14話 いざ出立!
お休みも終わり、今日は日が昇る前から身支度が始まる。
サリーとナミは里奈の身支度をしながら、空虚感に蓋をし最後の愛し子様の身支度を整えている。
無言の二人の気持は里奈も何となく理解している。
声はかけず、サリーとナミに身を任せた。
ヨーク領から獣人国の国境は近いため、国境の門までゆっくり進んでもお昼前には着く。
国境の門からなるべく進み、二つ先の街で一泊し翌日に王都に入る行程となっている。
頭の中で予定を確認すると、サリーが声をかけてきた。
「里奈様。身支度全て整いました。ご確認下さい。」
姿見を置き、サリーとナミが下がる。
鏡に映る衣装は白いワンピースドレス。
髪は緩く纏めて左胸の前に流す。
「完璧ね。ありがとう。サリー、ナミ。」
振り返りお礼を伝えると、王宮侍女として丁寧にお辞儀を里奈へと返した。
里奈の私室には、見送りの為にヒイラギとカズラ。そして青龍がいた。
お留守番の為、お見送りに来てくれていた。
「サリー、ナミ。貴女達は私の侍女になる気があるかしら?」
二人はバッと頭を上げ、目を見開き驚いている。
「どうかな?」
里奈の言葉に。
「「謹んでお受けいたします。」」
深く例をとり答えた。
里奈は二人に近づく。
「貴女達にヒイラギとカズラを任せるわ。貴女達にしか出来ないと思うの。短い期間で貴女達の為人は理解したわ。是非、私の侍女を務めて欲しいとね。」
サリーとナミは泣くのを堪える。
出立に涙は禁物⋯⋯。
口を開けば泣くかもしれないと、小さく頷いた。
「お留守番を宜しくね!カズラとヒイラギも帰って来たら沢山遊びましょうね。それまではサリーとナミに遊んで貰ってね。」
カズラとヒイラギの頭を撫でながら、優しく話す。
「青龍は大変な役目があるけれど、その時は宜しくお願いします。」
里奈のお願いに、青龍はコクコクと頷き里奈の胸に飛び込んだ。
青龍の頭を撫で、サリーへと青龍を渡した。
「では。いってきます。」
里奈は笑顔で手を振る。
「「いってらっしゃいませ。里奈様。
無事のご帰還をお待ちしております。」」
里奈は玄関へと白狐と転移した。
玄関前の広場には沢山の人がいる。
側付き達全員にパトリック達三人衆。
聖女達に団長達。
ヤービスに獣人達。
各街の代表者もいる。
皆を眺めていると、先日浄化をした辺境伯と子爵夫妻。
それに例の侯爵夫妻もいた。
里奈の近くにいたアルバートが、
「浄化の感謝として、愛し子様のお見送りをしたいと希望がありました。」
わざわざ来てくれた方達と少しだけだが、挨拶をし言葉を交わす。
侯爵夫妻が謝罪をしようとしたが、里奈が制した。
見送りには不要だと。もう気にしなくて良いと伝えた。
侯爵夫妻が感謝の言葉を伝えようとした、その時。
パシン。
里奈の背後で何かを打つ音がした。
里奈は良くない気配に気が付いていたが、敢えて放置した。
里奈が処罰するべきではないと⋯⋯。
アルバートが立つ足元に、エリアナが尻餅をつき右頰を真っ赤にさせている。
「私に触れるな!以前の私は操られた故だ。貴様などに指一本触れられたくない!」
アルバートがエリアナの頰を容赦なく打っだのだろう⋯⋯。
アルバートの怒りは凄かった。
場が一気に冷え渡る。
「貴女はアルバートを取り返しに来たの?無理よ。」
里奈は平然とした態度で口にすると、パトリックに視線を向けた。
パトリックがサーシャに指示を出し、エリアナを後ろ手に押さえつけた。
地面に伏せられながらも、里奈を睨むエリアナに。
「本来のアルバートはこうなの。貴女が知るアルバートは女性に興味がないの。貴女は知り合いだから優しくされただけよ?」
