次代への決戦
「最初のループでこの星が生まれた時、
天国のスイートクラウドと地獄のビターアビス、そして地上が創られました。
スイートクラウドは最初の私が、ビターアビスは最初のパパルシフェが、
地上は私達の子どもアルティメシア……
最初のセラフィが管理することになったのです。
ですが符の力によりセラフィは独奏敵アルティメシアとなり、
世界をループさせるようになりました。
私達は何度も生まれ変わって、セラフィも新しく生まれていますが、
アルティメシアはずっと生きているのです」
月は驚いて質問する。
「あなた達は精々数十歳、セラフィは私達と同年代。
それなのに星が生まれた最初から居たような言い草だ。
文明というものは数十億年かけて進化した生物が創り出すものじゃないのか」
ママセラフィは質問に答えながら説明を続ける。
「あなたも研究者なら聞いたことがあるでしょう。世界5分前仮説というものを。
最初から存在するものとして生まれた世界。
この世界はそうやって創り出されました」
カンパニャラも質問する。
「アルティメシアはこの世界を創った神様じゃないということ?」
今度はパパルシフェが答える。
「神にも定義があり、これはワシの見解なのだが、
創造主によって世界の管理を任されているのが神という認識だ。
そして管理者となった今のアルティメシアは権限を逸脱しておるのだと思う。
それを救ってほしいのだ。これはワシ達の親としての願いでもある。
セラフィとルシフェ、お前達とアルティメシアのな……」
セラフィは頷いた。
「アルティメシアも同じ自分というのなら……」
ルシフェも続けて言う。
「みんなが私達を救ってくれたように、自分を救ってきます」
ママセラフィは最後の正の符を差し出した。
「符は集まり譜となります。
この力があればアルティメシアに対抗できるでしょう。
制御は任せましたよ、ラヴィオラ」
月はラヴィオラの能力に驚く。
「お前、そんなことができたのか」
ラヴィオラは偉そうに月に言う。
「ふふん。譜の妖精は伊達じゃないラヴィ」
ラヴィオラの周りに符が集まると、
それは譜表で繋がって輪となり、別の空間への入り口を開いた。
「では、行ってまいります」
一行が輪の中を抜けると、灰色の空間が広がっていた。
足元の花畑にも、
周囲のビルのような大きさの墓石を思わせる四角い石柱群にも、
空一面の雲にも色は無かった。
向こうに一人の人物が立っている。
その人物にも色は無く真っ白で、セラフィと同じ赤い目をしている。
頭に生えている羽と白いドレスもセラフィと同じだったが、
違いは地面まで伸びていることだった。
「……来ましたか。知っているでしょうが、私はアルティメシア。
譜を渡しなさい。それは光と闇、表と裏、正と負の力。
創造の力にも、終わらせる力にもなります。
……ループだけでなく、この世界も」
一行はアルティメシアに尋ねる。
「世界を終わらせる?どうして」
アルティメシアは答える。
「この世界はある小さな液晶玩具の世界にあります。
しかしそのデータ量は増え続け、拡がっている。
最も狭く果てしなく広い世界と言えるのです。
私は悟りました。時間が進み社会が発展すれば、
データが飛躍的に増大しこの世界に重大なバグを引き起こして滅亡させる。
だから世界をループさせリセットすることで、それを最小限に抑えてきました。
だが世界の容量はいずれ自然と限界に達し滅亡へ向かう……。
なら最初から全て無かったことになっても同じこと……」
セラフィは否定する。
「私達はたとえデータだとしても生きていて、意思があります。
それを無かったことになんてさせません。
それに生の過程を無視して結果だけを見るなんて間違っています。
過程は無駄ではありません。得られるもの、次に繋がるものがあるはずです」
アルティメシアは答える。
「ならばあなた達がこれまで培ったもので私を止めてみなさい」
立ったままのアルティメシアの体から前方位に追尾ビームが発射される。
「みんな、最初で最後の全員での戦いだよ!」
