10話: 女神様は里奈の為に動く
愛し子の里奈。
私の元へとやっと取り返せた魂を
次は決して見失わない。
それにしても。
異界の神は頭が堅いのよっ。
何なよっ。全く。
間違った魂があちらに行ったから、ちゃんと説明したのに。
ちゃんと謝ったのにっ。
土下座というものもしたのにッ。
決まりだから。とか。
そちらの手落ちだ。とか。
ネチネチネチネチとッ。
マジむかつくんですけどぉッッ。
と、あいつの顔を思い出したら腹が立ってきた。
あいつが最初に魂を返してくれたら、里奈があのような目に遭わずにすんだのだ。
プリプリ怒っていると、狐の眷属が声をかけてきた。
『女神さまぁ〜。全部口からでてますよぉ〜。ダメですよぉ〜。』
と、まったりとした口調の此奴は、数日前に新たに誓いを立ててきた狐だ。
眷属だが、眷属ではない……。
ややこしい立ち位置なのだ。
女神である私に軽口を叩くこの子狐は、女神の本性を知っている。
と言うより、元よりこちらの性格が普通である。
初めて会う里奈に対し、とても大きな猫を被っていたのだ。
女神たる威厳と優しげな雰囲気で里奈に接し、里奈とも打ち解け合えたのだ。
猫を被る提案をしてきたのは、この子狐だ。
里奈とのやり取りを思い出していたら、余計なものまで脳裏に浮かんできたのだ。
思い出したくもない……。
魂の危機を察知し、里奈を強制的に転移させた。
血だらけの里奈を見て発狂しそうだった
。
いや、発狂した。
後日耳にした話によると、女神の感情を直接被る外界では数時間だか嵐だったらしい。
それも相当な。
すまん。
血だらけの里奈を修復する。
里奈を見ると年齢より老けた顔立ちに痩せた身体。
修復は身体の作りから精神から全てに手を加る事にした
先ずは顔から……。
顔立ちだが、良く見なくともとても整っていた。
顔立ちを変えた方が里奈には良いのか、暫し悩む。
だが生き直して行くならば、顔立ちはそのままが良いであろうとそのままにした。
全身に修復を施そうとする。
強く抱き込む腕の中に居たのは、この子狐。
子狐も怪我を負っていたので一緒に修復した。
修復が終わり話を聞くと、猟師に鉄砲で狙われたのを庇ったのが里奈であったと。
無数にあった穴は散弾の後であったのか。
里奈以外の異物は世界を通れないのだ。
だが何故子狐が来たのかは解らぬが、里奈が抱き込んでいたからか。
その時は不思議に思ったが、後に話を聞けば当然の事と判明した。
猟師は人が目の前にいるのに撃ったのは、あちらの世界の里奈の存在に対する歪みのせいなのだと解った。
理不尽にも程がある。
深い溜息しか出ない。
しかも、子狐は虫唾が走るあいつの眷属だと言うのだッ。
いらん!いらん!!
ぜ〜っったいに、いら〜ん。
と強制的に還そうとしたが、子狐は里奈といたいのだと宣った。
子狐が里奈にしがみつき離れないし。
小さい体の子狐。
必死に請われると、なんだか居心地が悪い……。
私が弱い物イジメをしてるみたいじゃないか……。
とある計画が頭に浮かんだ。
「ふ〜ん。」
と、考える振りをする。
「ならば、異世界のあいつの眷属を止めて、私に遣える眷属になる。
だか、暫くはそちの存在を里奈には隠す。あちらに関わる事、思い出す存在を今見せるのは避けたい。
里奈が確実に世界に根付くまではそちの存在を里奈から消す。
それはいつまでかは解らぬ。
そしてその間、そなたは眷属としての修行をする。
それを全て、全てを承諾するならばこちらにいる事を許すが。どうじゃ!?」
と、意地悪に問うたが即答で意地悪案件を承諾した。
え?マジ!?
