神は里奈と話せるその日まで、天界から里奈を見守る事にする。
ゴッドローブの始末を愛する里奈が行う。
女神の複雑な思いを知る者はいなかった⋯⋯。
天界に行った白狐の帰りを、邸の中で今か今かと待ち侘びる里奈。
番を何とかしたいが、女神様の許可がいるだろうと、白狐に話をしに行ってもらったのだ。
神力を感じ里奈が白狐が現れるのを待った。
「おかえりなさい!白狐!女神様はなんて言ってたの?許可はおりたのかな?」
帰って早々に捲し立てられる白狐。
本日三度目のため息を吐く。
『はぁー。落ち着け里奈よ。』
里奈の興奮が落ち着くまで話す気がない。
里奈は深呼吸をし、白狐をじっと見つめた。
『里奈がやりたいならば変えれば良いと、女神が許可を出した。
だが番そのものを消せば、獣人の数が減る事を考えるならば。そう言っておった。』
里奈は白狐に抱きついてお礼を伝えた。
『礼は女神に言え。里奈と話したがっていた。』
「私も話したいかな。白狐を怒らせた事は許せないけど、やっぱり女神様を嫌いになれない。好きなのよね。きっと⋯⋯。」
(あやつは里奈の反応を必ず覗いているだろうな。里奈の今の言葉で、天界で大騒ぎしていそうだ⋯⋯。)
白狐の考えは正しく、女神は里奈からの好きの言葉に大泣きしながらはしゃいでいた⋯⋯。
里奈がソファーに座り、白狐が側に横たわる。
『番をどうするか考えておるか?』
白狐が問いかけた。
「アルバートから聞いた話やイーロの元婚約者を知って番は要らないと思うけど、番に憧れる獣人も多いじゃない?
ならば、聖女達の考えを土台にして考えてみようかと思うの。」
『何をするのだ?』
「イーロやヤービス達に相談してみるけど、選択出来たら良いなって思うの。例えば、妻を選ぶのか番を選ぶのか⋯⋯とか。」
『そうだな。それも良いかもしれんな。
本能ではなく、考え選ぶのが人間やもしれん。』
(獣人と人間は全く違う種族なのだと、初めて実感したのかも。ケモ耳や尻尾があるだけではないのよね⋯⋯。)
『番の事はまた考えろ。今宵の為に少し休め。』
白狐の言葉でイーロに会う事を思い出し、急いで寝台で昼寝をする。
ちゃんと寝ないと、アルバートに叱られるからだ。
白狐は子狐になり、里奈の布団に潜り込み眠りに就いた。
「リリ。起きて下さい。」
アルバートの起こす声で目を覚ます。
部屋の中は薄暗い。
日が沈む時間だ。
「おはよう。アルバートも休めた?」
里奈の言葉に。
「ちゃんと休みましたよ。」
寝台から降り、洗面台に向かい身形を整える。
ダイニングに入ると、皆が集まっていた。
椅子に座り、皆を眺めていると使用人に混じってサロが食事の準備を手伝っていた。
アルスタ王国から同行してくれた者は、すんなりと獣人であるサロを受け入れてくれた。
(種族の違いで差別される事は、どの世界も同じなのか⋯⋯。皆仲良くなんて、夢物語なのよね⋯⋯。)
また何やら考え込む里奈の額をアルバートが突いた。
「せっかくの皆との食事です。考え事は後にしましょう。」
里奈は額を抑えていた。
考え込む癖を何とかしたいが無理なのだ。
サロが里奈に気が付いたので手を振る。
サロが嬉しそうに手を振り返してくれた。
「サロは可愛いなぁー。」
里奈の呟きに。
「浮気は許しませんよ。」
アルバートはニッコリしているが、笑っていない。
「いただきます。」
アルバートを放置して、黙って食事を始めた。
昨夜と同じ時間になり白狐の背に里奈とアルバートが乗る。
