15話 里奈はモフモフがお好きなようです
昼食に立ち寄る一つ目の町は小さな町だった。
国境が近いせいか、やはり瘴気に侵された者がいた。
昼食をとる間に瘴気に侵された者を集めて貰っていた。
広場に集まった者に浄化と治癒を施す。
町にある神殿に向かい、カヌ隊長に渡した魔石と同じ物を渡した。
神官は何もできない自身を責めていた。
里奈が渡した魔石を使い、瘴気に侵された者が来たら浄化と治癒を施す事を約束して次の街へと向かった。
沢山の種族の獣人達
街を歩く獣人達は、日本で読んだ異世界の風景そのままだった。
アルバートは気が付いていた。
兎と猫の獣人を見ると、里奈がチラリと視線を向ける事に。
猫はヤービスより毛が長い獣人。
毛並みが長い方が気になるようだ。
「リリはモフモフが好きですか?」
アルバートがクスリと笑い、里奈へ話かけた。
「モフモフは可愛いわよね。動物が好きだったけど、里山では見る事すら出来なかったから。本を見てどんな触り心地か想像したわよ?」
里奈が里山を思い出しながら、モフモフについて語る。
「触ってみたいですか?」
アルバートの問いかけに
「獣人は伴侶以外に触られるのを嫌がるって聞いたわ。それに私には極上のモフ毛があるから良いの!」
笑いながら里奈が白狐を見た。
白狐は極上のモフ毛を褒められたが、何だか腑に落ちないようで尻尾で抗議している。
尻尾を強めにバシバシする白狐に、里奈が抱きつく。
フワフワな毛並みは、里奈の癒しなのだ。
顔を埋め、ギュッと抱きつく。
周りがざわざわする⋯⋯。
ここは二つ目の大きな街で宿泊する街である。
宿に早く着いたため、街を散策する事にした。
国境から離れている為か、瘴気の被害は少ないようだ。
宿に向かう道中、馬車の中から街を眺めると、物資が不足しているのか少し活気が無かった。
里奈は街の様子が気になったが、自分がうろうろするのは良くないだろう。と、宿で大人しくする事に決めていた。
だがアルバートが街に誘ってくれたので、喜んで外に出たのだ。
道行く獣人達を里奈がチラリと見ていた為、アルバートが問いかけたのだった。
先程の一連の様子は全て道行く獣人達に見られていた。
黒髪黒目の愛し子様が街を散策している。その様子にどうして良いか解らず、遠巻きに見ていた。
だが、愛し子様が連れている大きな狐に抱きつき、顔を埋める姿に獣人達はとても喜んでいた。
人間は獣人を嫌う者が多い。
だが、人間の代表である愛し子様が獣に抱きついて嬉しそうなのだ。
獣人達は愛し子に好感を持つ。
里奈がモフ毛から顔を出すと、遠巻きに見ていた獣人達と目が合った。
獣人達はあたふたしながら、頭を下げた。
「礼はいらないわ。私は愛し子の里奈よ。今日はこの街でお世話になります。今は街を散策してるの。」
ニッコリ笑う里奈はとても可愛らしく、また黒髪黒目と神秘的な容姿に獣人達は目を奪われた。
「ところで、神殿はどこか解るかしら?」
里奈が問いかけると、兎とリスの二人の子供が手をあげた。
「私達は神殿に住んでるの。今から帰るから一緒に行く?」
可愛らしい女の子にそう聞かれ、子供達に里奈は手を差し出した。
左右に子供と手を握り街を歩いて行く。
道行く人は、愛し子様の行動に驚いている。獣人と手を繋いでいる。
しかも後ろには美しい男性と大きな狐が守るように控えているのだ。
里奈は可愛い獣人の子供とおしゃべりをしながら神殿へと向かう。
「貴方達は神殿で暮らしてるって言ってたでしょう?神官見習いとかかしら?」
里奈が子供達に質問をした。
「違うよ?!私達は孤児なの。お父さんもお母さんも瘴気で死んじゃったの。だから、孤児院がある神殿にいるのよ?」
里奈は胸の痛みを隠す。同情するのは絶対に失礼だから。
「孤児院は良いところかな?」
里奈の質問に、笑顔で答える。
「神官様も、孤児院の先生もみーんな優しいよ!」
その笑顔を見れば、神殿で大切にされているのが解る。
街を少し出た場所に神殿があった。
だが、寂れているのが解る。
瘴気に侵されている訳ではない⋯⋯。
里奈は神殿の正門をくぐり、中へと子供達と進む。