アルバートによって、魔術で話せなくされている。
「処罰は側付きに任せます。侯爵夫妻には娘の教育をするように言いましたが、日が浅い為今回の件は仕方ない事と受け入れます。」
侯爵夫妻の顔を見れば解る。エリアナの独断である事が。
侯爵は青褪めマリー夫人は怒りの表情だからだ。
マリー夫人がエリアナに近付き左の頰を打った。
「貴女はもう娘ではありません。義娘として育てて頂いた旦那様をも裏切った。そして、二度も愛し子様に手を出した。貴女に更生は無理だと母親として判断します。」
マリー夫人はアルバートと隣に並ぶ里奈の前で膝を突き謝罪する。
「出立される愛し子様には、大変申し訳ない事を致しました。どのような処罰も受け入れます。」
里奈はマリー夫人に手を差し出す。
「夫人。数日で更生出来る訳ないわ。貴方を見て娘の行動は知らなかったと理解出来ます。貴方がたに罪は行かないようにします。せっかく浄化をしたのです。贖罪の気持は領地復興をする事で受け入れますわよ。」
ニッコリ微笑み、マリー夫人を立たせた。
「娘は側付きから陛下に話が行きます。陛下の処罰通りに。」
厳しい顔で伝える里奈だが、侯爵夫妻は感謝しかなかった。
出立の門出を台無しにしたにも関わらず、処罰が甘いからだ。
「恋心が暴走すると色々大変なのを、今回経験しました。私にとって良い勉強になりましたし。」
心当たりのある者が肩をビクッとさせる。
里奈は苦笑いをしながら、サーシャに視線で指示を出した。
娘はアルバートを必死で見るが、アルバートは一切見ない。
泣きながら引き摺られるエリアナを、里奈は哀れとしか思わなかった。
場を仕切り直し、玄関から門まで見送る者と騎士達が左右に別れ並んでいる。
里奈を先頭にアルバートがエスコートし、前に進む。
お留守番の者達は涙を堪えて、笑顔で見送る。
隊列の中央の馬車に里奈とアルバートが乗り込む。
ライアン達は、後ろの馬車に乗り込んだ。
「いってきます!」
里奈が窓から手を振り元気に言う。
「「「いってらっしゃい。」」」
皆の返事が返ってくると、馬車がゆっくりと進み始めた。
里奈は邸が見えなくなるまで手を振り続けた。
里奈は座席に座り、小さく息を吐いた。
「リリ。大丈夫ですか?」
アルバートが里奈の顔を覗き込み、心配そうに声をかけてきた。
『一生の別れではあるまい。獣人国の事ををさっさと終わらせれば良い。考え過ぎるな。我らがおる。』
対面に横たわる白狐が里奈に話かけた。
「そうね。皆がいるから大丈夫よね。」
里奈がポツリと呟いた。
アルバートも里奈の緊張と不安に揺れる感情に気が付いていた。
アルバートは里奈の頭を撫で、自身の肩に里奈の頭を置いた。
「少し休むと良いですよ?」
里奈は頷くと、アルバートの肩にもたれたまま眠りに就いた。
「リリは全てを背負い込み過ぎますからね。」
『性格なのだ。仕方あるまい。』
白狐とアルバートは里奈の性格を良く知るがうえに、責任感の強過ぎる事を心配する。
「リリ。もう直ぐ国境の門です。起きれますか?」
アルバートの声に目を覚ますと、馬車の速度がゆっくりとなっていた。
アルバートの肩から頭を離し、窓の外を見る。
左右に外壁が見え、門の近くに来たのが解る。
(流石に門には瘴気を張っていないのね。)
国境の正門には瘴気の気配がなかった商人達が出入り出来ないのは、食料問題もある為瘴気を張らなかったのだろう。
里奈はそう解釈した。
「少しは落ち着きましたか?」
アルバートが里奈の髪を整えながら、窓から外をじっと見つめる里奈に声をかける。
