13話 たまには甘い二人で
少し短いです。
里奈とアルバートの穏やかな一日を書いてみました。
〜✿〜
思考が上手く働かない⋯⋯。
何か大事な事をしなければいけない筈だが、考えようとすると靄がかかる⋯⋯。
ゴッドローブは、思考の異常さに気が付いたが対処出来ずにいる。
考え行動しようとするが、思考も体も動かない。
対処しようにも、何が起こっているのか解らない。答えに辿り着けず悩むがそれもまた消えてしまう。
王妃に伝えようにも、口を開くと言葉が消える⋯⋯。
その毎日を繰り返し、頭がおかしくなる寸前だった。
机に肘をつき、頭を抱える。
が、ニヤリと笑う。
一週間⋯⋯。
後一週間もすれば、アルスタ王国から愛し子の一行が来る。
机に置いてある小さな壺を撫で、愛し子をどうするかに思考を向ける。
白狐に思考すら覗かれている事も知らず、ただ愛し子を甚振る事を考えていた⋯⋯。
後一週間⋯⋯。
〜 ❀ 〜
お休みの日から、里奈とアルバートと白狐は里山の家に帰って来ていた。
アルバートが里奈の手料理が食べたい。
里奈と二人で過ごしたい。
と、里奈に希望を伝えたのだ。
珍しいアルバートからのお願い事に、里奈は快く了承した。
おこたに入り、お茶を飲む。
(これって、この前読んだ本と似ているわ。確か⋯⋯楽しい老後⋯⋯)
里奈はこたつに額をゴンと打ち付けた。
そのまま動かない里奈を、アルバートが心配する。
里奈の背中をトントンしながら
「リリ!どうしたのですか!?」
里奈の顔を覗き込むが表情は見えない。
額をこたつにくっつけたまま、里奈がゴニョゴニョ話している。
「リリ?」
里奈はバッと顔を上げ、アルバートを見る。情けない顔の里奈にアルバートが吹き出した。
「そんな顔をして、どうしたのですか?」
里奈の両頬を優しくムニムニする。
「あのね。今のこの雰囲気って老後みたいなのよ!まだ婚約しかしてないのよ。結婚もまだなのに、飛び越えて老後って⋯⋯。」
眉を下げ、悲しむような顔をしている。
そんな里奈に。
「短い時間で沢山の大変な事がありましたからね。お互い成長し過ぎたのでしょう。」
話しながら湯呑みを持ちお茶をすするアルバート⋯⋯。
「おじいちゃんみたい⋯⋯。」
ポツリと呟いた余計な一言に、里奈は後悔する。
白狐は何かを感じとったのだろう。
さっさと転移で消えてしまう。
「ほぅー。リリさん。私をおじいちゃんと言いましたね?」
片眉を上げ、悪い顔になるアルバートに里奈は自身のやらかしを悟った⋯⋯。
「私はまだ若いのですよ?!」
そう口にしたアルバートは、逃げようとする里奈を逃がすことなく捕まえ攻め立てた。
アルバートには甘い時間となったが、里奈には修行の時間となった。
(アルバートをおじいちゃん呼びはしないわ!全然老後じゃなかったし!)
里奈は反省し、アルバートに謝罪をした。
里奈は子鹿のように立てない状態になったので、治癒を自身にしようとしたらアルバートに止められた。
自分が里奈を立てない状態にした事が嬉しいらしい。
(アルバートが嬉しいのは良いけど⋯⋯。とりあえず、治癒をかけたいな⋯⋯。)
里奈はじっと自分の両手を見ていたが、アルバートにジト目で見られ両手を後に隠した。
「治癒はしないから!」
アルバートは頷いて、台所へと向かった。
お昼ご飯はアルバートが作ってくれた。
炊いたご飯があったので、以前里奈が作るのを見ていたオムライスを作ってくれた。
「美味しい!アルバートは料理上手よね!」
ニコニコしながら、アルバートが差し出すスプーンを頬張る。
今日はアルバートの言うことを聞く!
それが、許してくれる交換条件になった。
アルバートは久々の里奈への給仕にニコニコご満悦だ!