誰かが来た気配を感じたのか、神殿から神官が現れた。
黒髪の愛し子を視界に捉えると、早足で里奈の目前にきた。
礼をとろうと膝を突くが、突く寸前でアルバートが腕を引き上げた。
「愛し子様に礼はいらない。今は公の場ではないから。」
(山羊の獣人だろうか⋯⋯。角が羊よりもツンとしている。)
里奈は我に返り神官に声をかけた。
「神殿の責任者は貴方かしら?」
里奈の問いに。
「私がこの神殿の神官長をしております。メイリーと申します。」
両手の指を組んで額にあて、里奈に挨拶をする。
「私は愛し子の里奈よ。宜しくね。貴方に用があって、この子達に連れて来て貰ったの。」
里奈の後ろから子供達が顔を出した。
神官は無礼が無かったか不安になる⋯⋯。
人間は獣人を嫌う⋯⋯。
神官は顔を青褪め始めた。
「私が案内を頼んだの。」
ニッコリ微笑むと子供達に手を差し、また手を繋いだ。
神官は驚くが、無礼があってはならないと顔に出さないように必死だ。
「お話があります。どこか話せる場所をお願いします。」
里奈の言葉に、急いで面会室へと案内する。
神殿の中を通ると、人の気配があるが静か過ぎる。
子供達は孤児院へ帰ったので、里奈と白狐とアルバートで面会室に向かう。
神官は白狐が気になるのか、チラチラ見ている。
(白狐は神力を消してはいても、神だから神官様には何か感じるものがあるのかしら?)
里奈は白狐をチラリと見るが、白狐は里奈の視線をスルーした。
面会室に案内され、ソファーへと座る。
「この大きな狐は私の守護獣よ。」
里奈は白狐を簡単に紹介した。
「こっちの彼は婚約者であり、護衛でもあるわ。」
アルバートが神官に軽く頭を下げた。
「ご紹介頂き、ありがとうございます。先程も申しましたが。私は神官長を任されておりますメイリーです。」
神官も頭を軽く下げた。
「愛し子様のお話とはどのような事でしょうか。」
里奈はポケットから魔石を取り出した。
「これは瘴気の浄化をし、瘴気に侵された者を治癒する魔石です。もし瘴気に侵された者が神殿に来たならば、これを使って欲しいの。」
里奈は魔石を神官に渡す。
神官は両手で受け取り、真っ白に輝く魔石に魅入っていた。
このような魔石を初めて目にした。
神々しく輝く魔石など、この世にあるのか⋯⋯と。
「神官様?使って頂けますか?」
里奈の問いかけに、神官がハッとなり慌てて返事をする。
「勿論です!このような魔石は初めて目にしました。神々しく、清らかな魔石ですね⋯⋯。」
神官は再び魔石に夢中になっていた。
里奈はクスリと笑い、神官に聞きたい事を尋ねる。
「この神殿は孤児院も運営してると聞きました。その割には静か過ぎるのですが⋯⋯。」
神官は里奈の言葉に、何か悩んでいるように見えた。
「愛し子様はアルスタ王国で孤児院も運営している。何か助けになるやもしれん。話しては頂けないか?」
神官の態度に少し疑問を持ったアルバートが、神官に里奈の話をした。
「愛し子様が孤児院を?」
神官が驚いて里奈を見た。
「孤児院も貧民街と呼ばれた地域も、全てを明るい道へと導いています。神官様が話したく無ければこれ以上は聞きませんが⋯⋯。」
アルバートの話に神官は少し考えだが、里奈を見て話を始めた。
「以前までは神殿にも王都からの支援金や物資が送られていました。我が国では寄付やお布施は禁じられていますので。」
里奈は頷いた。
国によって、神殿への対応が違う。でもきちんと運営出来る仕組みなはず。
「今の王妃様が政を行うようになり、神殿への対応が悪くなりました。支援金どころか、物資までも届かず⋯⋯。」
メイリーが小さなため息を吐いた⋯⋯。
「街の人達は寄付も出来ないため、子供達だけでもとご飯を与えたりしてくれます。」
「ですが、我々は自分達でなんとかやり繰りをしなければならず、交代で内職をし何とか日々を賄っているのです。」
気まずそうにしながら、神官が話し終えた。
「話したくもない内情を教えてくれて、ありがとう。食料は足りてるかしら?畑を作れそうな場所があるなら案内して欲しいのだけど。」
メイリーは里奈の話の内容が理解出来ないが