アルバートに視線をやり、小さく頷いた。
暫くすると、馬車が止まった。
検問が始まったのだろう。
さほど時間を取る事もなく馬車がゆっくりと進む。
外壁が近付くに連れ、瘴気も濃くなって行く。
白狐の結界がある為、アルスタ王国側からは白い膜が張られているように里奈には見える。
門が目前に近付いた時、外に立つ獣人の騎士達が目に入った。
(瘴気に侵され始めてる⋯⋯。)
門には瘴気はないが、直ぐ側の外壁には瘴気が張られているのだ。
影響されない訳ではなかった。
獣人の騎士達はきっと体が辛いはず⋯⋯。
里奈は彼等を浄化し治癒を施す事を悩んでいた。
『里奈よ。そなたの好きにすれば良い。獣人国に来た公の目的はなんだ?』
白狐が里奈に問いかけた。
「各国の浄化をする為の訪問よね!そうよ。」
里奈は白狐の言葉でもう一つの目的を思い出した。
「隊列が門をくぐり終えたら、隊列を止めて待機。愛し子様から用件がある。」
馬車の窓からアルバートが近くで護衛する騎士に伝える。
騎士は一礼し、先頭まで馬を走らせた。
「ありがとう。」
里奈は何も伝えなくても、やりたい事を理解してくれる白狐とアルバートに感謝する。
里奈の馬車が門をくぐった瞬間、全身に寒気が走った。
両手で体を包み、カタカタと震え始めた。
アルバートは里奈を抱き寄せ、体をさする。
「リリ!大丈夫ですよ!」
白狐も近寄り里奈に神力を流す。
里奈は落ち着きを取り戻し、何度か深呼吸をする。
(ヤービスの御守りを貰っておくべきだったわね⋯⋯。)
里奈は自身の神力に驕っていたのだろう。
ヤービスが獣人国に入る際、瘴気をくぐる事を考え白狐の神力を込めた瘴気を弾く魔石を沢山作っていた。
同行する者全員と、馬にまで作っていた。
馬が暴れれば、里奈や側付き達に危険が及ぶからだった。
ヤービスから里奈もいるか?と軽く聞かれたので、軽く大丈夫よ!と断っていた。
里奈は他の人を優先して欲しかっただけだったのだ。
里奈自身で結界を張れば避けられるが、不意の出来事には結界を張れず対処が遅れる。
『ヤービスの先見の目は役に立つな。』
ポツリと呟いた一言に里奈も納得する。
次からはヤービスが作った物は、絶対に貰う事にする。
「大丈夫。それにしても凄い瘴気ね。直ぐ側に瘴気があるにしても濃すぎるわね。」
『獣人国の民達の私念が濃いからな。仕方なかろう。』
瘴気に触れ、亡くなった民達がいる。
私念が飛び交い、瘴気となっても不思議ではなかった。
「獣人国の騎士達の処に行くわ。」
里奈は馬車を降り、アルバートと白狐と共に門へと歩いて戻る。
ライアン達も里奈に気が付き、ライアンとカルロが里奈達の後についた。
「愛し子様。何用でしょうか?」
門の騎士は鹿のような角を持つ獣人だった。
胸に手をあて、里奈に声をかけた。
「貴方達に浄化をかけ、治癒を施します。ここにいる者を全員集めて貰える?」
鹿の騎士達は大きな目をパチパチしながら、里奈を見つめたまま動かない。
「聞こえたかしら?皆を集めてって言ったのよ?」
獣人の一人が走り出して皆を呼びに行く。
「申し遅れました。私はカヌと申します。国境を守る警備隊の隊長を任されております。」
カヌは騎士の礼をとり、里奈に挨拶する。
里奈は頷いて答えた。
「先程、我々を治癒して頂けると聞こえた気がしましたが⋯⋯。」
カヌは聞き間違いも視野にいれて、会話を始める。
「貴方がたは瘴気に蝕まれていますね。それを浄化し治癒を施します。」
微笑みながら、里奈が答えた。
獣人達はまさか国境を越えただけのこの地の、名も知らない獣人の騎士に、愛し子様が浄化をしてくれるなど考えも及ばなかった。
