水中の戦い
「ここが、正の符のある、サワービーチラヴィ」
一行が来た浜辺から見える海は赤かった。
「うーん。おかしい。原理的には海は青いものなんだが」
月が首を傾げる。
「海って元々赤いものじゃないのですか?」
セラフィっちが尋ねる。海を見るのは初めてだが、
何となくそういうものだと思っていた。
「いや、たしかに条件によっては赤や緑になる時もあるが、
普段は青になるはずなんだ。
だがこの海は青じゃない。理屈と合っていないんだ」
科学に詳しい月は熱弁した。
「だけど、この海は赤い。それが常識で、常識こそが理屈なんじゃないの?」
カンパニャラはこの世界の当たり前を主張した。
「常識とは当たり前に信じることじゃなくて疑うものだ。
そこから新しい発見がある。
もし理屈が合わないなら、間違っているのは世界だ、神だ!」
月は暴走して飛躍した理論を語り始めたが、以外にもルシフェがそれを肯定する。
「間違っているのは神か……。
それは間違いじゃないわね。
私達は神とされるアルティメシアと戦っているのだから。
おそらく、アルティメシアが世界の理を曲げているのでしょう」
話しているうちに、目的の場所に着いたようだ。
「ここから潜れば、守護者に会いに行けるはずラヴィ」
どうやら守護者は水中にいるようだ。
「こんなこともあろうかと、人数分の潜水服を持ってきたぞ」
月はポケットの大きさとは釣り合わないサイズと数の潜水服を取り出した。
「これにもちゃんと理屈があるラヴィか?まるで魔法ラヴィ」
ラヴィオラは不思議そうに尋ねた。
「高度に発達した科学と魔法は区別がつかないってな。
これにもちゃんと理屈があるのさ。
だが赤い海は自然現象だ。だから納得していないんだ」
月は着替えながら答えた。
そして着替え終えた一同は赤い海の中に潜った。
潜れば潜るほど、どんどん暗くなっていく。
「なるほど、光が届かなければさしもの赤い海も暗くなるか」
月は感心した。
やがてヘッドライトを付けないと周りが見えないほど暗くなった。
するといきなり目の前に白いハートが浮かんだ。
「こんな深海にお客さんとは珍しいリオネ。嬉しいリオネ」
よく見ると腹部に白いハートの模様がある、
黒いクリオネのような生物だった。
「あなたが正の符の守護者ですの?」
セラフィが尋ねると、相手は首を振った。
「私じゃなくて「"私達"が守護者であるクラリネットのクラリオネなのリオネ」」
周囲を見るといつまのかたくさんのクラリオネに囲まれていた。
「「怖がらなくていいリオネ。
守護者を探しているということは、正の符が欲しいということリオネ。
認められたいなら、私達全員に勝つことね」」
どうやら今回も戦わねばならないようだ。
しかし圧倒的多数を相手にするのは初めてだった。
しかも不慣れな水中である。
「「では行くリオネ」」
クラリオネ達が両手が振ると、それが水中を伝わる衝撃波となって襲ってきた。
「みんな、セラフィを囲むのよ!」
ルシフェが呼びかけると、みんなはセラフィを囲んで盾となった。
「みんな!」
セラフィは自分が守られることを申し訳なく思った。
「悔しいけど、あなたにしか頼れない。あなたなら突破口を考えられるはず……」
ルシフェは精一杯気力を保ちながら言った。
セラフィは考えた。
相手は衝撃波を水の中を伝って飛ばして来た。
こちらも同じことを、手に持っているこの剣の機能を使ってやれば。
周囲の多数の相手は、水の中では上下が無いことを利用する。
セラフィは剣の高振動機能をオンにした。
本来は硬い物を切断するための機能だが、
水中でも大きな衝撃を起こすことができる。
そしてセラフィは剣を大きく振りかぶり、回転した。
高振動する剣が纏った衝撃波が前方位に伝わる。
「「うわ~!」」
衝撃波に呑まれたクラリオネは軒並み戦意を失った。
「君達、やるリオネー。久々に遊べて楽しかったリオネ」
残ったクラリオネの代表者がセラフィ達を認めて、正の符をくれた。




