油断
授業が始まった。
転校してきたばかりのセラフィ達は教科書を持っていなかった。
「私の教科書を見せてあげる」
地上で初めて出逢ったカンパニャラは、
そのせいかセラフィに親切だ。
それをセラフィは素直に嬉しく思っていた。
「ルシフェさんには私が見せてあげる」
もう一人の転校生であるルシフェには、
クラスのマドンナ的存在であるカズラが対応した。
ウツボカズラを逆さにしたような個性的な服と、
生い茂る若葉のようなロングヘアーが目を引く。
遠目からその光景を見ていた人物がいた。
転校生という存在は確かに物珍しいだろう。
だが彼女にとってはさして珍しいことでもなかった。
何故なら彼女もこの学校に転校してきた経験があるからだ。
彼女の名はレシアといい、
名の通り頭の両側にラフレシアのような花を咲かせていた。
レシアはカズラとは仲が良かった。
切っ掛けとなったのは、
同じように教科書を見せてもらったことだった。
この時、レシアの心に嫉妬心が芽吹いた。
授業が終わり、休み時間となった。
話題は当然、2人の転校生に集中する。
「2人はスイートクラウドと深淵っていう所から来たんだよね?
でもそんな場所、初めて聞いてびっくりだよ」
質問したのはエクスクエスという男子だ。
彼は好奇心旺盛で何にでも興味を持ち、驚く。
「空の上にあります。私はそこから落ちてきたんです」
とセラフィは説明した。
「驚きですね。でも本当ですか?」
エクスクエスは疑り深くもあった。
好奇心によって様々な物に触れれば、真偽が入り乱れる。
それが懐疑心を生んでいた。
「本当よ。私と月が助けたんだから」
カンパニャラが助け舟を出した。
「じゃあ、ルシフェさんはどうなんです?」
エクスクエスは今度はルシフェに質問した。
「この果てしなく広い世界にはあなたの知らないような場所もあるのよ」
と素っ気なさそうに答えた。
「要するに、教えたくないということですね。何か事情があるのか知りませんが」
はぐらかすような答えにエクスクエスは少々機嫌を悪くした。
「もう一つ聞いてもいい?私のお母様によると、
私の種族は普通だと背中に羽が生えていて、
頭に羽がある私は特別らしいのだけれど、
あなたや深淵という場所は私と関係があるの?」
セラフィは初めてルシフェに逢った時に感じた疑問をぶつけた。
「私とあなた、スイートクラウドと深淵は、
近くて遠い鏡のような存在よ」
この答えを聞いた一同は要領を得なかった。
流れを変えようとカズラが話題を切り出す。
「もう休み時間も終わりそうだし、
放課後に2人一緒に学校の中を案内するわ」
レシアはその言葉に驚いた。
「えっ?一緒に遊びに行く約束は?」
カズラはすまなさそうだった。
だがカズラはこの程度でレシアとの信頼が揺らぐとは思わなかった。
転校生の存在がレシアに嫉妬心を芽生えさせたとは知らずに。
ウツボカズラの花言葉のように油断してしまっていた。