空を飛ぶ白狐に驚きはしていたが、空から見る景色にアルバートは釘付けになっていた。
里奈は前世、一度だけだが飛行機に乗った事がある。
空からの景色を経験済みだった。
空からの写真も映像も沢山知っているが、この世界で空を飛ぶ事などありえないのだ。
アルバートが興味惹かれるのは普通なのだ。
少し先に時計台が見える。
近付くと昨夜と同じ場所にイーロがいた。
「こんばんは。」
イーロは遠くに見える私達をずっと待っていたようだ。
「こんばんは。愛し子様。」
イーロの返しに。
「里奈でいいわ。大きな狐が白狐よ。そして婚約者のアルバート。」
アルバートが軽く頭を下げる。
「こんばんは。アルバート殿。聞いていると思うが、第二王子のイーロだ。」
白狐から降り、時計台の屋根の少し広い場所に座る。
「アルバートはヤービスと一番仲が良いわ。愚痴を言い合う程にね。」
アルバートが頷いた。
「以外です。兄も愚痴を言うのですね。私は兄のそんな姿を見た事がないです。」
イーロが少し驚いている。
「愚痴が言えるのは、安心して暮らしている証だ。」
アルバートの言葉にイーロが納得する。
「兄は魔道具を作るのが上手いのです。魔術を使いこなす兄は格好良くて⋯⋯。」
イーロはヤービスがどれだけ素敵かを沢山連ねる。
ヤービスの事が大好きな気持ちがアルバートにも伝わったのだろう。
ヤービスとの魔術談義をした話を聞かせている。
ヤービスは魔道具を作るのは上手いが、料理を作るのは下手だとアルバートが伝えると、イーロは笑っていた。
イーロはアルバートをキラキラした眼差しで見ている。
《白狐。イーロがヤービスに何があったか知りたいなら、ヤービスの過去を見せてあげてくれる?》
《相分かった。》
念話で会話をしていると、イーロがこちらを見ていた。
「何か気になる?」
里奈の問いかけに。
「白狐様は里奈さんの眷属なのかなーと⋯⋯。愛し子様ですし。」
イーロがモゴモゴと答えた。
「私が異世界から来たのは知ってる?」
イーロが頷く。
「白狐は異界の神よ。高位のね。」
「神様ですか!でも、神力も何も感じない⋯⋯。」
イーロが白狐をじっと見つめる。
「白狐には神力を消して貰っているから。今、白狐を見つけられるのは困るのよ。」
里奈の答えに心当たりのあるイーロは黙りになった。
「ねえ、イーロ。貴方はこの国で何が起こり、なぜヤービスがあんな目にあったか知ってる?」
里奈の問いに、イーロは首を振る。
「イーロがヤービスに何があったか知りたいのなら、白狐が全て視せてくれるわよ。どうする?」
イーロは迷う事なく答えた。
「知りたいです!兄に何があったのか、この国で何が起きているのか⋯⋯。母が何かを企んでいるのは解ります。ですが、どれだけ調べても掴めない。
あの魔術師が来てから、益々おかしくなった⋯⋯。
お願いします。教えて下さい。」
白狐がイーロの前に座る。
神力ではなく、白狐が額をイーロにあてる。記憶を流し込んでいた⋯⋯。
アルバートと一緒に暫く待った。
白狐が離れたが、イーロは目を閉じたまま涙を流していた⋯⋯。
「なんて事を⋯⋯。なんて事を母はしているのですか!!兄を民を⋯⋯玩具のように弄ぶなど許されるはずがないのに!!」
イーロは叫びながら、時計台の硬い床を何度も殴った⋯⋯。
アルバートがイーロの手をとり。
「はっきり伝えておく。私達は王妃とゴッドローブを殺すつもりだ。ヤービスやヨーク領にいる虐げられた者達の為に。」
アルバートがイーロに伝える。