走って行った騎士は急いで戻り
「愛し子様。門に勤める者に全員ここに来るように伝えました!」
入隊したてだろうか⋯⋯。
私達と同じくらいの若い騎士がニッコリ笑い里奈に伝えにきた。
「ありがとう。全員揃ったら浄化と治癒をするから。体が辛いでしょうが少し我慢してね?」
若い騎士は苦笑いした。
辛さを隠していたつもりでいたが、バレていたのだ。
騎士として不甲斐なさを感じた。
「貴方はちゃんと隠せていたわよ?」
里奈は騎士としての心得を理解している。
「私は瘴気の辛さを知っているわ。私も瘴気に侵された事がある。私が辛さを知らなかったら駄目なのよ。痛みを知って始めて他者を思い遣れるのだと思うから。」
衝撃的な話に驚くも、納得する。
バラバラと騎士達が集まるが、黒髪黒目の愛し子を目の前にし驚いている。
先の街へと向かったはずなのに、隊列を止め外に出ているから。
「カヌ隊長。これで全員かしら?」
カヌは辺りを見渡し人数を確認する。
「全員揃っております。」
カヌの言葉に里奈が騎士達に近付いた。
「貴方がたは瘴気に侵されていますね。辛い体で良く耐えました。浄化をした後に治癒をかけます。」
里奈が祈ると真っ白な光が里奈から放たれた。そして温かな魔力が体を流れる。
騎士達は手や足を眺め、服に隠れた瘴気の痕も確認する。
体のどこにも瘴気の痣が無かったのだ。
騎士達は一斉に礼をとり、愛し子様へ感謝の言葉を捧げた。
里奈は女神様の神力を使っていない。
ゴッドローブを倒すまで、女神の神力を封印し白狐の神力を使う事にしている。
「この辺りを浄化したいけれど、まだ王都での許可が出ていません。ですが⋯⋯。」
里奈が空間魔術を使い、握り拳より大きな空の魔石を出した。
魔石に白狐の神力を目一杯注ぎ込む。
里奈はそれをカヌ隊長に渡した。
「浄化の許可がおりるまで、瘴気に侵されたならばこの魔石を使い治癒をして下さい。」
カヌ隊長は魔石を眺め里奈へと視線をやる。
深く頭を下げ、感謝を伝えた。
さきを急ぐ為、直ぐに馬車に戻り先の街へと急ぐ。
門では獣人達が隊列に向かい手を振っていた。
国境の門兵にすら貴重な治癒を施してくる愛し子様に感謝する。
馬車に戻った里奈は何だか暗い。
「リリ。どうしましたか?」
アルバートが声をかけると、里奈が白狐とアルバートを見ながら話しだした。
「獣人国は瘴気に蝕まれた人ばかりよ?きっと⋯⋯。この先もこの光景を見続けるのかと考えると、落ち込んでしまうわ。」
里奈の背中をポンポンしながら、アルバートが話し始める。
「そうですね。きっと苦しむ領民達を沢山見る事になります。ですが、愛し子様だからこそ浄化も治癒も一度に出来るのです。
獣人国にも聖女はいますが、王妃やゴッドローブのせいで機能していないでしょうね。」
アルバートの手はポンポンしたままだ。
「王都に向かうまで出来るだけ民を助けましょう。」
アルバートはそう言うと、里奈の背中をペシリと叩いた。
「今から落ち込んでどうします。リリは浄化と治癒をバンバンすればよいだけです。」
里奈の頬に手を添え、顔を上げ視線を合わせる。
「好きに行動して下さい。やりたい様にやって下さい。
私や白狐。それにライアン達はその為にいます。ヤービスの作ったイヤーカフもあります。全て大丈夫ですよ。」
アルバートの言葉に喉の奥がキュッと痛くなる。
「ありがとう。そうよね!私は私らしくやりたい様にやるわ!」
アルバートは、元気になった里奈を優しく抱き寄せる。
獣人国にいようと、元気な里奈でいて欲しい。アルバートはその為に尽力する事を誓う。




