第三天使戦 其の三
投稿しなくてすいません。リアルがかなり忙しいです。
リュカの背中には初めと変わらぬ様子の《黒翼》が戻っていた。
その後無造作に両手をそれぞれ《黒翼》に置き、両翼を引きちぎると、翼は一本の槍に変形した。
「《翼槍》、とでも名付けようか。こいつには今俺が吸収した雷の魔力を全部詰め込んだ。今度は……俺の番だ」
そう言うとリュカは左足を大きく踏み込み、構えた《翼槍》を投げた。
《翼槍》は自身に内包された雷の魔力を燃料に加速し続け遂には神速に至り、ベルゼアの体を貫かんとして真っ直ぐに飛んでくる。
だがベルゼアは依然としてその表情を動かさなかった。
「〈アーク・ノード〉集合、魔法障壁展開」
ベルゼアは自身の翼を動かし、〈アーク・ノード〉を《翼槍》に向かって突き出した手の前に縦に整列させる。
そして〈アーク・ノード〉が一斉に魔法障壁を展開し、ベルゼアを守る三重の障壁が形成されると同時に、リュカの投げた《翼槍》が、一枚目の障壁を突き破ってその障壁を展開していた〈ヴォルト〉を硬い外装ごと貫いた。
だが《翼槍》はそれでも勢い止まらず二枚目の障壁まで破り、それを展開していた〈スパーク〉までも貫く。
それを見ていたリュカは大喜びをしてガッツポーズを取った。
「いええぇぇい!!そのまま突き刺して3連団子の完成だぜ!」
「…そうやって何でも全て上手くいくと思うから破滅への道を歩み出すのだ。昔の私がそうだったように…………魔法障壁展開。穿て、〈雷掌〉」
そう言うとベルゼアは自身の翼を動かすことで魔法障壁を展開している〈アーク・ノード〉を動かすと同時に、自身の掌に魔法障壁を展開し《翼槍》に向かって雷を纏いし自身の掌底を繰り出した。
強大な力の衝突で間に挟まれた魔法障壁は数俊とも持たずに砕け散る。
そして同じ属性、そして同一人物の魔力が圧倒的威力を伴いぶつかると言う異常事態に、世界の法則が追従するのを拒否した。
普通であれば魔力が衝突した時はお互いに相殺し合うのだが、今回は同一人物から発せられた同じ属性の魔力が衝突したせいで、お互いの魔力がお互いを巻き込み威力が上がっていくという相乗効果が起きていた。
ベルゼアの〈雷掌〉が纏う雷の魔力と、リュカが投げた《翼槍》に詰め込まれた雷の魔力が衝突し、相乗し合い膨大な力の奔流が巻き起こされる。
風が吹き荒れ土埃が舞い思わず咄嗟に腕で自身の目を庇うリュカが次に目にしたものは、力無く垂れ下がるベルゼアの右腕と、そこに深く突き刺さる《翼槍》であった。
「損傷は甚大……もう使い物にはならぬか」
「そんな悲しいこと言うなって!まだ頑張れるって!」
「ちょ、ちょっとリュカさっきからどうしたの?なんかおかしいわよ」
「そんなこと無いさ。いつも通りだよ!」
そう言うと同時にリュカが右手を掲げると《翼槍》が粒子のように崩れ去り、リュカの右手に集まったかと思うと《翼剣》が顕現する。
《翼剣》を構えて飛び出すリュカの目線は隙だらけの姿勢で静止しているベルゼアの首元に狙いをつけていた。
「これで終わりだあぁぁああぁ!」
「勝機が見えた途端に考えることを放棄するとは。誠に哀れ……〈アーク・ノード〉起動、〈シンフォニア〉の模倣対象二つを指定、性能を受容………行動開始」
〈シンフォニア〉がリュカに対して雷撃弾を連射する。
だがリュカはそれを軽々と躱しベルゼアとの距離を詰めていく。いつの間にか二人の距離はお互いの攻撃の射程圏内であった。
「お前は何も学ばないのだな。先の攻撃に見覚えが有ればお前は避けずにその剣で撃ち落としていただろうに」
「何言って———まさか」
その瞬間リュカの背後には避けたはずの雷撃弾が迫っていた。
避けられるはずもなくそのままリュカは背中に来る衝撃と痛みに顔を歪ませ前に倒れる。
それを予想していたかのように前には左拳を構えるベルゼアがいた。
「今度こそ冥府に送ってやろう……穿て、〈雷掌〉」
リュカはこの時こう思っていた。
今自分は翼を両方とも消費する〈翼槍〉ではなく一つだけ消費する〈翼剣〉を使っている。背中にあるもう一つの翼を動かせば回避できる。
と。
だが彼の思考に反して彼の翼は動かない。背中の魔力の流れが不安定になっていたのだ。
「動かねぇ!?何で魔力が不安定に———そうか、さっきのッ」
「もう遅い。死ね」
ベルゼアの〈雷掌〉がリュカの心臓目がけて撃ち下ろされる。
翼が動かない状態では避けれるはずもなく《翼剣》を突き出して対抗しようとするもリュカの体はベルゼアの左拳で貫かれた。
数瞬の後、リュカの左肩は完全に抉り取られわずかに残った肉で左腕が繋ぎ止められてる状態だった。
「リュカ!」
「大丈夫だフィオナ、当たる直前に体を捻って急所は避けた。それに……最後の〈アーク・ノード〉も落とした」
「〈フラックス〉の追尾性能と〈レゾナンス〉の魔力干渉性能を模倣させた〈シンフォニア〉の一撃を食らいながらも我が〈雷掌〉を避けるだけでは無く〈シンフォニア〉まで破壊するとは………」