里奈へ食べさせ、自分も食べる。
そんなアルバートを見て里奈がスプーンを手にした。
約束違反!と、アルバートが口にしようとすると。
アルバートの開いた口にスプーンが入って来た。
口に入ったオムライスをもぐもぐしながら、里奈を見る。
「アルバートに食べさせたかったから!」
可愛い笑顔の里奈に抱きつきたいが、里奈がスプーンにオムライスを乗せアルバートへ'あーん'をするのを待っている。
可愛い行動をする里奈と、お互い食べさせあい食事を終えた。
「アルバートは里山で過ごすだけで良かったの?観劇とかお買い物とか外に行かなくて良かったの?」
あちらの世界のような娯楽がないので、デートとなると観劇や外食などが定番らしい。
こちらの世界に来て慌ただしく過ぎる日々で、デートらしい事をしていなかった。
「エリックが聖女と過ごした記憶があります。里奈もありますよね?」
里奈は少しだけ渋い顔をしたが、頷いた。
「まぁ、あの二人の見たくない事も記憶の中にありますが⋯⋯。あの二人が過ごすこの家での甘い一日が、私は羨ましかった。」
二人はおこたで、ゴロゴロしながら話をしている。
「こんな風に、何もしない日々を愛する人と過ごす。私はそれだけで良いのです。」
アルバートは話しながら、寝転がる里奈の頭をポンポンする。
「私は一人ぼっちじゃないなら良いかな。好きな人がこの家にいてくれるだけで楽しいな⋯⋯。」
里奈は瞼を閉じるのを我慢している。
うとうとする里奈の頭を撫で、アルバートにも眠気がやってきた。
二人でおこたで寝る。
日常にある普通の事が二人は出来なかった。
誰にも邪魔されない今回のお休みは、二人の離れた距離を元に戻して行く。
『こたつで寝ると、風邪をひくぞ。』
白狐の声に、里奈が目を覚ます。
「おはよう。白狐。」
『おはようではない。もう直ぐ日が沈むぞ。』
白狐の言葉に里奈がガバっと起き上がった。
アルバートも目を擦り、背伸びをしながら目を覚ます。
「夕ご飯の支度をしないと!」
里奈が慌てて台所に向かう。
アルバートが後を追い、一緒に台所に立ち二人で料理をする。
時々里奈に口付けをするアルバートは、とても幸せそうだ。
里奈は恥ずかしさよりも、やっと戻って来た大好きな瞳に見つめられる幸せの方が勝っていた。
今日の夕ご飯は、完全なる和食。
キャベツと人参のお味噌汁
鮭の塩焼き
里芋の味噌和え
きゅうりの浅漬け
「ザ・和食ね!」
里奈は質素な献立だが、満足そうに腕組みをする。
アルバートがクスリと笑い
「これが定番の和食ですか?」
「お味噌汁に野菜の小鉢にお魚。色々な組み合わせがあるし、料理も沢山種類があるから。これが定番って訳ではないわよ?」
アルバートが料理をじっと見て
「これからは沢山の和食を一緒に作りましょうね。この家で。」
夕ご飯は自分で食べる事が出来た。
日が沈み夜の散歩に出かける。
手を繋ぎ、大きな月を見上げる。
全ての事が終われば、ゆったりとした時間を過ごそう。
大好きな白狐とアルバートと里山のこの家で過ごしたい。
その為にも頑張ろう!
繋いでいない手で、里奈は小さく拳を握った。
社の階段に座り、月明かりに照らされる田畑を眺めながら語り合う。
「今日のリリとの時間は、最初の頃に戻ったみたいで楽しかったです。リリは愛し子として成長し、問題事に巻き込まれたり首を突っ込んだり。大変でしたね。」
アルバートは里奈の方に顔を向け話しだす。
「リリは大人しくて、優しくて。私を信頼してくれました。私が守ってあげたい女性でした。」
里奈はアルバートの言葉を受け止めるように、じっと目を見ている。
「最初の頃は私だけの里奈でした。ですが、里奈が愛し子として成長する度に誰かと関わりその人を受け入れ大事にする。
どんどん私だけの里奈ではなく、皆の愛し子となりました。」
アルバートは苦笑いをし
「その事は私も嬉しかったですよ?
リリがこの国で認められる。皆から愛される。本当に良かったと思っています。」
アルバートが里奈の腰に手を振り回し、引き寄せる。
強く抱き込み、耳元で囁く。
「愛し子様は皆に愛されています。ですが、藤井里奈を一番愛しているのは私です。
里奈は、私だけの女性ですよ?」
耳に口付けをチュッと落とし、顔を離した。
アルバートの瞳は、独占欲と執着⋯⋯里奈への異常な愛で揺らいでいる。
(アルバートが異常なら、私も異常なのかも。)
里奈はアルバートの瞳を覗き込み。
「私はアルバートのこの瞳が好き。ギラついて私を食べようとする、この瞳が大好きよ。穏やかな瞳はいらない。」
里奈はアルバートの頬に口付けを落とす。
お互い抱きしめ合い、虫の音を聞きながらこの穏やかな幸せを噛みしめる。
里山でのお休みは、本当に何もせずゆっくり過ごした。
ご飯を作り、散歩する⋯⋯ただそれだけ。
時々隣の社の中に入り、器を見て祈りを捧げる。
長く短いお休みがもう直ぐ終わる。
明日は獣人国へ出立する。
名残り惜しいけれど、帰って来たらまた里山で過ごす約束をしてヨーク領の邸に戻って行った。