「食料はあまりございません。畑が出来そうな場所はありますが⋯⋯。」
里奈はソファーから立ち上がると、勢い良く話しだす。
「あまり時間がありません。直ぐに畑の場所に行きますよ!」
そう言うとメイリーを引っ張り、立たせて急いで案内させる。
畑が出来そうな場所は、神殿の裏手だった。
「広い範囲を畑にします。とりあえず、幾つか畑を作って種を植えるから離れてくれる?」
里奈は畑の場所に結界を張った。
土をとりあえず魔術で掘り返す。周りに飛び散らないように結界を張ったのだ。
いきなり土が踊り出すように掘り返され、メイリーは口を開いたまま見ている。
土が柔らかくなったら、神力を練り込みながら畝を作る。
作業をしていると、沢山の子供達が集まって来た。
里奈を案内した子供達からの話で、愛し子様が来ている事は知っていた。
その愛し子様が何やら土遊びをしている⋯⋯。
子供達は興味津々で集まって来たのだ。
「貴方達も手伝ってくれる?」
里奈は空間魔術を使い、幾つかの種を出した。
指で土に穴を開け、種を植えて貰う。
土を被せ終えると、子供達を里奈の周りに集めた。
「これから一気に野菜を育てます。見ててね!」
里奈が手を畑に向け、神力を流した。
芽が出て、どんどん成長する野菜を子供達が真剣な眼差しで見ている。
「葉っぱの野菜は一週間ずらして成長します。右が直ぐに食べれる野菜。左が一週間後くらいに食べれるかな。」
「そして、真ん中がお芋よ。獣人国では何て呼ぶのかしら?お芋は日持ちするから沢山食べてね!」
里奈は空間からゴソゴソと何かを探す。
「あった!」
里奈が出したのは数枚の紙だった。
「これに真ん中の野菜。お芋の料理の仕方が幾つか書いてあるわ。良かったら作ってみてね。」
里奈は神官に紙を渡し、ニッコリ笑う。
神官は信じられない出来事に、思考が追いつかないでいた。
「子供達も貴方がたも、お腹いっぱい食べてね。」
里奈は空間から何やら袋を取り出した。
「この中に普通の魔石があります。浄化はしてあるので高く売れます。これを使って他の神殿や孤児院へ支援してあげて下さい。」
里奈は強引にメイリーに袋を押し付けるように渡した。
メイリーは呆然としながらも、里奈にされるがままだ。
「私がこの国を変えてみせます。孤児院も神殿も助けます。それまで耐えて下さい。」
里奈はメイリーの手を握り話かけた。
ハッと我に返った神官が里奈を見つめる。
「今の話は内緒よ?」
人差し指を唇にあて、神官に里奈が微笑む。
メイリーはただコクコクと頷く事しか出来なかった。
だがいずれ道は開ける。
愛し子様の手により、明るい未来が来る。
そう信じ、子供達と一緒に手を振り里奈達を見送った。
里奈は神殿から離れると、宿の前に転移した。
そこには統括隊長と魔物討伐を一緒にした顔見知りの騎士がいた。
「おかえりなさい。里奈さん。」
笑顔で迎えてくれる統括隊長の名前はギース。
騎士の二人はエルとアルクだ。
「ただいま。ギース。」
里奈は微笑み挨拶を交わす。
「街は楽しめましたか?モフモフ好きな里奈さんには幸せな散策だったのでは?」
ギースが笑いながら話かけた。
「もしかして、私がモフ好きなのは知られてるの?」
里奈の恥ずかしそうな雰囲気にギースが小さく笑う。
「里奈さんの近くにいないと解らないので知る人は少ないですが、私とエルにアルクは気が付きましたね。」
里奈は苦笑いをして。
「内緒だからね!」
そう言うと、アルバートと白狐と共に宿の中へと入って行った。
可愛らしい愛し子様を三人は微笑まし気に眺めた。
明日はいよいよ王都に入る。
滞在先は王宮から離れた離宮を用意して貰った。
里奈の提案であり、滞在先の離宮を丸ごと結界で守る為だった。
同行する者を守る為に、側付き達とは沢山の策を講じている。
ヤービスの知識を使い、王宮の内部や隠し通路。全てを里奈達は熟知している。
王宮は里奈達が行く前から掌握されているのだった。
明日、いよいよ王都に入る。
同行する者、全員が気を引き締める。
愛し子様が行う事、全てを支える為に⋯⋯。