ま〜本人(本狐?)が納得したならいっか。
あいつに許可なく子狐の魂に神力であいつの刻んだ印の上に強制的に私の印を刻む。
ふむ。こやつの魂も美しい。
あいつの眷属のくせに、良い魂じゃ。
またまた、なんかムカつく。
私の眷属は異世界でやらかしたのに。
やつの眷属は、こちらの世界で里奈には助けられた恩があるから、守りたいから、側にいたいから。
と、意地悪案件を受け入れる程なのに。
色々思い出すと、自分の不甲斐なさもあいまって、腹立たしい気持ちよりも気落ちする方が強くなって来た。
子狐が私の足をツンツンと突く。
可愛らしい顔を上に向け、コテンと首をかしげる。
子狐の眼をじっと見る。
こやつの魂に触れた時、こやつの記憶も読んだ。心の声も聞こうと思えば聞ける。
じゃが、本人から話させた方が良いと考える。
「さて。そなたはいつまで子供の体でいるのだ?」
子狐はキョトンとした顔をしたが、納得したのか後ろに下がると本来の体に戻る。
私の前まで歩み出て座り視線を合わす。
座ってこの大きさか。
記憶を覗いた時に異界の神と印を結ぶ景色をとらえていた。
大きな体が印を受け入れた瞬間、小さくなっていたからだ。
子狐の姿でなかったら、確かに里奈も驚くか。
狐の全身は、少しだけ長い毛足にサラリとした輝きを放つ真っ白な毛並み。
少しの空気の揺れでもフワフワと毛が揺れ動く。
後ろの方では、こちらに尾を立てフワリフワリと左右に揺れ動く3本の極上の尻尾。
とんでもない極上のモフモフがそこにいた!!
女神は硬直したまま動けない。
動かないのではなく、動けないのだ。
そう。女神はモフモフ好き。
心身共に癒しを求めるのだ。モフモフ眷属に。
女神がゆっくりと歩き両腕を伸ばす。
狐のモフモフに両手が触れようとした瞬間、狐が後方に飛んだ。
『女神よ。子狐であった我はそなたの眷属にはなったがそれだけだ。今この姿の我自身を動かす事は出来ぬ。』
狐の話す意味が解らず問いかける。
「魂に印をつけたのだ。私に遣える者になるのだぞ。モフモフさせるさせるのが筋ではないか?」
『………。』
『………………。はぁ〜。』
『確かに印は刻まれた。だが、異界の神の上にであろう?異界の神は我を眷属として
縛る印を結んではいないのだ。命を繋ぐ為に刻まれた印だからだ。』
『それに女神よ。お主は我の記憶を覗いたであろう?それは子狐になってからの記憶であり、本来のこの姿の記憶ではない。』
目が点である。
意味が解らぬ。
こやつは眷属になってないと口にした。
だが印は結ばれたのだ。
狐が言い放つ言葉に呆けた。
『本来の我には魂などない。これで理解したか?』
「……ッッ!魂がないと!
神か!そちも神だと言うのかッ。」
そもそもである。神に魂は無い。
「ならば、私の提案は全て放棄する前提で受けたのかッ。謀ったのかッ。」
怒りに震える。
子狐に、少し哀れと思う気持ちはあったのだから。
意地悪案件ではあるが、受け入れるのであれば折を見て里奈の側に里奈の眷属として側に居れる様にするつもりがあったからだ。
それを、それを。
この狐神は無下にしたのだ。
女神が怒るのも無理はないのだ。
この日2度目の外界への災いが決行された瞬間であった。
後に女神の耳にこの話も入る事となる。
すまん。本当にすまない。
2度目の反省をする女神であった。
10話まで描き進める事が出来ました。
上手く書き伝える事が出来ず試行錯誤で書いてます。
ブックマーク・リアクションをして頂き、ありがとうございます。
とても嬉しかったです。
11話からも気合を入れて書きたいと思います。