「そして、愛し子である里奈はヨーク領で魔物の犠牲になった者の為に、復讐を誓っている。
イーロ。お前はどうしたい?」
泣き腫らした目をアルバートに向ける。
「私は母である、あの人を許さない。許してはならない。私に出来る事があるなら、手伝いたい⋯⋯。」
アルバートが優しくイーロの頭をポンポンする。
「イーロはそのままでいろ。何か動かれては、返って迷惑だ。
事が終わってからが忙しくなる。それまで私達に任せてくれ。」
イーロは頷いた。
「愛し子を迎える催しの日に決行するわ。ヤービスにはまだ貴方の事は伝えれない。ヤービスは重要な役目をしているの。いまはそれに集中してもらわないと困るの。
全ては事が終わってからよ。」
申し訳なさそうにイーロに伝える。
「あ!後、娼館にいるあの女にも、会いには行かないでね。」
イーロが驚いている。
「会ったのですか⋯⋯?」
「そうよ。ヤービスのことを持ち出して嘘をついて私を呼びつけた。
イーロの番だけど、私はあの女が嫌いだし、手を貸すつもりは無いわ。ヤービスを貶める者は私の敵なの。」
ニッコリ微笑むが、イーロは背中に汗をかく。
王族として獅子の獣人である自分が誰かの圧に恐怖を抱くのは、初めてだった。
それ程までに、あの人は嫌われたのだ。
「私はあの人から離れたいのです⋯⋯。あの人は私が番であるからなのもありますが、王妃になる事に執着している。父と番のセアラ様を見て、自分も番と自由に贅沢な暮らしをしたいと⋯⋯。」
イーロは里奈に語りだした。
「婚約が決まり私は相手が番である事に喜びました。ですか、父を見ていると自分もあの様に民を蔑ろにする王族になるのかと、嫌悪の気持ちもありました。
悩んでいる時に、兄がこの指輪を作ってくれました。これは欲を抑えてくれます。
番を欲する欲を消してはくれませんが、理性を優先させてくれるんです。」
指輪を撫で、語り終えた⋯⋯。
「番の事も考えてはいるから、気にし過ぎないようにね。」
里奈がイーロを励ます。
「里奈さん。やる事が多過ぎるのでは?」
イーロが心配しながら聞いてくる。
「大丈夫よ。私が無理をすると、アルバートが事前に止めてくれて体を休ませてくれるから。」
アルバートへニッコリ微笑んだ。
アルバートが里奈の頭を撫でる。
「リリは働き過ぎですし、厄介事に好かれてしまいますからね。」
呆れた声だが、アルバートの顔も里奈を撫でる手も優しい⋯⋯。
「羨ましいですね⋯⋯人族が羨ましくなります。」
苦笑いでイーロが口にする。
「イーロも人族の恋愛や結婚に憧れる?」
「そうですね。番に縛られず自分で決めたくは思います。」
「解ったわ。」
里奈は番を何とかしようと決めた。
〜 ✿ 〜
王妃アリーシャは何かを忘れている事に気が付いてはいる。
だが思い出そうとすると、思考に靄がかかる。
繰り返すと酷い疲労に襲われる⋯⋯。
繰り返す中で、アリーシャは考える事を止めた。
体が楽になると、愛し子を迎える為の決裁を行っていた。
書類に目を通し、愛し子を迎える為の準備が進む。
愛し子をゴッドローブが殺し、獣人国に罪を擦り付けるのだ。
自分に見向きもしない夫のシーヴァ。
シーヴァの番でシーヴァを独占するセアラ。
二人に地獄を見せるのだ。
愛し子の命は、アリーシャの復讐の生贄なのだ。
後三日⋯⋯。
この国は後三日で消えるのだ。
アリーシャは笑いが止まらず、自身の執務室で笑っていた⋯⋯。
里奈と白狐がその姿を視ていた事に、アリーシャは気が付いてはいない⋯⋯。