セラフィは盾で、ルシフェは鎌で、カンパニャラはベルメットで、
月は機械の杖で、ラヴィオラはヴィオラの弓でそれぞれ防いだ。
「やっと完成したとっておきの万能ロッドだ!ムーンインパクト!」
月は右から杖の先端を大きなハンマーに変形させてスイングした。
それは片耳であっさり弾かれて、月は吹き飛ばされた。
「月の仇ラヴィ!譜の力で解放した、ラヴィアロー!」
左からラヴィオラは弓を引いて光の矢を発射するが、
アルティメシアがかざした左手から発生したビームシールドに跳ね返された。
「最後の手段!最硬の防具は最大の武器!ベルメットクラッシュ!」
カンパニャラは正面からベルメットを振り下ろしたが、
両耳で防御され、打ち砕かれてしまった。
「まだよ!ツインデスシザース!」
その後ろからカマキリのように両手に鎌を持ったルシフェが飛び掛かったが、
右手に持つセラフィのと同型の剣で防がれた。
全員の攻撃は無駄に思えたが、それは陽動だった。
大げさに叫んだりしたのもその為だ。
「ラフメシアと同じ独奏敵なら同じ技で!ワルス(WiredLargeSquarepyramid)!」
セラフィの背中のペンタグラムユニットから射出された、
有線で大型の白い四角錐が、
ピラミッド状にアルティメシアを囲み、浄化の光が放たれる。
これで終わったかのように思われたが、
光から出てきたのは体が白い以外は、
セラフィと全く同じ姿のアルティメシアだった。
セラフィとルシフェに自分と同一の存在だということを実感させた。
さっきまで全く動かなかったのとは逆に、
今度は一瞬でセラフィに接近し剣で攻撃してきた。
セラフィも剣で受け止めるが、
背中に背負っているペンタグラムユニットの重量に引っ張られ押し込まれる。
ブースターの出力を上げるが、それでも押しとどめるので精一杯だ。
助太刀に来たルシフェの攻撃も、片腕のシールドで防がれた。
ブースターの燃料も切れ、やむなくペンタグラムユニットをパージする。
もはや万事休すかと思われたその時、ラヴィオラの声が聞こえてくる。
(譜の力を使うラヴィ。セラフィ、ルシフェ。
今ならアルティメシアに通じるラヴィ。
大丈夫。二人ならアルティメシアのようならないラヴィ)
ラヴィオラの声の他に、
(私と月の力も送るよ)
カンパニャラと、
(お前達の力を見せてやれ)
月の声も聞こえた。
譜の輪がセラフィとルシフェを包み込む。
セラフィは頭の半円が取れ、ドレスの切れ目から溢れる光が翼となっている。
名はゼロフィリア。
ルシフェは赤い翼が取れ、無くなっていた片耳も生えて
両目が黒くなった代わりに光が灯っている。
背中の半透明の赤い羽は宇宙模様のマントに代わった。
名はインフィニア。
アルティメシアは驚愕した。
「私と同じ独奏、いやそれを超えた協奏?
光と闇、表と裏、正と負が一つになるなんて」
ゼロフィリアとインフィニアが片腕を合わせて前に突き出すと、
白と黒の奔流が流れ、アルティメシアを包み込んだ。
忘れていたこれまでの人生が走馬灯のように流れ、
その中でアルティメシアは、
在りし日の幼い自分と両親が過ごした日々を思い出した。
「そうか……。過程で得られるもの、次代へ繋がるとはこういうことですか」
アルティメシアは元の姿になって仰向けに倒れていた。
「あなた達の言うことが分かりました。
滅亡の未来を恐れてループしている間に、
私自身が滅亡を願うようになっていました。
しかし私はループに力を使い過ぎました。この卵をあなた達に託します。
だけど気を付けて。これからのあなた達には厳しい未来が待っている」
ゼロフィリアは卵を大事そうにそっと受け取る。
「この子はちゃんと育てます」
インフィニアは宥めるように言う。
「私達が選んだ未来です。きっと良くして見せます」
アルティメシアは安らかに目を閉じて消えていく。
「任せましたよ……」
こうしてこの世界の話に一つの区切りがついた。
「閉じていた未来へのループを開いてくれてありがとう」
月はにやりと笑った。