そう、リュカは何をしても〈雷掌〉を避けることはできないと判断し《翼剣》を投げて〈シンフォニア〉の核を串刺しにしていたのだ。
「俺の左腕はもう使えないが、これで〈アーク・ノード〉の残機も無くなった。それに魔力が不安定になったおかげで〈吸魔の羽〉のデメリットも打ち消せたみたいでな。まだ正気はあるはずだ」
〈吸魔の羽〉には他人の魔力を自身の魔力回路に取り込むという性質上、その取り込んだ魔力が魔力回路を通って脳に干渉し一時的に性格が変わったり思考が鈍ったりするというデメリットがある。
だが〈シンフォニア〉が模倣した〈レゾナンス〉の魔力干渉の性質がリュカの魔力回路を乱すことでベルゼアの魔力を脳から除去することに成功していたのだ。
「今ならあれが誘われてたってよく分かるぜ」
「大人しく諦めて死ねばいいものを…」
「そういう訳にもいかないんでね。精一杯抗わせてもらうぜ」
それを聞いたベルゼア苛立ちを滲ませながら咆哮する。
その瞬間背中に魔法陣が現れ三対の翼が大きく開いた。
「ならば……これで終わりだ」
低く押し殺した声が響いた瞬間、周囲の空気が一変した。
魔法陣が展開され、瞬く間に青白い稲妻の閃光が辺りを包み込んだ。その中心で、彼の背から突如として第七の翼が音もなく伸び、見る間に異形へと変化していく。
それはただの翼ではなかった。羽根の一本一本が鋭利な結晶体へと硬化し、重力を無視するように浮遊しながら融合を始める。雷光がそれに絡みつくたび、空間には軋むような音が走った。
空間が歪み、裂け、震える。構築されたその刃は、十メートルを超える巨大な雷の結晶の如き様相だった。刃の動き一つで、周囲の次元が悲鳴を上げる。
「雷に裂かれよ、〈雷霆禍裂大覇断〉」
その名が放たれた瞬間、雷鳴が天地を貫いた。空が引き裂かれたような轟音と、視界を焼き尽くすほどの光。ただの斬撃ではない。それは“災害”と呼ぶに値する破壊の奔流だった。稲妻が龍の咆哮のごとく周囲をなぎ払い、重力が狂ったように反転する。
「くっ……!」
リュカは咄嗟に《翼剣》を構え、その超質量の斬撃を受け止める。
だが、刹那、彼の身体に《翼剣》を通じて奔流のような雷の魔力が逆流し、体全体に激痛が走った。
雷光が骨を焼くように貫き、意識が寸断されそうになる。
だがフィオナの詠唱がリュカに癒しの恩寵を与えた。
緑の光が走り、雷光で裂けかけた魔力構造を即座に修復する。まさに一瞬の判断と連携。それがなければ、リュカの身体は今頃消し飛んでいただろう。
だがリュカは受けきったのだ。
「これで……決める!!」
叫ぶと同時に、リュカは残された片翼の基部に力を込め、一気に引き裂いた。血の代わりに魔力が霧散し、宙に広がる。そしてそれを即座に変形・再構成。砕かれた翼が《翼剣》と混じり合い一本の槍へと姿を変え、《翼槍》として完成する。その槍が雷鳴を纏い、次元の薄膜を引き裂くように音を立て、ベルゼア目がけて一直線に放たれた。
その瞬間、ガルドが左右から斬撃を放つ。鋼をも断ち割る双刃の軌道が、十字に交錯しながら敵の動きを封じるように迫る。エリシアの詠唱が重なり、足元に空間固定の魔法陣が展開された。
次元が膠着し、逃走も回避も不能となる布石が揃った。
———勝てる。
リュカがそう思った次の瞬間。
ベルゼアの瞳が、淡く、冷たく光った。
「補助演算領域、展開。第七ノード、起動」
突如、ベルゼアの心臓の部分が光を帯びだした。
そこにあったのは先に破壊された六つとは明らかに異なる威圧感――それはベルゼアの演算補助兼機構動力源用中核、《アーク・ノード・ゼロ》だった。
「翼への魔力供給を遮断、演算処理装置への魔力供給を遮断、神経代替制御装置への魔力供給を遮断………全ての魔力を左腕に供給。これで最後だ」
そう言うと目の前に迫っている《翼槍》を、そしてその後ろにいるリュカを見る。
「我をのせて穿て、〈豪雷掌〉!」
ベルゼアの全力の一撃が《翼槍》と衝突する。
だが瀕死のベルゼアに残っていた魔力では《翼槍》を止め切ることはできずベルゼアの左手をあっさり貫通した。
そして《翼槍》はその勢いが褪せる事なく疾風となってベルゼアへと突き刺さり、その胸を深く貫いた。
雷が、止んだ。
空間に漂っていた蒼光が静かに消え、重力が戻る。それは結界の崩壊———すなわち、守護天使の敗北を意味していた。
ベルゼアの体がゆっくりと崩れ落ちる。
顔の仮面が割れ、その下から現れたのは———どこまでも人間らしい、穏やかで悲しげな表情だった。
「……民を……守りたかっただけだったのだ……。神の意思がなければ、私は……もっと……」
最後の言葉は雷にかき消された。
その身体が光の粒子となり、雷の雲に溶けていく。かつて空に理想を築いた男は、ようやく空へと還っていった。
リュカたちは静かに立ち尽くす。空中に舞う光はやがて消え、破片となった結界が崩れ始める。彼らは一歩ずつ歩き出す。
神への道は、まだ遠い。
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