深淵の戦い
氷原を抜けると巨大な大穴があった。
「ここが深淵、ビターアビスよ」
出身者のルシフェが言う。
「でもどうやって降りるの」
底が見えない穴を覗き込んで、怖がりながらカンパニャラが言った。
「ひっひっひ。心配いらないよ。私達が連れてってあげるからさ」
穴から、糸を伝って逆さまにぶら下がっている、
蜘蛛の巣模様の黒いドレスを着た女性と、
尺八のようなコートを着て、飛んでいる蜂の少女が登ってきた。
蜘蛛の女性は、
「私はスパイダー。昆虫族でカードはHANGEDMANさ」
蜂の女の子は、
「あたしは尺蜂。同じく昆虫族でカードはTEMPERANCE。
兄がお世話になりました」
と自己紹介した。
「詳しいことは降りながら説明するわ」
ルシフェは二人のことを知っているようだった。
「この細い糸を伝うラヴィ?ラヴィは飛べるから平気ラヴィが」
ラヴィオラは無責任に不安を煽るようなことを言った。
「ひっひっひ。心配いらないってば。蜘蛛の糸は丈夫なのさ。
あまり多いと切れちまうかもしれないが、このくらいの人数ならね」
一行は蜘蛛の糸を伝って穴を降り始めた。
ラヴィオラと尺八は飛んでいる。
「ビターアビス、深淵は様々な事情で
普通に暮らせない者達が集まっているの。
そこの二人の昆虫族のようにね。
カードは深淵に暮らす者に与えられる称号。
私の場合は死神、DEATH。
温泉で戦った撥蜂も言っていたでしょう。
あいつもここの住人で、尺八のお兄さん。
でも、私やセラフィを襲った犯人だなんて知らなかったわ」
それに対して、撥蜂の妹の尺八が謝りながらも弁明する。
「兄がすみません。
でもあなたに危害を加えたのは前のループの兄で、
今の兄は関係ありません」
「そうね。同じであって同じじゃない。
私とセラフィのようにね。
そしてあなたの兄はセラフィを傷つけたわ。
その落とし前はつけてもらう」
話している間に底に着いた。
そこには撥蜂が待ち構えていた。
「兄さん。なんでセラフィさんを襲ったの?」
尺八が問いかける。
「全ては計画だったんだ。正の符を集めさせる為の。DEVIL様のな」
セラフィは納得した。
前に戦った時、戦意や悪意が感じられなかったのは
本人の意思ではなく、命令に従っていたからだったのだ。
しかしDEVIL様とは……?
ルシフェは神妙な面持ちで言う。
「DEVIL……深淵を統べるお父様ね。
だけど、お父様に全てを話してもらう前に、
あなたと決着をつける」
撥蜂はドラムスティックを構える。
「望むところだ」
ルシフェは腰から四角錐を撥蜂に向けて飛ばす。
「馬鹿の一つ覚えが!効かねえんだよ」
だがルシフェは言い返す。
「それはどうかしら」
前回とは軌道が違う。相手を囲うような読みやすい単純な動きではなく変則的だ。
撥蜂が電撃で撃ち落とそうとするも、悉く躱す。
そして撥蜂に直接向かっていく。特攻だ。
四角錐は撥蜂に当たると次々に爆発した。これでもう使い物にならない。
「ぐあーっ!」
撥蜂は地面に落下した。決着はついた。
「お兄さん!」
尺八が駆け寄っていく。
「さあ行きましょう」
これでルシフェの復讐は果たされた。
「ちょっとやりすぎたんじゃないか?」
月が振り返り兄妹を見やった。
奥へ進むと、燭台に照らされた玉座に座る人物がいた。
顔はセラフィと同じピンク色で角があり、蝙蝠のような黒い羽が生えていた。
体はヴァンパイアのような服装をしている。
「帰ったかルシフェ。そしてよく来たなセラフィとその仲間よ」
ルシフェはお辞儀をする。
「ただいま戻りました、お父様。正の符を集めてまいりました。
それで、このビターアビスにも守護者がいるということですが」
玉座にいたのはパパルシフェだった。そしてルシフェの問いに答える。
「守護者はワシだ。先程のお前の戦いを見ていた。認めよう。
そして仲間達にも称号を与える。
カンパニャラはSUN、月はMOON、ラヴィオラはFOOL、
セラフィはJUDGEMENTだ」
まるで今までの全てを見ていたかのような言葉だった。
「初めてお目にかかります、お父様。セラフィです。お会いできて嬉しいです」
セラフィの言葉に、パパルシフェも喜ぶ。
「ワシもだ。お前もルシフェに会えて嬉しいだろう?ママセラフィ」
パパルシフェが呼びかけると、
奥からスイートクラウドにいるはずのママセラフィが現れ、一行は驚いた。




